※性描写・流血表現あり。戦が続きます。そろそろ飽き、、イヤイヤ、頑張ります…!

 

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『Half Dragon:#9竜の慟哭』

 


農民達の怒りを納めたその矢先、中規模の戦があった。
連戦で疲弊した所を狙いに来たのだろう、隣国の大名が奥州国境へと攻め入って来たのだ。
しかし、今の伊達勢の士気は高く、敵将共々返り討ちにし、見事勝利を収める。
その領地を奪い取ったことと、先の一揆にて伊達が税率を下げた事で
農民の負担も減り、先ず先ずの先行きではなかろうか。
それから暫くは戦も一揆も無く、平安な時が過ぎ
十二分に物資を蓄え軍備を整えた伊達は、今度は自ら敵国へと打って出る。
随分前から小競り合いを続け火花を散らしていたが、結局勝負がつかず
膠着状態が続いていた小田原へと攻め入ったのだ。
老いた北条を討つは容易く、国全体が弱体化していた事もあり、結果は無論、大勝である。

これを皮切りに、伊達軍の勢いは止まらず
特に幸村と伊達の活躍は目覚ましいものがあり
瞬く間に諸国の大名を討ち取り名を上げ、その赫々たる戦果たるや、凄まじいの一言に尽きる。
今や伊達政宗が統括する奥州の領地拡大はとどまる所を知らず
各地の勢力図は次々と塗り変わっていった。

 


―――――――――――――

 


処変わって、尾張の魔王と恐れられる織田が安土城。
その最上階の広間でも、急激に領地と勢力を伸ばす奥州独眼竜の話が上っていた。


「全く以って小賢しい…」
「絶対調子こいてるよ独眼竜のヤツ!信長様〜早くぶっ潰しちゃおーよ!」
「…信長公、私に名案が御座います…ここは一つ、お任せ頂けませんか…?」


濃姫に酌をさせつつ、座して髑髏の杯を呷る信長の隣では
蘭丸がジタバタと地団駄を踏み、正面では明智が跪いて不愉快極まる笑みを浮かべる。
また何か善からぬ策を講じているに違いない。
が、それもまた一興と、明智の進言を承知した信長は
それ以上の話は無用と、酷く冷たい眼で一瞥を送った後、それきり杯へと集中した。
その横では、「え〜アイツばっかりズルイー!」と喚く蘭丸を、濃姫が静かに宥めている。


「…では、早速、行って参ります…」


不気味な笑みを絶やさぬ明智は、一言そう告げると
雲の上を歩くような足取りで、広間を出て行った。

日本の東のほぼ全土を支配するまでに急成長した奥州の勢いに
ついに織田が動いたのだ。

 


――――――――――――

 



「ひっ…あ!、ンぁっ、あ…ッ」


夜も更けた亥の刻、朱燐の間である。
今宵も相変わらず襖の奥からは悩ましい声が漏れ聞こえ
中では嘗ての傷もすっかり塞がった二人が、遠慮も何もなく無心に互いを貪り合っている。
玉の汗を掻き、躯を絡ませ、その汗の匂いにすら興奮しながら
淫猥な情事に何時間も耽り続け、それでも尚、有り余る情欲を持て余していた。


「はっ、…はぁ!んっんっっ」
「もっと、腰使えよ…っ、幸村」
「…っふ、うぅ…!っあ…ッアァ…!」


正面から幸村を押さえ込み、腰を振り立てる伊達に「ホラ」と急かされ
自ら腰を浮かせて良い所に当たるよう動かせば、正気が焼き切れそうな程の快楽が幸村を悶えさせる。
堪らず伊達の逞しい背に爪を立てながら震え上がってよがると
容赦なく弱い泣き所を硬い亀頭で何度も抉られ、知らぬ間にビクビクと吐精するも
続けて中を奥までヌブヌブと貫かれては、感じ過ぎる躯には強烈だった。


