※流血・暴力的表現あり。 さぁ、いよいよ戦ですぞ…!…しかし書くのが面倒くさいので簡単に…!!笑

 

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『Half Dragon:#7竜の逆鱗』

 


伊達を筆頭とした奥州軍が大和へと進行を開始したのは、夜明けと共にである。
たった一夜で出陣準備を整え得たのは、偏に伊達の激越した指令と
それを纏め、更に細やかな的確且つ迅速な指示を端々にまで執り成した片倉の手腕に他ならない。
山道を駆け抜ける統率された軍勢の、愕くべきはその編制だ。
足軽・歩兵は一人も無し、全員が馬に乗り列を成して騎馬隊を組み
しかもその数たった二百…!
これから戦に向かうというには、余りにも少な過ぎる。
しかし機動力と移動速度を重視した結果、こうならざるを得なかった。


「Hey guys!三日で大和に入る!遅れずついて来い!」
「了解だ筆頭!飛ばして行きましょうぜ!」
「OK!Here we go!!」


急の出陣・有得ない隊編制にも拘らず、少しの不安も士気の乱れもない部下達は
皆力強い雄叫びを上げながら、先頭の伊達に続いて馬を駆る。
それは主に対し、揺るぎの無い絶大な信頼を寄せているからこそだった。
こう云う時、つくづくこの奥州に、伊達政宗という男に仕えていて良かったと
片倉は手綱を握り締め、伊達の斜め後ろに続く。
胸の奥で燻る、一抹の不安を敢えて無視しながら…

 


―――――――――――――――

 


「…はっ、…ぁ…、はぁ、…っ」


引き攣れるような痛みを訴える右の足首を重く引き摺り、幸村は廊下を歩いていた。
腱を切られてから二・三日程経ったであろうか、日付は定かではなく
漸く立てるようになりはしたものの、その足取りは頼り無い。
あれからも何度か松永に抱かれ、大抵は気を失っていた幸村だったが
今日ふと目が醒めた時、寝かされていた褥の側には、侍女の姿も松永の影もなく
この機を措いて他に無いと、畳の上を這いずるようにして壁際まで辿りつき
そこから壁や柱に縋りながら、あの一つ間から抜け出したのだ。

されど、長い廊下の半ば程で傷の痛みを堪え切れなくなり
ズルズルとその場でへたり込んでしまったのである。
大粒の汗を垂らし、大きく肩で息をする幸村は
その疲れ切った体力と気力の所為で、背後から近付く気配に全く気付けない。


「何処へ、行こうと云うのだね?竜の珠よ」
「…ッ!」


ゾッと項を逆撫でるような低い猫撫で声がしたのと同時に、強い力で抱き上げられる。
慌てて暴れようとするものの、疲労困憊の躯は云う事を聞かず
更に、松永が例の香でも携えているのか、それとも残り香か
微かに濃密な甘い匂いを感じ、力が水のように抜けて行く。


「、あ…っ……触る、な…!……離、せ…!」
「冗談も休み休み云いたまえ。大事な卿を、私がみすみす逃がすとでも?」


全く以って有得ないと首を振る松永は、
腕の中で大人しくなって行く幸村をしっかりと抱き、元の一つ間へと戻り始める。


「……っ…」
「痛むのか」


ほんの少し目を離した隙に、こんな傷でよくも此処まで自力で来たものだ。
傷口が開いてしまったのか、足首の白い晒しがジワりと赤に染まって
それでも尚、諦めることなく足掻いていたのだろう。
成程、竜に魅入られる筈だ。
その幸村はと云うと、痛む傷ながら無理をして逃げて居たのに
途中で見つかったのが余程悔しいのか、視線を落とし唇を噛んでいる。


「………」


その様を眺めつつ、松永は一つ疑問に思うことがあった。
此処から逃げ出して、一体どうするつもりだったのか、と云うことだ。
まさか竜に助けを求める事はあるまいが
碌に歩けもしないのに、不慣れな土地をたった一人で彷徨い
何処ぞへ逃げ果せる気だったのだろうか?
だとすれば、単なる自殺行為というものだ。
それが判らぬ程愚かではなかろうに、何が其処まで幸村を駆り立たせたのか。
取引の材料として使われたくないのは勿論だろうが、
矢張り根底にあるのは、主君の仇討ちの為だろう。 否、それとも………

