※流血・暴力的表現(折檻)、性描写があります。ご注意を。

 

 

『弦月の烙印10』


奥州は米沢城、内曲輪に囲われた本丸の真正面。
そんな開けた目立つ場所で、地に突き立てられた一本の巨大な丸太に
下帯一つ身に着けぬ素っ裸の幸村が、立った侭しがみ付くように腕を廻していた。
その細い両手首は、縄で括られている。

「…っく…、」

横の少し離れた処には、山中の街道で捕えられた真田隊の男達が
一列に膝をついて並び、己等の将たる幸村の屈辱的な様を、奥歯を食い縛って凝視していた。
捕虜として牢に入れられるとばかり思っていたのに
一体こんな処で、独眼竜は幸村様をどうするつもりなのだと
冷悪な男を睨むが、此方を見向きもしない端正な横顔の鋭利な視線は
常に幸村一点に注がれており、片時も外されない。

「イイ恰好だな、幸村…今すぐ此処で犯してやりてェところだが、ケジメつけンのが先だ」
「…ッ、…判って、おります……」
「Hum…鞭打ちを人数分の七回、受けてもらうぜ?」
「、、ん、」

背後から覆い被さるように耳元で囁いた伊達は
幸村の顎先を掬って、顔だけ横を向かせ口付けると
背中に流れていた長い栗色の髪房を、一糸残らず丁寧に胸元へと梳いて流し
現れた白い項と背を、ゆるりと指で撫でた後、踵を返して幸村からたっぷりと距離を取った。
この伊達の一連の動作もそうだが、二人が小声で何を話していたのかすら聞き取れなかった為
益々以って、これから何が起ころうとしているのか判らない真田隊の心中は、不安にざわめいて落ち着かぬ。
その様子を、伊達の後方から見守る片倉は
「まだ気付かねェのか…」と胸の内で同情の嘆息を零すと同時に
右手に握った物を無意識に握り締めた。
伊達に持って来いと命令され、拷問牢から取ってきたソレは
所謂、竹製の笞ではなく、棒に革紐を取り付けた長鞭だ。
伊達が気に入っている処罰拷問道具の一つで
笞に比べて殺傷力こそ劣るものの、打ち手が少ない労力で相手に失神にまで達する苦痛を与えられる事と
なにより打つ時の乾音が堪らないと、鞭刑の時には進んで城主御自ら振るうぐらいである。
それを踏まえた上で、あの吊り上がった口角を見れば、厭でも判ろう
その心情、これ見よがしに折檻を見せびらかす事の他あるまい。
幸村を心から慕う部下達の目の前で、己の物を好きに甚振る優越に浸りたいのだ。
無論、無抵抗に鞭打たれ、悲鳴を上げ辛苦に苛まれる幸村を嬲るという
異常に歪みきった快楽を愉しみたいという方が、遥かに勝っているだろうが。

(…何も、其処までせずとも良かろうに…)

僅かに震えている幸村の背に、哀れみすら抱く片倉だが
もう、どうやっても手に負えないことなど、とうの昔に悟っている。
どんな反論も意見も常識も罷り通らぬなら、好きにさせるしかなかろう。
元より、逆らえる立場ではない。

「小十郎」
「…御意」

ズイと差し出された御手に、持っていた長鞭をやむを得ず手渡せば
胸の奥に泥のような罪悪感がべったりとへばりついた。

「…っ…」
「邪魔だ。巻き添え食いたくなけりゃ、下がってな」

云われるが侭、鞭の到達範囲外まで遠ざかると
丸く巻かれてあった鞭がバラリと解かれ、地面に細く伸びる。
大層な長さだ。凡そ二間四尺(約5m)はある。
この城で、これだけの長鞭を上手く扱えるのは、ただ一人、伊達だけだ。

「Are you ready?」

浮かべた薄笑いを、ニィと狂喜に歪め、半身を捻るように片腕を振りかぶった伊達が
普段は六爪を操る人間離れした腕力で、初太刀一閃の如く振りおろす。
俄か、大きく撓った鞭の先端が目視できぬ程の速度に達したか、掻き消え
刹那、空気が弾けたような、パンッと破裂音がした一寸後
幸村の背の肉が、裂けるのではなく、爆ぜた。 
あたかも熟れた柘榴の如く、だ。

