※引き続きJOJO1部パロ。色々と捏造あり。何でも許せる御仁向けですorz(平伏)

 


『DS YOUTH #2:過去からの書状』

 

小規模だが、陣取り合戦があった。
もう幼い子供ではなく立派な青年に成長していた幸村と政宗は共に出陣しており
まだ若いながらも二人の実力は既に数々の武勲に裏付けられたもので
此度も敵陣を蹴散らしての怒涛の進撃は容赦なく、敵兵は口々に「恐ろしい手練」と恐怖した。
幸村は二槍の使い手、技は多様、あどけない顔の癖に相手を圧倒する意気は凄まじく
一方の政宗は六爪の使い手、無慈悲で苛烈な攻撃はもとより、冷めた隻眼が周囲を萎縮させる。
更には、一見正反対に見える二人の息の合った連携で
あっという間に敵将を討ち取ってしまったので、負けた相手勢力はクモの子を散らすように撤退し
ワァと勝ち戦に沸く味方陣営は、こぞって幸村と政宗が一番手柄だと褒めそやした。

「Hey!やったな幸村」
「政宗殿!見事でござった!此度も貴殿のお陰で勝利する事が出来た、感謝致す!」
「何云ってンだ幸村、オレ一人じゃあこうは行かなかったさ。アンタあっての勝利だろ」

謙虚に互いを讃え合う二人の何処にも険悪さなど感じられない。
傍目からは、とても仲が良いように見えた。

「So、さっそくこの勝利を父上に報告しねェとな」

そう云って踵を返す政宗の後ろ姿を見つめる幸村の胸中はしかし、決して穏やかではなかった。

(…政宗が正式な養子となり、俺の父上を同じように『父上』と呼ぶようになって、どのくらい経ったであろうか…
 先程はあのような言葉を交わしたものの、正直、俺は政宗に対し友情や、まして家族愛というものを感じていない…
 何故!あやつはあんなにも腕が立つし気立ての良い男であるのに…!)

刹那、過去の苦い思い出が脳裏をよぎる。

(……まだ俺は、七年前の事を疑惑し、恐怖している…ッ)

幸村が鬱々とした気持ちで政宗を見遣ると、囃し立てる味方兵にちょうど声を掛けられている処だった。

「本当に幸村殿と仲が宜しいですな!良ければお二人の友誼をお聞かせ願いたい!」
「オレ達のFriendshipだって?そいつぁ照れるな」
「そう云わず!我らも是非知りたい!」
「Hmm…Well…、」

思案する素振りを見せながら、その実、内心で政宗は

(Ha!友情だと?何も知らねェ癖に綺麗ごとを並べ立てて諂うンじゃあねェよクズ共が。
 もうすぐだ…あと少し武功を立てりゃあ、あの老い耄れの脛を齧る必要なんざ無くなる。
 …この七年…幸村と表向き仲良くしたのは、機を待って真田家を乗っ取る為だ…財産ごと全てなァ!)

一欠けらの罪悪感もなく吐き捨てた。

 

二人揃って屋敷に戻り父の部屋へ入ると、暖かい室内に乾咳がコンコンと続く。
この処、真田家当主の体調は芳しくなく、ずっと臥せって居るのだ。
体調はどうかと訪ねれば、胸の痛みは引いて指の腫れも無くなり、まだ咳が続くが大丈夫だと、気丈に振舞ってみせる。
きっと余計な心配を掛けたくないのだろう。
ずっと世話になっている主治医は、もっと集中的な治療の為に医家に入るよう勧めて来たのだが
何故か政宗が猛反対して譲らず、当人も自邸での療養が望ましいと云うので、今の処幸村にはどうしようもなかった。

「ところで二人とも、また素晴らしい戦果を上げたそうじゃないか」
「なんと!もう御耳に入ったのでござるか?」
「早馬の報せを聞いた友人が一番に教えてくれたんだよ」
「Oh、そのご友人は空気が読めないと見える。喜ぶ顔を見たくて、折角オレ達が素っ飛んで帰って来たってのに」

