霏々として降る雨が、あらゆる温度を下げていく。

「ざまァねーなァ、遊星」

頭上から吐き捨てられた声が、躯を突き刺す。
見えない杭が四肢を戒めているかのように、身動きが取れず
無様に転倒した地面に這い蹲ったまま、奥歯を噛み締めた。
強打した全身は声なく悲鳴を上げ、横っ腹が燃えるように熱い。
指を動かそうとしたが、駄目だった。
諦めて力を抜くと、遠くの方で赤いDホイールが煙を燻らせながら転がっているのが、辛うじて視界に入る。

脈打つような、ぐわんぐわんと酷い頭痛がした。

「…き、りゅ…う…」
「お前の負けだ、遊星」

ほんの少し手を伸ばせば届きそうな距離に居る男の名を呼べど
抑揚のない冷たい声に混じっている微かな失望は、より一層鋭い刃となって傷を抉り、急所まで達っした。

決着がつく前に中断したデュエルは、言う通り
あのまま続けていれば、確実に負けていた。

…負けて…、
…負けてしまったんだ…俺は……

「相変わらず生温ィデッキ使いやがって、なんも変わっちゃいねーな、お前」
「………」

蔑み、小馬鹿にする科白にも、反論すらできない。できる筈もない。
だって俺は、敢えて変えなかった。
昔を忘れないように、お前を忘れない為に…
それを言えば、お前は「独り善がり」だと嗤うのだろう。
そんな俺を、お前は俺の知らないカードで、デッキで、戦い方で
打ちのめした。
…それは、いい。
デッキは変わるモノだ。
俺がどうしようもなく恐かったのは
見たこともないお前の表情、声色、仕草の方。
それはどんな現実よりも、激しく俺を動揺させた。

何より

変わってしまったお前に、変わらない俺の気持ちは通じなかった。

「…あァ、そのツラ、最ッ高だな…」
「ッ…!」

失意の闇に呑まれる俺を見て、喜悦を零す鬼柳に腕を掴まれ
無理に引き上げられて目線の高さが同じになる。
夜に似た瞳に捕らわれ、思わず息が止まる。

腹に突き刺さった破片よりも、胸のずっと奥の方が痛くて痛くて、苦しかった。

「いいぜェ…こうやってお前の表情を歪ませたかったんだ」
「っ…ぅ、…あ…ッ」

負い目を感じ、眉を寄せ口を噤んでいると
鬼柳の愉悦を湛え吊り上った口角から、ニタリと覗いた舌が頬を這う。
奔ったのは嫌悪ではなく恐怖。
ここまで鬼柳京介という人間を豹変させてしまった己の過ち自体に恐怖を感じた。
…あぁ、全てはあの瞬間から手遅れだった……

「遊星、オレはお前に感謝すらしたってイイ。お前のおかげで、この力を手に入れることができた」

見せ付けられた腕に浮かぶ歪な痣が、嘲笑うかのように淡く光る。
俺はソレから、現実から、事実から、目を逸らした。
耐えられなかった…。

「なァ、遊星。この痣が浮かんでから
憎悪とか殺意とか欲望とか、そういうドス黒い感情ばっかりがスゲー膨らんでよォ」
「…ッ、く、、」
「しかも自制がキかねぇンだ」
「!!」

耳元で囁かれた言葉の次に、いきなり唇を塞がれ
瞠目という無防備に陥っている隙に、今度は舌が捻じ込まれる。
俺のソレは逃げる術を知らず、容易に絡め取られ、唾液の湿った音を立てて蹂躙される。
息もできずされるが儘になっていると、次は破れ目だらけの服が引き裂かれ
両脚の間に鬼柳の片膝が割って入り、股間を押し付けられた。
興奮を露にする局所に背筋が震え上がる。
今度は間違いなく鬼柳そのものに恐怖を感じた。

「ぅ…、っ…」
「お前をめちゃくちゃにしてェ…」

欲望に掠れた鬼柳の声は、その手の冷たさと共に、ゆっくりと俺の項を撫で上げ
舌が首筋を辿り、歯がやんわりと肉に食い込む。
食い千切られると思った俺は、身動きすらできず、躯を硬直させた。
が、今更命が惜しいと一瞬でも感じた自分を嫌悪し、すぐに力を抜く。

