※流血・残酷・性描写あり。ご注意を。
  相変わらず筆頭の頭のネジが(ry

 

 

     
『愛閾(いとしきみ)』

 


「此処を一歩も出るなよ、OK?」


明くる日の朝は、そんな一声から始まった。
夜すがら嬲られた躯は疲弊しきって顔すら上げるのも億劫で、関節は音も無く軋み、
すっかり乾いた口腔の上顎に己の舌が張り付いて不快極まりなく
しかし身動きせずともズクズクジクジクと疼き痛む臀の穴は其の比ではなかった。
然るに、返事すら侭ならぬ有様で奥歯を噛み締めていると
すっかり身支度を整え終えた男が(先程、御付の者が淡々とこなしたのだ
余程の才幹か、此の幸村の事など目に入って居らぬかのように、冷静に)
徐に腰を屈めると、両腕を縛っていた縄を解いて放る。
畳の上にボタリと落ちた其の音にさえビクと過剰に反応すれば
小さく咽喉で嗤った男は「So cute」と判らぬ鴃舌を零し
乱れて肩口や頬に纏わり付いていた某の髪房を丁寧に指で梳いて流すと
いまだ汗で薄っすら湿る首筋に顔を寄せ


「…Ah−…堪ンなくソソりやがるな…アンタの匂い」
「、!…っ…、」


生え際に鼻を埋め、スゥと深く息を吸い込みつつ酷く特異な、否、奇異な科白を吐く。
他人の嗜好などそれぞれだが、もう、とにかく恐ろしゅうて仕方なく
呼気すら忘れて硬直していると、ひとしきり味わったのか
首元に軽く歯を立て強く吸い上げ、身を離して立ち上がった。


「ぃ…ッ」
「Ha、アンタそこ陽に焼けてねェから、目立つぜ」


満足気に何を云うておるのかは定かではないが、きっと不愉快な事をしたに違いない。
されど行為の意図を問う気もなく、這いずるようにして何とか身を起こすと
既に伊達は座敷を出て行く処で、入れ替わりにさっきの御付とは別の者が入って来た。
手には水を張った桶と手拭いがある。
要は身を清めよという事だろう。
なれど手篭めに遭った名残色濃い躯を見られるのはどうにも厭なので
全て己でやろうと、見苦しい縛痕甚だしい腕を伸ばし手拭いを催促したものの
傍に桶を置いて手拭いを浸し絞った其奴は、恭しい手付きで、其の伸ばした片腕を拭き始めた。


「!、よっ…せ、要らぬ…!」


張り付く舌をどうにか引き剥がし拒絶の声を上げるも、無様なほど嗄れて弱々しい。
それをどう受け止めたか、其奴は作業を中断し此方にそっと手拭いを預けると
深く平伏し何も云わず座敷を辞した。
どうやら意思を酌んでくれたらしい。
同情からか、はたまた良心からかは判らぬが
融通の利く者で良かったと胸を撫で下ろし、自身で黙々と躯を拭う。
引っ掻き傷に少しばかり染みて眉を顰め
しかしあらかた拭き終る頃には、躯中にへばり付いていた不快感も、あやつの匂いも消え
幾分かこざっぱりした気分がした。
問題は、散々臀の穴に注がれた男の子種である。
どう始末していいやら判らず、暫し途方に暮れ
されど意を決して菊座に触れて少し指を食い込ませた瞬間


「〜い゛ッ!!!」


突き抜けるような痛みに図らずも悲鳴が漏れた。
慌て指を見ると、僅かに血が付着している。
伊達のあまりに手加減のない、そしてしつこい乱暴の所為で
中あるいは縁が傷を負っているのだと悟るに容易かった。

…まことに最低だ。反吐が出る。

何というざまかと塞ぎ込んでいると、今の悲鳴を聞きつけたのか
先程の者が血相を変えて飛び込んで来て
現状を見るなり、すぐに察したのか、小さく頷いて
こっそり膏薬を持って来てくれると云うのだ。
それは大変に有難い、と頭を下げれば
「絶対に此処を離れませぬよう」と殊更に強く云い含め、急ぎ足に座敷を去る。


「………」


誰も、居なくなった。
逃げるのならば、此の機をおいて他にあるまい。
折角薬を取りに行ってくれたあの者には申し訳ないが、伊達の姿がない今の内に…
そこまで考えた処で、ハッと思いとどまる。
もし、上手く逃げられず、捕まってしまったら、一体どうなるのだ…?
何せ他の男の名を口にしただけで、側近の舌を自ら切り落とさせたぐらいだ
今度はどんな制裁を強行して来るやら、想像もしたくない。
まして、その矛先が己でなく他の者に向けられる理不尽は、断固許せぬ。