他愛ない軽口に、三人の笑い声が重なる。

「ああ、喜んでいるとも、私は鼻が高い。素晴らしい息子達だ。
 政宗、お前は特に努力した。今後も胸を張っていなさい。勿論助力は惜しまんよ、家族なのだから」
「…貧しい出自のオレに、chanceを与えて頂き感謝してます。益々励みたいと思います」

そう云った政宗の眸にさす、冷悪で凍てつくような眼光に誰も気付く事もなく、室内に再び厭な咳が続く。
ただの風邪をこじらせただけだと云うのに、こんなにも悪くなるなんて…と
漠然とした不安を胸に、幸村は自室へと戻った。

 

「………」

静かに文机の上に置いた、不気味な石の仮面の真上に翳した指に、徐に小刀の切っ先を押し当てる。
ふつりと玉を結んだ鮮血が、ポタ、と石仮面の表面に滴ったその直後
バシン!という音を立てて、仮面から肋骨に似た鋭い突起物が飛び出す。
まるで被った者の頭を鷲掴んで破壊するかのように。
この驚くべき変形は、幸村だけが知る秘密だった。
一体誰がどんな目的でこの仮面を作ったのだろうか、興味は尽きない。
何より、顔も覚えて居ない亡き母が昔買ったものだというだけで、一種の思慕の情すらある。
武術以外にこれといった特技も趣味もないけれど、この不思議な仮面にだけは、俄然関心を抱いており
暇を見つけては町の古書や屋敷の書庫で、書物を漁って調べていた。
今宵も、手燭片手に薄汚れた書棚のあちこちを引っ掻き廻し
随分と古そうな分厚い一冊の綴りを引っ張り出した処で、ハラリと何か薄いものが舞い落ちる。

「…?」

何が落ちたのかと近付き拾ってみれば、黄ばんで萎びた書状だった。
差し出した者の名は、『伊達』。
…ざわと胸騒ぎがした。

 

「いつも有難うございます政宗様、本当に助かります」
「No problem」

政宗が初老の使用人から受け取ったのは、盆である。
盆の上には、薬包紙に包まれた薬があった。幸村の父が飲む薬だ。
使用人の代わりに、いつも政宗が持って行く。
盆を片手に一人悠々と歩みを進めながら、政宗は慣れた手付きでもう一つ、薬包紙を取り出す。
そう、今この時まで、誰も知らなかったのだ、まさか政宗が薬をすり替えていた事など…!

「政宗殿!」
「!」
「…今、その薬を……どうなさったのか…?」
「…ン?どうした、とは?」
「……き、貴殿がいつも…薬を?」
「Yep」

それがどうしたと云わんばかりに白々しく肩を竦めて見せる政宗に
幸村は古びた書状を懐から取り出し突きつけた。あたかも切り札の如く。

「…これは七年前、貴殿の父君が某の父上に宛てたものにござる。先程、中をあらためさせて頂き申した」
「………」
「こう書いてあり申す。『私は今病にある。恐らく死ぬだろう。いかな病かはついぞ判らなかったが
 心の臓が痛み、指が腫れ、止まらぬ咳が続く…』」
「………」
「この病症…!某の父上と全く同じ…!!一体どういう事でござるか、政宗殿!」
「……何が云いたい?」

ひやりと冷たい眼差しが幸村を射抜くも、幸村は怯む事なく政宗を見返し
「その薬、調べさせて頂く…!」と勢い手を伸ばす。
けれど薬包紙を取り上げた瞬間、バシィ!と強く腕を掴まれ
盆を打ち捨てた政宗に反動をつけて引き寄せられた挙句、叩き付けるように傍の壁にドンッと押さえ込まれた。
「ぐぅ」と短く呻いて振り解こうとしたものの、しっかりと両腕を顔の右と左で背後の壁に縫いつけられ
覆い被さるように全身を使って密着されては碌な抵抗ができない。
冷や汗を浮かべ焦る幸村を間近で見下ろしつつ、政宗は毒を吐くように囁いた。

