※残酷・暴力的表現あり。 かぐや姫パロです。 かぐや姫=幸村(♂)、帝=筆頭で推して参る。
 尚、ご要望があった為、信幸(捏造)&小次郎(捏造)が出てきます。ご注意を

 


『耀ふ弱竹』


鬱蒼と生い茂る竹林があった。
その猛々しい青竹を黙々と伐採し、辛うじて糊口をしのぐ青年の名は、真田信幸と云う。
伸びるに任せた長い栗色の髪を緩く一つに纏め肩口に垂らし
まるでおなごのような小奇麗なそれは、しかし優しげな顔立ちに良く似合っており
困窮する日々の暮らしの辛さなど、微塵も感じさせなかった。

「…ん?」

そんな信幸の手がふと止まる。
いつもの竹林と変わりない筈だったが、ふと奥の方に、何やら光る物を見つけたのだ。
斯様な辺鄙な処に一体何があるのかと、不思議に思い近付いてみれば
どうやら立派な竹の幹が、こがねの如くきらきらと輝いているようだった。
あまりにも面妖である。
中になんぞ入っているのだろうか?
なれど気味が悪いという気はせず、寧ろ些かの好奇心に駆られ
慎重に竹の節の少し下辺りを鉈で切り落とした処、あろうことか、
中から三寸ばかりの可愛らしい事この上ないおのこが出て来た。
夕映えの茜のように赤みがかった大きな眸はじぃと物珍しげに信幸を見つめ
信幸と同じか、それ以上に艶々とした栗色の髪房が、見るからに柔そうな肌を彩る。

「…こんにちは、小さな童子君?」

膝を折って目線の高さを同じにし、にっこりと微笑みかければ
近所の稚児が戯れる人形よりも小さな童はふわと安心したような笑みを浮かべ、信幸に手を伸ばす。
刹那、信幸の胸にじんわりとした慈愛と温かい庇護欲が満ち
己の弟として育てよう、と決断するのは早かった。

「…うん、そうだね、今日から君の名前は幸村。真田幸村だ」

斯くして、今後辛い定めが待っているなどと知る由もない信幸は
小さな幸村と二人で暮らし始めた。

その後は竹林に入るたび、同じ竹から金銀が溢れる事が続き、次第に生活は豊かになって
瞬く間に時は経ち、僅か三ヶ月ほどで逞しい青年へと大きく成長した幸村は
信幸を実の兄のように慕い、「兄上、兄上!」と屈託なく呼んではよく懐いた。
無邪気で愛嬌のある笑顔は周囲を魅了し、他に類を見ない茜色の眸は透き通って美しく
しなやかな体躯の腰の辺りまで伸びた長い髪房は、総じて見目好い容姿と相俟って
結髪にしろ垂髪にしろ、一瞬おなごと見紛う事もある。
一度面白半分に派手な小袿を着させ、枲の垂衣姿で都を歩かせた処
一ト切りもしない内に男連中に囲まれて、しつこく云い寄られた程だ。
(路のど真ん中で動けなくなった幸村を慌てて信幸が助けに走った事は記憶に新しい)
そんな事もあってか、暫くもしない内にどこからともなく幸村の噂は広まり
「なよ竹のかぐや」なんぞと呼ぶ輩まで出て来るばかりか
(なよ竹は「しなやかな竹」という意で、ちらちらと揺れて光ることを「かがよう」という)
もはや幸村の性別など関係なく、世の男共はその貴賤を問わず
どうにかして幸村を手に入れたいと過ぎた願いを抱くようになり、あたかも恋い患うかの如く思い悩んだ。
果ては幸村の姿を一目見ようと、信幸の家の周囲をうろつく者達が後を絶たず
垣根やら門やらに群がるのだが、警戒した信幸が幸村を隠すように奥の部屋に押し込めてあるので
容易にその姿を目にする事はできない。
そうなると益々男心に火がつくのか、夜も寝ず闇夜に出でては穴をえぐり
中を覗き込むほど躍起になる連中まで出てくる始末で、全く手に負えない。

