※軽い性描写あり。次の話の展開に悩みつつ、ダラダラ続けます。

 

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『Half Dragon:#8竜の傍ら』

 


大和から奥州へと帰還してからと云うもの、幸村の境遇は激変した。
まず、あの狭い座敷に閉じ込められる事はなくなり
代わりに、半月程かけて仕上げられた、豪奢な広い一つ間で過ごしている。
奥州最高の建具師が呼ばれ、金箔がふんだんに使われた襖には
一面に美しく朱に紅葉した楓が描かれ、天井絵は数多の麗しい花鳥が彩り
柱に至っても細かな装飾が施され、それはもう見事であった。
来聘物だと伊達が持って来た透き通るような硝子の丸い鉢には
立派な和金が泳ぎ、その体色の赤は襖の楓のそれに劣らない。
据え付けられた細々とした物等は殆どが朱塗りで
建具の装飾に多く使われている朱色と相俟って、一つ間全体が、燃えるような華麗さで統一されている。
まるで、其処で過ごす幸村そのものを模しているかのようだった。

この豪華絢爛な一つ間は『朱燐の間』と呼ばれ、伊達が幸村の為だけに造らせた座敷であり
無論、出入りは二人と、世話役のみが許され
米沢城の数ある座敷の中でも、際立って特異な間として、羨望と畏怖の対象となりつつあった。

そして今、幸村の行動は限りなく自由に等しい。
何の枷もなく、制限もないのだ。
だからと云って、逃げるつもりなど毛頭なく
幸村は自らの意思で伊達の傍に在り、日々を暮らしていた。
ただ、前のように座敷で独り伊達を待つのではなく
「幸村の命は政宗殿の物」という言葉通り、常に伊達から離れず
傷ついた右足を庇いながら、まるで猫の子のように四六時中後をついて廻るのだ。
伊達もそれを許容しており、朝議は勿論のこと政務上での合議の場ですら、幸村を隣へ置いた。
家臣の中には、何を余所者が、と煙たがる者も居たが
松永との戦の折、その幸村が伊達の命を救ったという事もあって
大半はそれを勇断と讃え、「良くぞ良くぞ」と受け入れた。

 

 

「痛むか」
「…いえ、大分傷も塞がり申した。心配御座らん」
「そうか…」
「政宗殿の方こそ、傷はもう大事ありませぬか」
「Ah?あんなもん、掠り傷だ。心配ねーよ。それよかお前、その喋り方、いい加減やめたらどうだ?」
「何故に?」
「何でって、堅苦しいだろ」


云いながら、伊達は幸村の小袖の供衿に手を滑り込ませ、やわと胸を撫で
指先に引っ掛かる小さな乳頭を厭らしく捏ね繰り回す。
此処は朱燐の間。
誰の邪魔も無ければ、中の様子を知る目も耳も無い。
だから偏に丁寧な言葉遣いは必要ないし、寧ろ、この座敷の外だろうとも
砕けた物言いをすればいいと、伊達は考える。
それだけ、幸村は大切対等な立場にあるのだ。
と云うのも、先の大和での幸村の変化と共に、伊達の心境も大きく変わっていた。
一度手にしたものを奪われるかも知れないと云う恐怖
それを前にして、手も足も出せず固唾を呑むしかなかった事実
既に幸村は失いようもない寄る辺と化していた事を痛感。
伊達に変革を齎すには十分である。
嘗ては抗う幸村を暴力で支配し、躯を弄んで嬲り者としていたが
今や支配欲は独占欲となり、歪んだ愛憎は狂おしい程の愛執となった。


「お前は特別だ…」
「御戯れを…幸村にとって、政宗殿は命にも等しい御方……、んっ」


伊達の気持ちは嬉しいが、それはそれ、決して馴れ馴れしくは出来ぬと
中々いじらしい事を云う幸村に煽られ
伊達は言葉を遮るように深く口付けながら、己より一回り細い躯を畳に組み敷く。


