※若干の残酷描写、ぬるい性描写(吐精)あり。ご注意を。

 

 

『虎口を逃れて竜穴に入る(中)』

 

「…………」
「What?ンな睨まれる覚えはねェんだが、どうかしたか?」

戦場の小さな軍勢から早くも離れ孤立し、蒼紅相対する最早見慣れた光景の中
槍を握った幸村は、常の戦構えの面に怒りと侮蔑を浮かべる。
その責めるような鋭い目つきを、薄笑いで受け止める伊達は、白々しく肩を竦めた。
そんな態度に、幸村が一気に逆上したのは云うまでもない。
「一体どの口が、そのような…!シラを切る気か!」と吐き捨てれば

「あぁ、この間の髪のことか? Sorry、あんまりにも綺麗だったンでな。
 まァいいじゃねェか。髪なんざ、また伸びる」
「…違う!!よもや知らぬなどとは云わせぬぞ!貴様が寄越した首の事にござる…!!」
「ん?ah〜、そっちか。ってか、何でそんなに怒ってる。オレは当然の事をしたまでだぜ?」

と、一向に悪怯れる様子もなく、不思議そうに小首を傾げる男に
幸村はかつてない嫌悪と敵意を覚え、ギッと更に強く睨みつける。
一国の主ともあろう者が、斯様にも善悪の区別つかぬほど情意が欠落しておるのか
云うに事欠いて「当然」などと、言語道断、人道を遥か彼方へ踏み外すも大概だ。
幸村は煮えくる腸ながら、これだけは諫めねば気が済まず、獅子吼せんと口を開く。
されど、

「幸村ァ、あんた怒ってる顔も可愛いな…」
「…!!」

舌舐めずりをしつつ、的外れなことを囁いた伊達に
出鼻を挫かれるどころか開いた口が塞がらず、唖然と瞠目する。
まるで判っておらぬのだ、この男は。
そうでないなら、元より狂っているとしか云いようが無い。
ゾッ、と幸村は急な恐怖心に襲われ、一歩二歩と後退る。

(…此奴、到底某の手に負えるような輩ではない…っ)

敵将を目前にして背を向けるなど、武士の名折れも甚だしいが
これはもう左様な悠長な事を論じている場合にあらず。
お館様より国境の護りを任された身にて、その責の重大さは十分承知して居るものの
本能が叫んで煩いのだ、「逃げよ!」と。
そもそも、道理の通じぬ悪竜など、まともに相手をすべきではない
此処は一時撤退して、多数の増援を連れ、早急に討滅にあたるが利巧だろう。
…それに、もし、またあの手に捕まりでもすれば、今度は何をされるやら…!

「…っく!」

三十六計逃げるに如かず、
幸村は槍を収めて身を翻すと、鬱蒼と生い茂る雑木林の中へ飛び込み、遮二無二疾走した。

「っはぁ…っは、…ッ、はっ…!」

太い木々の合間をすり抜け、湿った土を全力で蹴り、薄暗い山中をとにかく走る。
こんな時に限って、頼りになる忍の彼は、またもや居合わせておらず
主命を帯びて何処ぞへと馳せたか、肝心な時ばかり姿が無いのだから、まっこと都合が悪い。
忍具の一つでも用いれば、容易く窮地を脱せようものを。
しかし愚痴っている暇はないのだ、一刻も早く此処を離れねば。

「…はっ、はっ…! ……あ…ッ!」

このまま森の木を利用して、姿を隠しつつ麓まで駆け下りるか
それとも一旦身を潜めて、奴をやり過ごすか
どちらが得策かと逡巡する幸村は、俄か短く声を上げて立ち止まった。
無我夢中で走っている内、森の切れ目に飛び出してしまい
目の前には此方の焦燥など露知らず、サラサラと穏やかな小川が流れる。

「…し、しまった…っ」

こんな開けた場所、すぐにも見つかってしまうではないか。
早く、もう一度森の中へ入らねば、と幸村が足を進めようとしたその時
背後より物音が聞こえ、慌て振り向き耳を欹てる。
バシッ、バサッと木々の枝葉を乱雑に刀で切り落とすが如く不穏な音だ。それと同時に、