「…あ、兄上、、某は一体どうすれば…?こうも群がられては、おちおち鍛錬も出来ませぬ…」
「うーん、困ったねぇ…一生閉じ込めておく訳にもいかないし…」

灯りを燈した室内で、難しい顔をして向き合った二人は
互いにはぁぁと深い溜息をついた。とにかく息苦しくて敵わない。

「見廻り番でも雇おうか…いやそいつが虜になって使いものにならなくなるのは目に見えてるし、、」
「ま、まことでござるか」
「うん、間違いなくね」

もういっそ誰か一人の物になれば誰も文句を云えなくなるかな?
という信幸の、場を和ませようとした軽口に、ピシリと幸村の表情が強張る。
それを見て慌てたのは信幸だ。

「あーウソウソ!冗談だよ!大事な幸村をどこかにやってしまうなんて考えられないからね!」
「…はい」

少しばかり甘えたな幸村は、信幸の元を離れるという選択肢が例え冗談でも気に入らなかったのか
若干唇を尖らせ、拗ねた目を向けて返事を寄越す。
信幸としても幸村にここまで好かれている事は嬉しいものの
身動き侭ならぬ現状は何とかしなければならない。
護身の為にと以前より始めさせた武術は既に卓越した武人程度の幸村であるから
そんじょそこらの者に拐かされてしまうという事はなかろうが
血迷った人間は何をするか判らない、もしもという事もある。
さてどうしたものか…と再び頭を悩ませたその時、ふと妙案が浮かんだ。

「何か条件を出して、それを見事やり遂げる事ができた人の元に行く…というのはどうだろう?」
「…なれどそれは、、」
「だからね、わざと達成できないような無理難題を出してやるんだ。
 そうすれば、たぶん皆諦めてくれる筈だよ」
「…!なるほど!!そういう事であれば、お任せ下され!」

信幸の提案に得心がいったのか、幸村は頼もしい力強さで頷くと、早速信幸に耳打ちする。
その内容に異論などあろう筈もなく、信幸は「偉いぞ幸村」と褒めながら
くしゃくしゃと頭を撫でてやった。
そうして明朝。
早速信幸は家の外に居た者達にこう告げた。
『仏の御石の鉢』『蓬莱の玉の枝』『火鼠の裘(かわごろも)』『龍の首の珠』『燕の産んだ子安貝』
このどれか一つでも持って来た者の手に幸村を渡す、早い者勝ちだ、と。
途端に周囲から歓声めいたものが上がる。
みな指を咥えているしかなく焦れていたので、信幸の提案は中々に魅力的だったのだ。
たちまち其の話は都中に蔓延し、誰も彼もが色めき立ったが
それはすぐに溜息混じりの諦念へと変わった。
というのも、提示された五つの宝は、どれも噺にしか聞かない珍しい物ばかりで
手に入れるのは困難…というより、本当に実在しているかどうかも怪しい。
無論、ただの平民がおいそれと手に出来るような代物ではなく
次々と諦める者が続出する中、地位も財も人脈もある五人のやんごとなき方々が台頭して来たものの
ある者は何の変哲もない鉢を持って来て本物だと嘘をつき
ある者は精巧な贋物の玉の枝を作らせ
ある者は商人から買ったという燃えぬ筈の皮衣が燃え
ある者は両目に李のような珠をこしらえて来たが単に病の所為であったし
ある者は屋根に上って子安貝らしき物を掴んだ筈が燕の古い糞だった。
結局全滅である。
そんな様子がとうとう帝にまで伝わるのに、然程時間は掛からなかった。

 

「なァ小次郎、市井に面白ェのが居るそうじゃねぇか」
「…なよ竹のかぐやですか?」
「そうそうソレソレ。名前はなんつったっけ…Ah−…」
「幸村」
「Thats it! ちょうどヒマしてた処だ、会いに行こうぜ」
「…はい?」

まるで蹴鞠にでも誘うような気軽さで云い、さっさと仕度をし始める姿に
この国の頂点たる自覚やら品格やらは皆無である。
…またこの人はその場の気分で我儘を云いだした…とばかりに小次郎は額に手を当てると
自身の兄であり、帝でもある男、伊達政宗に、呆れきった視線を投げつつ
どうせ何を云っても聞き入れてくれない事は身に沁みて判っていたので
まさか一人で外出させる訳にも行かず、渋々と付き添いという名の監視の為、己も準備を始めた。
こうして御忍びで出掛けるのはもう何度目になるだろう
またぞろ臣下の面々には小言を喰らうだろうが、きっと過剰な反発はない筈だ。
以前しつこく云い募った者が居たのだけれど
「Shut up」という一言のもと、あっさりと斬り捨てられたからである。
故に政宗は、歴代の帝の中でも随一の残忍さであると、かなり恐れられていたりする。