「…ぁ、」


大和から風のように奥州へと戻り、落ち着く間もなく早急に情けを交わし合って
それでもまだ足りぬと、閨の褥から一歩も動かず幾度も情事を繰り返し、まるで蜜月のような時を過ごした。
丸二日に亘って篭もって居ると、最初は目を瞑っていた片倉にも流石に呆れられ
無理矢理閨を追い出された二人は、とりあえず開いてしまった傷を手当てし直し
一度は日常的な生活に戻って、政務や所用を片付けはしたものの
予てから準備を進めていた朱燐の間が完成すると
僅かの間に溜まっていた情欲が堰を切り、またしても引き篭もること数日。
漸く満足して座敷を出た頃には、呆れて物も云えぬと
片倉含む大勢の家臣達が伊達と幸村を迎えた。


「…政宗、殿っ」
「ん…?」
「…あ、…はや…く、、」
「I know…足開け」


こうして求め合い、肌を重ねるのは、果たして何度目になるやら判らぬ。
ただもう、怒涛のように打ち寄せる「欲しい」と云う欲望が、二人を野生的に突き動かし
まだ年若く快楽に貪欲な事もあって、止める術は無かった。


「ッ、あ!…は…っ、……熱…いっ」
「こっちの方が、溶けそうだ、ぜ…っ」


慣らしもせず、幸村が望むまま猛った牡を捻じ込むと
解れ切った柔らかな肉壁が伊達を包み込む。
何度味わっても気持ちが良く、堪らず腰を打ちつけると、悦ぶように纏わりつくのだ。
その締め付けは極上で、しなやかな腰を鷲掴んで激しい律動を始めると、幸村が高い声で啼く。
それがまた一段と悩ましいもので、嘗て悲鳴を上げていたのが嘘のような
吐息混じりの掠れた艶めく嬌声を、隠そうともしない。
慣れたのではなく、これは松永に拐かされた後からの変化だった。
何があったか想像に難くないが、それを考えると、死んだ筈の松永にドス黒い殺意が湧き
目の前の幸村に対して、酷く惨たらしい仕打ちをしたいと云う、獰猛な衝動に駆られる。


「あ!ぁあ…ッ、ひっ、んん…!」
「…お前は、オレの物だ…」
「っん…ぅ、あ…っっ…はッ」
「誰にも、渡さねぇ…」


開いた足を腰に絡ませて来る幸村を容赦なく貫きながら、独り言のように呟く。
その嫉妬にも似た独占欲に、幸村はゾクゾクとした悦びを感じた。
直接的な言葉と、それを体現するかのように激しい抱き方をする伊達を
躯やその奥で感じる事で、より深い快楽に酔い痴れる。
そうして悦に入りながら伊達の牡を汲々と忙しく締めつければ、熱い吐息を溢した男が
いつもは鋭い眼光を放つ眸に、ゆらゆらと滾る情火を灯し、幸村をしこたま突き上げる。


「はぁっ、あぁ…!政宗、殿っ…!」
「…っく、…幸村…っ」


幸村にとっても、伊達にとっても
もう互いが無くてはならない存在になっていた。

 


―――――――――――――――

 

 

「一揆の気配があるようです」


或る曇天模様の薄暗い日。
朝議の際、片倉の発したその一言で、広間は水を打ったように静かになった。
どうやら、先の大和侵攻の折、無理矢理に兵糧と馬を掻き集めたので
馬借や農民が怒ったのだと云う。
何を高々二百人分の馬と物資で、と思ったが
忘れてはならない、伊達は少し前に武田勢との大きな戦を終えたばかりだったのだ。
それで此度の小規模とは云え歴とした出陣が立て続けにあり、尚年貢を徴収されては流石に苦しいと
農民達が悲鳴を上げたと云う事だ。

「OK、OK。まだ一揆が起きた訳じゃねえ。
 もし起きても、鎮圧すりゃいいだけの話だ。問題ねーだろ」
「…では、」
「YES。早いに越した事ァねーし、未然に防げりゃ余計な血も流れねェ」


要するに、起きる前に説得なり何なりして止めればいい


そんな伊達の思いとは裏腹に、翌日、「北方にて一揆あり」と云う報が齎された。

 

 

「Hey guys!とっとと済ませちまうぞ!」
「勿論ッスよ!俺らも流石に農民相手に本気は出せませんでさァ!」
「That’s it。判ってンなら手加減忘れンなよ!」


