※時系列は全力無視、時代考証等不徹底につき軽く読み流して頂けると助かります。
※神永の口調が段々砕けて、うん、汚くなっていきます。
※辛いモノ大丈夫な神永、佐久間は苦手という捏造設定あります。というか至る所を捏造してますスミマセン;

要約すると、何でも許せる方向けです。ご注意を…!

 


カンカンに照りつける太陽の放射熱が地獄の釜の如く容赦ない某日、快晴。
大暑の候、土潤いて溽暑(あつ)しとはよくぞ云ったもので、日本の夏はとにかく蒸す。
朝から上がりっぱなしの気温は留まる事を知らず、正午を過ぎた頃には最高に達し
前日に雨が降った事も相俟ってか、まさしくうだるような暑さと湿度をもたらして
日陰といえど生温かく湿った空気は汗の滲んだ肌に纏わり付きこそすれ涼しくなどしてくれない。
おまけに建物のすぐ傍にある木製の電信柱にとまった蝉がけたたましく鳴いているせいで
余計に暑く感じる上に喧しくて気が滅入る。
よもやこの炎天下に外をうろつこうものなら、ものの10分と経たず干からびてしまいそうだ。
よって、用が無ければ外に出掛けない佐久間と
こんなクソ暑い昼日中に外に出られるかとゴネた神永だけが養成所に残っており
急きょ休講となってぽっかりと空いた時間を各々好きな場所で好きに過ごしていたのだが
校内でも比較的風通しがいい食堂に涼を求めるは道理至極であって
神永と佐久間は特に示し合わせもしないのにバッタリと出くわした。

「どーも」
「ああ」

たったそれだけの挨拶。別に友人でも何でもないし
お互い過度な接触を進んでしようとも思っていないので自然そうなる。別に気にもならない。
佐久間は黙ったまま食器棚から透明なグラスを取り出すと
蛇口を捻って水を満たし、一気に飲み干して喉の渇きをひとまず癒やした後
もう一度水を注ぎ、今度は口を付けず、一番近いテーブルに置いて椅子へ座る。
とりあえず人心地がついた。
一方の神永はと云えば、佐久間が腰を落ち着けたテーブルとは違うテーブルにつき
どこからか引っ張り出した扇子でパタパタと顔のあたりを扇ぎながら

「あっちぃ…」

長袖ワイシャツの袖を肘のあたりまで捲り上げ、ネクタイもつけず襟を開き
椅子の背もたれにぐったりと寄り掛かって、ともすれば死にそうな声で呟く。
それも一度ではない。何度もだ。
最初は聞き流していた佐久間も、だんだん苛々して来て

「だらしが無いぞ神永。もっとしゃんとしろ」

話し掛けるつもりはなかったのに話し掛けてしまい

「えー…だって暑いもんは暑いっしょ…佐久間さんはなァんでそんな平気そうなんですかねー…」

心底怠そうに間延びした声で応答する神永へ、

「心頭を滅却すれば火もまた涼しというだろう」

凛然と諭し、ぬるいグラスのこれまた生ぬるい水をグイと飲んだ。
いかにも実直な佐久間らしい精神論である。
神永は面白くなさそうに片眉を持ち上げると

(佐久間さんのクセに生意気)

本人に云えば激怒間違いなしの悪態を心の中でつきながら、しばし思案する。
さっきの叱責についてだ。
云われずとも、必要とあらば汗の一つだって完璧にコントロールし
涼しい顔をいくらだって取り繕ってみせる。簡単だ。やり方は学んでいた。
だが今は任務中でもなければ結城中佐が相席している訳でもなく
もっとハッキリ云うなら、たかが佐久間一人相手に
そんな手間と労力を使う意味がこれっぽっちも無いのである。
なのに佐久間ときたら、そんな事も出来ないのか俺だって出来るのに不甲斐無い
と、そう云わんばかりの態度ではないか。
それは少なからず、しかし的確に神永の矜持に抵触した。
D機関の面々は総じて自負心の塊なのだ。
それに己より下だと格付けしている相手に
あの佐久間にそうまで云われて黙って居られるほど、神永の今の精神状態は宜しくない。
不快指数絶賛更新中の蒸し暑さで、気分は相当にささくれ立っていた。