「ッッ!!、ぐあぁあ゛あぁ!!!!」

背中に一線走る、いつぞや押し付けられた焼きゴテのような凄まじい痛みは
「熱い」と錯覚する程の強烈さを伴い、それが立て続けに二度三度と襲い来る。
絶叫し身悶える幸村の口角から、眦から、引き裂かれた背中から
滂沱のように涎と泪と血の滴が流れ、ポタリポタリと地面を濡らし
真田隊の男達は、瞬きすら出来ず驚愕の雷に身を打たれた。
まさか斯様にも壮絶な折檻が繰り広げられようとは、思いもせず

「づっ、あ…!ぅう゛う、あーッ!!」

悲痛な悲鳴が四度目を数えた時、ようやく気付いた。
これは、幸村が救った己達の命の数だけ打たれているのではないか
それも、此方が手出し出来ぬと承知で、見世物紛いに見せ付けている、と。
慌て振り向き、伊達の顔を見れば、「Five」と異国語を呟く口元が弧を描いて
五度目の鞭が幸村の背を残酷に打ち
果たして、自分達の見当は間違ってはいないと確信に至る。
ならば…

「ッ独眼竜!それ以上の非道は無用!!」
「…あ゛?」

互いに頷き合い、真田隊の中で一番年若い者と、森で幸村の手を引いた古株の男が
揃って舌を噛み切った。

「Hyu〜!上出来だぜ、さすがはアンタの部下だな」
「…な、ん…? っ、…一体、何が……」
「見ろよ、たかが鞭打ちを軽減する為に、命投げ出しやがった」
「…?!」

激痛を必死に堪える中、感じ取った異変に
しかと瞑っていた瞼を開いて、視線を横へとずらした幸村は、瞠目した。
七人の同朋の内二人が、地面に頭から突っ伏している。
俄かには信じ難い、されど、伊達が云うとおり
地面に垂れ流れる血の量からして、自害に達するは必至。

「……あ、…あああ…!!!!」

幸村は吼えた。
たとえ想像を絶する苦痛をこの身に受けようとも
仲間の命が救える代償と思えば、いくらでも耐え得るものを…!

「…あと、…あとッ、、たった二打で、あったのに……!何という、取り返しのつかぬ事を…っ」
「小十郎」

悔し泪を流し噎ぶ幸村を遮るような伊達の一言で
それまで傍観に徹していた片倉は、丸太の処まで歩み寄り、幸村の腕の縄を解く。
しかし満身創痍の上、救える筈だった命を二つも失ってしまった動揺があまりに大きいのか
立って居る事も侭ならずに、その傷躯は地に倒れ臥した。
ブルブルと小刻みに肩を震わせ、噛み殺し切れぬ嗚咽をもらす様が尚のこと痛ましい。
思わず助け起こそうと手を伸ばすが、寸前にバシリと手の甲に衝撃が走り、目を瞠る。
伊達が鞭を打ったのだ。
手加減はしたのか、出血こそしなかったものの
打たれた箇所が蚯蚓腫のように真っ赤に腫れ上がって、片倉は息を呑んで手を引っ込めた。

「勝手に触るンじゃァねーよ」

テメェはさっさと捕虜共を牢にブチ込んどきな。
と低く呟いた伊達は、次いで鞭を軽く翻し、幸村の右足首へ、生きた蛇の如く巻き付けると

「…あ…、……ぐ…ッ、、」

力強く手繰り寄せ、ズルズルと己の足元まで引きずり寄せた。

「良かったな、七回のところが五回で済んで」
「…っ…、う…、ぅ……っ」
「それにしても、オレの鞭打ちで糞尿垂れ流さず正気を保ってられたのは、アンタが初めてだぜ?」

大抵の奴ァ二打目で失禁して気絶しやがる。やっぱアンタ最高だな。
と哂う冷徹不遜な男に対し、息も絶え絶えな幸村は、睨み上げる事もできず
背面を襲う焼け爛れるような激痛と、心の奥深くを苛む憾悔にひたすらに耐え忍ぶのみ。
一瞬でも気を抜けば、すぐにも失神してしまいそうだった。

(っ…されど、それだけは、断じてならぬ…ッ)

己の為に殉じた者達に申し訳ない、まるで逃げるようではないか、と。
そもそも、これで終わる訳がないのだ、この男の責苦が。

「Let's go to the next stage」

傷の手当も等閑(なおざり)に、伊達に抱き上げられた幸村は
城の中へと連れて行かれた。


 


「あぐッ、う…!!」

見覚えのある座敷の畳の上に無造作に放られ
背の傷口をものの見事に打ち擦った幸村は、堪らず声を上げた。
塩を塗りつけると違わない手荒な所業に、まっこと無慈悲な男であると
戦慄く歯を食い縛って蹲るものの、

