※引き続き、捏造前提パラレル全開。 my設定が不意に飛び出しますゆえ、ご注意を。

 

 

『一八』 -#3-

 

「で?アンタは何を賭ける?」
「…え?」

真剣な面持ちで正坐する幸村に、唐突に政宗が問いかけた。
言葉の意味が直ぐに呑み込めず、幸村は間抜けた声をあげる。
何を賭けるも糞もない、これから六文銭を賭して勝負するのではないのか、と。

「おいおい、ボンクラの上に頭が足りねェのか? タダで博打が打てるかよ。
 ノーリスクにはノーリターンだ、当然だろ? オレはこの六文を賭けるが、アンタは一体何が賭けれる。
 銭か?物か?それとも、躯か?」

まさか何の代償もなしに博事が成り立つとでも思っているのか
掛け値なしで博打に挑まんとする世間知らずの甘ったれを嘲り愉しく見遣りつつ
そうは問屋が卸さない、とばかりに政宗は最後にワザと煽るような言葉を選んで云ってやる。
こちらも色々と都合があるのだ。
常識云々は別としても、此奴には賭けてもらわねばならぬモノがある。
そんな政宗の思惑など露知らず、見る間に幸村は端整な顔を憎々しげに歪め
怒気と羞恥が入り混じった鮮やかな朱で頬を染め上げ、吼えた。

「ッ…何でも、おぬしの好きな物を賭ければよい…!」
「Wow」

挑発できれば此れ幸い、思いもよらぬ小気味良い返事に
成程、此奴は此奴なりに色々と覚悟の上で来たか、と悟り、政宗は口角を吊り上げる。
この古びた六文がそんなに大事な物ならば
何を、どこまで、対価に賭けられるのか、見ものであると同時
飛んで火にいる何とやら、労せずして罠に掛かったあまりの容易さに
胸の内での嘲ら嗤いがこれ以上顔に出ぬよう堪えねばならず、存外な労力を要した。

とにもかくにも、これで政宗が望む通りの御膳立ては整った。
後は目の前の獲物を逃がさぬよう、手早く事を進めるのみ。

「…ンじゃ、遠慮なく云わせてもらうぜ。
 アンタが住んでる立派な屋敷含め、真田家の財産全てを賭けてもらおうか」
「、ッな…!」

何を云われるかと身構えていた幸村は、その予想外の提示に、二の句が継げなかった。
町外れの真田の屋敷どころか、現存する全ての財を賭けろなどと

(…そんな理不尽な博打があって堪るか!)

否、その前に、先日に名を訊かれた折に「幸村」とだけ答え
氏を名乗った覚えはないのに、何故真田家云々を知っているのだ。と目を瞠れば

「この町で、オレが知らねェことは無ェ」

男が不敵に哂う。
然もあらん、多種多様な博徒達を通じての広い情報網は云わずもがな
配下の者なり舎弟なりを使っての諜報は侮るなかれという事で
昨晩よりたった一日も経たぬ内、幸村の素性や真田の財産
何から何まで具(つぶさ)に調べ上げたと見て間違いないだろう。
即ち、其処までするという事は、、

「…某が、また此処へ来ると判って居たのか…?」
「Yes、アンタにしちゃ察しがいいな。その為にワザワザ六文なんつう端金を盗っといたンだ」

余程大切にしてやがったから、きっと来ると思ってたぜ?
したりと口の端を吊り上げた政宗が
悪びれもせず懐から取り出した紐付きの六文を、手の中でチャリチャリと弄ぶ。

(…此奴の狡猾さは警戒せねばならぬと、嫌と云う程判っていたつもりであったのに…っ)

幸村は口惜しげに唇を噛んだ。
しかし、例え政宗の思惑通りになろうとも、此処で引く訳には行かない。

「……良いだろう…、賭ける…!」
「Great、それでこそ、アンタだ」

そもそも幸村は、揺ぎ無い決心をした上で来たのだ。
それに、賽に小細工さえされていなければ、五分五分の確率で勝てる。
そんな僅かな強気さえ見せる幸村へ、ふと思い出したように、政宗はこう付け加えた。