「、っひ、っひ…!政宗っ…あっ、殿っ、」
「まさか、もうGive upか?…情けねー…なっ!」
「…っあ…!ぅあッぁ!!」
「second roundと行こうぜ?」


恍惚と弛緩しかける幸村に挿入した儘、伊達は幸村の開いた両足首を持って立ち上がると
軽く膝を曲げた中腰の姿勢でグイグイと上下に腰を動かす。
幸村は首と両肘で不安定な躯を支えなければならず、苦しい体位だったが
自身の浅ましく勃起した性器が見上げるような形で間近に見え、あらぬ興奮を覚えたし
より深くまで侵入してくる伊達の牡の大きさを改めて感じた所為で、貪婪な欲望が再燃する。

そうして幸村と伊達が激しく交わる只中に
襖の外から「政宗様」と無粋な声が掛かった。無論、片倉だ。
最初は無視を決め込んでいた伊達だったが、中々片倉の気配がその場から離れようとしないので
仕方なく襖の外へと意識を遣り、幸村を貫き犯す腰の動きは止めず
明らかに不機嫌と判る声で「何だ」と答えた。


「火急の報せです。一時、中断なされませ」
「聞いてやるから、其処で云え」
「…では、申し上げます。織田が動きました」
「!…Oh, Really?聞いたか幸村」
「っあ…あっ…、はぁッいィ…!んっ、ん…ッ!」


絶間なく喘ぎながら答える幸村の返事が、果たして肯定だったのか
それとも単なるよがり声だったのか、片倉には判別つかなかったが
それより後に伊達の言葉はなく、ただ幸村のイヤらしい嬌声のみが襖から漏れ聞こえるだけであった。
恐らく、情事が終わった後に、どうするか指示を出すつもりなのだろう
行為に専念し始めたに違いない。
毎度の事ながら、幸村と睦み合っている時
伊達の頭の中はそれ以外の事など瑣末で、どうでもいいのだ。
ひっそりと溜息を吐いた片倉は、とりあえずその場を離れ、自身の持ち場へと戻った。


「…あっあっ…あ…!、んん、、っ」


ほぼ同時に、幸村は何度目かの絶頂を迎え
己の顔にボタボタと降って来た少量の子種を舐めながら、荒く息を吐く。
その淫靡な所作に煽られた伊達は、今しがた射精していたが
一度幸村の菊座から牡を引き抜き、幸村を四つん這いにさせ
赤く捲くれ上がり白い子種を溢れさせる妖淫な其処に、すぐさま勃起し直した剛直を捻じ込んだ。

その日、いつになく燃え上がった二人は
満足する迄、夜すがら情事に耽った。

 

 


「…で、織田の動きは?」


翌朝、朝議の場にて伊達が発した第一声は、片倉が予想した通りのものだった。
そのつもりで予め偵察の忍からの報告を纏めておいたので
先ず国境の農村で織田軍による焼き討ちがあった旨を話し
それから、その軍を率いているのが魔王ではなく、その飼犬である明智であることを説明。
その上で、どう対処するかという議論に持って行きたかったが
片倉の報告を聞くなり、膝を叩いて大仰に哄笑し始める伊達に、皆一様に呆気に取られる。


「…ま、政宗様?」
「こりゃァ傑作だ!向こうから態々喧嘩売りに来たってワケか」


順調に敵国の大名を討ち取り、領地を拡げていた伊達にとって、唯一の隘路であった織田の領土。
容易に侵略を許さぬ魔地にいつ攻め込むかと機を窺っていた折に
こうした挑発紛いの火種を蒔いてくれたのだ。
態々攻め入る口実を作ってくれたと云っても過言ではあるまい。
それが明け透けな罠だと進言する片倉を、片手で制した伊達は