元々、一揆を牽制するつもりで居たのだ、ならば準備も早い。
一両日中には出陣できる運びとなり、伊達自ら一揆鎮圧の先陣を努めるようで
集まった足軽や地侍達を鼓舞しつつ、用意された軍馬に跨らんと鞍に手を掛ける。
それを、不意に引き止める者があった。 幸村だ。


「政宗殿、ご無理を承知でお願い致す……この幸村も、ご一緒させて頂きたい…」
「…お前、自分が何云ってンのか判ってンのか?」


何か思い詰めたような目をしている幸村が、必死に訴えかけてくる。
無論、伊達はそれを素気無く却下するつもりだった。
怪我をする前ならいざ知らず、何しろ利き足の腱を切られているのだ
普段の徒歩ですら片足を引き摺っているのに
まして戦場での嘗てのような豪壮華麗な大立ち回りなど、不可能だろう。


「何をそんなに心配してんだ。オレが一揆ごときで死ぬとでも?」
「ッ決して、その様な……っ…
  ……されど…っ、もし、もしも、幸村の与り知らぬ所で、政宗殿に何かあれば…!」


幸村の云わんとする事は判る。
判るが、高が一揆の鎮圧程度で命を落とすなど、この独眼竜に限って在り得ない。
されど、万に一つという事もある。
そう考えると、幸村は居ても立ってもいられなかったのだ。
恐らくその不安は、伊達が幾ら云い聞かせても、拭われる事はないのだろう。


「…OK。ついて来な」


そこまで殊勝に身を案じられては、是と答えるしかない。
伊達も本音を云えば、例え陣中だろうが、片時も幸村を手放したくないのだ。

了承を得た幸村は、「まことで御座るか!」と目を輝かせ
若干、浮き足立っているようにも見える。
伊達の命云々とは別の所で、つまりは日本一の兵と世に云わしめた
戦に対しての本能のようなものが、勇将の血が疼いているのだろう。
何しろ、一揆鎮圧とは云え、久々の実戦だ。
鈍った躯でどこまで通用するのか判らぬが、既に気持ちは熱く逸っている。


「…丸腰じゃ、流石に連れてけねーな…オイ」


生き生きとした幸村の嬉しそうな顔を、満更でもない様子で眺めつつ
伊達は近くに居た部下を呼びとめた。


「何スか筆頭〜」
「こいつに槍、持たせてやンな」
「…え、いんスか?」
「いいから、持って来い。Hurry up 」
「へーい」


怪訝そうに眉を寄せる部下を急がせると、予備の分を引っ張り出してきたのか
すぐにかけ戻って来る。
…が、携えている槍は、


「…政宗殿」
「…あぁ、オレも云おうとした所だ」


「一本足りねーよ」


そんな事も判らねーのか、とドスを利かせた声で凄む伊達と
幸村の無言の重圧を感じたのか、「ス、スンマセン!」ともう一度駆け戻る可哀相な部下の姿を
離れた所で溜息を吐きながら見守る片倉だった。


兎にも角にも、奥州筆頭率いる伊達軍、ついに出陣である。

 



「いいかテメェ等!絶対ェ略奪と殺しはすんじゃねーぞ!」
「判ってますよ!筆頭も本気になっていつもの大技とか使わないで下さいよォ!」
「Ha!精々気を付ける!いいか、昼までにケリつけろよ!」
「了解!」


相変わらず愉しげな遣り取りを終えると、すぐさま伊達軍勢は四方へと散る。
見栄えのする大きな農村だったが、機動力に富んだ伊達勢なら
一刻と経たず村全体を包囲・制圧できるだろう。
片倉も続き、血の気の多い同士達がやり過ぎないよう、怒号を飛ばして居る。