(さてどうしてくれようかねェ…)

澄ました顔で水を呷っている身の程知らずが豪語する根性論がいかに脆弱かを思い知らせ
この際だからお互いの優劣というやつを骨身に叩き込んで歩を弁えさせるべきか。

とりあえず、佐久間の憎たらしいまでに毅然とした横顔をドロドロの汗だくにしてやりたい。

そんな不当で不穏な思考を巡らせている事などおくびにも出さず
神永は黒橡色の炯眼でひたりと見据え
果たして見つめられている事に気付いているのかいないのか
佐久間の濡羽色の揉み上げから一筋の汗が静かに顎先へツゥと伝ったのを見逃さず
口角を上げてやおら話を切り出した。

「心頭滅却、ね……要は心の持ち方次第って事か。
 じゃあ佐久間さんはさ、死ぬほどアツくても『アツイ』なんて絶対云わないし
 他のどんな困難や厳しい状況になっても弱音とか泣き言とか一切ない訳だ」
「くどいぞ神永」
「ハ。じゃあそれが本当かどうか試してみましょーよ」
「なに?どういう事だ」

訝しむ佐久間を後目に立ち上がった神永は
奥の厨へ入りゴソゴソと何ぞ漁ってからすぐに戻って来ると

「ついて来て下さい」

それだけを云い、返事も待たずに廊下へ出る。
どんな考えあっての行動なのか判断しかねた佐久間は、仕方なくその背中を追い
黙々と歩いて辿りついたのは、神永の自室だった。

「どうぞ」

短く促した神永がドアを開けた途端、
部屋を閉め切っていたせいで滞留し温められていた空気がムァと熱気となって押し寄せ、
佐久間は思わず顔をしかめそうになったのを辛うじて自重した。
なるほど、わざわざ移動してまでこの部屋を選んだのは、南向きにあるが故に日当たり良く
十二分にあったまり酷暑と云っても過言ではない環境に
佐久間がどれだけ耐えられるのか試そうというのだろう。
要するに我慢競べだ。
察した佐久間は、けれど薄く口の端を上げる。
今でこそ連絡係として此処に出向しているが、その前は陸軍内で、そして士官学校時代にも
厳しい真夏での訓練や野外演習を何度となく課せられ、死に物狂いで乗り越えて来たのだ。
生半な事では音を上げないし、ましてこの程度ならば
易々と一日中だって耐えられる自信がある。

(…俺も甘く見られたものだ)

胸の内で、「この勝負勝ったな…」とさえ確信した佐久間は、
逆にそう考えた己自身が早計で甘かったのだと後になって悔いる事になるのだが
今は満ち溢れる自信ばかりで、意気揚々と部屋の中へと足を踏み入れた。

「………」

さほど広くない室内は、思ったより私物が多く
机の上には何冊かの読みかけらしき文芸雑誌が無造作に重ねてあり
最近流行っている作家の小説の評判は町でちらほらと聞いたものだが
殊この神永において活字を楽しむ趣味の為という事はないだろう。
大方、ちゃんと流行りを押さえておかねばご婦人方の会話の話題についていけないとか
そういういかにも女誑しらしい理由からであるに違いなく
きっと甘利や田崎あたりも同じ雑誌を所持(もしくは廻し読み)していそうだと
かなり偏見的で失礼な事を考えながら視線をずらした佐久間は、ふと目をとめる。

「いいものを据えてあるな」

背凭れと片肘付きの低い脚をもった長椅子、いわゆるカウチというやつだ。
見た目は簡素な作りで、いつ手放す事になっても惜しくはない、といった印象を与えるも
落ち着いた二色の混合糸をざっくりと織り交ぜた平織りの生地はモダンなデザインで
神永にはよく似合っているように思う。
部屋に篭っている時はここでゆったりと寛いで居るのだろう。
談話室にもこういう家具が置いてあればいいのにと、若干の羨ましさを込め
不躾にも他人様の部屋をしげしげ眺めていると、不意にガチリと鍵を閉める音が聞こえ
振り返ればニタァと餓鬼大将さながら意地の悪そうな笑みを浮かべる男が居た。