「当然、あの糞野郎のことだ。何か汚ェ策を講じてるに違いねェ。But、黙って見過ごして何の得がある?」
「…しかし!」
「折角お膳立てしてくれたンだ。遠慮なく喰ってやるのが筋ってもんだろ?
 それとも、独眼竜は村を焼かれて報復も出来ねェ腑抜けだと云われてェか?」
「……いいえ」


だったら四の五の云わず出陣の準備をしろと云う命令に
全員是非もなく頭を下げ、大広間から退室する。
上座に残った伊達は、斜め横に座している幸村の長い後ろ髪を指で弄びながら、愉しげに隻眼を眇めた。

 


三日後、曇天が怪しく地を影で覆う、鬱然とした日に
愈々一万を超える大軍が出陣した。
その大規模な侵攻は微かな地響きすら伴い、道中運悪く鉢合わせた馬借や連雀商人達は慌てて道を空け
延々と続く長い軍列が通り過ぎる圧巻の光景を、呆けたように眺めた。
特に、先頭を切る若い二人の武将は、遠目からでもその存在が際立って見え
蒼と紅の鮮やかな具足と、凛然とした様子に徒ならぬ覇気とが相俟って、殊更に目を惹く。
それが奥州の伊達政宗と真田幸村だと知るや否や
挙って「あれが噂の…」と畏怖と好奇の眼差しを寄せた。
今や二人を知らぬ者は居ない。
近頃では天下統一の覇業に最も近いと云われている。


「…今度は、一体何処を攻め落としちまうんだろうな…」


ポツりと溢した一人の商人が通ってきた道の先、焼き尽くされた数多の農村
その向こうは魔王が統べる地であった。


「Hey guys!さっさと明智の変態野郎をブッ殺して、魔王のオッサン引きずり出すぞ!」
「Yeah!筆頭気合入ってますねェ!あの信長さえ倒せば、天下取ったも同然ッスもんね!!」
「That s it!!テメェらも気合入れろよ!」


例の如く、独特の士気の鼓舞を見せた伊達軍は
その勢いの儘焼き爛れた村を迂回することなく突っ切り
(ここで打ちひしがれるでなく、更なる士気の高揚を見せる辺りは流石である)
国境を越え、小さな川を渡った先にある草木も生えない広大な平地にて
軍旗を掲げる明智勢が待ち構えているのを見つけ、一斉に雄叫びを上げる。
対峙するように横に長く隊列を並べ、伊達と幸村を先頭に


「奥州筆頭、伊達政宗…推して参る!」
「竜焔轟槍、真田幸村!側して参る!」


名乗りを上げるのと同時に馬を前方の敵軍へと駆ると、一斉に奥州勢も鬨の声と共に進撃を開始。
いよいよ戦が幕を開ける。
ただし戦と云っても、織田の本陣が相手という訳ではないので
総力を挙げて潰しにかかるには、明智ごときでは役不足だ。
しかしその敵将が敵将だけに、迂闊に手は出し難い。
ならば此処は無理をせず、先ずは得意の騎馬隊にて先行し、相手の陣形を崩した上で
混乱する敵勢を自軍の半数程で取り囲み、包囲戦に持ち込むことを第一とする。
総勢一万を超える奥州の兵に比べ、明智率いる織田軍の兵は多く見ても三千ばかり。
数では圧倒的に伊達勢が有利なのだ。