「…ならば……、いや、しかし……」


答えを出せない葛藤は暫時続き、ふと気付く。

――いやに遅い。

まさか何ぞあったのだろうか…?
一度心配し始めると、じっと待っている事など出来ず


「…少しなら、大丈夫だろう… ちょっと、様子を見るだけなら…」


鈍い痛みを訴えるあちこちを我慢して立ち上がり、
よろめきながら豪奢な絵図の唐紙をゆっくりと開いてそろそろと顔を出した直後
物云わず単座していた見張り番としっかと目が合う。


「…あ、」


しまったと声を発すると同時、奥から先程の傍仕えの者が戻って来るのが見え
ホッと安堵したのも束の間、ぎょっと目を剥く。
すぐ後ろに伊達の姿が続いたからだ。
一瞬で頭が真っ白になる。
対して、薄く笑みを浮かべ悠々と歩みを進める男は、特に怒る様子もなく
其の綽然とした隻眼の視線の先はどうしてか、某の足元に注がれており
倣うようにぎこちなく下を見遣ると、右足半分、敷居を越えていた。


「ッ!!」


瞬間、「一歩も出るな」という云いつけが甦り、ゾッと悪寒にも似た恐怖と危機感に襲われ
己でもどうしてそうしたのかはよく判らぬが、反射的に身を引いて、両開きの唐紙を急いで閉じ
扇を模した引手をしっかりと両手で押さえていた。
こんな子供染みた抵抗、姑息にも程があろう
大した時間稼ぎにもなりはしないのは明白であり
果たして、落ち着き払った、否、いっそ愉しげな声が、薄い間仕切りの向こうから聞こえて来た。


「Hey kitty、莫迦な…NO…可愛い真似してねェで、さっさと開けな」
「…っこ、断る…!某に、、某に近寄るな…ッ」
「Hmm…OKOK、力尽くってのもオレぁ好きだ…ぜ!」
「ぅあッ!!」


強まった語尾と共に色鮮やかな唐紙が派手な音を立てて飛んで来て、勢い尻餅をつく。
伊達が蹴飛ばしたのだ。
まさに暴漢さながらの手荒な所業に動揺している暇もなく
無残に外れ飛んで仕切りの用を成さなくなった唐紙の上を
男は何の感慨もなく踏み歩き中へと入って来るので
慌てて後退るもすぐに隅へと追い詰められ、身動きできなくなってしまった。
バクバクと異様に脈打つ鼓動と、流れて止まらぬ汗が酷く焦燥を煽り
合わぬ歯の根がカチカチと小さく音を鳴らす。
幾多の戦場を生き抜いて来たというのに、この男を前にすると、文字通り胆が竦み上がるのだ。


「So?そんだけ怯えてるってこたァ、自覚はあるんだな?」
「、あ…、う…っ」


自覚も何も、まずおぬしの存在自体が恐ろしいのだと、云った処で通じまい。
通じていたなら、そもそもこんな事にはならなかった。
頼むから寄ってくれるなと言外に訴え、もう逃げ場もないのに必死に距離を取ろうとすれば
優雅に腰を屈めた男は徐に某の右足首を掴み上げ


「Well、こいつァ悪い足だ… なぁ?幸村ァ…」
「…ッッ…!」


まるで、云わずとも判るだろうとでも云いたげに
猫撫で声で囁いて、ゆっくりと、思わせ振りに
足の親指先から側面を伝い踝、踝の形を丸く確かめてから脹脛までを、濡れた舌先で厭らしく辿り
最後にチラリと視線をある者へと投げた。
俄か、疎い某でもたったそれだけで察しがつき、青褪め叫んだ。


「っ!!、やめ…ッ、おやめ下され…!あの者は関係ござらん!!」
「まったく泣かせる話じゃあねェか。アンタを憐れんでわざわざ薬をくすねるなんざ」


ついつい情に絆されて、特別にお咎め無しに此処まで戻るのを許しちまうぐらいになと
此方の抗議など全く聞かず皮肉たっぷりに云いながら
伊達は後ろを振り向くでもなく片手で手招きをする。
剣呑なこの場におずおずとやって来たのは、件の薬を取りに行った者で
手には大事そうに蛤殻を握っていた。


