※いろいろとテキトーです(後で変更あるかも)、笑って許してやって下さいw
 あと、軽い性描写あります、ご注意を。



 


『一八』 -#12-

 


「あの独眼竜が手玉に取られたらしい」

そんな耳打ち話が町のあちこちで飛び火し
手下共が躍起になっている火消しなど、全くもって無駄だった。
こうなる事が判っていたとはいえ、予想以上の過熱ぶりに少々うんざりし、小十郎は眉間のしわを深くした。
いつもなら日中のうちに幸村の教育や所用雑事を済ませ
陽が暮れてからは夜の賭博長屋の見張りに立つ処だが
ここ数日、主の命令でその流れは止めている。腹黒い一計ありきだ。

「申し上げます」

例の男の件である。
かねてよりの調べでは、由緒正しき御家柄で代々続く松永家の現当主
つまり、へたに手を出すと実に厄介な男であり
潤沢な私財は其処らの成金とは訳が違う上に地位も特権も別格だという事。
付け加え、周知の事実として「粋狂な収集家」の顔も持ち合わせており
名宝寺宝出処を問わず伝家の宝と聞けば食指を動かすに余念なく
また、茶の湯に明るいことから茶器や古書画にも目がないだとか。
いずれにせよ、欲した物は必ず手に入れる強欲ぶりは中々に悪評高い。
云うなれば

「同じ穴の狢、か」

皮肉げに嗤う政宗に、小十郎はあえて沈黙を返し、報告を続ける。

「あれ以来、目立った動きはありません。暇を持て余した連中と茶会に興じているようです」
「Ha、これ見よがしのフェイクだな。うちの下っ端共に接触があったのはいつだ?」
「一月ほど前かと」
「Hmm…念入りなこった。ま、この間あんな三文芝居まで打ってお膳立てしてやったンだ
 近い内に何か仕掛けて来るだろ」

得意の情報収集で色々と把握済みであるし、仕込みも済ませたが、抜かりは禁物である。

「Okey-dokey、引き続き目を光らせとけよ」
「御意」

一切の揺らぎなく頼もしい承服を寄越した小十郎が部屋を出て行った。
その直後、

「―――ッはぁあ!〜ッフー、フーッ…!!、…ひ!ぅぐっ、、あ、あッ、あ…!!」

悩ましい嬌声が弾けた。
体内を深々と抉る政宗の一物が加減なく出入りを繰り返し
幸村はもはや口を塞ぐ事は出来なかった。
散々に押さえつけていた所為で痺れ湿った唇が戦慄きボタボタと唾が滴るに任せ、喘ぐ。
折悪くも交ぐ合いの最中に報告に来た小十郎を、あろうことか政宗はそのまま室内に上げたばかりか
何食わぬ顔で情事を継続しながら「構わねェ、報告しろ」と云い放ち
幸村が震え真っ赤になって自身の痴態と情けない声を必至に我慢する目の前で
二人は顔色ひとつ変えずに話しを進めていたのだ。
何が無しとも知れぬ、しかし確かな謀策が見え隠れする不穏の中
あからさまな衣擦れの音と幸村の荒い鼻息が続くは場違い甚だしく
些事平然と尻を穿つのをやめぬ男を憎らしく思ったものの

「ッあ!あ!、あぅっ、う!!ンン…!」

ようやく自由になった口が吐き出すのは文句どころか昂った呻き声ばかりであり
たちまちは、弱い泣き処をしこたま小突かれる如何ともし難い心地に完全に押し負け
ヒクヒクと肉腔を痙攣させては政宗を悦ばせた。

「So…もう一度訊くが、奴をどう見る?」
「はっ、あ、、それならば、先日も、申したようにっ、…んぅッ、ン!」

サイコロのイカサマに松永が勘付いている、と報告したのはその日の内だ。
尚かつ、幸村の立ち場と状況すらも見透かしているような口振りであったからには

「油断ならぬ、御仁だ…ッと!、、あヒッ、アァ、ア!!」
「Yeah、ンなこたァとっくに知ってる。…まぁいい。せいぜい次は気をつけな。
 オレはアンタのこの長い髪が背中の竜に纏わりつくのが好きなんだ」

切らせてくれるなよ?
と鋭い眼つきで凄みつつ、一房梳くって口付ける。
いつであったか、見知らぬ町人が肩へ触れただけで
「手垢」と腐し、着物を裂いた政宗の過激ぶりは、改めて語るべくもない。