「さて、それじゃー始めますか佐久間さん」

云うが早いか、大股で詰め寄った神永に素早く足払いを掛けられ
今しがた羨んだばかりのカウチに押し倒された挙句に両手首をサスペンダーで縛められる。
咄嗟の受け身を取れずとも弾力のあるクッションに腰の下を程良く支えられた佐久間は
当たり前のように覆い被さって来た男を、貴様一体どういうつもりだと鋭く見上げた。
すると、

「これ、な〜んだ」
「…鷹の爪に見えるが…?」

得意気にポケットから取り出したるは、福本がいつも米びつに入れる虫除け用の唐辛子。
先程の台所で物色していたのはこれか。
よりによってあの聖域ともいえる福本のテリトリーから盗みを働くとは、勇者か神永よ。
と思わず感嘆の念さえ覚える佐久間に、神永は勝ち誇った表情を崩さぬまま

「ご明答。オレ辛いのぜェ〜んぜん平気なんだけど、佐久間さんはどうかな?」

云うなり、毒々しいほどに真っ赤なソレを丸ごと己の口の中に放り込み
顔色一つ変えずにモグモグと咀嚼し始めるではないか。
見ているだけで此方の方が苦しくなって来る。
自身で平気と断言するだけあるものの、あまりにも平然としているものだから
辛くないのかと疑念が湧き
けれどすぐに「さすがはバケモノ」という言葉一つで納得しかけた佐久間を
突如アクシデントが襲った。

「?!、ッ!んぐ…!!」

神永の片手が佐久間の頬を両側から掴むように圧迫し
上下の歯列を無理に割って開かせた口腔に躊躇なく唇を宛がい(人工呼吸かくやの深さで)
あろうことか、粉々に噛み砕いた唐辛子を口移しで押し込んで来たのだ。
さしもの佐久間も仰天し、神永を振り解こうと暴れたが
自分とそう変わらぬ身長の男に体重をかけて組み敷かれた状態で
ましてや拘束された両手では胸板を押し退けるには至らず
しかも両脚は神永の長い脚に絡め取られ、顎を万力のような力で固定されていては
男の唾液と混ざり合ってドロドロになった唐辛子を流し込まれるまま受け入れるしかない。

「…ん、む、…ンン゛…!」

やや膠着状態が続き、そして、佐久間は次第に脂汗を浮かべ唸り出した。
然り、口内に収まった唐辛子が火を吹くように辛いのである。

「ッん、ン…!ぅぐ、、ふ!」

よくもこんなモノを平然と噛み砕いていたのだ。
大きな声では云えないが、なにせ辛いものが苦手な佐久間は
唐辛子は勿論のこと、山葵や芥子といった類いもなるべく敬遠して生きて来た。
幼子じゃあるまいしと指摘されようと、どうにも克服できないのだから仕方ない。
故に今の状態は地獄以外の何物でもないのだけれど、何を訴える事もなく、黙って耐え忍ぶ。
どんな事でも気の持ちようでどうとでもなると自ら宣言した手前
そんな泣き言は即ち負けだ、許されない。

(クソッ…辛くないと思い込むんだ…、辛くない辛くない辛くない辛くない辛くな、辛く、、……)

いや辛い。
とにかく辛い。
呪詛の如く「辛くない」を繰り返す内に佐久間の中で「辛くないとはなんぞや」と
ゲシュタルト崩壊しかけるも、横っ面を張り回すように正気に戻したのは
やはりどうやったって無い事にはできない苛烈な「辛さ」だった。
早く吐き出さなければとは思うものの
いつまでも合わせた唇を離さない神永を睨み上げた処で解放してくれる素振りはなく
逆に垂れがちな目をスゥと挑発的に細めて、絡んだ視線も口唇も外さない。
ふざけるなと普段の佐久間であれば噛み付いてでも怒るだろうが
妙な勝負意識を抱いてしまっている為、あらゆる行為に対し「負けて堪るか」に変換される。
神永の思惑は恐らく「辛い」とか「もうやめてくれ」やらの弱音を引き出したいのであろう
気力ではどうにもならないと是が非でも認めさせたいのだ。
だったら徹底的に抗うまでである。

(…そうだ!喉元過ぎれば熱さを忘れるとも云うではないか…!)