「折角持って来てくれたンだ、有難く使わせて貰おうぜ?」


終始薄笑いをやめぬ男の一挙一動から目が離せず
今の一言とてその真意を邪推しないでは居られない。
一体どんな魂胆があるのだと、しかし考えるより早く


「おっと、忘れるとこだった」


たった今思い出したと云わんばかりにわざとらしくそう呟いた伊達は
一旦立ち上がり敷居の処まで戻ると、見張り番からスラリと刀を引き抜き取って返し
薬を手に立ち尽くしていた其奴の両膝から下を、いきなり横薙ぎに両断した。


「あ…!ッああぁあ!!!」


血飛沫がバツと太刀筋そのままに一線走り、某の悲鳴と其奴の悲鳴が重複して座敷に迸る。
寸後に畳の上に膝から上の胴体がドサリと頽れ
瞬く間に出来た血溜りの中には、落ちた蛤殻がポツンと浮かぶ。

…ッ酷い、あまりに酷い…!

完全に常軌を逸している男を批難すべく睨み上げれば、気にした風もなく刀を放り捨て
あろうことか、戦慄く某の膝を割って覆い被さって来る。
此奴、この状況でよもや事に及ぶつもりなのか…?気が違っている…!


「っ…この!放せッ、放せぇ…!」


かつて互角と称され、羨望さえ抱いた事もある男へ、今は悍ましい程の嫌悪しか感じられず
無我夢中で喚き散らしながら四肢をバタつかせ抗うも
業を煮やすでもなく、逆に笑みを深くした伊達は、静かにこう云った。


「Oh、そんだけ暴れる元気があるンなら、もう一人いっとくか?」
「?!」


誰を、とは云わなかったが、座敷の外で沈黙を守る見張り番から
ピリリとした緊迫と怯えが明確に伝わって来て、咄嗟に抵抗をやめた。
人質を取られているも同然である。


「…おのれぇ…ッ…卑怯な…!貴殿は卑怯者だ…!」
「クク、つれねェな。ちゃんと名で呼んでくれよ、幸村」
「ッ誰が!」
「あっそう」
「、、?!」


と、いやにあっさり引き下がった男が、急に立ち上がって踵を返すので
思わず弾かれたように飛び起きて其の脚に取り縋って引き止めた。
冷や汗が噴き出す。
何をするつもりか、敢えて問うまでもなかった。
是が非でも、これ以上の凶行は阻止せねばならない。
その為には、己のちっぽけな矜持など、二の次だ。


「…っ堪忍を、どうか堪忍を…!……伊達、殿…っ」
「おいおい、あんまりオレをガッカリさせンじゃねェよ。
 本当はどう呼べばいいか、判ってンだろ?」
「………ま…、…政宗、殿、、」
「Very Good」


云わせて満足したのか、梃でも動きそうになかった男がくるりと此方に向き直り
改めて下肢を割り開いて圧し掛かって来る。
急所を蹴り抜きたい衝動に駆られたが、グッと歯を食い縛って必死に抑え
合間に伊達は傍に落ちていた蛤を拾い上げ殻を開くと
入っていた膏薬をたっぷり指に掬い取り、


「塗ってやるから、ほら、ケツ出しな」


驕慢に命じるのだ。
憤慨を通り越し慙愧の念に身を焦がされるも、云う通りにするしかなく
自ら俯せになり膝を立てて腰を上げ、伊達の方へ臀を突き出す恰好を取った。
人はもしや羞恥で本当に死ねるのではないかと、そう思わずには居られない程の心持ちである。
なれど背後の男は此方の心境すら蹂躙するかのように
何の前触れもなく練薬を纏った指を菊座へと擦りつけて来た。


「う…っ、、」


無意識にギュウと力が入り拒絶を示すも、体温でゆるく溶け始めた膏薬は存外に滑り良く
伊達が少し力を掛けるだけで指は容易く中へと侵入を果たす。
しかし其れは同時に、患部を刺激する事に他ならず


「つッ…あ…!」


突き抜けた鋭痛に思わず声が出た。
しかも生憎と薬に即効性はないようで、ぬるぬると指が蠢くたび、敏感に痛みが奔る。
大の男がこの程度の事で呻き声を上げるのは内心忸怩たるものがあるが
何せズキズキジクジクと血の巡りに合わせて容赦なく痛むのだからしょうがない。
ありったけ顔を歪めて呻吟し耐えていると、不意に指が引き抜かれ
安堵の息を小さくついた矢先、再びぼってりと膏薬を掬った指が捩じり込まれ
それが数度繰り返された頃には、中に収まった軟膏の存在をしっかりと感じ取れる程だった。