「逃がすんじゃねェぞ!しっかり囲め!」


状況を見ながら声を張り上げる伊達の隣で幸村も馬を駆け
両手の二槍をグッと握り直し、油断なく周囲の様子を探った。

何かが、引っ掛かる。

相手はあの明智だ、どんな汚い手を使うつもりなのかと身構えていたのに
卑怯な策どころか、こんな平地では、不意打ちの気配も感じられない。


「杞憂であったか…」


しかし、その一瞬の気の緩みこそが、大きな惨事へと繋がる。


「ッ!!おお…っ」


突如、何の変哲もなかった地面が大陥没を起こし
馬の前足を取られて、そのまま深い穴へと沈みそうになる。
幸村や伊達、それに片倉は人並外れた反射神経と技量で以って、寸での所で馬の手綱を操り
地面の大穴を飛び越えさせ、事無きを得たが
先行していた騎馬隊の殆どと、状況に気付かず後から進撃してきた歩兵の一部が
切り立った竹が剣山のように敷き詰められた大規模な窪みの罠の餌食になった。
まるで巨大な落とし穴というしかない。
恐らく元々の地形は深い溝だったのだろう、それを掘り下げて
ご丁寧に罠を仕掛けた上に綺麗に蓋をし、平地だと錯覚させられたのだ。


「…なんという…ッ」
「Shit!」


先手を打つ筈が、逆に痛手を被り、混乱を来たす伊達の軍勢は、伊達の指揮も届かない。
そこに追い打ちをかける様に、織田軍から矢の雨が降り注ぎ
見る見る内に兵が倒れ、その数を減らして行く。


「っ卑怯なり!明智光秀ェ!!」
「wait!幸村!!」


逆上した幸村は、伊達の制止も耳に入らず、単騎織田軍へと斬り込み
薄ら笑いを浮かべる明智へと猛進していくものの、多勢に無勢、云うまでもなく兵に阻まれ手こずる破目に。
いくらなんでも、無謀だ。
「チッ」と舌を打って伊達も馬を駆り幸村の元へと急ぐ。
そこに漸く後ろから追い付いて来た残りの味方兵達も加わるが
先の惨い罠に同朋が多数嵌った事と、大将である伊達の動揺が伝わっているのか、士気を欠いている。
その間にも、幸村はたった一人で馬を駆け、到頭明智の前まで辿りつき


「明智光秀ェ!この幸村と、いざ尋常に勝負致せ!!!!」

「…あンの莫迦…!ンなもんに応じる相手かよ!」


伊達の言は正しく、幸村を鼻で嗤った明智は巨大な鎌をゆったりと振り翳すなり
幸村ではなく馬に狙いをつけ、その前足を一瞬で両断。
嘶いた馬の巨躯が、頭から地面へ倒れる衝撃で振り落とされた幸村は
上手く着地できず、硬い地面に全身を強打し、その痛みで這い蹲る。
其処へ悠然と歩み寄った明智が、幸村を仰向けに蹴転がし、無遠慮に跨いで見下す。
咄嗟に起き上がろうとする幸村だが、しかし見越した明智によって巨大な鎌の切っ先を右手の掌に突き刺され
それが地面にまで貫通する、グザッという生々しい音を聞いたのと同時に
激しい痛みが電撃のように傷口を中心に走り抜け、息を呑んで「ぐ、ぁ!」と呻き声を上げた。
そして息つく暇もなく、次は左の掌に鎌が突き立つ。


「ッう、が…!…あッぐう…!」
「少し、大人しくして下さい。貴方には余興として役立ってもらいましょう」
「つッ…あ゛ぁ、!!」


背筋がゾッとするような笑みを向けられ、本能的な危機感と
「余興」という不穏な科白に云い知れぬ恐怖を感じ
幸村は明智の足元から這い出そうとするが、両手が大鎌に穿たれている為、ピクリとも動かせない。
無理に暴れれば、掌は殆ど根元から裂け、一生槍を握れなくなるだろう。


「…く、ぐ……このっ…外せ…!」
「聞き分けの悪い子ですねぇ。私は大人しくして下さいと云いましたよ?
 それより、そんな恐い目で睨まないで下さいよ、独眼竜」
「っ!政宗…殿…!」


幸村から視線を外した明智の目の先には、煩わしいとばかりに馬から飛び降りた伊達が
六爪を構え、射殺すような眼光で明智を睨みすえていた。
続けてその足元で無残な姿になっている幸村を見て、眉間に深く皺が寄り
殺気は更に鋭く重くなる。