純粋な興味が湧くのと同時に、まるで死すら恐れぬとでも云う幸村の覚悟の奥に潜む
本当の願望を暴き出したいという欲望を覚え
松永は一つ間の襖を開けた先、敷いてあった褥に乱暴に幸村を組み伏せた。


「っ…!なに、を…ッ」
「なに、少しばかり、卿に興味が湧いた」


押し退けようとする腕を片手で掴んで一纏めに頭上で押さえ付け
抵抗する幸村の口を、もう片方の掌で塞ぐ。
すると、袂にあの匂い袋でも仕込んであるのか
甘い香りが濃くも怪しく、幸村の鼻腔へと漂う。
途端に眠気が強く現れ、目の前の松永の顔が歪む程に、視界が滲んで思考が散漫になり始めた。


「…、う……ぁ…、、」
「いい子だ…。さぁ、聴かせてくれたまえ…卿は私の手から逃げ
 その先は、どうしたいのかね?」


十分に香を吸った事を確認してから、松永は問い掛けつつ幸村の口から掌を離し
促すように細い顎に手を添え、柔らかな唇を親指の先で撫でる。
幸村は辛うじて言葉の意味を理解したのか、吐息を吐くようにそっと
されど明確な答えを出した。


「…愚問、なり………某の望みは、…ただ一つ……
 ……伊達政宗をこの手で、殺し、、ただ…お館様の…無念、を…晴らす…の…み……」


ただそれだけで生き長らえているのだと、震える睫の下で、栗色の瞳が不意に逸らされる。
松永はそれを見逃さなかった。


「嘘だな。卿は嘘を吐いている」
「……な…、」


一瞬、幸村の双眸が大きく揺れる。
松永はしたりと笑み、何が何でも本音を吐かせてやる と
動揺する幸村の咽喉元に手を宛がい、ゆっくりと締め上げ始めた。
愕いた幸村は苦しさから逃れようとしたが、頭上で纏められた両手はビクともせず
そもそも、香の所為で満足に動けないのだから、抵抗のしようがない。
次第に咽喉より上が熱を持ち、空気を求め陸の上の魚のように喘いでいると
手の力を緩めない松永が、そっと耳元に顔を寄せ、囁いた。


「…卿が本当に望む事は、何だ?」


気道を圧迫されながら、蜜の粘つきを思わせる低い声と
必死に吸い込んだ息に甘ったるい香の匂いが絡み付き
果たして、その効果は絶大である。
まるで失神するような心地に耽り、幸村は消え入りかける意識の中に
一種の快楽すら垣間見た気がした。


「…さぁ、卿の心を聴かせてくれ……」
「……ぁ…、そ…れがし…は……、…ゆき、むらは……」


理性と本能の境が、二色の色水を筆で掻き回したように混じり合い
酩酊の淵に完全に陥った幸村は、訳も判らなくなり、促される儘
終にゆっくりと、その秘められた胸の内を露呈しようとした。
と、その時。断りも何もなしに、バタバタと一つ間に駆け込む者があった。
何事かと眉を顰める松永に、息急き切った配下からの「敵襲あり!」という焦った報告と
表から俄かに聞こえた数多の雄叫びとが重なったのは、同時である。


「……!」


松永は掴んでいた幸村の首から手を離すと、音も無く立ち上がり
明障子を開け放って外を見遣った。

すると、どうだ、険しい山坂を物ともせず、馬を駆って肉迫する軍勢がある。
凄まじい勢いを見せる騎馬勢の、特に先陣を切る一頭が、一際目を瞠るものがあり
誰と疑う余地も無かった。
遠目でも判る特徴的な弦月型の前立てと、軍旗に凜とはためく家紋は
間違いなく奥州筆頭伊達政宗と知らしめる。