「…その薬を調べるってこたァ幸村…オレ達の友情を、ひいては伯仲の間を疑うって事だぜ…
 兄弟を失ってもいいってのか?」
「っッ!!」

鋭い視線と言葉に威圧され、幸村は思わずビクリと身を強張らせて眸を伏せてしまう。
疑惑はあくまで疑惑に過ぎず、確たる証拠もないし、確信を持っていた訳でもなかったからだ。

「幸村ァ、薬を返しな…そうすればテメェの莫迦げた考えなんぞ忘れてやるよ」
「…ぅ、、」

蛇の其れのように、幾度も微かな音を立てて吐息を混ぜながら、するすると耳元で呟く政宗の唇が
触れるか触れぬかの危うさで耳朶を掠り、幸村は堪らず息を詰め

(…っ駄目だ…呑まれては…ッ)

「っく!、政宗殿!武士として、貴殿の実の父君の名誉にかけて誓って下され!貴殿自身の潔白を…!!」

両手首を拘束する政宗の手を全力で振り解き、まろぶように距離を取りながら、叫ぶ。

「己が父に誓えるなら、某は薬を返し、二度とこの話はせぬ!」

だが、もし幸村の推測通りなら、政宗の『誇り』に対する性格からして誓いは出来ない筈だ。
高過ぎる自尊心と自信を持つこの男が、己以外のものを認める事も、信頼する事も
まして誓契する事など、絶対にない…!

「さぁ!政宗殿、誓って下され…!!」
「……誓い、だと…?」

俄か、政宗の脳裏に父親の記憶が甦る。
働きもせず、母をこき使い苦労させ死に追い遣り、挙句に持ち物を売り払って
其れが無くなれば政宗が折角稼いだ日銭を容赦なく毟り取り、日がな一日安酒を飲んだ暮れ
悪酔いしては口汚い罵倒を浴びせ、酒だ酒だと莫迦の一つ覚えのように繰り返すのだ。
あの畜生の血が己の躯に流れていると思うだけで、気が狂いそうになる。

「…あいつの名誉に誓う…?…テメェ勘違いしてンじゃねェぞ…
 …あんなクズに、名誉なんて上等なモンある訳ねェだろうがァ!!」
「ッ…!!」

いつになく感情を露わにした政宗が拳を振り上げ、手加減ない其れが幸村の横っ面を襲う。
しかし幸村は微塵も動じる事なく頬で受け止めその場に踏みとどまり、凜とした双眸で政宗を見据え、云い放った。

「政宗殿への疑念が今、確信に変わった…!」
「!」
「貴殿の其の動揺と憎悪は尋常ではござらぬ…
 父君との間に何があったのかは知らぬが、貴殿は、実の父をその手に掛けている…!!」

核心をついた直後、頬に減り込んでいた政宗の拳が開き、伸びた親指が目潰しを狙って来るが
寸での処で拳を捉え、関節を捻り上げて防ぐ。
もう、政宗に対し恐怖など感じていなかった。
沸々と胸に湧き上がるのは、たった一つ、燃えるような使命感。

「某は父上を…真田家を守る!」
「ッ!?」

日頃から鍛え上げていた腕力を活かし、政宗の襟刳りを引っ掴んで引っ張り、そのまま力任せに投げ飛ばす。
咄嗟に受け身を取れず背面を強打した政宗は激しく噎せ
弾みで切った口内から血を流しながら、幸村を射殺さんばかりに睨み上げた。「ヤるしかねェ」、と。

「政宗殿…いや政宗!おぬしの七年間の考えがよく判った!
 最初から某達の間に友情など存在しない!無論兄弟でもない!そして父上にはもう近付けさせぬ!!
 この薬を徹底的に調べ、おぬしの悪事の証拠として皆に報せる…!」

堂々と宣告した幸村は、足早にその場を後にした。

 

「Shit!あと一歩だったってのに…!」

ようよう自室に戻るなり、政宗は憎々しげに吐き捨てた。

(…にしても、あんな書状が見つかるなんざ、何かの前兆か?
 …No、あんな熱血クソ野郎なんかに、オレの計画を邪魔されて堪るかよ…!)