「変態野郎が…さっさとソイツから離れな。虫唾が走る…」
「酷いですねェ、折角の余興ですよ?もっと愉しんで下さい」
「…?!ッよせ!」

「ぐッ、ああぁっ!!ツ…ぅっ!」


幸村の悲痛な声が迸る。
明智が徐に落ちていた幸村の二槍を拾い、一槍をまるで見せ付けるように
持ち主の左足の甲に突き刺したのだ。


「っ…ふーッ…ふー…ッ、うぅ…っぐ…!」
「待ってろ…今助けてやる…!」
「おやおや、いいんですか?大事な珠がもっと傷つくのは嫌でしょう?」
「……何が望みだ」
「話が早くて助かります。そんな貴方だから、信長公が業を煮やすんですよ…」
「ハァ?だからどうした。大人しく領地差し出せってか?」
「フフフ、それでは私がつまらない。信長公の目に留まった貴方には、目障りですから、消えて頂きたいのですよ」


穏やかでない科白により、一気に剣呑な空気が張り詰める。
いつしか明智と幸村と伊達を中心に、距離を保った織田軍と伊達軍は入り乱れ
輪のように広がり、互いに手が出せず、固唾を呑んで中央の三人を見守るばかりだ。


「私が直接首を刈り取って差し上げても宜しいのですが、それでは芸がありませんから
 今ここで、自刃してもらいましょうか」
「…What?」
「でないと、ホラ、可愛い仔犬が死んでしまいますよ…?」
「……ッ!!ッあ゛、あぁああっ!…ぐ、、っ」


伊達が見詰める目の前で、明智は幸村の残った右足に、深々と槍を突き刺し
耳を覆いたくなるような痛ましい絶叫が迸る。


「−ッSTOP!!ソイツにそれ以上何かしてみやがれ…!テメェ、ブッ殺すぞ……!!」
「おぉ恐い恐い… 知っていますよ、独眼竜。
 貴方はこの小煩い犬が、大層お気に入りでしたねェ…
 もし、貴方の目の前で、殺してしまったら…フフ…貴方は一体、どんな顔を見せてくれるのでしょうねぇ…?」


甘く囁いた明智は、伊達の死に顔を見るよりも
その端麗不遜な表情が苦悶に歪む様を見たいと望む方が強くなり
幸村の足を貫いていた槍の内の一つを引き抜き
それをそのまま伊達が見ている目の前で、幸村の腹に向かって

突き刺した。


「ッやめろォオオォオ!!!!!」


瞬間、迸った咆哮は地を這い、明智の鼓膜を心地良く震わせる。
嗚呼、これが聴きたかったと恍惚とする明智の視界には
わなわなと戦慄く竜の姿があり、されどすぐ、ピタリとその震えは止まる。

空気が凪いだ。

俯いている所為で表情は見えないが、その様子は只ならぬものがあり
何しろ、目の前に確かにその姿は在るのに、音も気配も全く感じられず
まるで石のように完全な『無』と化しているのだ。


「…一体、何事でしょうか…」


訝しむ明智の視覚から、忽然とその姿が消えた。


「…!どこに…、?!」


慌てて姿を探す頭上に、音も無く跳躍した伊達の六爪が振り翳され
何の躊躇もなく振り下ろされる。
その凶刃は情け容赦なく明智の躯を縦に四等分ほどに切断し
気付かぬ間に絶命した明智は、パックリと割られた薪のように
四方へ散らばりながらバタバタと倒れ。

斯くも呆気なく、そして壮絶に、大将戦に決着がついた。


「……〜っやりましたね筆頭―!!」


俄かに沸き立つ伊達軍の中、喜び勇んで声を掛ける者が居たが
伊達はそれを無視し、ゆっくりと幸村へ歩み寄ると
無造作に六爪を手放して、幸村の四肢を貫く残った鎌と槍を全て抜き捨てた後
最後に残った腹の槍をゆるゆると引き抜く。
途端に栓を失った傷口から、トクトクと鮮血が溢れた。
幸村にまだ息はあるものの、その顔色は恐ろしい程に青白く、気を失っているのか
目蓋は硬く閉じられ、苦悶の表情を浮かべ生死の境を彷徨っている。