「……、…ッ、ん、、ぐ」

俄かに閃いた古くからの俚諺をあたかも素晴らしい打開策の如く妄信し己を鼓舞しながら
ついに佐久間はゴクリと音を立てて口内の物を全て嚥下した。
神永の唾液ごとというのが些か気に入らぬも、この際瑣末な事だ。
どうだ!と鼻息を荒げて至近距離の整った顔を見やると
何故か、おかしくて仕方ないという風な笑息を溢した神永は
首の角度を変え、より深く隙間なく口を合わせ、ヌルリと、舌を差し込んで来た。

「ン?!、む゛…!」

口内を、熱く柔らかい舌がゆったりと自由勝手に泳ぐ。
二人分の唾液が溢れる先から淫靡にかき混ぜられ、舌同士が触れ合い、ゆるく吸われ
これじゃあまるで口吸いのようだと、混乱する佐久間へ更なる追い打ちがかかる。

(ッ…う、……か、辛い!?…からっ、あ…!ッ…あつい…!!)

もう唐辛子は胃へ移動したのに、何故か燃えるように舌がヒリついて、痛みすら伴い
口腔内だけでなく躰全体が熱くなって、ドッと汗が噴き出し止まらない。
涙目で困惑する中、不意に顎を掴む手の力が緩んだので
必死に頭を振って神永のしつこい口付けを解くと
薄っすらほくそ笑んだ男が、それは唐辛子のカプサイシンなる成分の所為だと云う。

実際に温度が上昇しないものの激しい灼熱感を引き起こし
刺激による唾液の多量分泌は勿論のこと
内臓感覚神経に働き副腎のアドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗及び強心作用を促し
摂取後は運動時のように体が熱くなったり汗が出たりするのだと
ご自慢の知識をひけらかす。

佐久間は口元をいやらしく伝い落ちる唾液の事などそっちのけで
陸に打ち上げられた魚のようにハクハクと唇を開閉させ小さく身悶える。
神永のうんちくは辛うじて耳に入っており
どうして唐辛子なんぞを無理矢理に食べさせたのかは理解できたが
正直、怒りよりも、いかにしてこの状況を精神力だけで乗り切るかという方が切実な問題だった。
単に夏の暑さを我慢するのとは明らかに違う、人為的な苦境に追い込まれている。
全身が異様にカッカと火照ってあつい。
汗が珠を結んで肌を滑り落ちる。
濡れた唇と舌が痺れた。
これでは、喉元を過ぎても忘れるどころか焼き刻み付けられたようなもので
いつ音を上げる事になってもおかしくない。
それこそ何糞根性だけで持ちこたえており
かなり危うい瀬戸際に立っているのをありありと自覚する。

「どう?佐久間さん。もう限界なんじゃない?」
「はぁっ、はぁっ、は…ッ…ゲホッ、これしきの、事、、何とも、ない…ッ」

そんな佐久間を唆すように、耳元で囁く神永の「別に我慢しなくてもいいンだぜ?」
と続いた甘言を、噎せながらもあくまで頑固に突っぱねる。
今にも大粒の涙を零しそうな程苦しい癖に、そんな片意地を張って
必死にやせ我慢する佐久間の強がりなど、全てお見通しの神永の中で
この瞬間、カチリと、苛めっ子もとい大人の加虐心のスイッチが入った。