「Ha!その調子で、イイ声で啼きなァ!」
「っ?!、なッ…! っ、ぁあ゛ー!!」

掴み割り広げられた股の間に覆い被さった伊達に
全く慣らしもしない閉じた菊座へと、いきなり滾った牡を捻じ込まれ、絶叫する。
一時のあいだ監禁されていた此処で何をされるかなど
薄々勘付きはしていたが、よもや此れほど唐突とは思いもせず
背中の其れとは別に降って湧いた苛烈な痛みに
無様な悲鳴をあげながら、のた打って泪を散らす。

「あぁ!ぅぐ、ぁ…!っくぅぅ!!」

この男の仕置きに、情けや容赦といった類が欠片も存在せぬ事は
これまでの経験からして先刻承知済みであるとはいえ
久々に生身を穿たれる恐ろしい感覚に、ぶわりと脂汗が噴き出し、呼吸も侭ならず喘ぐ。
惨たらしい仕打ちを殊更に好む伊達の行動はもう、幸村に云わせれば人外鬼畜に他ならない。
敷布も敷かぬ硬い畳張りに、生傷乾かぬ背が下になるようワザと仰向けに組み伏せた上で
これでもかと云うほど大袈裟に腰を揺さ振り始めたのだ。

「…ひっ、ひっ、、ぃい゛…ぎ…っ!ハッ、ひぃ!!」
「Ha!最ッ高だ…、なんて声出しやがる!」

やる事なす事、すべて悪辣極まりなく
況やたっぷりと愉悦を含んで笑み囁いた伊達が
更に幸村の萎縮しきった牡と睾丸を握り潰すが如く鷲掴み

「ッッやめっ、…あ…!っも、…!あぁッ、堪忍を…!!」
「Hum、今更何を云ってやがる。覚悟は出来てたンだろう?情けねェ弱音なんざ、吐くンじゃねェ…よ!」
「ひぐ!!、あぅぅ…うッ!」

乾いた鈴口を親指の爪でギリと詰りながら、口端を上げ嘯く言葉は非道だ。
幸村は泣き喚いて許しを懇願するが
苦痛に悶えれば悶える程、泪を流して嫌がれば嫌がる程
伊達が浮かべる喜悦の表情は明らかに劣情と昂揚の色を増し
とうとう、舌舐めずりをした直後、幸村の二の腕の内側、一番柔らかな処に
肉を頬張るが如く、大口を開けて噛み付いて来た。

「…!痛っ、あ゛ぁ―ッ!!」

食い千切られるのではなかろうかと云う力で歯を立てられ
髪を散り乱して首を振り、ビクビクと全身を強張らせる。

「Oops、悪ィ悪ィ」

あんまりにも旨そうなモンで、思わず食い散らかす処だったぜ。と
哂う男の隻眼に、不穏な光が見え隠れするのが見え、幸村はブルリと身震いした。
とてもではないが冗談には聞こえない。
その内、肉どころか骨までしゃぶり尽くされそうだと
幸村は伊達の肩を押し退けようと抗いかけ、されどすぐにハッとして、やめる。
伊達の手から逃れんとする言動は即ち、己の首を締める事と同義だと
随分前に悟って居るし、意に従わなかったが為に、一体どれだけの痛い目を見た事か。

「…っく、ぅ…、、」

止まらぬ冷汗を流して呻きつつ、懸命に大人しく、身動きせぬよう努める。
すると、浅く歯形に抉れた二の腕から滲む血を、淫靡に舐め啜る伊達が、徐に顔をあげ

「そういやアンタ、村を一つ潰したらしいじゃねェか」
「…ッ!!」

聞いたぜ?一夜にして、皆殺しにした挙句、村ごと灰にしたってな。 と、至極嬉しそうに嗤う。
対して幸村は、何故それを知っているのだと云う疑問が湧く前に
その言葉自体を即座に否定する事ができなかった。
否、できる訳がない。
あれが、決して己の所為ではなかったなどと、よもやどの口が云えようか。
伊達に揶揄されずとも、あの村で起きた惨事の責は、自分にあると自覚している。
とは申せ、

「Good for you、さすがオレの幸村」

右腿の所有の証を愛しげに摩りながら褒められた処で、浮かばれる筈も無く…
己は既に罪人と何ら変わらぬ存在だ。故に、
焼き付けられた、この弦月の紋はただの焼印ではなく、まさに烙印と化した。
幸村の胸中に、再び途方も無い悔恨が黒い巨波となって押し寄せる。