「幸村、お前はオレの傍を離れるなよ」
「無論に御座る」
「OK!Here we go!」


残った伊達は幸村と共に、村の奥へと馬を駆けた。
至る所で刃物が搗ち合う甲高い音が響き
彼方此方で、やれ「侍の癖に」とか「侍が偉そうに」とか何とか悪口雑言を云い散らしながら
家屋の物陰から農民が飛び出してくる。
農民とは云え、その手その手に鍬やら鋤やら鎌やらを持って振り回し
やたらめったら群れを成して襲い掛かってくるのだから
油断も大概、性根を入れて相手をしないと、此方も怪我では済まない。
伊達は巧みに馬の手綱を片手で操り、握った一刀の峰打ちで農民達を次々と片付けていく。
幸村の方も上手く馬を使い、相手を翻弄させ、怯んだ所を槍の柄で小突き倒した。


「…ッ!」


と、順調だったのも束の間、不意を突かれた幸村は
農民の鍬の一撃で馬の脇腹を抉られ、甲高く嘶いた馬が
その場に砂埃を舞い上がらせながら倒れ、乗っていた幸村も一緒になって倒れた。
途端に好機だと、ワラワラと農民達が押し寄せる。


「幸村!」


気付いた伊達が馬首を切り返して駆け戻って来ようとするが、如何せん、距離がある。
地面から漸く立ち上がる幸村の姿が視界に入るも
やはり右足が満足に云う事を聞かないのか、フラと躯がよろめく。
あれでは非力な農民の手だとて、命を奪われ兼ねない。

焦る伊達の視線の先で、その時、幸村が信じられない行動を取った。


「…!!」


足が思い通りに動かぬなら、いっそ使わなければいいとでも云う様に
右足を折り曲げ、踵をピタリと太腿につけて長い髪留めを紐代わりにし、素早く括って固定してしまうと
右手に持った槍を地面に突き刺して躯を支え、何と足の代わりにしたのだ。
思わず目を瞠る伊達と農民達。 

先に我に返ったのは、農民達だった。


「そんな悪足掻きしたって、片足使えないんじゃ、木偶の坊だ!」


唾を飛ばしながら、最早凶器と化した農具を振り上げ幸村に殺到する。
しかし、またしても農民達は驚愕させられる事になる。
何しろ、一瞬だった。
槍を軸足に、躯を浮かせての強烈な左足の回し蹴りが、農民の一人を吹き飛ばしたのだ。


「…ッ!怯むな!今のはまぐれ当たりに違いねぇ…!」


そんな莫迦な事があって堪るかと、数人がかりで幸村に襲い掛かるが
今度は地面に突き刺した槍を引き抜き様
長い柄の横薙ぎの一閃があり、容易く農民達を払い飛ばす。
まるで、本当の手足の様に二槍を振るい操り
唖然とする農民達の目には、幸村が舞を踊っているようにしか見えなかった。

気付けば、地面に倒れて呻く農民は数多
一人二人と立っている者でさえ、幸村に近付くを恐れ、ブルブルと震え上がっていた。


「我は真田源次郎幸村!貴殿らと争いに参ったのではない!怒りを静めよ!」


朗々たる声で獅子吼する、その立ち居姿は勇猛であり、また美しく華麗でもあり
知らず伊達も味方も、周りの農民達ですら目を惹かれ、武器を持った手を下ろし
食い入るように魅入っていた。
幸村の一声はまるで水面に波打つ波紋のように村中に広がり
此処で今、一人の死者を出すことなく、一つの一揆が鎮静を迎えたのである。

 


「まっこと感服!見事なり!」


この幸村の功績は、その日の内に米沢城にて褒め讃えられ
名実共に竜の傍らとしての地位、つまりは側近として認められる事となった。
近隣諸国にもその事実は巡り、既に幸村は甲斐武田に非ず
奥州伊達に与したのだと知れ渡ることになる。
それは少なからず、名立たる戦国武将達の心胆を寒からしめた。
何しろ、奥州の独眼竜と恐れられた男に、日本一の兵が身を寄せたのだ
その勢力は計り知れず、他を圧倒する脅威を有する。


あの時の片倉の予感に狂いはなく
まさに戦乱の世が、これより音を立てて変わろうとしていた。

 

 

 

【9へ続く】


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あとがき

一揆とか勃発しましたけども、グダグダ…
もう、自分が何したいかよく判りません…orz
とりあえず、幸村は片足でも闘えるよって事を書きたかった…!

2009/09/13  。いた。