※軽めの性描写・流血・暴力的表現あり。そして松永氏登場。でもまだ名前だけ。

 

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『Half Dragon:#4竜の珠』

 


「真田幸村は生きている」


そんな噂が、彼方此方で囁かれ始めた。
信玄が伊達に敗れ、それが瞬く間に全国に知れ渡り
勿論多少の残党はあろうとも、あの独眼竜のことだ
武田勢の主立った武将は根こそぎ討ち取ったと、そう誰もが思っていたのだが
その甲斐の虎・武将達の晒しものになった首の中に
日本一の兵と名高い男の首がなかったからだ。
運良く何処ぞの僻地へ落ち延びたか、はたまたそうではないのか
俗人の最近の話の種は、専ら真田幸村の消息についてである。


「それが、どうやら奥州の竜が攫って帰り、その懐で匿っているらしい」


まことしやかに囁かれる諸説の中、好んで人の口に上がっていたのはこれであった。
それは飽く迄事実を知らぬ人々が予想する所の、殆ど与太話に近いものだったが
その方が興味を引くものであるし、何かと奇抜で大胆なことをすると有名な伊達政宗という男なら
そのぐらいやっているかも知れない、それが本音だった。

実際の所、当たらずとも遠からず、幸村は伊達によって囚われている訳だが
それが公になるのは、まだ先のこと。

それはそうとして、噂が噂を呼び、日本各地の至る所で「真田幸村生存説」が蔓延すれば
当然、今回の戦の動向に目を光らせていた各勢力や戦国大名の耳にも入る所だ。
従って、噂の真偽を確かめようと、挙って奥州に間者が次々と送り込まれることになる。


「…ほう、ここが奥州か」


中には、間者という間接を嫌い自ら敵地に赴く者も居る。
数人の供を連れ、隠密にこの地を踏んだ松永久秀も、その内の一人であった。


 

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「っあ…!あっあぁ…!、ん…ぁっ、」


日も高い正午である。
真昼に聴くには艶めかしすぎる嬌声が、襖の隙間から漏れて
人払いをした座敷の外の廊下まで響く。
襖の中では、今日も今日とて幸村を抱く城主の伊達が居り
この座敷を使うようになってから、つまり幸村という戦利品を手にした時から
一日の殆どをここで過ごす様になっていた。


「……政宗様」


褥を掻き毟る幸村を思う様揺さ振っていた伊達の耳に、遠慮を知らぬ声が聞こえた。
人払いの命の中、気配も殺さず城主に声を掛けられる者と云えば、決まっている。


「なんだ小十郎。火急の報せか?織田の糞ジジイでも死んだか」
「冗談を仰いますな。そろそろ、政務に戻っていただかねば、仕事が溜まってなりません」
「Ah〜?ンなもん、適当にできんだろ。任せた」
「なりません。昨日そう云って丸一日ここに引き篭もって居られたではないですか」


と、痛い所を針のように突かれ、伊達はうんざりと眉を顰めた。
それと同時に、口煩い重臣に指摘された通り
確かに丸一日をかけて幸村を抱いていた事に気付き
それでもまだ抱き足りなかったが、そろそろ組み敷いた幸村の方に限界が近いようだ。
瞳は光なく虚ろに彷徨い、喘ぎ過ぎ嗄れた咽喉からは、ヒューヒューと細い呼気を繰り返し
何もせずともビクと僅かに痙攣する色づいた躯は、汗と子種に塗れている。
このままでは確実に抱き潰してしまうだろう。
仕方ないとばかりに溜息を吐き、名残惜しげにゆっくりと幸村から離れると
褥の上であられもない姿で息を乱す様を一頻り眺め、


「OKOK、わーったよ。やりゃいんだろ、やりゃあ」


そうボヤいて襖を開けて姿を現した伊達は、面倒臭そうに頭を掻き
着崩れた単衣の上に刺繍の入った藍色の羽織を簡単に羽織ると
廊下に居た片倉の脇を通り過ぎ様、聞こえよがしに舌打ちをした。


「子供染みた真似をなさいますな。全て片付けた後、また思う存分耽ればよろしいのです」
「All right、That’s enough… Shut up  OK?」


苛とそれだけを吐き捨てた伊達に、それ以上の言及を許されなかった片倉は
黙って頭を下げ、主を見送った後、座敷の方に一瞬だけ視線を遣り
溜息を禁じざるを得なかった。
中々どうして、主のあの入れ込みようには愕くばかりだ。
そもそも、真田幸村という存在自体、あの時あの血みどろの戦場で
甲斐の虎と同じ末路を辿る筈であった。
それが今こうしてこの城で生きているのは、云うまでもなく伊達の一存の為である。
一国の長としての気紛れか策略かは判断し兼ねる所ではあるが
それだけでは量ることのできない、『何か』を感じていた。