「ところで云い忘れたが、真田家の財産全てって事は、もちろん、アンタ自身も含まれてンだぜ?」
「…?それは、どう云う……」
「アンタだって真田の血ィ引いてンだろうが。頭のデキはともかくとして、立派な財には違いねェ。
 ま、簡単な話、テメェが負けたら真田と名の付くものは、全部オレのモンってことだ。OK?」

どうする、それでもやるか?
ニヤと厭な笑みを向ける政宗に、幸村はゾクリと寒気を覚えた。
真田の財産だけでなく、明らかな詭弁を弄してまで、この身を手に入れんと欲する意図は測りかねるが
大方、何処ぞに売り捌こうとでも考えているのだろう…
だとすれば、よくよく抜け目の無い非情な男である。
負けた恨み辛みで捨て鉢になり、死なば諸共無理心中、、そんな企ても叶わぬ夢となろう
況や、それを見越しての策なのだと、すぐに察した。

とは云え、もう全財産を賭けると決めたのだ
其処へ己の身一つ加えた処で、今更どうと云う事はない。

「……承知致した…」
「Hyu!良く云った、大したもんだぜ」

怖じけず勝負を受けた其の意気や良し
政宗は手馴れたように賽を壷皿に投げ入れ、バンッと叩き付けるように伏せた。

「さァ、丁と半、どっちだ?」

何せアンタの全てが懸かってンだ、ゆっくり考えな。
と壷皿から一旦手を離し、傍の煙草盆の火入れから煙管を持ち上げた政宗は、笑んだ口の端へ鷹揚に噛んだ。
大きく吸い込んで吐き出された白煙が、ふわりと流れ漂い霧散し、幸村は少しだけ顔を顰める。
云われずとも、時間を掛けるつもりだ。
何しろ賭けの代償があまりに大きい。

(…しかし、どっちだ、、どっちに張ればいい……)

幸村は心の内で煩悶する。

(……丁、、いやいや待て、長考した挙句それでは、今まで通りの癖がそのままではないか…!
 ならば、どうする、半か?
 されど此度は小細工を気にせずとも良いのだから、やはり丁にしようか……)

答えのない問答を繰り返す内、もう何が何だか判らなくなって来て
頭の中が真っ白に焼けてしまいそうだった。
幾度も吐き出された政宗の煙管の煙が、長屋中に満ちて、全身に纏わり付く。
それでも尚考え倦ねていると、不意に、カンッと煙管で灰吹きの縁を叩く硬い音がして
ビクリと大袈裟に躯を跳ねさせた幸村は、とうとう、

「……半」

張ってしまった。
もう、後戻りは出来ない。

ニタリと唇に弧を描いた政宗は、灰の落ちた煙管を置き

「All or Nothing、のるかそるか…」

見えぬ神にも縋らんとて両手を合わせる幸村の目の前で、壷皿をゆっくりと持ち上げた。

「………あ…、、そ、んな…ッ」

そうして露わになった、目の前の結果が信じられず、幸村は嗚咽にも似た声を絞り出す。
出目は、いつぞやを彷彿とさせる、一一のピンゾロ、つまり…

「アンタの負けだ」

そのトドメの一言に、幸村は愕然と打ち拉げ、ブルブルと全身を戦慄かせた。

(…こんな事があるのか…!
 ッどうして、何故、俺には此れ程までに運が無いのだ…!!)