「っ」

その後の飴と張形の卑猥な情事まで思い出してしまった幸村は、己の不埒さを誤魔化すように
先程の政宗と小十郎の会話を脳裏でよく反芻してみるものの
なにか遠大な思惑があるのだろう、という推測ぐらいしか出来ない。
今のところ蚊帳の外で、首を突っ込むべきではないのだろうが……

(…何やら、もやもやする、、)

できれば関わり合いになりたくない筈なのに、のけ者にされたような気がするのは何故だろうか。
肌に墨を入れ、政宗に従い、日々学びつ、スリまでしているというのに、、
という妙な矜持が、胸の奥に芽生えている。
どうして、『面白くない』、と感じてしまうのか…

「、、、う、、あ、、、」

自分でもよく判らないまま、やっと吐き出された子種にブルリと身震いした。

 

―――――――――――――

 


「あの…ひとつ訊いても宜しいか…?」
「What's up?」

屋敷に呼び寄せた呉服商が広げて見せる幾つもの反物を吟味する政宗へ、幸村は遠慮がちに声を掛けた。
母屋の広い表玄関を抜けた先にある、八畳二間の座敷には、色も織目もとりどりの布が縦横に走り
へつらう呉服商人の男の説明も等閑(なおざり)に政宗は傍らの幸村にどれが相応しいか
とっかえひっかえ宛がいながら、機嫌が良さそうな返事をする。
(最近になってやっと声を掛ける時機というものを見計らえるようになってきたものの
 政宗に自ら話し掛けるというのは中々に度胸を要する)

「…その……、松永殿が拘っている茶碗というのは、一体どのようなものにござろうか」

反物と幸村の顔とを見比べるばかりだった政宗が、初めてチラリと視線を上げ、目が合う。
幸村はゴクリと唾を飲んだ。
まずい質問だったかと後悔したが、知っておいて損はない筈であるし
そういった事がまだまだ疎い己が知見を深めておきたい、という思いもあった。
すると政宗は、まるで飼い犬の成長を喜ぶかのように「Good boy」と云うなり項を引き寄せ
人目を憚ることなく鼻先に「ちゅ」と派手な音を立てて口付けた後

「そこの甚三紅絹を貰う。次は目の醒めるような紅赤色を持って来い」

すっかり狼狽している呉服商人に云いつけた。
紅色といえば庶民の憧れの色である。
されど紅花を使った本物の紅染めは、「紅一匁金一匁」と呼ばれるほど高価だ(と小十郎が教えてくれた)。
相変わらずの羽振りの良さと派手好みに辟易していると、用は済んだとばかりに政宗が片手を上げ
どこからともなく現れた小間使いが商人を促して見送りに立ち
別の一人が反物を恭しく預かって、中庭に面した縁の奥へ静々と消えて行った。
いつも斜向かいの仕立て屋が最短最優先で仕上げて持って来るようになっている。
何の弱みを握っているのやら。

「OK. 小十郎、聞いてたな。茶碗を佐助ちゃんに取って来させろ」
「……また意地の悪い事を…」

畳廊に控えていた小十郎が深く溜め息をつきぼやいてから、重そうに腰を上げ座敷を離れる。

(佐助に逢えるのか…!)

予期せぬご褒美に本来の目的など忘れて気分を浮つかせた幸村は、しかし間もなく
深い穴蔵に突き落とされたように、臓物が竦み上がる嫌な心地に短く息をのみ

「…何故、それがここに、、」

過去の悪事と最悪の形で直面して、顔を引き攣らせた。
忘れもしない。
いつぞや博打の元手にと質屋に流した茶碗が目の前にある。
気まずい顔をそっと上げれば、物云いたげな佐助と視線が絡んだ。

――まだ幸村が幼かった時分、在りし日の記憶は定かとは云い難く仔細は忘れてしまったが
かの何某とかいう窯元が作った逸品がなんの因果か茶道に興味のなかった祖父の手に渡って来た。
ついぞ誰かが使った様子を見たことは無かったけれど
「触っちゃダメだからね。割ったら俺様怒っちゃうよ」と佐助に幾度となく云い含められたのは良く覚えている。
子ども心に、どうしてこんなに歪んでヒビだらけの不格好な茶碗をそこまで大事にするのだろうかと疑問に思ったものだ。
故に、時が経つにつれ興味も関心も記憶も薄れて行き
近頃となっては「使い道の無い、そこそこ名のある茶碗」という認識しか残らず
遊ぶ金欲しさに手放してしまった、というのが顛末である。
それをどうして政宗が持っているのか。