「…ふ、……ふ…、ッ…?!ぅぐ、あ…!」
「Wow、こりゃあイイ」


次いで無遠慮に菊座を割って入って来たのは、有り得ぬ事に男の牡であり
ぶちゅとひどい音を立てて中の膏薬が押し出されて隙間から食み出し溢れ
留まりきらずにジワジワと内股へ滑り落ちて行く。
太腿を這うこそばゆい感覚など、この際瑣末なもので
そんなものを遥かに凌駕し全身を支配するのは、傷口を徐々に拡げられる辛痛だった。
挙句、余程具合が良いのか、舌舐めずりしそうな恍惚とした声で呟いた伊達が
此方の都合などお構いなしに享楽的に腰を揺すり始めるから、堪ったものではなく
ぐちゃぐちゃと強かに突き上げられるたびに畳を掻き毟り、悲鳴に近い声を上げる。


「ひ!ぎ…ッい、あ、ぁあ゛!!」
「Dont worry、ちゃーんと奥まで塗ってやるからな?」


そうやって口では真摯に労わってみせるが、実際にやっている事は真逆であり
患部に薬どころか塩を塗りたくって居るのと同じ悪辣ぶりは
誰が見ても拷問と断じるであろう蛮行だ。
おまけに、腰骨を鷲掴んでの激しい律動に伴う摩擦の所為で
たらふく注入された練薬がぬかるみの如く緩くなり、ぬちゃ、ぐち、と
一層淫猥な濡れ音を発するのもとても我慢ならない。


「は…っ、ひッ!、ぅう…っ、ぅう゛っっ」


込み上げる痛みやら情けなさやら屈辱やら、色々な感情が綯い交ぜになり感極まって
いつしか童子の如くボロボロと泪を流して洟を垂らし、ついでに唾も零しながら
なすが侭に揺すられていると、何か、視界の端に動くものが見え
しこたま貫かれつつ目だけを其方へ向けると、信じられない事に
膝下を失って倒れ伏していたあの者が、震える手に手拭いを持って差し出して来る。


「…あっ、あ…!」


止まらぬ出血の所為で今にも力尽きそうだと云うのに
今際の際まで此方を案ずる其の優しさに強く胸を打たれ
益々ぶわりと泪が溢れ出て止まらない。
まして此奴が斯様な有様になったのは、某が云いつけを破ってあの敷居を越えた所為であり
某さえ迂闊な行動を取らなければ、こんな事にはならなかった筈だった。
噎せるような申し訳なさで、また更に泪が出る。
ひっ、ひっ、と嗚咽を洩らし泣きじゃくりながら、必死に手を伸ばし受け取ろうとしたが
背後から深く覆い被さって来た伊達に上から手首を掴まれ畳に押さえ付けられた為叶わない。
嗚呼…!と思う間に、其奴は、逝ってしまった。


「ッ…!ッ…!!、あ、…ぅあ…!ひど、い…っ、非道ぉござ、る…!」
「Why not?ソイツだってこうなるのを覚悟でやったンだ、気にすんなよ」
「…?!」


刹那、悟る。
情に絆されたなどと、戯言だ。
最初からこうなる事が判っていて、故意にあんな心根優しい者を傍に付けたのだ。
そういう、下種な男だ、此奴は…!


「っゆる、さぬ…!おぬしだけ、は…ッあ!、ぅ゛ぅ…絶対にぃ…!」
「Exactly、アンタにはオレしか無いンだ、当然だな?」
「な、!…ひぐ、う…!、あうっ!」

 

耳の裏をザラと舐めながら、さも当たり前のように囁く男の言はやはり、正気ではない。
きっとお館様の御諚でさえ、此奴を改悛させる事など出来ぬだろう。
人の道から完全に外れている。何もかも手遅れだ。
なれば人外鬼畜と利く口など持ち合わせて居らぬ、と喘ぐ口を噤もうとしたが
抉るように深く幾度も貫かれては、碌に唇も結べず…

結局、疲弊し気を失うまで
亡骸の隣で引っ切り無しに情けない声を零し続けた。


そうして午後より後、夢も見ず闇を彷徨う某は
合議の場で伊達が甲斐から届いた書状を読みもせず破り捨てた事など、知る由もなかった。

 


 

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あとがき

18万hitキリリクにて、『「愛の縛め」の続き』という事で、書かせて頂きました^^
続きをリクエストして下さる方が居てくれて、とっても嬉しいです!軟膏プレイ楽しかったです!←
前話に引き続き、ずっと筆頭の頭から外れた大事なモノを探してるんですが、どうやら諦めた方が良さそうですね(笑

2013/07/28  いた。