何の為に実の父を殺し、恩があるとかいう真田家に転がり込んで
七年もの間巧く猫を被って良い息子と良い兄弟を演じて来たのか。

「…もう、引く事はできねェ」

暗闇に、不穏な眼光がギラリと光った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「父上、これから某は二三日ばかり出掛けて参りまするが、その間
 此処に居る医師達以外からの手当てや薬は一切受け取らないで下され」

町から呼び寄せたのは、政宗の手が廻っていない、信頼できる数名の医者だった。
身の回りの世話をしていた使用人が、自分達の看護が信用できないのかと些か嘆くも
「いや、幸村が思う通りにさせてやってくれ」と、当主自ら幸村の行動を許し
どんな理由があるにせよ自身の息子ゆえに信じると、咳込みながら微笑んで見せる。
病状は確実に悪くなっていた。
早く手を打たなければ、きっと手遅れになるだろう。
例の薬を分析すると同時に、解毒剤を手に入れなければならかった。
幸村は急ぎ支度を済ませ、単身屋敷を飛び出した。

「……幸村が薬の証拠を掴むまで、三日ってとこか…」

遠ざかる幸村の背を眺めつつ、政宗は独りごちる。

「三日の間に、幸村を何とか始末しねェとなァ…しかも、何の証拠も残さず、だ」

この段階になっても政宗がうろたえないのは、奥の手があったからだ。
不在となった幸村の自室に遠慮なく侵入し、文机の鍵の掛かった小引き出しを悪怯れなくこじ開ける。
中には、石で出来た仮面が大事そうにしまってあった。
七年前、この仮面に血が飛び散った時、床に落ちて変形した処を見たのは
実は幸村だけではなかったのである。
幸村の方は自分だけが知っている秘密だと思い込んでいるようだが
夜な夜な幸村が仮面の事を熱心に研究していた事も
仮面について判った事をこっそりと書き付けていた事も、政宗はちゃんと知っている。
一生懸命に書いたであろう覚書きには、変形後の仮面の形や考察が、丁寧に記されていた。

「Hmm…この蟹の足みてェな突起物が幸村の頭に食い込めば、間違いなく即死だろ」

これを使えば、まず政宗は疑われない筈だ。
そもそも、死因すら特定できぬだろう。
よもやこんな奇々怪々な面が人殺しに使われた道具などと、誰も思わないのだから。

「覚悟しろよ幸村…戻って来た時がテメェの最後だ」

政宗は悪辣な笑みを浮かべた。

 

一方の幸村は、辺境の薄汚れた裏道にいた。
この界隈は盗みや殺しが横行する犯罪の温床と化しており、治安が悪い事で有名であった。旅人も寄り付かぬ。
何故そんな場所に来たかと云えば、町中の薬屋に件の薬を持ち込んでみても、その成分が判らなかった為だ。
つまり、和漢薬ではなく未知なる西洋のものに違いなく
そういう物はまだ日ノ本では広く受け入れられて居ないし、まして毒薬など
斯様な裏町でなくては商売が成り立たぬからだ。
そして幸村には、この危険な場所に自ら踏み入らなければならない理由と覚悟がある。

(…早急に薬の入手先を見つけ、成分を明らかにし、解毒剤を…!)