「ゆぅーきぃーむらァ〜、Where are you〜?」

まるで謳うように口ずさむ低い声が、ハッキリと聞こえ、直後

「見ぃつけたァ」

蒼い具足姿が現れた。

「ッ…あ!」

思わず悲鳴を上げた幸村は、反射的に駆け出そうとするも
脚が縺れ、浅い細流へバシャリと情けなく尻餅をつき
転げぬよう後ろに手をついたそのままの体勢で、水飛沫を散らしながら無様に後退る。
が、悠然と歩み寄って追い付いた伊達が無造作に上げた片脚に
肩口をしたたかに突き押され、容易く力負けし、派手な音を立てて背中から倒れた。

「…あっ…、ぐ……、、」

そうして起き上がる暇もなく、上から更に踏み躙るように体重をかけられ
幸村は仰向けに膝を立てた侭、半身を水に浸からせ呻いた。
ほんの足首ほどまでの水嵩とはいえ、秋の山の川だ、存外冷たい。
されど今は瑣末な事であり、何が何でも這い出さんとて足掻けども
体勢の不利は目に見えている、それに、川底の石がツルツルと滑り、体勢すら立て直せぬのだ。
これは不味い、と一層の焦りを募らせつつ、幸村は懸命に訴えた。

「ック、ソ…!放せ…っ、その足を、退けよ…!」
「Ha!そう吼えるなよ。オレに捕まった時点で、何をしても悪足掻きだ」

不遜に此方を見下ろしながら、伊達が不意に腕を伸ばし
腰の紅い草摺りに手をかけるので、幸村は愕いて声を荒げる。

「っ、…よせっ…、何を…!!」
「イイコだから、大人しくしな。別に取って喰いやしねェよ」

などと薄哂いで云われ、「そんな言が信じられるか!」と、抵抗を続けようとしたが
「仕様がねェな」と呟いた男が徐に体勢を立て直し
今度は肩口の代わりに両腕を踏みつけ、スラリと二爪目を引き抜くなり

「…!づっ、あぁあ゛…ッ!!」

幸村の掌へと無情にも突き立てた。
鋭い切っ先は容易く川底にまで貫通し、両手を左右それぞれ釘打つように固定する。
生身を穿って切り裂く鋭利な激痛により、幸村は絶叫した。

「ah―…、想像以上にクるな、アンタの悲鳴」
「、っはぁ…!ハァッ!…つッ、う……ッ」
「まァとりあえず、これで大人しくしてな。一生槍を握れなくなるのはイヤだろう?」
「…っぁ、…あ、、」

そんな脅し文句を弄しながら、伊達は幸村の両膝の間に割り込んで、どっかりと胡坐をかき
先程の続きとばかりに、さっさと幸村の腰周りの重たい草摺りを取り去って投げ捨てると
焔模様の袴も躊躇なく引き摺り下ろし、きちんと結ばれた下帯まで一気に剥ぎ取った。

「あッ…!」

一瞬にして我に返った幸村は、掌の痛みの事など忘れて羞恥の声を上げたが
少しでも身動きすると、思い出したように両手の鋭痛が傷口を焼き、息を呑んで身を強張らせる。
下手に暴れれば、伊達の云う通り、掌は根元から裂け、二度と槍は振るえなくなるだろう。
歯を食い縛って、苦痛と現状の打開がどうしても儘ならぬという事実を受け止めねばならず
それが涙が滲むほど口惜しかった。

「っふ、…ぅ…、ッ」
「…Oh…、そのツラは反則だぜ、幸村」

まったく可愛過ぎる、と興奮気味に零した伊達は
明るい陽の下、下半身丸出しで恥辱に喘ぐ幸村の顔と
萎縮しきった牡を、舐めるようにじっくりと眺め耽り
嗚呼、いっそ溜息がでそうなぐらいの嘉悦だと、口角を吊り上げ
煩わしげに稲妻模様の篭手を外して川へ落とすと、無防備な牡へと手を伸ばし、握り込んだ。