「So?噂のPrincess Kaguyaのツラは拝んだ事あるのか?」
「いいえ、興味ありませんので」
「あっそ」

牛が引く大きな牛車ではなく、堂々と馬の背に跨り、そんな他愛ない話をしている内に
早くも信幸の家に到着した政宗は、馬を小次郎に預けると
家主に許しを請う事もなく敷地の中へ我が物顔で入って行った。
さすがの横暴っぷりである。

「…ん?」

平民が有する家にしては広い庭を、悠々と歩き母屋を目指していると
どこからか勇ましい声が聞こえて来て、立ち止まって目を凝らすと
白い小袖に緋袴姿の男が、珍しくも二槍を手に、修練に励んでいるようだった。
興味を引かれ其方へと近付けば、世に二つとない紅い眸の大層な見目好しであり
「こいつか」と呟いた政宗は、熱中しているのか此方に気付かず槍を振り回し続けている幸村の
清麗な容姿の割に勇猛な稽古姿に目を眇め、じっくりと眺める。
纏う空気は確かに常人のそれとは異なるものの、小生意気そうな顔はなかなか己の好みだ。
あれを泣きっ面に歪めてやったらどんなに気分が良かろうか。
玉の汗を浮かべる瑞々しい肌は、おそらく触れれば吸い付くのだろう
それに歯を立て食い破ったらきっと胸躍るほど興奮するに違いない。
艶やかに舞う長い髪房は、宮中のどんな女よりも上質に見え
あれを引っ掴んで引き摺り廻せばさぞや愉しかろう。
男のくせにつるりと張りのある頬を引っ叩いたとしたら、小気味良い悲鳴が上がるだろうか?

「Hmm…さっそく試してみてェな」
「ッふおあ?!な、何者でござるか…!!」

思わず漏れた一言で、漸く政宗の存在に気付いたのか
幸村は跳び退りながら槍を構えると、怯えた犬のように吠えた。
それもそうだろう、先だっての五つの宝の五人の失敗以来
人の好奇の視線と共に屯していた気配は散り散りとなり
もう外に出ても大丈夫だろうと、久しくしていなかった鍛錬に気持ちよく没頭していた処
いきなり見ず知らずの男が不遜な笑みを浮かべ立っていたのだから。

「Oh、自己紹介がまだだったな。オレは伊達政宗だ。一応帝やってる」
「なっ?!」

立て続けの驚愕に襲われて幸村は瞠目する。
何でもない事のように軽く宣う男の真偽を思わず疑ってしまうものの
これ見よがしに左右に振られた笏は上が四角い。(臣下ならば丸みを帯びている)
ならば本物か、だとしても一体何故こんな処に、しかも供もつけずに一人で、、ありえない。
幸村は俄かに混乱し、邸内に居る信幸に助けを求めるべく、槍を捨てて駆け出したが
すぐに政宗に手首を掴まれ、強い力で引き戻される。

「ッ…!」
「逃げンなよ」
「、ん、む…っ」

おまけに抵抗する間もなく顎を掬い上げられ一方的な口付けを施された幸村は
必死に掴まれていない方の手で政宗の肩を押しやって抵抗したけれど
乱暴に小袖をひん剥かれ、肩口諸共上半身が露わになり、「ひっ!」と息を呑んで硬直した。
そんな幸村をよそに、政宗は弾力のある幸村の下唇をやわく咬んだあと
汗で湿る項をがっちりと押さえ込みながら、
外気に触れて誘うように立ち上がっている淡い色合いの乳首を
程よく盛った胸筋ごと荒々しい手付きで揉み上げる。

「あっ、!う…ッ」
「優形かと思いきや、中々やらしい躯つきしてやがるな」
「う、…く、、離っ、離して下され…!」

誰だよ、なよ竹なんぞとほざいたアホは、と政宗は嗤いながら
幸村の抗議などそ知らぬ顔で右から左に聞き流して、片膝を下肢の間に割り込ませ更に密着し
脇腹からツ…と流れた汗の滴が形のよい腹筋を辿り緋袴の奥へ伝い落ちていった様に妙な官能を覚え
久々に湧いた劣情に任せて鮮やかな緋色の袴を引きずり下ろそうと手をかけたその時