「…まぁ、政宗様の邪魔になるようなら、消すまでだ」


家臣として、或いは右目としての責務という考えで
一抹の不安を打ち消すように、そう独りごちた片倉は
今頃筆を持って政務に躍起に取り掛かっているだろう主君の為に
座敷の中に居る幸村の世話役兼見張り役を仰せつかった身なれば
一人二人の下女を呼んで、座敷と幸村を清める作業に取り掛かった。


 

それから何刻か経ち、外が茜に色付いて、遠くの方で入相の鐘が鳴る頃。
例の座敷では独り、幸村がその微かな侘しい音色を聴いていた。
畳みに敷かれた褥は真新しいものに換えられてはいたが、そこで落ち着く気にもなれず
長い間壁に背を預けて座り込み、何処とはなく視線を流し、思い出したようにハラハラと無言で泪を流す。
その痛ましい様は、惻々として胸を打つものがあり、見兼ねた一人の下女が
世話をする以外には立ち入りさえも禁じられている座敷の中へ、恐る恐る入り込んだ。
もし主に知れようものなら、どんな懲罰が待っているか判らない。
良くて叱責、悪ければ杖刑(五刑の一つ。杖で臀を打たれる)だろう。
要は、ここの城主に見つからなければ問題ない筈だ。と思ったのだ。(この時点で考えが甘いと云うべきだろう)
その城主の方はというと、まだ政務が終わらないのか、戻ってくる気配はない。


「…あの、幸村様…、御躯に障ります。どうかこちらで、温かいお茶を…」


用意していた座布団を敷き、深い湯飲みに急須から湯気の立つ茶を注ぐ。
菓子の一つでもあればと思い、そういえば昼間裾分けしてもらった饅頭があったと
包みごと湯飲みと一緒に幸村の側に置く。
すると、ゆるりと視線を向けた幸村の瞳に、チラと光が見えた気がした。


「さぁ、遠慮なさらずに」
「……かたじけのう御座る…」


すかさず勧めると、やんわりと微笑んだ幸村が、小さく頭を下げ饅頭を手に取る。
その儚げな表情と掠れた声色が妙に色っぽく
知らず頬を染め胸を高鳴らせた下女は、隠すように自分も頭を下げた。


「まことに、美味い。斯様に甘い菓子を、某は食べた事が御座らん…」
「っそ、そんな、大袈裟な…っ」
「いえ、某は嘘偽りは申さぬ」
「あの、本当に、ただのお饅頭ですから…っ」


と互いに顔を見合わせてクスクスと笑えば、重苦しかった空気が幾分か和らぎ
暫くの間、幸村は久しく気を緩めての会話が出来た事に、束の間の喜びを感じた。
されどそれも長くは続かない。
俄かに廊下が騒がしくなる。
二人がハッとして顔を上げたのと同時に、パンッと音を立てて襖が開いた。


「…Oops、お邪魔だったかな?」
「……政宗、殿…っ、」


半身を預けるように襖の縁に凭れ掛かり、口端を上げて二人を見遣るのは、まさしく米沢城が城主。
茶化すように云う軽い口調とは裏腹に、その隻眼は一寸たりとも哂ってはいない。
眼光鋭く全身から迸る怒気たるや、身動きできない程の物であり
息を呑んで硬直する幸村と、ガクガクと震えながら「申し訳御座いません!」と
平伏して何度も平謝りする下女を、冷めた目で見下ろす竜。
幸村の怯えも相当のものだが、女のそれは尋常ではない。
一体何故そんなにも下女が怯えて謝るのか理解できず
ただ茶と菓子を出し談笑したことが、そんなにも悪い事だったのかと、幸村は怪訝に思う。
しかし次の瞬間、一気に顔色は青褪めた。


「そこに直れ」


低く云い放った伊達が、背後に付き従っていた家来からスラリと刀を引き抜くなり
深深と頭を下げている下女の白い項に、切っ先を突きつけたからだ。
まさかと血の気が引いた幸村は、バクバクと警鐘を鳴らす心臓と
急に覚えた背筋の寒気に、弾かれたように叫んでいた。


「ッおやめ下され!政宗殿っ…!! 、ッ…あああ!!!!」


咄嗟の訴えも虚しく、下女の首は一瞬で胴体から切り飛ばされ
音を立てて畳の上に転がり落ちる。
迸った血飛沫がバシっと襖や壁、天井にまで飛び散り
畳の上には瞬く間に赤黒い血溜まりができた。


「…あ…!あぁ…、……あ…!」


それを凝視しガクガクと戦慄きながら、意味のない呻き声を上げる幸村は
目前で起こった惨劇が過去の忌まわしい記憶と被り
女の首と信玄の首とが混同して見え、軽い錯乱状態に陥る。
躯が鉄のように硬直し、呼吸すらできなくなったのだ。