「…っン…!、やめっ、、斯様な、辱め…を…っ」
「Uh-huh…アンタが恥に塗れる様、たっぷり魅せてくれ」
「、ぅ、あ、、!」

慙愧の念に堪えぬと戦慄いて首を振る幸村に構わず
伊達は素手に収めた其れをゆるりと撫でる。
云わずもがな、くにゃりと柔らかい。

「クク…なんかスゲー燃えて来た」

伊達は加減して握っていた陰茎の全体を押し潰すように揉み込んで
竿の根元を緩く扱いたり、亀頭の括れまでも指の腹で擦ってみたりと
その若干手荒く、されど巧みな動きに、萎えていた幸村の一物は
本人の心情とは裏腹に次第に芯を持ち、質量と熱量を嵩ませていく。

「っ、…、ぅ、ッ」

押し殺せず漏れた吐息はそのまま、本人の快楽の程を示しており
況や、いつの間にか半ばまで勃起した牡が、其れを明け透けに表していた。

「…いい具合じゃねェか」
「、っく…、あ…!」

ついには硬く反り返り、先端から透明な先走りを滲ませる様を終始眺めつつ
伊達は手を休めず、より激しく幸村を追い詰めんと執拗に愛撫する。
そんな事をされて堪らないのは、幸村だ。

「ん…っ、ふ…ッ、、!」

こんな屈辱的な状況下で、あっさりと男の手管に屈服し
浅ましく屹立する自身の一物が死ぬほど恥ずかしく
身悶えながら泪を流し、せめて情けの無い嗚咽だけは零さまいとするが
己の先走りで濡れた伊達の指先が弱い亀頭を引っ掻くと、どうにも我慢ならず
聞くに忍びない掠れた声が、荒い呼気の合間に度々混じる。

「ひっ、…はっ…、ぅう、、っっ」
「いいねいいねェ、アンタ最高だぜ」
「ッ、ん…、ぁ…!」

喜悦に浸る伊達に、一層強く竿を扱き抜かれ、限界が一挙に押し寄せてくる切迫に
もう、駄目だ、、と目を瞑った幸村は、呆気なく射精した。
その直前に伊達が懐から取り出したモノにも気付かず。

「…はぁ、…は…ぁっ…、、」
「グッジョブ幸村、どんぴしゃだ」
「…ッ…? 何を、云って…、、」

嬉々とする男の科白が理解できず
閉じていた目蓋を薄っすらと開いて伊達の手元を確かめると、何やら小さな壷を持っている。
よくよく見れば、縁に粘ついた白濁が僅かへばり付いており
其れがたった今、己が吐き出した子種だと合点がつくのは、早かった。
此奴、あろうことか人の子種を小壷の中へと注がせたのである。
一体貴様は何がしたいのだと、問い詰る言はしかし、言葉にならなかった。

「一回程度じゃ足りねェ…もっと頑張れるよな?幸村…」
「ッ?!」

呟いた男が、萎えかけた幸村の牡へと再度手を伸ばし
達した直後の敏感な其れを、しこたま扱きだしたのだ。

「あっ、…ぁ、ふ…っ」

結局、幸村は抗い切れず、二度も三度も無理矢理に吐精を強要され
搾り取られるように全て、小壷の中へと消えていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「…旦那、大丈夫…?」
「……うるさい、話しかけるな……」

小戦から居館へ戻って来て、鬼のように水を浴びて身を清めた幸村は
槍を掴んで道場に篭もったきり、二日間、一歩も出て来ない。
世話を焼く侍女達すら締め出してしまったので
仕方なく天井裏から忍び込んだ佐助は、声を掛けるなり素気無く飛んで来た剣呑な物言いに
開いた口を閉じて渋面を作らざるを得なかった。
主が斯様な有様なのは、疾うに事情を訊き出して知っている。
だからこそ、佐助も安易な言葉は決して云えなかった。
だが、いつまでも泣き寝入り、ではなく、鍛錬漬けで居ては、埒が明くまい。