「……っ、ぁ…ッ」

容赦を知らない鬼柳の指先は、無抵抗な躯を撫で、乳首を探り当てると
潰すように抓り上げ、走った痛みとその中に紛れ込んだ言いようのない感覚に
思わず情けない声を漏らすと、咽喉で嗤われた。
続けて捏ねるようにされると、容易く赤みを帯びぷっくりと膨れ、立つ。
それを指先で引っ掻かれ、押し潰され、何度も、何度も、左ばかり。
羞恥を感じる云々よりも、鬼柳の愛撫の仕方が、以前と同じ事に激しく戸惑う。
いっそ何もかも違えば諦めもついたのに、何で、こんな……
ワザとだろうか、それとも、まだ可能性が……
…判らない…。
鬼柳にここまで感情を揺さ振られたのは、初めてだった。

「っつ…!ぅ、、」
「お前を服従させてェ…」
「、ん…ッ」

久しぶりであり、けれど酷く躯に馴染む愛撫と共に、耳朶を舐めながら囁かれた暗い熱望。
吐息がかかり、眩暈がする。
既に兆しつつあった股間を握り込まれると、息を呑んで仰け反った。
咄嗟に後退ろうとするが、それを許さないと鬼柳の手の圧迫が増す。

「いっ…ッ…、きりゅ…う、、やめ…っ」
「また、オレから逃げンのか?」
「……ヒッ!、うぐあァ…ッッ!」

違うと言いたくて、しかし直ぐに言葉にする事ができず
正面から覗き込んで来る闇色に浮かぶ金の双眸から、視線を逸らす。
それは即ち、肯定。
そう受け取った鬼柳は残酷な笑みを浮かべ、いきなり俺の片足を持ち上げると
乱暴に奥のアナルを指で広げ、無理矢理熱り立つ牡を捩じり込んできた。
酷い痛みと圧迫、衝撃が顳顬まで突き上がり、悲鳴を上げる。
恐い…何よりも鬼柳の視線が……俺を責める…蔑む……渇望する。

「相変わらず、良く締まるな…ッ」
「くッ、あ…!…ぅう、っ」

腰を引き寄せられ密着し、その儘突き上げられ
舌を噛みそうになり、しかし口からは引っ切り無しに苦痛の呻き。
鬼柳の肩を死に物狂いで掴んで涙を流すと、また目の前に狂喜の笑みが浮かび、俺を苛む。
お前の所為だ、と訴えている気がしてならないのは
まさしく俺自身に後悔という罪悪感があるからだ。
…あ、ぁ…駄目だ……抵抗できない…

「温けェな、遊星……生きてるンだな、お前」
「っひ!ィ…ッ、あっ、ァア!」
「今オレに犯されて、どんな気分だ?」
「、!っあ…、ぁ…ッ…、スマ…ナイ…ッ、きりゅ……っ、、」
「今更遅ェよ」
「アッ、あぁっ!」

その通りだと痛感する愚かな俺を、鬼柳の静かな激情が断罪し
肉体をも手酷く追い詰める。
貫かれる度に「スマナイ」と謝る俺を、虫ケラのように見下ろすお前に
最早赦してくれと願うことすら烏滸がましい。
…だったら、俺にできる事は、、

「あっ、ンぁッ、鬼・柳…っ、お前の、気の済むまで…ッ、俺は、俺は…っ」
「当然だろ」
「ッヒ、ぅ…!、ぁあッッア…!」

全てを差し出すつもりでしがみつけば、それしか出来ないだろうと嘗ての親友は嗤い
散々俺を犯し抜いた末、その証をこの体内に全て注ぎ込んだ。
冷やりとした感覚が奥まで満ち、鬼柳の陰茎が引き抜かれると
俺の血と混ざり、温(ぬる)く太腿を伝い落ちていく。

「…ぁ、……ぁ……は…、、」

持ち上げられていた片足を下ろされても、既に自力で立つこともできない。
鬼柳の腕に抱かれたまま、荒い呼吸を繰り返した。

「………」

鬼柳は、何も言わない。

これで、満足してくれただろうか…
まだ、足りないだろうか…
次は、何をすれば、いい…

襲い来る疲労と倦怠感を堪えながら、俺は必死に考える。
なのに、躯が言うことを聞かず、視界が勝手に狭まってくる。

…あ、ぁ…、鬼柳……教えて…くれ………

 

「オレはお前を、支配したい…」

 

薄れゆく意識の中、蕩けるような甘い低音が、鼓膜から脳髄に絡みつき。

 

 

『ブラックアウト』

 


 
【終】
(↑…続く、かも…。)


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アトガキ

鬼柳、頼むから長生き…じゃなかった、本編に登場し続けてね…

2009/03/22    。いた。