「上等だ…今降参しなかったこと、後悔させてやる」
「?!」

物騒な事を云い捨てた神永に、いきなりシャツを左右に引き裂かれた佐久間は硬直した。
弾け飛んだ釦がカツンと床で跳ねた後、小さな音を立ててどこぞへ転がって行く。
このご時世、釦もシャツも貴重だというに、いかな蛮行かと怒鳴ろうとして
しかしすぐにハッと息を呑んだ。
力尽くでスラックスと肌着をひん剥かれ其処らに放り投げられたからだ。
残るは破れかぶれのシャツだけである。
剥き出しの裸身にカウチの柔らかな質感とさらりとした肌触りの張り地を感じながら
佐久間は「ッおい!」と批難の声を上げたが、神永は素知らぬ顔で
ポケットからまた何かを取り出す。
小さな瓶だ。
ゴム栓を外して掌に傾ければ、トロリとした液体が広がる。

「ちょっと、待て…!神永…!!」
「待て?勝負に待ったもクソもないだろ佐久間さん」

敬語も丁寧語もやめた乱暴な口調に、取って付けたようなお飾りの敬称だけを使う神永は
常のやんちゃとかお調子者とかいう雰囲気とは程遠く
佐久間は得体の知れない恐怖を感じると同時に先程の液体を臀の穴に塗りたくられ
そのぬるつく感覚と独特の匂いで油だという事を理解しゾクと身震いした。
さっきの唐辛子と同じように食堂から失敬して来ていたのだろう。
手癖の悪い奴だ、いい加減本当に福本に怒られるぞと
何とも現状の緊張感とかけ離れたおよそ下らないお節介を思い浮かべた佐久間は

「ッぅ…!」

微かに身を竦ませ口を噤む。
神永の指がごくあっさりと体内に侵入して来たからだ。
愕きと共に心拍数が跳ね上がり、ぶわりと新たな汗が噴き出る。
これはさすがにいかんだろう、まさかこんな責苦までも気力で耐えてみせろというのだろうか
それはちょっと違うんじゃないのかと慌てて口を開けば

「違わないさ。どんな状況でも、弱音とか泣き言は吐かないンだろ?」

神永は強かに一蹴し

「日本ノ武士ニ、二言ハナイデスネー?」
「…!!」

いかにも挑発的で、傲慢そのものの表情を拵え
いつぞや聞いたような科白を、佐久間を見下しながら云い放った。

スパイ容疑をかけられた米国人の男の証拠を掴むべく
佐久間までもが巻き込まれてD機関の面々で家捜しした
あのゴードン邸での一件が、鮮やかに脳内に蘇る。
(ついでに、証拠の隠し場所を知っていた癖にあらぬ処を捜して「台所、ありません!」
 などと大声で報告してきたのは確かコイツだったなと要らぬ事まで思い出した)

不愉快な物真似までして、佐久間が先刻口走った言質を盾に取る悪辣さは
さすが結城中佐の鍛えた機関員と云うべきか、それとも神永本来の性質なのか。
どちらにせよ、佐久間はぐうの音も出ない。
自分の言葉で自分の首を絞めてしまった。
余計な事を云わなければ良かった、否、そもそも勝負に乗ったのが悪かったと、
自身の見通しの甘っちょろさを今更自責しても、後の祭りというやつである。

「…く、、…ッう、、」

であればせめて無様な声は上げまい、俎板の鯉よろしく、諦念に身を任せんと
殊勝な覚悟を決めた佐久間は、「好きにしろ…!」と吐き捨てて、フイとそっぽを向いた。

…何だろうか、この可愛いじらしい生き物は。

思わずそう脳内で呟いた神永はゆるく口角を持ち上げ、
これは三好が構いたがるのも判るなぁと、妙な納得と共感を覚えながら
不覚にも煽られた男心の欲求に従い、早急に手を進める事にした。