「ンな驚くこたァねえさ。オレの趣味は知ってんだろ?
 質屋まで手広くやってりゃ、こうして思わぬモンが転がり込んで来るってワケだ」
「なっ」
「Well…この茶碗にはちょっとした逸話があってな。
 昔こいつの奪い合いで国が一つ傾いたってェはなしだ。
 それを信じて、今でも大枚はたいて手に入れようって輩は少なくねェ」
「…!」

まさか、そんな価値のある代物だとは知らなかった。
質に入れた時だとて、お世辞にも大金といえた金額にはならなかったというのに。

「店の目利きには客も見て商売しろと云ってあるンでな。
 恨むんなら、値打ちも知らずに質に流した自分を恨め」

ぴしゃりと云われ、反論できず、幸村は歯噛みした。
質屋に政宗の息がかかっていたのは別にするとしても、己の無知を棚に上げての批難はしようも無い。
口惜しいが全て政宗の云う通りだ。
また叱られてしまった。
どの道、六文銭を賭けての大博打に負けて全財産を奪われるという結末に変わりなかったとはいえ
いま冷静になって顧みれば恐ろしい程の無知無手法さだ、反省すべきだろう。

「返す言葉もない…。………佐助…?」

しょげ返りつつ、佐助もきっと怒っているのだろうと上目で覗うと
見た事もないような恐い顔をしている。
咄嗟に「すまぬ!」と詫びるも、佐助はパッと破顔し、「なんで旦那が謝ってんのさ」と首を傾げ

「悪いのはアイツでしょ」

と憎々しげに政宗を睨み据えた。
てっきりこっぴどく窘められるかと思いきや肩透かしを食らい
違和感を覚えながらも、慌てて「いや、それは違うぞ」と佐助の云い分を正すと
今度は僅かに動揺を浮かべたあと何故か寂しそうな顔をして
けれどすぐにいつもの表情に戻り何事も無かったかのように「今度はなに企んでるんだか」と政宗を威嚇する。
その些細な変化に、幸村は引っ掛かりを覚えずには居られない。

(一体、何が気に食わぬというのだ……)

政宗が云ったことは間違っていないし
油断させる為にも従順にしようと云ったのは佐助ではないか。
それに、さきほどのあのワザとらしい笑顔はなんだ。
明らかに真実を隠そうとする嘘の其れだ。

「………!」

無意識に政宗の方を見れば、涼しい顔で事の成り行きを眺めており
幸村と視線が交わると、いつものように意地の悪そうな笑みを浮かべた。
やはり何かある。

(………順当に考えて、恐らく茶碗か)

わざわざ佐助に持って来させたあたり、いかにもだ。
きっと浅からぬ関係があるのだろう。

「佐助、茶碗が気掛かりか?」

ためしにカマを掛けると、佐助が僅かに身じろぎ、次いで、静かに凪いだ双眸を向ける。
しかしその顔色は、予想外に青白い。

「もしや、特別な思い入れでもあったのか…?」
「……べっつにー?ちょっと因縁があるだけだよ」

それはどういう意味なのか。
重ねて問おうにも、自嘲気味に口角を上げ眉を下げた佐助は
これ以上この話はしたくないとばかりに目を逸らしてしまい

「もういいでしょ、下がらせてくんない?」

触れられたくない古傷でも庇うような拒絶あらわに、政宗へ向かって云い捨てる。
政宗はニヤニヤといかにも訳知り顔であるが、今ここで種明かしをするつもりは無いのか
「いいぜ、下がらせろ」といやにあっさりと小十郎に命じた。

「待っ…!!」

幸村は焦って制止を求めるも、佐助は何処かへと連れて行かれてしまい
核心の追及は許されず、伸ばした右手がむなしく宙に浮く。
その手首を背後から捉えた政宗が嫌味にもヒラヒラ左右に振りながら

「残念、お楽しみはまた今度だな」

何もかもを掌の上で転がす勝者然とした余裕でそっと耳元で囁くと
慣れた手つきで着物の裾をたくし上げるので、幸村は諦め大人しく傍の柱にしがみつき、足を開いた。

 


 

【13へ続く】


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あとがき

じわじわと佳境に持って行きます^^
ちなみに茶碗に関する知識は皆無ですので、ツッコんじゃやーよ❤笑

2017/07/22  いた。