「……あ、、……某、は……っ…」
「そんなアンタの為なら、オレは村一つとは云わねェ、国一つ、いや、日ノ本総てを血の海に沈めてやるぜ」

それだけの価値があると、笑みを浮かべる男に
幸村は心底ゾッとし凍りついた。
もし本気で云い切っているのなら、もはや己に対するその盲目さは、極まる処まで極まっている。

「…お前は、狂って、いる…ッ」
「それを今更云うなよ」

クツクツと咽喉で哂う伊達に、またもや躯の奥を乱暴に突かれ
幸村は短く悲鳴を上げて、大きく仰け反った。

 

――――――――――――――――

 

長い長い夜が明け、明障子から淡く差し込む陽の光が、僅か座敷内を白ませる。
幸村は丸一日嬲られ続けた心身をぐたりと横たえ
叫び続けて渇ききった咽喉の引き攣れる痛みと
あちこちに乾いてこびり付いた血糊と子種に皮膚が引っ張られる不快をすら
疎んじる気配もなく、空虚に呼気を薄く繰り返す。
思考も、躯も、鈍く重い。
が、

「………」

暫し前よりずっと背後からこの傷身を抱き込み、頭を撫で、髪を梳く男へと
一つだけ、確認せねばならぬ事があり
幸村は振り返りもせず

「…なに、ゆえ……」

聞き苦しく嗄れた声で、問うた。
何が、と云われれば、此度の捕り物劇である。
どうにも、腑に落ちないのだ
何故、幸村達が上杉国境付近に向かっている事を知っていたのか。
でなければ、ああして待ち伏せて罠など張れる筈がない。

「Ah−?簡単だ、虎の噂だ」
「…ぇ…?」

それは、幸村は勿論、真田隊も耳にし、藁にも縋る思いで当てにした
『信玄が上杉に助力を請いに行った』という噂の事か。
ピクリと肩を揺らし、聞き返すと
その通り、アレはでっち上げで、ワザと甲斐中に吹聴して廻ったのだと、伊達が嗤う。

「アンタのことだ、きっと喰い付くだろうと思ってな。
 ちなみに虎のオッサンなら、あの夜襲の日にとっ捕まえて、アンタが元居た地下牢に繋いであるぜ?」

お前がしぶとく逃げ続けながら、散々捜し回ってた間ずっとな。
と云う残酷な科白に、幸村は頭部を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。

…今、彼奴は何と云ったのだ…?

仮にそれが事実であるとして、そもそも、そんな巨大な切り札が手中にあったならば
どうして此度のような回りくどい真似をしたのか。
最初から米沢城に捕縛してあると云えば、間違いなく己は罠と知っていても飛んで行っただろう。

「Ha、オマエ、いい加減判れよ。その方が面白ェと思ったからに決まってンだろ?」

それに、可愛いアンタがよっぽど鬼ごっこで遊びてェらしいから
オレはそいつに付き合ってやったまでだ、と含み嗤う声が
幸村の頭の中で、ぐわんぐわんと何度も反響した。

嗚呼、またしても、猿芝居じみた粋狂と見抜けず、終始踊らされたのだ。

己は救いようの無い阿呆だと、自らを罵ると同時に
何かが音を立てて崩れ去って行く感覚を、遠く胸の奥に感じる。
いつの間にか溢れた泪が、ポロリと一滴だけ零れた。

「ま、これでちったァ学習したろ」

もう一度、このオレの手の内から逃げるような事があれば、今度は虎の首が落ちるぜ?
低く囁く声色に、もはや絶望以外の何をも抱かない。

「是が非でも、オレのモンになってもらうと云った意味、そろそろ理解しな」
「……は、い…」
「それから、二度とコレは隠すンじゃねェ。OK?」

云いながら、右腿の印を厭らしく撫でる所作にすら、コクリと小さく頷いて見せる。
どうせ己が何をしても、いくら足掻いても、すべて無駄なのだ。
ましてや、この弦月の烙印ある限り、決して伊達からは逃れられぬ。

幸村は静かに、そしてゆっくりと、目蓋を閉じた。

 



【終】


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あとがき

別の長編でハッピーエンドが続いていた為、今回はバッドエンドにて。
『あくまで筆頭の一方通行に始まり、独り善がりで終わる + 幸村に救いがない』
をコンセプトに、大変楽しみながら書く事ができました。
攻めに追っかけられる受けネタが本ッッ当に好きなんだと、再自覚であります。笑
特に愛情あふるる猟奇属性な鬼畜攻めは最高ですねv

―――最後まで読んで下さり、まことにありがとうございました!

2010/07/31  。いた。