※ぬるい性描写あり

 



『一八』 -#8-

 

カタン…という微かな物音で、ぼんやりと目が覚める。
どの程度の時間気を失って居たのかは判らぬが
躯はガチガチに強張って動かず、咽喉は干上がって痛み、頗る最悪の状態であった。
虚ろに視線を流せば、小水やら何やらでグショグショに汚れていた衾床はいつの間にか仕替えられ
水縹色から薄紅色に変わっていた。


「……ぅ……、」


無意識に佐助の姿をさがしたけれど、佐助はおろか、政宗さえも見当たらず
シン…と静まり返った密室に、身動き侭ならず無様に俯す己一人しか居ない。
おざなりに着せられた緋色の着物が肌蹴て露出する下肢の内腿や
下帯のない股座に濡れた感覚や乾いてこびり付く感触が感じられない事から
後始末をされた事にすら気付く事無く意識を手放していた事になる。
そうして順々に状況を整理する内、ハッと幸村は我に返ったように目を見開き短く息を呑むと
軋み動こうとせぬ躯を叱咤し、ずるずると柔らかな衾床の上を這いずって
なんとか前室まで辿り着いた先、固く閉じられた扉に力無く爪を立てながら


「…さ、すけ……佐助は…っ」


あやつの安否はどうなったのかと、聞こえぬと判っていても、確かめずには居られなかった。
逃げ出した仕置きで無体を強いられた己と違い、佐助は全くの無関係であったにも関わらず
あんな手酷い暴行を受けてしまった。

(…傷の具合は…、…命に別状は…?、ッ…無事なのか、佐助…!)

あっさりと失神してしまった所為で、その後どうなったのか全く判らず
また其れを知る術もなく、悔しさと不安でキリリと歯を食い縛って項垂れる。
ふと視線を転ずれば、傍にポツリと、誰が置いたとも知れぬ膳があり
先程の物音はこれだったのかと、気付いた処でどうでもいい事であり


「…ッ」


物にあたっても仕方がないのに、ガシャンと乱暴に引っくり返した。
小奇麗に盛り付けられていた料理と、塗の高貴な椀が無残に畳の上に散らばる。
勢い飛び散った汁物が、近くの巻いて置かれた軸に染みるのが目に入ったが
知った事かと黙殺し、手近に転がって来た空の椀を、腹いせのように詰まれた反物目掛けて投げた。
ゴツと命中しゴロゴロと落ちた幾つかが、美しい折模様を曝しながら部屋の隅まで一筋二筋と流れ
其処で何と無しに、周囲を改めて見直す。
恐らくは趣味や気に入りなのだろう、見た事もない珍しい渡来物
金主しか手を出さぬ高級品、端々に竜を誂えさせた絢爛華美な贅沢品が並ぶ
そんな中、漠然と思った。
自分もその内の一つとして、此処に保管・鑑賞されているのではないか…と。
だからこそ、「所有者」やら「オレの物」などと、人を物扱いし
大層な入墨や派手な着物で飾り立て、己の手元に置いているのでは…?


「…うっ、、」


其処まで考えた途端、吐き気が込み上げ、掌で口元を押さえながら蹲る。
あの男の本意など、本当の処判らぬが、何にせよ此処が地獄である事に変わりないのだ。

(……どうして、こんな目に…っ…)

恨み辛みを覚えながらも、しかし結局は自業自得だと自覚しているがゆえに
これは己の業への天罰なのだと、涙腺から溢れ出て来ようとするものを必死に我慢し拳を握った。
とその時、ガタリと響いた解錠の音で、鼓動を跳ね上げ顔を向けると
いつものように男がギィと扉を開き中へ入って来る。


「Hey、こんな処で何してる…って、こいつァひでぇな」


周辺を見るなりそう呟いた政宗は、足元に這い伏していた幸村の脇腹を爪先で小突きながら
「いっちょ前に癇癪か?」と、自身の調度品を台無しにされた悲惨な光景を気にした風もなく一嗤し


「まったくテメェは…懲りねェっつーか、なんつーか、」
「っく…」
「よほどオレに仕置きされてェらしいな」


云い終えると同時、恐怖で身を竦ませる幸村の襟首を掴み上げ
一度手の甲で片頬をしたたかに打擲し、奥の間には行かず
其の場で組み伏せ着物の裾を乱雑に捲り上げて
萎縮した一物の際、陰部の中心に真っ直ぐ走る擦傷に近い紅い痕、卑猥な股縄の名残を
指先で荒く撫で辿り、奥の腫れた菊座に触れれば
ヒュッと息を詰めた幸村が、ガクガクと可哀相なほど震え上がった。