意気だけは十二分にあるものの、なにぶん未踏の地だ。
薬師を探し当てるどころか来た路すらよく判らなくなってきたし、よく行き止まりにぶつかる。
さてどうしたものか、いや諦めんぞと、三度目の袋小路を後ろへ戻ろうとした時
その背後から、見るからにゴロツキといった風貌の男が三人、幸村の方へと真っ直ぐ走って来た。
手には各々武器が光る。

「あの身なりのイイ旦那の肌を切り刻んで、身包み剥いじまいな!」
「おお!」

物騒な科白と共に突っ込んで来る男達に対し、幸村は素早く身構え
最初に脇差を振り翳して飛び掛かって来た一人目の男の一撃を、しかし躱す事なく素手で刀身を捉えて離さない。
ギョッと瞠目したのは狼藉者の方である。

「コイツ莫迦か!素手で止めやがった!でもよぉ、俺がちょいとでも引っ張れば、てめぇの指は四本削げ落ちるぜ!」
「…試してみよ。しかし引っ張った瞬間、某は容赦なく貴殿の股間を蹴り上げ玉を潰す。
 某には指四本を失ってもよい理由がある…!それは父上を守る為!真田家を守る為!
 貴殿らとは、戦う動機の格が違う!!」

吠えた一寸後、別の男が奇声を上げて襲い掛かって来たので
幸村は反対の方の手で其奴を殴り飛ばすと同時、目前にいた男の股座を宣言通りに蹴り上げ吹き飛ばす。
戦場で無数の敵に囲まれた事を思えば、この程度、幸村にとっては造作も無かった。

「もし貴殿らが、西洋の毒薬を扱っている者を知っているのなら、教えて欲しい」

長く此処に暮らして居る者なら、きっと誰か知っているだろうと声を掛ければ
「ちょっとアンタ」と遮る者がある。

「指を失うぐらい平気だとか云っちゃってたけどさ、ハッタリでしょ。金持ちの旦那?」

珍しい橙色をした髪の男は、試すようにそう云うと、どこに隠し持っていたのか
見た事もない暗器を素早く組み立て、大きな手裏剣に似た武器を完成させ、やおら突進して来る。
どんな妨害にも屈せぬと、幸村は真っ向勝負で受けて立とうと身構えたが
不意にその男は手にあった武器を鋭く投げ放つ。
なんと飛び道具だったのだ。
反射的に得意の槍で防ごうとするも、手は虚しく空をきる。
急ぐ用事だからと邪魔になる愛槍は置いて来たのだ。まずい。
幸村は咄嗟に急所である首を庇うように両腕を交差させた。

「うっ!ぐ、、」

回転を伴う凶器が肉を断つ鈍い音がする。

「あ、その音、刃が骨まで達したかもよ?これでもう…、ッ?」

余裕綽々の科白を浴びせようとした男は、かつてない程に驚愕した。
信じられない事に、深手を負って動けない筈の幸村がとてつもない勢いで突っ込んで来たのである。
避ける暇もなく繰り出された蹴りが鳩尾を捉え、男は容易く吹き飛んだ。

(、ぐはッ!…ウソだろォ…!マジでハッタリなんかじゃあなかった…!
 本当にこいつには、指どころか、両腕さえ失ってもいい覚悟がある…!そして痛みや恐怖に打ち勝つ精神力も…!)

「…ハハッ、やめときゃ…良かった、、こんなタフなやつに喧嘩売るなんて、さ…」

自嘲しつつ地面に蹲る男を後目に、幸村は腕に深く突き刺さっていた暗器を引き抜いて
止血をしながら先へ進もうとしたが、騒ぎを聞きつけたらしい周辺のゴロツキ共がわらわらと集って人垣を作っている。
さすがの幸村とて、この手負いの状態で全員の相手をするのは難しい。
悪漢達も圧倒的優勢を理解しており、今にも襲いかからんとて契機を見計らっている。
だがしかし、それはある男の言葉で止められた。