「?!」

突如目の前の幸村から炎が吹き上げ、その熱と勢いに圧倒された政宗は
咄嗟に数歩下がって距離を取った。
燃え盛る焔は幸村を守るようにその身を包んでおり、手は出せそうにない。
よもや人のなせる業ではなかろう
なるほど、確かに地上の人間ではないのだと納得し

「…おもしれェ、おもしれェじゃねーか幸村…!」

普通の者であれば畏怖し怯む処だろうが、生憎と政宗はその限りではなく
口角を吊り上げ昂った感情を露わにし、嬉々として腰に下げた六振りの刀に手を伸ばした。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「Ah?」

しかし第三者の慌てきった声が介入し
いい処を邪魔するなとばかりにあからさまな不機嫌さで眉を顰めた政宗は
刀の柄に手をかけた侭、面倒くさそうに声の方を振り返った。
信幸である。

「お願いですから、争いごとはやめて下さい…!とにかく事情を、事情を教えて下さい…!」
「……チッ、殺すのは簡単だが、萎えちまった」

アンタの所為で興醒めだと溜息まじりに嘯いた政宗は、
炎を引っ込めハァハァと荒い息で此方を睨みつける幸村をちらりと見遣り

「テメェは必ずオレが手に入れる。首を洗って待ってな」

身勝手な科白を云い残して、信幸を一瞥もすることなく踵を返し、さっさと去って行った。
残された二人は暫く呆然と動けないでいたが
思い出したかのように幸村がよろよろと槍を拾い始めたので、我に返った信幸は
一体何があったのかと、なるべく慎重に問いかけ、事の顛末を幸村の口から聞き、素直に愕く。
まさかあの残酷無比な政宗に幸村が目を付けられるなど思いもしなかった。
ましてこんな処に一人で乗り込んで来るなどと…
話には聞いていたが、一癖も二癖もあるだけでなく、とんでもなく突飛な御方である。
兎にも角にも、今後は決して幸村を一人にはさせまいと決意する信幸だったが
なにやら幸村にいつもの元気がない。
どうした、まだ何かあるのかと、心配した信幸が顔を覗き込めば
幸村は意を決したように拳を握ると、とつとつと話し始めた。
己はこの国の人ではなく、月の都の人であって
この八月の、満月である十五日には月に帰らなければならない、その迎えが来るのだと。

「…っ」

薄々、いつかそうなるのではないかという不安と予感を持っていた信幸は、我知らず息を止めた。
静かに打ち明けた幸村の心情はいかようであろうか、
今にも泣き出しそうな悲しげな顔を見れば、果たして十分である。
信幸は深く頷いて、胸の内である決意を固めた。

 

あっという間に時は過ぎ、十五日の夜である。
信幸の屋敷には、築地の上に千人、母屋に千人の衛兵が配置され不寝番にあたっていた。
信幸が先の五人の貴族に事情を説き助力を請うたところ、快く引き受けてくれたばかりか
当人達も武装し中庭に詰めており、まさに一分の隙もなく護りを固めている。
(帝である政宗には話さなかった。畏れ多い…というのは建前で、
 もうあの危険極まりない御方に関わりあいたくない、というのが本音だ)
幸村の身は一番安全と思われる塗籠へ隠してあり、戸に錠まで下ろしている。
これで出来得る限りの事はした。
後は月からの迎えとやらを待ち受け撃退するのみである。
本来ならば大人しく幸村を月へ帰らせてやるべきなのだろうが
あんなにも辛そうな顔を見た後では、信幸に選択の余地はない。
それに、信幸とて幸村と離れたくはないのだ。
――そして子の刻にさしかかった頃、それは突然起こった。

「…!!」

上空の一点が昼の明るさよりも眩しく光り
雲に乗った雅やかな装いの天人達が音もなく降りて来て、地面から五尺という処で留まり立ち並ぶ。
神々しいというよりも、異様と申すか、何にせよあまりにも得体が知れぬ未知の存在に
衛兵達ばかりか五人の貴族までもが戦い合おうなどという気概が失せ
ただただ固唾を飲んで佇立するのみ。
何とか心を奮って弓を構えようとした者も居たが、気圧されたように手から力が抜け萎えてしまい
唯一、信幸だけが気丈に堪え、なんとか矢を射たが、あらぬ方へと飛んでいき、呆然とした。
見えざる、されど決定的な一線が、確実に画されている。
信幸の胸中を絶望が覆った。
天人が何やら語っているが、全く耳に入らない。
戸を封じていた筈の錠は容易く溶け落ち、開いた戸の奥から、幸村が諦めた面持ちで歩み出て来る。
すると天人の中の一人が恭しく箱を差し出して、天の羽衣だと云い
また別の一人も同じように箱を差し出し、不死の薬だと云う。