「……ほう、随分と早かったな」


伊達の動向を見張らせていた忍からの報告で、三日前に奥州を離れたことは知っていた。
しかし、大和まで凡そ六日は掛かるだろうと踏んでいた松永の見込みは、甘かった。
なんとその半分の日数で此処まで辿りつき
しかも、攻め入る軍勢の数などは、多く見ても二百余りしかない。
その全てが騎馬兵であり、布陣も糞もなく、鏃型に真っ直ぐ此方に向かって来る。
まるで特攻にも似た滅茶苦茶な戦法だが、一概にもそうとは云い切れない。
何故なら、下手に包囲されるよりも、短期で深くまで切り込まれてしまい
何より此処は麓の居館であって、防衛も何もあったものではないのだから
まずは敵を足止めでもしている間に、速やかに山上の信貴山城の堅牢な城郭に篭もり
四層からなる自慢の天守櫓にて迎え撃つのが常套だ。
その隙を与えない、明らかに短時間での中央突破を狙っているのだから、流石と云うより他に無い。

こうしている間にも、馬を巧みに操る伊達が
土地勘もある松永の見張り兵達を見事に蹴散らし、愕くべき速さで館へと猛進して来る。


「今から城に戻っても、遅い…か」


何しろ急なことだ、最早足止めの策を講じる暇すらなく
例え今から麓のこの居館から山頂にある城まで撤退しようとも、かなりの距離がある。
城に引く間に馬で追撃されては一溜りも無い。


「ならば、此処で竜の顔を拝むのも良かろう…」


どうやら数日前に送った交渉の文は、酷く竜の怒りを買ったようで
決裂どころか此方を殲滅せんとする勢いだ。
よもや此処まで激昂するとは思わなかったと、松永はゼェと苦しげな呼気を繰り返す幸村を見遣る。
これも全てこの幸村を取り戻さんとする為なのだから
まこと、竜の珠と云わしめた男は、その通りだったという訳だ。
その珠と交換に、大人しく六刀を差し出すかと踏んでいた松永にとって
中々どうして、伊達政宗という男を大きく見縊っていた事になる。


「結構、結構。 あぁ、是非会いたくなったよ、独眼竜」


まるで、その科白に示し合せたかのように、一つ間の襖を乱暴に蹴開けて
ズカズカと座敷に踏み入る気配があり
悠然と振り返った松永の視線の先に、果たして現れたのは独眼竜であった。


「ようこそ、奥州の若き竜よ」
「Hello、初めまして糞ジジイ。テメェをブッ殺しに来たぜ?」


覚悟は出来てンな?と、六爪刀を構える伊達の目は
燃える様な怒気を灯し、次いで松永の足元に伏せっている幸村を見て
瞬時に骨まで凍る様な殺意に変わり、松永を眼光のみで射殺すが如く睨めつける。
それを微動だにせず受け止め、剰え僅かな笑みすら湛える松永は
上機嫌に口端を吊り上げると、徐に足元の幸村に手を伸ばし
壊れ物を扱うようにそっと抱き起こしたかと思うと、その腕の中にしっかりと囲った。


「…何の真似だ、テメェ」
「云わずとも、賢い卿なら判るだろう?」
「……人質か…。薄汚ェ手でソイツに触ンじゃねーよ…手首削ぎ落とすぞ」


今や伊達の殺意は、見えずとも刺さるような刃のような鋭さを以って迸り
その恐ろしさたるや、並の人間ならその場に居るだけで卒倒した事だろう。
そんな張り詰めた一つ間に、漸く追いついた片倉でさえ
余りの重圧の大きさに気圧され、一歩たりとも足を踏み入れることはできなかった。


「…政宗様!」
「心配すんな小十郎。すぐ片ァつけるからよ…」


云いながらも、伊達はピクリともその場から動かない。 否、動けないのだ。
ほくそ笑んだ松永が、いつでも脇差を抜ける体勢を取っている所為だ。


「…Shit…!Fuck off!ムカつくジジイだぜ…!」
「やれやれ、鴃舌はやめたまえ。それと、目上に対してはもっと敬意を払った方がいい」


卑怯な手を使っている松永を罵った伊達は
怒りに任せて斬りかかろうとするも、松永の手が脇差へ伸びる動きを見せたので
ピタとその場に踏み止まる。
もし一歩でも踏み出せば、幸村の咽喉元には鋭い凶器が突きつけられるだろう。
嘗てこれ程の忍耐を強いられた事がなく
腸が煮えくり返る思いで、松永の動作をただ傍観しているしかない。