「…ッ、……はっ、…ッ!」
「おいおい、flash backか?大概にしとけよ」
「、つッ…!!」


刀に付いた血糊を払い、無造作に家来に突き返した伊達は
強かに幸村の頬を張り飛ばした。
それで漸く正気を取り戻したのか、焦点の合った双眸で見上げてくるのに満足し
細い腕を掴んで引き上げると、座敷の外へと出る。


「あと、片付けとけ」


それだけを、僅かに顔を引き攣らせる家来に云い付け、伊達は幸村の手を引き廊下の奥へと歩き出す。
半ば引き摺られるように連れて行かれる幸村は
その間も「っ離せ…!触るな!!」と咆哮したが
すぐに別の座敷に投げ込まれ、打った痛みに歯噛みした。
が、そんなことよりも、云ってやらねば気が済まぬことがある。


「っこの、外道が…!罪もない下女に、なんという惨い事を…!!」
「Ha!罪ならある。このオレの云い付けを破りやがった」
「…莫迦な!一体、どのような云い付けを!?下女には一服すら許されぬのか…!」
「Idiot、そうじゃねーよ。いいか?あの女は役目以外の目的で座敷に入り、テメェと会った」
「た、たかがそれだけのことで…?!」
「YES、of course」


四六時中、忍に見張られていたのは知っていたが、それは嘗て逃亡を図った所為だと思っていた。
しかし竜の云いようは、それとはまた違う意図があるようで
察するに、特別な事情(城主直々に与えられた仕事をこなす時、または緊急時)でない限り
座敷への出入りそのものが禁止され、自由に行き来できるのは城主である伊達ただ一人ということだろう。
下女が座敷へ入った途端、天井裏に潜んだ気配が消えたことに
もっと注意を払うべきだったのである。


「っされど、その様な瑣末なことで、下女を手討ちにするなど、短慮すぎは御座らぬか…!」


たかが許可のない座敷への出入りをしたぐらいで、何故あんなにも激怒し
剰え、理由も聞かず即刻城主自ら手討ちにするとは、異常も甚だしい。
一国の長として、激情のままに人を殺めるなど、あってはならないことだ。
幸村は頑として譲れぬと、この城に来て初めて反抗らしい反抗をした。


「Huh、このオレに説教を垂れるたァ、いい度胸だ」
「ッ…!」


途端に嗜虐的な色を湛えた隻眼が幸村を捕らえ、ゾッと寒気を感じ後退りかけたが
それより早く伸びた手に小袖の襟を鷲掴まれ、勢いに任せて畳に捻じ伏せられる。
ここで引いてなるものかと、懸命に押し退けるべく膝を振り上げたが
巧く往なされ、逆に股を割り開かれ局部が露わになってしまう。
そこへ逞しい伊達の躯が圧し掛かり、既に昂っている股間を押し付けてくると
思わず幸村は「っひ!」と情けない悲鳴を上げた。


「…ぁ!、やめ…よ!斯様な……!」
「Shut up。黙って足開いてりゃいいンだよ…」


そう低く囁いた竜の脈打つ一物が、数刻前までそれを受け入れ続けていた柔らかな菊座に
ゆっくりと再び埋め込まれていく。
声もなく仰け反った幸村は、小刻みに震えながら藍色の羽織を掴み、熱い異物感に耐え忍んだ。


「アンタに触れていいのは、このオレだけだ」


玉のような汗をかく幸村の首筋に歯を立て、まるで我侭な独占欲を呟いた若き城主は
沸き立つ欲望のまま、性急に幸村を揺さ振り
悲鳴を上げる幸村の意識が途切れるまで、没頭した。

 


―――――――――――――――――

 


「おい、聞いたか?」
「あぁ、聞いたとも」


それから、幾日か過ぎた麦秋の頃、新たな噂が流れ始めた。
それと云うのも、一国一城の主である奥州筆頭伊達政宗が
行方知れずであった真田幸村を囲い、しかも大層な熱の入れようだというものだ。

秘密裏に下女の亡骸は処分されたが、人一人死ねば、それこそ事が大きいし、始末する手間隙たるや相当のもの。
しかも城中ともなれば、話が広がるのも早い。
いくら口止めをしたとは云え、人の口に戸は立てられぬものだ。
三日と経たず、城下町を中心に、それはもう大変な寵愛ぶりだと、知れ渡ることになったのである。


こうして幸村が『竜の珠』と揶揄して云われるようになるのは
城に監禁されてから半月と経たない内であった。

 

 

 

【5へ続く】


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あとがき

短気な筆頭が書きたかったのと、とりあえず幸村囲ってんのを早く言い触らしたかった。
これで伊達氏は自他共に認める男色家だと公言できますな!←えっ
筆頭はたぶん噂とか、小さいことは気にせんと思うのです。

2009/08/09 。いた。