「っ…あ、…あ…、、ッ」
「…また、やってやろうか…?」
「ッひ!ぃや、だ…!ヤ…だ!」


こんな簡単な脅しで此処まで怯えるぐらいなら、最初から莫迦な真似を慎めばいいものを
相変わらず後先考えぬ行動を取るのだから、まっこと学習能力の低い男だ
と政宗は嘲笑し、緩く甚振っていた其処から手を離すと
胡坐をかいて座り直し、幸村の腕を掴んで引っ張り上体を起こさせ


「さて、テメェがいくら無駄にしやがったか、とりあえず教えておいてやろう」
「、んぐっっ」


向かい合わせから一転、座ったまま背面から抱き込むように幸村を拘束し
片手で顎ごと柔らかな頬を両側から掴み、まずは真正面を向かせ耳元で囁く。


「あそこに転がってる、汁吸って使い物にならねェ反物」
「、ぅ…」
「ありゃ模様と染め方がちっとばかし特殊でな、5両は下らねぇ」(約50万)


それが一つだけでなく、二つ三つと転がっているのだから桁違いな金額だろう
されど其れに愕く間もなく、今度はぐいと左の方を向かされ


「それから、あの残念な事になってる軸な
 正月に掛けるめでてェ鶴の絵なんだが、確か30…いや、40両だったかな」(約400万円)
「…!!」


絵師の名は忘れたと云いつつ、政宗が飄々と口にした金額は
既に幸村の金銭感覚を遥かに超えていた。
よもや其処までとは思っても居なかったのか、凍りついた幸村の躯は血の気が引いており
政宗は低く咽喉で哂うと、掴んでいた顎を解放し、するすると厭らしい手付きで鎖骨を撫で
なだらかな胸筋の次は指に捉えた乳頭を、捩じるように抓る。
ビクンと大袈裟に身を揺らした幸村が、声なく身悶え
続け意図的に手加減しつつ押し潰すように捏ね回すと、「、、あっ、」と明確な声が洩れた。


「…なァ、オレぁ結構な損害を被ってンだが、アンタに弁償できるかよ?」
「ぅ…っ、あ、、ッ」
「Yep、そうだな、無理だよな? しょうがねェから、代わりに佐助君に払って貰おうか」
「ッ?!、やめッ、それだけは…!っ佐助には手を出さないで下され…っっ」


頼むから堪忍して欲しい、何でもするからと、
消え入りそうな声で懇願する幸村をして、滑稽と云わず他に何と云う。
そもそも己の行動に責任を持てぬから、他人に迷惑がかかる抜き差しならぬ状況に陥るのだ。
覚悟があるならまだしも、その覚悟すらなく、最後の最後で聞き分けのない餓鬼のように容易く人に縋り付くのだから
「駄々っ子かテメェは。阿呆が」と、呆れて溜息をつく。
すると幸村は、何でもすると云ったのに応じてくれなかった政宗に
いよいよ顔面蒼白になって必死に謝り、余程追い詰められたと見える


「お、おぬしの、納得がゆくまで…、す、好きにして、構わぬゆえ…っ!」


胸に這っていた政宗の手を掴み、自らの菊座へといざなうではないか。
予想外のその行動に、僅かばかり目を見開いた政宗は、しかし次には薄く笑みを浮かべる。
碌に世間を知らぬ箱入りの癖に斯様な大胆な行動を取るほどには
此奴にとって佐助は大切な存在なのだろう。
思ったより、手にした切り札は強かったという事だ。

(…まだまだあの男には使い道がありそうだな)

と極悪そのものの思考で口角を吊り上げた政宗は
先程から哀れなほど小刻みに戦慄いている幸村の手を掴み返し
再び向き合うかたちに躯を反転させ


「折角の申し出は有り難ェが、生憎とテメェの臀穴は当分使えねェ」


気ィ失ってる間に町医者に診させたらドクターストップかけやがったと
さして残念がる素振りも見せず一蹴した。
途端、幸村の顔色はさっと朱に変わり
なけなしの矜持が傷ついたか、それとも万策尽きた事に絶望したか
今にも泣き出しそうに眸は潤み、「では、どうせよと…!」とでも云いたげに顔は歪んだ。


「Oh、そんな見苦しい顔すんなよ…とことん虐めたくなる」
「ッ!」
「ま、今回はさっきのアンタの頑張りに免じて、フェラで許してやるよ」
「…ふ、ぇ…?」
「咥えろ」


此処でな、と下唇を指の腹で押され、何を、と思う暇もなく
いきなり後頭部に廻った手に強く引き下ろされ、幸村の視界は政宗の股座で埋まる。
直後、一体男が何を要求しているか気付き、ゴクリと唾を飲んだ。
憎み嫌悪してやまない目前の男のマラを口で悦ばせるなどと
蛆(ウジ)を頬張った方がまだマシだと思った。
されど、やるしかない。

(、、でなければ、佐助が…!)