「、、ぅ…っ、ぐ、、」

纏めた二本の指を突っ込み、狭道を開拓するが如く遠慮なく往復させ
襞を均し、縁を伸ばし、円を描いては少し休み
どうにも狭かった穴がやがて三本の指をすんなりと飲み込むまでに解れ拡がると
己のスラックスを寛げ半ば勃ち上がっている一物を取り出し片手で扱き完全に勃起させ
息と声を潜めるのに躍起な佐久間が此方を気取る前に指を引き抜き
片膝裏に手を入れ押し開くと、露出した菊座にさっさと先端をめり込ませた。

「ッ?!、あ、ああ…!!」
「ハーイ、大丈夫だから息吐いて力抜いてねー」
「無茶を、云うな…ア゛!」

不意打ちもいいとこだ、なんという奴だと罵りたいのは山々な佐久間だけれど
神永の牡にじわじわと貫かれ確実に肉をあばかれていく生々しさに、躰は強張り息は止まる。
だがそんな初心な反応も予測の内なのか、神永は焦れるでもなく
佐久間が僅かなりと息をつくたび、見計らって少しずつ腰を進めていく。
そして一番張り出した雁首さえ通ってしまえば、後は簡単だ。

「ヅ、あ…!!」
「大変良く出来ました〜、っと」
「、、う…ぎっ、!」

惰性で一気に収めきると、蛙がひき潰れたみたいな呻き声を発する佐久間の両脚を抱え直し
頑なに窄まろうとする肉壁が神永のモノに馴染むのを少しばかり待ってやる。
とはいえ、いくら屈強に外側を鍛え上げようとも内側まで強くは出来ないものだ
佐久間は中から身を苛む圧迫感と息苦しさに、胸を大きく喘がせ大袈裟な呼気を繰り返し
「待ってくれ、待ってくれ…ッ」と、うわ言のように反復して小刻みに戦慄く。
大の男が生まれたての小動物のように怯え切望するさまは中々にソソるものがあり
これは果たして泣き言の扱いになるだろうか、いやならないなと自ら反語した神永は
弁明のしようもないぐらい破廉恥に、身も蓋もなくトコトン啼かせてやると、不敵に口端を舐め
既に息も絶え絶えな佐久間を一度大きく揺すり上げた。

「ふぐ、う゛…っ」
「ハハ、色気ねェ声。でも中はスゲェな。食い千切られそうだ…ぜ!」
「っい!…あッ…、あ!」

苦悶の声はさておき、温かくヒクつく粘膜は存外心地よく、塗り込めた油もよく滑るので
神永は続けざまに腰を前後させ、佐久間の伸びきった薄皮の縁に
別段支障が生じていないのを確認するやいなや、様子見の動きを一転
遠慮なく突き上げ始める。

「それにしても、『好きにしろ』なんざ随分と、軽率だなァ佐久間さん。
 あんまりそーゆーこと、云わない方がいんじゃない? なぁ、聞いてンの?」
「、ひ、…あっ、うッ…ぅ!」
「ん。今後は絶対口にしないように」

ガクガクと揺さぶられながらも僅かに頷いた佐久間に
神永は満足げに頷き返してから念を押すと、出来のいい子を褒めるように
あるいはむずかる子をあやすように、軽いリップ音を立てて頬に口付ける。
佐久間のこんな情けなくて頼りない姿を知っているのは己だけでいいと
子供染みた独占欲を覚えながら、神永は佐久間の正気と理性をグズグズにするべく
些か荒っぽく腰を使い、片手間に佐久間の萎えた一物へ愛撫を与える。

「ッ、ッ、ん、、うっっ、あ…!」

そんな事をされて堪らないのは佐久間だ。
耐えなければならないものが一つ増えてしまい、ビッシリと額に汗を浮かべ悶える。

神永の当初の予定通り、佐久間の精悍な顔は水でも被ったかのように汗で濡れひかり
頭上に投げ出した両手は白くなるまで握りしめられ
悩ましい表情を時折恥じて隠すようにしながらも、大人しく股を広げ男を受け入れる。