「そうか、そんなにこの珠が大切かね」
「…あ?」

「……政宗…殿…」


無数の棘が肌を刺すような緊張感の中、ポツリと声がした。幸村だ。
未だ香が抜け切っていないのか、声に力は無く双眸に光も灯っていないが
その目にしっかりと伊達の姿を認めている。
知らず安堵の息を吐いた伊達に、松永はニィと背筋が寒くなるような笑みを向け


「刀を置きたまえ、独眼竜よ」
「…なんだと?」
「卿の大切な珠をどうするか、私ではなく卿が決めることだが…さて」
「…ッチ、」


態とその様な云い方をされ、伊達は忌々しげに舌を打つと、握った六爪刀を無造作に放った。
大人しく指図通りにする伊達の行動に、幸村と、固唾を呑んで見守っていた片倉が目を瞠る。


「っなりません、政宗様…!」
「…テメェは黙ってろ、小十郎」
「ハハハ!最初からそうしていれば良かったのだよ」


そうすれば要らぬ犠牲もなかったのに、と
囁くように呟いた松永がバチと指を鳴らすと、何処に潜んでいたのか
忍が一人、音も無く現れ、スラリと刀を構えた。
まさかと幸村と片倉が凝視する中、「やれ」という松永の一言で
その凶刃が伊達に襲い掛かる。


「ッ…!」
「そう、最初は浅く。すぐに殺してしまってはつまらん」


最初の一撃は、急所ではなく腿を狙ったものだった。
されど容易く草摺りを切り裂いた切っ先は、肉を断ち血を纏って伊達に激痛を与える。
そうした致命傷には及ばぬ一太刀をあびせ、痛みと苦しみと屈辱を味わわせるのが目的か
更に二度三度と繰り返す。
まるで嬲りものだ。
蒼い甲冑には鮮やかな紅が散り、忍が刀を振り上げる度
放物線を描くように飛び散り畳に色をつける。
伊達はそれでも尚、呻き声一つ上げず、身動き一つせず、その場に立ち続けているのだ。


「……な、ぜ…」


幸村は理解に窮した。
何故、独眼竜とまで云われた男が、このような卑怯な真似をされて、黙った儘抵抗しないのだ、と。
…もしや、松永の云うように、本当に己を助ける為なのだろうか?
だとすれば、そんな莫迦な事はない。
今まで散々な目に遭わせて来ておいて、一体どういう風の吹き回しか
何か裏があるのか、と云う疑念すら湧く。
そもそも見捨てられこそすれ、命を守られる覚えは無いし
幸村は伊達を殺すつもりで生きて来たのだ。
何の意図があってのことか知ったことではないが、死ぬつもりなら勝手に死ねばいい。
己の手で討ち取ることが出来ぬのは口惜しいものの、あの男が死ぬのなら、それでいいではないか。


「…っ」


されど、目の前で血だらけになって行く竜を見ていると
如何ともし難い焦燥を覚える。

このまま、指を咥えて傍観に徹するが最善か?

それならば、幸村、一体どうしたいのだ。 と、自身に問う。

あの男の首を切って、嘗てお館様がされたと同じように
晒し者にしたかったのではなかったのか?
戦場で手篭めにされ掻かされた恥辱、その後も続いた慰み者紛いの陵辱
それを強いた男を殺すのではなかったのか?
そう、己の全てはこの悍ましい竜を屠る為にある。
ならば、今此処で自分の代わりに誰が殺しても、問題は無い筈だ。

無い筈なのに……

それで、いいのか?
それが、いいのか?