「どうした?さっさとしな」
「…わ、判り申した、、」


促す声に逆らう事無く、視線の先にある政宗の藍色の着物を肌蹴て
下帯に強張る指をかけると、何度か見た事のある牡が現れる。
まだ何の兆もないというのに、立派なものだ。
ちなみに口淫の仕方など詳しくは知らぬ。
興味本位で見た春画で得た、恥ずかしいだけの薄い知識のみ。
だが意を決し、唇を開き顔を近付けたものの、何気なくした鼻での呼吸に
男の生々しい匂いを感じて思わず嘔吐(えず)き、咳き込みながら顔を反らせば
「情けねェな」とすぐに嘲る声が降り、明らかにこの状況を愉しんでいた。


「っく、…ン」


つくづく人でなし、と思ったが、それを口にする事は無論無く
息を止め、半ば自棄になって男の一物に手を添え先端を口内に含む。


「…ぅ…ぐ、、」


俄か、またもや猛烈な吐気が込み上げ、なれど懸命に堪え
生温かい其れに舌を這わせようとした矢先


「先に云っとくが、歯ァ立てやがったら誰かさんの前歯全部ブチ折るぜ」
「…!!、んっ、ふ…ッ」


心胆を寒からしめる恐ろしい脅し文句に引き攣り
うっかり当たる事がないよう顎を限界まで開いた。


「Good boy、それでイイ」
「っうぅ、」
「So、ちんたらしてねーで舌動かせ」
「、ん…っ、ッ」


云われるがまま、おずおずと舌を伸ばして触れると
ヒクリと政宗の牡が震え、あまりの気持ち悪さに「ヒッ」と上がりそうになった悲鳴を辛うじて飲み込み
続けてナメクジよりも遅くゆっくりと舌を移動させ、亀頭を全て舐め終える頃には
認めたくないが慣れてきたのか、嘔吐感はだいぶ少なくなっていた。
しかし一つ問題がある。
咥えた一物に一向に変化がないのだ。


「っ、、ン、…く、」


幸村としてはとっとと終わらせたいのに、どうして中々硬くならないのかと
焦りにも似た不安に掻き立てられ、先端だけに集中させていた舌先を
ゆるゆると下の方にも伸ばし、全体を唾液で濡らすつもりで舐め
次第に溢れ出した唾液が口内に溜まり始めるのが判ったが
飲み込むのはどうしても嫌で、そのまま続ける内に口端から洩れた雫が
ツゥと政宗の牡を伝い落ち黒々とした茂みに消えていった。
どうにも淫猥な光景を目にしたような気がして、慌てて目を閉じ舌を動かすと
何故かさっきよりも鮮明に目蓋の裏に甦り
嫌だ嫌だと思っても、まったく消えてくれない。
そうこうするうち、漸く硬度を持ち始めた政宗の牡が少しずつ頭を擡げだし
ほっとしたと同時に唇と一物の隙間からまた唾液が零れ
無意識に「ぢゅっ」と派手な音を立てて吸い上げた瞬間、口内のものが確実に肥大した。
ついでに何やら苦い汁も滲んで来た気がする。
戸惑って動きを止めると、「休んでんじゃねェよ」と素気無く叱られ
仕方なくもう一度舌を動かすけれど、さっきのような変化はない。
ではもう一度吸えば良いのかと考えたが、恥ずかしくて出来そうになく
涙目になりながら拙く舌だけを動かしていれば


「…はぁ…判っちゃいたが…下手糞にも程があるな」


あからさまに溜息をつき、「こっちもおいおい仕込むとするか…」という不穏な科白を呟いた後
政宗は不意に幸村の口腔から自身を引き抜き立ち上がり
呆然とする幸村の手首を掴み傍の頑丈な扉へと引き摺って行くと
座らせた状態で扉に背と頭を押し付け頭髪を鷲掴み、「口を開けてな」と命じる。
何が何やら判らず唯々諾々と幸村が唇を開いた直後、半ば以上勃ち上がっていた政宗の牡が
グイと無遠慮に突っ込まれ、息つく間もなく前後に抜き差しされる。