「この羽衣を纏えば煩わしい物思いが無くなりましょう」
「下界の物は御口に合いますまい、どうかこの薬を」

その言葉で、信幸はハッと我に返り背筋を凍らせた。
もし羽衣を身に付ければ、幸村は感情をなくし、信幸の事などどうとも思わなくなり
薬を口にすれば、完全に月の人となり、もう二度と同じ地に立つ事はないだろう。
そんな事があってなるものかと、無我夢中で阻止すべく駆け寄ろうとしたその時、

「Hey guys、オレ抜きで勝手に話進めてンじゃねーよ」
「ぎゃあぁ!!」

不敵な科白と共に稲光が奔り抜け、直後に悲鳴が迸った。
恐る恐る見遣ると、不死の筈の天人の内の一人が、ブスブスと焼け焦げ地に伏せピクリとも動かない。
そんな莫迦な…!
動揺する信幸をよそに、ゆったりと歩み寄って来た蒼い具足姿の男、政宗は
両手の六爪の刀を構え、一気に跳躍し空中の天人達の首を一斉に刎ね飛ばした。
さしもの天人も愕いたのか、一体どうしてとばかりに政宗の凶刃を凝視し、瞠目。

「yep、察しがいいな。牙龍っつってな、オレの愛刀の一つだ。霊験あらたかな霊剣だぜ?」

物の怪だろうが天人だろうが何でも斬れると得意気な笑みを浮かべるさまに
畏敬の念や躊躇い、まして後悔などという物は一切なく
まさに神をも恐れぬ男かと、信幸は戦慄した。

「Well、残ったのはあと二匹か」

その鋭い視線の先には、幸村の傍で箱を抱えていた二人。
つい先程までは絶望的だった状況が、よもや一瞬の内に引っ繰り返ってしまうなど、誰が予測できようか。
信幸や幸村、周囲の者達は勿論、天人でさえ一寸と動けずに居ると
ニィと悪鬼のように禍々しく口角を吊り上げた政宗が、悠々と距離を詰め
雷光を纏って青白く光る六爪を目にも留まらぬ速さで振り下ろす。

「ッ!!」

叫び声も侭ならず絶命した二人の天人は、それぞれ四等分になりながらバラバラと崩れた。

「…な、なんという事を…!貴殿は、鬼か羅刹にござる…!」
「Ha!ちげェだろ?アンタが云うのは礼だ。
 これで月に帰らなくてよくなりました、ありがとうございます政宗様ってなァ」
「…!!」
「で?まさか忘れちゃいねェよな、テメェを手に入れるのはオレだっつったの」
「あ…、」

一歩踏み込まれ、一歩下がる。
背筋をざわざわと妙な悪寒が這い上がり、指先が震え
今にも咽喉笛に牙を突き立てて来そうなほど獰猛な色を帯びる隻眼に射抜かれては
この男の手に捕まるのがとてつもなく恐ろしい事と感じ
しかし逃げたくとも周囲を厚く壁で塗り籠めたこの部屋では
政宗が立ち塞がる戸口以外に出口はない。
ゴクリと唾を飲んで無意識にもう一歩下がった瞬間、素早く動いた政宗の腕が伸び
幸村の小袖の衿を乱暴に掴み寄せ、幸村が抗うより早く、耳朶に薄い唇をひた当て囁く。