「ちょっと待ちな…!その旦那に手を出す事は、この猿飛佐助が許さない!」
「…旦那?某のことか??」
「一つ訊くけど、何で手加減なんかしたわけ?それに、俺様にとどめもさせた筈だ」
「…某は、父の為に此処へ参った。だから貴殿にも、父君や母君や兄弟が居る筈だと、そう思った。
 戦であればいざ知らず、いたずらに命を奪い、貴殿の家族が悲しむような事はしとうござらん」
「……(こいつ、マジ?とんでもない甘ちゃんじゃん。…でもさ…)」

見れば、初めに襲いかかった二人も軽傷だったらしく、ちょうど起き上がっていた。

「アンタさ、気に入ったぜ」
「む?」
「名前教えてよ」
「真田幸村にござる」
「よっし、真田の旦那。確か西洋の毒薬を売ってるヤツを捜してるって云ってたな。気をつけな、やつは狡いぜ」

云って佐助が道案内をするかのように先を歩き始める。
幸村は僅かに柔らかく笑み、後に続いた。

 

幸村が屋敷を飛び出してから、早くも三日が経っていた。
政宗は一人、夜の街をあてど無く徘徊し、酒を呷っている。
…ヤツは既に毒薬の証拠を掴んだだろうか?いつ戻ってくる?まさかこうしている間に屋敷へ帰ったのでは?
そんならしくない焦燥と不安が、もやもやと胸を塞いでしょうがなかった。

(…Drink!呑まずにはいられねェ…!)

そうやって、まったく美味しくない酒を浴びるほど呑んで酔いに逃げようとする
あの屑のような父親と全く同じ事をしている己自身に、反吐が出そうだった。

「Dammit…!!」

苛と吐き捨て、些か覚束無い足取りで進む政宗は
前方から同じように千鳥足で歩いて来た男にドン!とぶつかる。
「なんだてめぇどこ見て歩いてんだ!このトンチキが!」と振り返った相手側も、かなり酔っていた。
気分が悪いというのに、更に気分を害する存在がワァワァと低俗な文句を喚き立てており
まったく癪に障る事この上なく、政宗は辻斬り宜しく斬って捨ててやろうと刀に手を伸ばし、ふと妙案を思いつく。

「…丁度いい。あの仮面を試してやる」

どうせ殺すのならば、そちらの方がずっと有意義だろう。
幸村に使う前に、ちゃんと人体実験もしておきたかったのだ。
然らば、いつでも使えるようにと懐に忍ばせ持ち歩いていた仮面を意気揚々と取り出し
白髪混じりの老躯の男の草臥れた顔面に叩きつけるように覆い被せ
視界を塞がれ焦っている其奴の耳を素早く掻っ斬った。
噴き出した血はうまく仮面に飛び散り、瞬間、眩いほどの閃光が迸った直後に
仮面から飛び出した骨の針のようなものがズブズブと音を立て深々と男の頭部に突き刺さる。

「…今の光り、幻覚か?」

数瞬で光りは収まり、様子を確かめようと近付けば
悲鳴もなく倒れた男は一度大きく痙攣したきり、ピクリとも動かなくなった。
意識を失っただけなのかも知れない為、念を入れて蹴りつけてみても、反応はない。
どうやら本当に死んだようだ。
思った通りの殺傷力があった事はこれで確認できたものの、さてどうやって食い込んだ仮面を外せばよいものか
否、時間が経ってあの骨針が引っ込まない限り、恐らく取り外す事はできないだろう。
仕方ない、それまで待つかと政宗が背を向けた直後、カタ…と微かな物音がした。

「…!」

まさかと思い振り向くと、落ちた仮面の傍に、死んだ筈の男が静かに立って居る。

(死んでねェのか?!)