「おっ、ぐ…!うぶ…!」


あまりに容赦ないものだから、時折ゴツと後頭部を打つし、扉はガタガタと音を立て
おまけに咽喉の奥を突かれては甚だ許容範囲を通り越し、苦しゅうて仕方ない。
そうでなくとも既に半泣きであった双眸から、堰をきったように泪が溢れ出し
とめどなく目尻から頬に流れ落ちていき、ささやかながらの抵抗とは云わぬが
目の前に立ち塞がる男の太腿あたりを掴むと、律動はおさまるどころか激しさを増し
じゅぷじゅぷと己の口元から酷い水音がする。
顎が疲れて痛かった。
呼吸のたび独特の匂いが鼻につく。
最低であった。


「ッン!ン゛ッ、ぅぐ…っ、ゲェ!げほっっごほッ…!」


いつまで口内をめちゃくちゃにされて居ればいいのかと
水っぽい洟すらまともに啜れぬ状態でなすが侭になっていると
突然に咽喉奥へ子種を叩き付けられ、無我夢中で男のマラを吐き出し激しく噎せる。
不意打ちもいい処だ。
半分以上飲み込んでしまった挙句、咳き込んだ拍子に鼻へ廻り
ツンとした痛みと共に鼻孔からジワリと垂れて来た。


「…んん、ぐ…!ハァッ、ぜっ、ハァ!!」
「Ha、なんてザマだよ」


揶揄する声に反応すら出来ず、ズルズルと倒れ込んで息を乱し
やっと解放された顎はしかし閉じようとしても閉じられないほど疲弊して
半開きの唇からは止まらぬ唾液に白濁が混じり口端から垂れ流れ
畳にポタリポタリと滴り落ちる。
今すぐにでも胃の中のものと口内の唾を吐き捨てたかったが
顎同様感覚の無い舌はピクリとも動かない(恐らく喋っても呂律は廻らないだろう)


「Hey、明日からまた彫屋通いだ。今度は逃げンなよ?」


息も絶え絶えな幸村を気遣うでもなくそう云い置いて、政宗は身形を整えさっさと出て行き
残された幸村は、ガチリと響いた施錠の音を聞きながら、嗚咽にも似た呼気を只々繰り返した。

 

それから、半刻も経たぬ頃だろうか。
猛烈な不快感から眠る事も叶わずつくねんとする幸村の耳に
何やら囁くような声が聞こえたのは。
始めは気の所為かと思っていたけれど、心なしか、酷く近くで
それもどこか聞き覚えのある声がずっと己の名を呼んでいるような気がして
まさか…と半信半疑で畳に耳を当てると


「旦那」


床下から佐助の声がするではないか。
愕き瞠目しながら、慌てて幸村も抑えた声で応じる。


「佐助…!無事だったか…っ、…良かった……!」
「うん、俺様は大した事ないよ、心配しないで。旦那の方が、辛い思いしてんだから」
「っ!莫迦を云うな…!…否、莫迦は俺だ…お前を巻き込んで、本当に悪かった…、、」
「何云ってんの、そんな考え方しちゃダメだ。ホラ、元気出しなって。
二人で逃げれるよう、俺様が何とかするから」


と、いつもの佐助らしい口調で、励ますように言葉を紡ぐ、何という頼もしさか。

(…嗚呼、やはり佐助は凄い…)

じんわりと目頭が熱くなり、泪が浮かぶ。


「それまで、アイツに逆らわず、油断させよう。…旦那…辛いだろうけど、我慢、…ね?」
「…わかった…」


お前の云う通りにすれば間違いない、と答えた幸村へ
佐助は「そろそろ戻らないと怪しまれる…じゃあね」と云い残し、その場を離れた。
いかにして此処まで来たのかは判らぬが、きっと危険を冒したに違いない
されど佐助なら、何もかも上手くやってくれる。
何の確証もなかったけれど、長年培われてきた信頼は厚い。


「頼むぞ、佐助…」


ひっそりと呟いた幸村は、ようやっと安心して眠りについた。

 



【9へ続く】


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あとがき

展開が無くってすみませんorz この長編、こんな感じでズルズル続くかと思います;
まだまだ鬼畜スパルタ筆頭推して参りますよ^^←

2012/08/15  いた。