「………」


その様を、じっと無言で見詰める伊達の様子は、未だおかしい。
近付き難い気配の中、固唾を呑んで見守る片倉と部下達の前で
伊達はザリと膝をつき、片腕に幸村を抱き留めると
地面に転がっていた自身の六爪の内の一刀を掴んで、ゆらりと立ち上がる。


「…早く手当てを!」


我に返った片倉が、急いで駆け寄り瀕死の幸村を預かろうとした次の瞬間
頬に鋭い痛みが走った。
「何だ…?」と
その場に立ち止まり、指を頬に宛がうと、ヌルと赤い血がつく。


「…!!」


愕いて顔を上げると、伊達が片腕で一刀を構えている。
その切っ先は真っ直ぐに片倉の咽喉元を狙っており
しかし、紙一重でそれが外れたのだ。
もし、立ち止まらず、後一歩でも近付いて居たなら
間違いなく片倉の首は弧を描いて飛んでいただろう。

果たして、片倉の立ち位置は、伊達の間合いギリギリであった。


「どうしたんだよ筆頭!しっかりして下さいよぉ!」
「っおい!テメェら待て!!近寄るンじゃねェッ!!」


片倉の制止も間に合わず、駆け寄った部下の胴が、横真っ二つに両断された。
バッと血飛沫が噴き出し、伊達と幸村、そして片倉に散り
地面に転がった上半身と下半身に離別した死体は、夥しい量の血溜まりをつくった。
途端に、様子を窺っていた他の者達は「ヒッ」と息を呑み、一斉に後退る。
そうして人垣が割れた所を、静かに通り抜ける伊達。
片腕に幸村を抱き、血に濡れた刀を持ってヒタリヒタリと歩くその様は、さながら鬼のようだ。
目の当たりにする尋常ならざる存在は、ガクガクと寒気がする程恐ろしく
残っていた明智の残党達も揃って腰を抜かし、悲鳴を上げて逃げ惑うのだが
追いついた伊達に無造作に切り捨てられ、その命を散らせた。


「っ……鬼となられたか、政宗様…ッ」


もはや敵味方に関係なく、無差別に刀を振るい
その目に映ったもの、間合いに入ったもの全てを斬り殺す伊達は
まさに鬼竜と化していた。


「…そんなにも、真田の事を…!……しかし、これではその真田も…っ」


伊達の腕の中にある幸村の命が、この儘では、助かるものも助からない。
傷は深いが、恐らく急所は外れていると思われ
迅速な処置をすれば、一命を取り留める筈だ。
されど、必死で片倉や部下達が呼び掛けようとも、伊達の正気は戻らず
刻一刻と、幸村の命は磨り減っていく。


「………」


と、その時、微かな声がした。
それはとても小さく、片倉達の耳には届かなかったが
傍に居た伊達の耳には、ハッキリと聞こえた。
伊達の足が止まる。
重臣である片倉の声も、数々の戦場を共に闘った部下達の声すらも
その歩みを止めることは出来なかったが
ただ幸村のか細い声こそが、伊達の足を止めさせたのだ。


「……さ、むね……どの…

 ………奥州…へ……、帰りま……しょう…ぞ……」


瞬間、竜の目は鋭い眼光を取り戻し
ハッキリとした意思で、その手で、力強く幸村を抱き締めた。

 

 


【10へ続く】


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あとがき

つ、疲れた…。
とりあえず、明智ファンの方、すみませんでした;
伊達氏の鬼化の為には、彼の力が必要だったんです…!!

2009/10/17  。いた。