そんな莫迦なと目を剥く政宗の肩を掴んだ其奴は、突如狗がそうするように大口を開けて噛み付こうとして来た。
おまけに、とても人間とは思えない鋭い歯が生えている。
本能的に危機を感じ距離を取った政宗は、スラリと刀を引き抜き構え
まるで正気を失ったように再度襲い掛かって来た其奴の片腕に切っ先を向けたのだが
掌の真ん中から肩にかけてを裂くように両断されながらも其奴の勢いは止まらず
そのまま近くの蔵の白壁に突っ込んだ。
途端、ボコォ!というありえない轟音と共にガラガラと壁が崩れ、地にヒビが入る。
大筒の如き威力だ。
衝撃で吹き飛ばされた政宗は、瞬時に体勢の立て直しをすべきと悟り
一旦この場を離れようとしたのだが、ヒタヒタと近付く気配に思わず振り向くと
あの男が平然と何事もなかったかのように歩いて来る。
ズタズタになった腕の痛みはないのかと、ゾッとした。

「Wow…完全にやべぇなコイツ…!」

これは早々に逃げた方が良いという警鐘がけたたましく頭の中で鳴るものの
先程吹き飛ばされた際の打身の激痛でうまく動けず、刀も遥か遠くへ転がって行ってしまっていた。
そうこうしている間に男に追い付かれ、ガシリと咽喉を掴まれる。
首でも絞めるつもりなのかと抵抗したが、そうではなかった。

「?!、な、にィ?!」

男の指が首筋の薄皮を突き破って侵入し、ズキュン、ズキュン、と植物の根が水を吸い上げるかのように
政宗の血液を直接五指から吸い取って行く。
いよいよ此奴は人間ではなく化け物だ。
呻く政宗を余所に、「渇く、渇く」と連呼する化け物は、強制的に血を奪い取り
果たして、俄かには信じ難い事だが、政宗の見ている目の前で
老いて萎びていた其奴の顔はみるみる内に若返り、白髪は黒髪に、皺もなくなった。
政宗は、石仮面の本当の秘密を理解し始める。しかし、

「ッ畜生、オレの血が…!ぅぐ、あ…!最期に見るのがあの太陽だなんて、冗談じゃねェぞォオ…!!」

遠く地平線から滲み出した朝日の眩しい輪郭が辺りを次第に明るく照らし
計画半ばでよもやこんな処で死ぬのかと、絶望と憎悪を込めて叫んだ。
それと時を同じくして、ある変化が起きる。
日光を浴びた男の皮膚が、肉が、ブスブスと煙を上げながら爛れ
弱点などないように見えた化け物が「ギャアアッ」と悲鳴を上げて苦しみだし
一体何が起きているのかと目を見開く政宗の前で、突然、ボン!と灰のように粉々になり
一陣の風によってサラサラと跡形も無く飛ばされて行った。
後には、其奴が身に付けていた物と、石の仮面だけがポツンと残る。

「……太陽の、光りか…」

 


午後になる頃には、晴天だった空に黒い雲がかかり始め
あっというまに分厚い雨雲が陽を覆い隠し、薄暗い中に低く雷の音が響いてポツポツと雨が降り始めた。
政宗が屋敷に帰ると、何故か邸内の明かりは消えており、夜ほどではないにしろ、灯火が無ければ不便を覚える。
控えている筈の使用人を呼びつけてみても、返事はなく
不審に思いつつ手燭を探そうとした処で、暗闇にぼんやりと灯りが浮かび
ハッとしてそちらを振り向けば、幸村が居た。

「幸村…!」
「…政宗、とうとう掴んだぞ、おぬしの悪鬼のような陰謀の証拠を!」
「ッ!」

追い詰められている。
しかし政宗の隻眼は、底冷えがする程に鋭かった。


 


【3へ続く】


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あとがき

SPWこと佐助さん登場!良かったね幸村!
そしてまたしても書きたい所まで書けなかったorz しかもエロないのにものっそい長くなってしまい、すみません;
次回こそは、筆頭、人間やめるってよ!(某映画タイトル風に)

2013/08/17  いた。