嘆けども、結果は変わらない。
果たして幸村は、たった六文を取り返すどころか、一瞬にして何もかもを失ってしまった。

「これでアンタを含めた真田の全ては、オレの物だ」

往生しな、と政宗が視線をやった先には
いつの間に呼び寄せていたのか、手下と見える男が二人、立って居り。

「連れて行け」

短い命令に無言で頷くと、茫然と自失している幸村の
両腕をしっかりと羽交い絞めにして、長屋の外へと引き摺って行った。


 

「……宜しかったので?」
「あん?何がだ」
「小細工はしないと」
「Ha!してねェよ。技は使ったがな」

それまで口を出さず、ずっと戸口で見張りを続けていた男
小十郎が、静かに歩み寄って指摘する声を、政宗は肩を竦めて否定する。
本当に賽子には細工をしていない。
正真正銘、綺麗な賽だ。
されど、その後に続いた科白には、十分過ぎる含みがあり、小十郎は「成程」、と顔を引き攣らせた。
我が首魁ながら、中々えげつない真似をする。

「出目を操ったのですか」
「Yes、of course。当たり前だろ」

丁半勝負で賽子を壷で振る者の事を、見たまま『ツボ振り』と云い
そのツボ振りの中でも、賽の目を自由に操る事ができる者を、俗に『振り師』と呼ぶ。
何を隠そう政宗は、その振り師だ。

全国各地に無数に点在しよう賭場のツボ振りの中でも、振り師と呼ばれる人間は数少なく
そこまでの腕に達するまでに要する年月と経験は凄まじいものであり
況して賽の目を己の思うが侭に操るその正確さたるや、もはや賞嘆に値する。
政宗とて、無論最初から出目を操作できる腕があった訳ではない。
しかし持って生まれた手先の器用さと勘の良さはズバ抜けた物があり
この異例の若さで、こうして立派な振り師となり得たのである。
云わずもがな、それが博徒に知れると商売にならないので、秘匿してあるが
その比稀としか云いようの無い腕を使って、影で勝負を操り動かし
良いカモが居れば狙いを付け、好き勝手に毟り取って稼いでいる、という訳だ。

しかし、いくら賽の出目を自由自在に出来るからと云って
相手が丁半どちらに賭けるか判っていなければ、無意味な話である。
その点を考えると、政宗は一体どのようにして、今回の勝負で勝ちを掴んだのか?

「…まさか、」
「Exactly、そのまさかだ」

幸村を甚振ったあの晩、元々やってもいない陳腐な賽の細工のイカサマをわざわざ吹き込んだのは
この振り師としての腕がある事を誤魔化す為である。
加えて、細工を使った不正をしていたのだと誤認させた事で、今回のように細工無しと謳って勝負した時
本当に負けたと思わせるには、まことに好都合であった。
それを踏まえた上で、いかにして勝負をモノにしたかだが
幸村には、「長考なら丁、それが外れれば次は半」という賭け方の他に
実はもう一つ、「初っ端は必ず半に賭ける」という、決定的な癖があり
今回は其れを狙っての一発勝負を持ちかけたのだ。

「本当に重要な事は、絶対ェ云わねェもんだぜ?」

要するに、此度の勝ちは、幸村がこの賭場で政宗のカモになった時から
既に約束されていたものであり、先日の遣り取りとて、総じて今日に繋がるべくして繋がったもの。
それら全てを当たり前のように計算ずくでやってのけるあたり、政宗を天賦のイカサマ師と呼ぶに相応しく
また、この界隈を纏め上げる筆頭に成り得たと云っても過言ではあるまい。
それに、相手が誰であろうが、卑怯の一言に尽きる方法で、一銭残らず搾り取る冷徹な強かさは
其の見目は然りとて、陰で独眼竜などと渾名され、恐れられる所以ではなかろうか。

「…もしあの男が知ったら、賭けは無効だと喚くでしょうな」
「クク…そしたら、こう云ってやるさ。一か八かなんざ、勝負じゃねェと云った筈だ、とな」

不遜に嗤った政宗は、ゆっくりと立ち上がって
「本当にえげつない」と唸る小十郎に、振り返らずヒラヒラと片手を振り、悠然と長屋を後にした。

 



【4へ続く】


小説一覧へ戻る


 


あとがき

小十郎がやっと喋ったので、ようやく主従sが出揃った感。
幸村に絡めるか否かは悩み中… たぶんその時のノリで決めます←
次回、政宗サンの住処にて★

2010/06/13  。いた。