「チッ、煽るなァほんと…!」
「あ!…あっ、はッ、、ンン!」

忌々しげに、けれど心底愉しそうに嘯いた神永が一度身を起こして
邪魔だとばかりに己のワイシャツを脱ぎ捨ててから再び覆い被さり
荒々しく首筋を舐め上げて柔い耳朶を前歯で齧りつつ佐久間を激しく穿つ。
室内の熱気と同じぐらい高い吐息が佐久間の耳に「ハ、」とかかった。アツイ。
次第にあらゆる熱を溜め込み朦朧としだした意識はただただ体感だけを拾い上げ
正常な判断と冷静さを鈍らせるばかりであり
容赦なく腰を振る神永から、汗がほたほたと雫になって落ちてくる微かな感覚さえ
過敏に感じて身震いすれば、煽情的な笑みをした男の、凶悪に抉れた亀頭で中を刮(こそ)がれ
言葉にならない強烈な感覚が下腹部から背筋を這い上がる。

「ッあ、…あ!、、こんな…!認めッ、、 ン!あぁ…っ!」

抑えようと努めていた声はもはや突かれる都度ひっきりなしに続き
戯れに牡に触れられればあっさりと昂って、変に上擦った声が鼻から抜けた。
快楽を快楽として受け止めきれず、行為との関連性を無意識に避け
けれども本能的に追わずには居られない佐久間の相克の様は
未成熟さを匂わせ、それでいて男の劣情を無闇に掻き毟る色香を醸し出して神永を誘う。
切羽詰まった様子でキュウキュウと中を締め付ける具合もなかなかいい。
それにしても、これだけ明け透けに乱れ、はしたない声を憚りなく喘ぎ散らしておきながら
ちっとも泣き言や弱音を吐かない。
ここまで来たらその強情さも立派なもんだと、ほんの少しだけ佐久間を見直した神永は
しかし行為を途中でやめるつもりは微塵もなく、底無しの体力で佐久間を貪る。
二人分の汗でじっとりと湿ったカウチのギシギシと苦し気に軋む音が
荒い呼気と嬌声、それにぬちゅぬちゅという粘着質な音と入り混じって
なんとも不埒で猥りがわしかった。
そして唐突に、

「あっ、あ゛っ、あ…!!………っ、……、、」
「…ッ、……ん?」

ふつりと糸の切れた人形のように脱力した佐久間の、あられもない声が初めて途切れる。
どうやら、ついにのぼせ上がって気を失ったようだった。

「あちゃー、やり過ぎたか」

熟れた林檎みたいに紅い頬をペチペチと叩いてみても反応はなく
ぐったりと横たわっており、試しに数度腰を揺すってみると
神永が肩の上に担ぎ上げていた両脚がゆらゆらと力無くゆらいだだけで
感極まったようなあの声は一切洩れて来ない。

「マジか」

我に返り、改めて現状を見てみると
肘掛けに引っかかった佐久間の両腕はサスペンダーの拘束で擦れて赤くなり
無残に破れたシャツが申し訳程度に纏わり付いて悲壮感を漂わせ
滝行でもして来たかのようにズブ濡れの全身は余す処なく汗だくであり
長湯の後さながらに火照って上気している顔はくたびれ切って
唐辛子の所為で不自然なまでに艶めかしい紅唇は半開きに綻び
幾筋も唾液が伝い落ちた跡が顎にかけて残っている。
一際なのは、神永が押し入ったままの菊座で、淡く色づいて腫れぼったく捲れていた。
まったく酷い有様である。
悪漢と誹られても、神永は両手を上げて認めるしかないだろう。

「…いやー、参った参った。神永君ビックリだよ」

途中で手加減さえ忘れて夢中になってしまった。
だがそれは偏に佐久間の妙な色気と、具合が良すぎたのと、強情だったのが悪い。
全てが神永を抜群に煽り立てた。うっかりクセになりそうな程に。
何にせよ、慣れぬ佐久間への配慮を放り出し、手酷く抱いてしまった事には多少なりと罪悪感がある。
ひとまずは、ズルリと己の牡を引き抜いて手早く処理し
(さすがに意識のない相手の中に吐き出そうとは思わない)
窓を開け放ってからシャツを着て食堂に向かい
冷蔵箱の上の段から少しばかり氷を頂戴すると部屋に戻って幾つかに砕いてから
ピクリともしない佐久間の首まわり、脇の下、太腿の付け根など
太い血管がある場所に置いて適切に冷やす。
応急処置としてはこれぐらいが妥当だ。その内に目を覚ますだろう。