『卿が、本当に望む事は、なんだ?』


自問自答はその儘先の松永の言葉となり、呪詛のように脳内で反芻され始め
やがて真っ黒な渦となって幸村を苦しめる。


「さて、もういいだろう。飽いた。殺せ」


煩悶の境地の中、独眼竜も此処までかと呟いた松永の言葉を耳にした瞬間
幸村は唐突に答えを出す。


「………!!」


一瞬、であった。
幸村以外の誰もが、起きた現象に瞠目し、時が止まったかのような静寂が訪れる。

松永の脇差を素早く奪い取った幸村が、忍の背中目掛けて投擲し
それが胸を突き破って刃先が見える程、深く突き刺さったからだ。


「ッ!」


すかさず伊達は畳に転がっていた自身の刀を掴み
渾身の力を込め松永へと投じる。

それは寸分の狂い無く、松永の咽喉を貫いた。


「……ッ……見、事…」


血泡を噴きながら、それだけを辛うじて云い残した松永は、ゆっくりと畳に崩れ落ちる。
その死に顔は薄っすらと笑みを浮かべ、いっそ満足気ですらあった。


「……終わったな」


誰ともなく一人ごちた伊達の声で、幸村と片倉は漸く我に返る。
幸村の手は、まだジンジンと熱を持ち
胸の鼓動は、忙しく早鐘のように打っていた。
今更のように己のしたことを思い返し、微かに戦慄く。


「…お前、何考えてやがる。何でオレを助けた?殺したかったんだろ?」
「……それ、は…」


幸村の行動に一番愕いたのは伊達であった。
幸村とて、自身が理に適わない事をしたという自覚はある。
自覚はあれど、己の本当の胸の内に気がついた時、躯が勝手に動いたのだ。

傷だらけの伊達に間近まで歩み寄られ、静かに訳を問われた幸村は、そっと顔を上げる。


「許し難かった…」


今まで、信玄という大きな柱に縋り、支えとし、己の生きる理由としてきた。
そうしなければ、矮小な己の存在を見失いそうだったからだ。
その大切な柱を、いとも容易く奪った伊達を、最初は呪った。
怨めしかったし、殺してしまいたかった。
柱が無ければ、己の存在価値を見出せず、生きていく意味もない。
されど、仇討ちという憎しみが幸村を生かし
それが次第にその儘、皮肉ながらも現在の己の生きていく理由となったのだ。
どんなに歪曲していようとも、都合の良いこじつけだろうとも、即ち、新たな『柱』を見つけたも同義。
それをどうして、またしても理不尽に目の前で奪われなければならないのか?
あの虚無感と喪失感と絶望を、もう一度味わえと?
そんなことが、二度とあって堪るものか、許せるものか…!

ただその一心が幸村を突き動かした。


「…お前…」
「……政宗殿の命は、この幸村の物。何人も、決して自由にはさせぬ…」
「………」
「幸村が生きるは、政宗殿の命あればこそ」
「………」
「なれば、この幸村の命も、政宗殿の物…。
 生きるも死ぬも、政宗殿次第に御座ります…。即ち、政宗殿が死す時は幸村も死す時。…覚えておかれよ」


「上等だ」


それだけ聴けば、十分だった。
伊達は乱暴に幸村の項を掴み寄せ、噛み付くような口付けをし
幸村は抗うことなく、それに応える。
お互い貪り合うように舌を絡ませ、相手の唇を噛み、唾液を飲み下す。
周りのことなど、何も見えず
ただその場に立ち尽くす片倉のみが、息を呑んで二人を見守った。


何か、激動の予感がする。
否、これは既に予兆であった。

 

―――――――――――――――

 


「おい、聞いたか!」


見事大和の松永を討ち滅ぼした伊達軍勢が
幸村を連れ無事に奥州へと帰還して、幾日か経った頃
既に新たな噂が流れ始めていた。


「何でも、竜の珠が奪われたって云うんで、竜が大層怒ってなぁ」
「そんでもって、あっという間に取り返したそうじゃないか!」
「あぁ、その話なら今朝も聞いたよ」


何度も声高に囁かれるは、その凄まじさ故である。
竜の珠、即ち幸村を拐かされたと知るや否や、竜が烈火の如く激怒し
電光石火の勢いで大和へ軍を率いて、一両日中に敵将を討ち取り
その手で珠を取り返したのだと云うのだから、これが愕かずに居られようか。
村中町中、それどころか、国中この噂で持ち切りであった。


それからだ、幸村を指す『竜の珠』と云う隠語から
一度触れれば竜の怒りを買うぞと云う畏怖を込め
『竜の逆鱗』と、尤もな呼名に変わったのは。

 

 

 

【8へ続く】


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あとがき

…長!!もう少し纏めるべきでした…反省。
どこかで切ろうかと思ったのですが、早くサブタイトルに逆鱗を付けたかったので…
もう少し続きます。このまま終わってしまっては伊達氏があんまり報われた感じがしないので、、

2009/09/08  。いた。