「…大将には相談した?」
「ッ?!おっ、お館様に…?!そんな事、出来る筈がなかろう…!!っツ、あ!」

お館様に反応し、闇雲に振るっていた槍を止めた幸村は
殆ど叫びながら佐助の方へと振り向きざま、ガランガランと二槍を取り落とした。
見れば、小刻みに震える両手に巻いたサラシに血が滲んでいる。
つまり、今の今まで、掌から甲にまで達する重大な傷があったにも関わらず
此処で槍を振るい続けて居た、という事だ。
佐助は大きく溜息をつき、

「ちょっと旦那、一旦休憩しなさい」
「っしかし…!」
「いーから、こっち来て、座る。でないと俺様が大将にぜ〜んぶ喋っちゃうから」
「まっ、待て!それだけは決してならぬっ、佐助!」

些か卑怯だとは思いつつも、こんな脅しでもしなければ到底聞き入れない事は判っているので
自分の目の前を指差しながら、聞こえよがしに嘯けば
「滅多な事を云うな!」と、冷や汗を浮かべた幸村が、思惑通り、慌てて走り寄って来た。

「ホラ、ちゃんと座って。まずは傷の手当から」
「…う、うむ…」

何か云いたげなのを敢えて無視し、血に染まったサラシを手早く解いて
特製の血止めと化膿止めを塗りたくる。
明らかに傷口の具合が悪化していた。
どうしてこんなになるまで己を追い詰めるような莫迦な真似をしたのだと
胸の内で咎めながら、だがそれも致し方ないのか、と心中察する部分もある。
けれど、それとこれとは話が別。

「あのさ、俺様的には早めに大将に相談する事を激しく推奨するんだけど」
「…くどい。それだけは絶対に、ならん」

何度も云わせるな、と幸村は上目で睨み上げ、新しいサラシを結び直す佐助を牽制した。
此度の事を打ち明けるとなると、これまでの数々の出来事も報告せねばならなくなろう
そんな恥曝しをよもや己からするなどと、甲斐武田の将としての矜持が決して許しはせぬし
斯様な面倒沙汰でいちいち余計な心配はかけたくないのだ。
いや寧ろ、御耳に入れる事自体が、あまりに汚らわしい。絶対にあってはならぬ。

「…佐助、くれぐれも内密に頼むぞ……」
「ハイハイ、旦那がそこまで云うなら」

でも、マジで危ないと思ったら、一人でどうにかしようとしないでよ。
と、珍しく真面目な声色で釘を刺す佐助に、幸村は神妙に頷いてみせた。

「ちゃんと約束してよね。旦那って危機感足ンないからさ…」

間違っても竜穴に引き摺り込まれたりしないでよ?
という後半の茶化すような言葉には、「左様な事には絶対ならぬ!」と声を荒げ
されど、拭いきれぬ汗のように、背にヒヤリと残る悪寒を払拭すべく
幸村は愛槍を拾って立ち上がると、
佐助が「折角手当てしたのに!」と叫ぶのも耳に入らず、再び鬼神の如く鍛錬に打ち込んだ。

 

――――――――――――――――――――

 

「Hum…だいぶ集まったな」

奥州は米沢城御座所の更に奥、端女はおろか、家臣の誰しもが存知もせぬ薄暗い隠し小間にて
伊達は一人満足気な笑みを浮かべ、うっとりと己が収集したモノを眺め耽る。
くたびれた鉢巻、栗色の長い髪房、汗染み残る紅揃え
中でも、しっかりと封をかけた小壷には 
手に入れたばかりの幸村の子種が、たっぷりと満たされている。

「Ah〜、でもやっぱ、此処まで来たらそろそろ本体が欲しいよなァ…」

その不穏な科白を、もしも幸村が耳にしていたなら、十中八九、卒倒していただろう。

(…………)

そうして一人クツクツと哂う伊達の様子を
静かに隠れ聞いて居た片倉は、主に気付かれぬよう、そっと廊下を忍び歩いて自室へ戻ると
一通の文を走書きし、融通の利く配下の者へ持たせ、急ぎ甲斐へと奔らせた。

 




【下へ続く】


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あとがき

筆頭の頭のネジが見当たりませんw

2010/10/09  いた。