「…またこの間みたいな妙な抵抗してみろ……大好きなお兄ちゃんの首、掻っ切るぜ」
「つ…!!…この、外道が…!!」
「クク、どうとでも云えよ」
「、う…っく、、」

耳の形をぬるりと舌で辿りながら、袴の上から尻たぶを両手で思わせぶりに揉みしだかれ
幸村はせり上がった嫌悪感に眉をしかめて呻き声を上げるも
先だってのように己の持つ特異な能力を使い逃げる事は出来ず、歯噛みする。
血の繋がりこそないとは云え、兄と慕って来た信幸の命を盾に取られては、なす術はない。
反射的に反撃しそうになる躯を無理矢理に意思で抑え込む所為で
全身がひどく硬直して小刻みに戦慄いた。
それをどう思ったか、くつくつと愉しげに咽喉で笑った政宗は
「御殿に連れ帰ってから喰ってやろうかと思ってたンだが、気が変わった」
と剣呑な事を云い出し、目を見開く幸村の片足に足を絡め引き倒すと
共衿を鷲掴んで殆ど引き裂くように左右に掻き拡げ
右脚を肩に担ぎ上げて幸村の腰が浮くと、脱がせやすくなった緋袴に手を掛ける。
だがそこで、またしても邪魔が入った。

「さ、差し出がましい事とは重々承知しておりますが!何卒!思いとどまり頂きたく…!!」
「……は―…、まーたアンタかよ」

戸口の外の庭先から聞こえた切羽詰った声の方へと振り向けば
案の定、ぬかるむ泥に構うことなく地面に土下座する信幸が居た。
その斜め後ろには、政宗と共に此処へ来ていた小次郎が立っているのだが
どうやら信幸を止めるつもりはないらしく、寧ろ政宗を諫めるような視線を無言で寄越して来る。

「…っどくせェな。つかウゼェ」

低く吐き捨てた政宗は気怠げに立ち上がると、鷹揚に庭へ降り
「で?」と、何か云いたい事を我慢していると見える小次郎を促した。

「…兄者!月の天人を殺してしまった挙句、こんな事をしてどうなると云うのです!
 そもそも幸村様は人に非ず…!月へ恙無くお返しすべきです…!」
「Ha!そりゃテメェの道理だ。オレに押し付けンじゃねぇ。
 …んでテメェも、いつまで這いつくばってやがる。見苦しい」
「、ぐっ、う…!」

深く叩頭している信幸の頭を上から踏み躙りつつ、けんもほろろな態度を崩さぬ政宗は
必死に説得を試みる小次郎を適当にあしらい
「オレはオレのやりてぇようにやる。判ってンだろ?」と
自身の我を曲げぬ性質を隠す事無く高言し、
話は終わったとでもいうように背を向け幸村の居る部屋に戻ろうとする。
普段の小次郎であればそこで食い下がったりはしないが
今回ばかりはそうもいかない。
続けて進言しようと口を開きかけた時、部屋の奥で硬直していた筈の幸村が
「兄上に何をする!許さぬ…!」と唸るように吼えながら政宗に掴みかかったので
咄嗟に刀の鍔を弾きかけるも、そんな狼狽など無用な事に
政宗は片手で幸村の髪房を鷲掴んで容易く制した。

「いッ!づぅ…!、」
「じゃじゃ馬も結構だが、大人しくしとかねェと、今ここでコイツの首の骨をへし折るぜ?」
「…っ、、卑怯者が…!う、ぐ…ッ」
「Ha!痛ェか?悔しいか?クク…思った通り、いいツラしやがる。
 …さて、肝心の悲鳴の方はどうだろうな…?」
「?!」

その苛虐の悦に濡れた炯眼と、仄暗い不穏な科白で
政宗という男が、一体どんな男なのかが漸く理解できたのか
幸村はゾッと血の気を引かせるが、もう遅い。
首筋を検分するかの如く熱い舌が這った後、皮膚を突き破るほど強く噛み付かれ
堪らず悲鳴を上げた。

「あ!うぐああ゛ァ…ッ!!」

じゅると啜る音が聞こえ、赤透明な滴が鎖骨や胸を滑り落ちていく。
ゆっくりと顔を上げた男の口端は汚れ、しかし浮かんでいるのは満足気な笑みであり
幸村は息を呑んで離れようと腕をつっぱりかけたが、
足元でくぐもった呻き声が聞こえ、はっとなり動きを止める。
政宗がわざと足に体重をかけたのだ。

「っ…よせ!も、もう抵抗せぬ…!兄上を放して下され…!」
「舌」
「…?」
「出せ。Now」
「…ッ!」

抜き差しならない脅迫に竦み上がりつつ兄の解放を懇願すると、妙な命令をされ
訳が判らないままにおずおずと口を開いて舌を差し出せば、すぐに深く口付けられる。
無遠慮に絡まった舌が縺れ擦れ痺れ震え
その熱さと柔らかさに量を増した唾液が、唇と舌先に歯を立てられる事で更に噴き出し
旨そうにしゃぶりつかれる度に湿った音を立てる。
スルスルと咽喉の奥に流れて来る其れで噎せそうになり
必死に飲み込んでやり過ごそうとしていたら、気付いた政宗が己の唾を其処に混ぜ
嚥下し損ねた分はダラダラと顎を伝い落ちていき、不快な事この上なかったが
幸村には既にどうする事もできなかった。
眩暈がする。