神永は屍の如くくたばっている佐久間の傍に立って眺め下ろしながら
よれよれのスラックスのポケットに手を突っ込み
くしゃくしゃにへしゃげた煙草の箱と燐寸(マッチ)を取り出し一本咥えて火をつけ
深く吸い込んでからゆっくりと紫煙を吐き出した。一仕事終えた後の一服はうまい。

「…んー…、とりあえずワイシャツは貸してやるとしてだな」

幸いにも背の高さは同じぐらいだ。体格は別として。まぁその場しのぎとしては十分だろう。
恐らく倹(つま)しい佐久間のことだから、替えのシャツを持っているか甚だあやしいし
裂けたシャツを継ぎ接ぐとでも云い出しかねないので
贔屓にしている仕立屋にでも連れて行き、シャツの一枚でも二枚でも見繕ってやるつもりだ。
そして帰りしなに氷屋に寄って、使った分の氷を買って
(きちんと補充しておかないと下段の物が傷む)
ついでに、佐久間に冷たいアイスキャンデーか、かき氷でも買ってやろう。
それでご機嫌が直らなければ、文句はいくらでも聞いてやるが
謝る気は更々ないし、たぶんこの先、きっと神永は遠慮なく佐久間に手を出すだろう。
不本意ながら、まことに具合の良い佐久間の味を占めたからには。

それにつけても、

「…オレ、三好に殺されるかもなー」

佐久間がお気に入りなのは周知の事実であり
もしもこんな無体をした事がバレたら、魔王の教えの『死ぬな殺すな』の
『殺すな』の部分だけ一時的に都合良く忘れた三好に
闇から闇へ葬られるかも知れない。完全犯罪で。あー怖い。
何か云い訳をするにしても、決して



『暑さのせいとは誤魔化せない』



だろう。
易々とヤられるつもりはないが、なるべく面倒は避けたいので
とりあえず証拠隠滅は完璧にしておこう。そうしよう。
と結論づけた神永は、外出先から他の面々が帰って来る前に全て済ませるべく
拝借した物を元通りにする手順を思い浮かべ、それと佐久間当人を整える為
「うーん…」と漸く目を覚ました男を甲斐甲斐しく手伝い出掛ける準備をさせ己も支度し
怒っているのかバツが悪いのか複雑な表情でむっつり押し黙り御冠な佐久間を
まぁまぁと宥めすかして、ようやく建物の外に連れ出した途端
ちょうど町から帰って来た三好ご一行様と鉢合わせした。

「げっ」

―――3分も経たず全てを見破られ、近来稀な修羅場が勃発したのは、また別の話。

 


【続き】


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あとがき

国産の電気式エアコンは昭和10年に生産されてたみたいですが、高価な為
一般に普及したのは昭和40年代に入ってからということなので
恐らく養成所にエアコンは無いだろうという前提ありきのネタでしたスミマセン;
(まぁ仮に設置してたとしても、中佐は電気代ケチりそうなので←
 中々つけてくれないとは思いますがww)

ちょっと口の悪い神永を書きたかったのと、夏の汗だくエロを書きたかったので、満足^^
いつにも増してグダグダでしたが、やはりエロはイイですね!(爽やかな笑顔)
神永には当分の間ご飯の量を半分に減らされるとかデザート無いとか、
福本からも無言のお仕置きがあると思いますww
でも本当に可哀想なのは佐久間さん。ごめんよ^^;

あとどうでもいい余談ですが、アニメ見直してたら電信柱がコンクリ製でしたww迂闊w
でも面倒なのでそのまま←
(そういえば最近木製の電柱ってまったく見かけませんよね。昔は近所に何本かあったんですが)

2016/07/18  いた。