「…ンぐ、んっ、…!」

髪を掴んでいた手が首筋に滑り、残る歯列の傷を愛でるように撫で
もう一方の手が袴の上から腰骨を辿り、臀の片側を思い切り握り込み
幸村は「ヒッ」と鋭く息と悲鳴を吸い込んでビクと跳ねた。
まさに嬲られる小動物さながらの有様を、つぶさに眺める政宗は気分良く隻眼を細め
更に自分好みに幸村を啼かせるべく、次に移ろうとしたが

「兄者!もうおやめ下さい…!」

小次郎の強い声音が引き止める。
政宗がうんざりした風に振り返ると、小次郎だけでなく、いつの間に集ったのか
つい先程まで木偶の坊のようにつっ立っていた五人の貴族達まで
揃って地に額をつけ、それぞれが「お許し下さい」とか「お慈悲を」だとか哀訴する。
他の誰より、この非情な男の手にこそ、よもや幸村が落ちてはならぬと悟ったからだ。

「…Wow,Wow、揃いも揃ってまぁ…」

感嘆ではなく失笑を含ませ呟き、塵芥を見るかの如く其奴らを睥睨した政宗は
不意に幸村を離すと、「OK、お前らもうちょっとこっちに来い」と命じ
叩頭したまま這いずり寄って来た五人がちょうど一列になった処で
愛刀を引き抜き凄まじい雷撃を放つ。

「…あ、ああ…!」

戦慄く幸村と小次郎の目の前で、五人は断末魔も残さず消炭と化した。

「ッ兄者!気が触れたのか…!」
「Ah?ンな訳あるかよ。それより小次郎、あの二つの箱持って来てくれ」

至って平生正常だとばかりににべもなく頼まれては
小次郎はまさか自分の方が何かおかしいのだろうかと錯乱し
されど根本的に兄には逆らえぬという心裡が本人の気付かぬ処にあり
一体箱をどうするつもりなのかと深く考えもせず
云われた通りに二つの其れを抱えて戻って来て差し出した。

「Hey、コレ要らねーよな」
「!!」

一つ目の箱を開いて中身を取り出し、幸村に見せ付けてから政宗が無造作に放った直後
ひらひらと舞う美しい羽衣に眩い雷が落ちて焼け焦げ、見るも無残な襤褸切れとなった。
そして二つ目の箱の物が何であったか、誰もが「あ」と気付いたと同時
政宗は既に薬を呷っており、呆けたように凝視していた幸村であったが
唐突に項を捉われ引き寄せられ、確かな笑みを湛えた薄い唇が深く合わさる。

「ん?!、ふ…!、、ぅぐっ」

ぎょっとしたが、不意を突かれた為、流し込まれた物を意図せず飲み込んでしまう。

「……あ…、あ…!」

それが如何なる意味を持つのか、自覚した途端、強烈な絶望に襲われ
言葉にならない無意味な声を上げながら、愕然と政宗を見上げ
しかしすぐに吐き出さんとて咽喉の奥へ指を突っ込もうとすれば
見越した男にすぐに両手とも拘束された。

「So?これでオレ達を邪魔できるヤツはもう居ねェって訳だ」
「…っおの、れ…!何という事を…!!」
「これから末永〜いお付き合いになる事だし、仲良くしようぜ?…なぁ?幸村…」

 

―――その後二人がどうなったのかは、云うに及ばず。

 

 

【終】


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あとがき

19万hitキリリクにて、『かぐや姫パロ+小次郎(捏造)と信幸(捏造)』という事でしたが…
なんかもう、色々すみませんorz
筆頭が大して病んでも鬼畜でもなかったですし、折角の小次郎と信幸ですのにあんまりな扱いですし
挙げだしたらキリがないんですけど、何が一番心残りかって、エッチしてない所です←オイ
まぁ、偶にはいいですよね?…ね??(焦)

2014/07/21  いた。