※暴力的表現(拷問・折檻)あり。ご注意を!

 

 

『弦月の烙印3』


烙印を押されてからと云うもの、幸村はまさに生き地獄を味わっていた。
起きている間の殆どを伊達に抱かれ、万が一にも抵抗したり
唯一猿轡が外れる食事の際に舌を噛もうとしようものなら
仕置きと称した折檻にて、割竹や鞭棒で尻と背を打たれたり
爪の無い指先を抓られる等、他にも数々の惨い仕打ちを受けた。
その過ぎる折檻の後に施される医師の手当てが無ければ、とっくに虫の息となっていても可笑しくはない。
それ程に酷かった。

「あっ、…あーッ!!!!、ひぃ…いッ!!」

今も、惨い折檻の折、あまりの痛みと恐怖の末に失禁した罰で、睾丸の根元に紐を括られ
それの先に付けられた重りを一つ分増やされた処だ。
ほんの小さな鉄の塊りだが、ぶら下る其れが増えれば増える程
睾丸が下に引っ張られ、悶絶を伴う激痛が幸村を襲う。

「うぅ…ッう゛ぅぅ〜っっ!」
「あん?何云ってるのか判らねェよ。口の物、取ってやってもいいが、アンタはすぐ舌を噛みたがるからなァ…」
「っ、んー、うぅッう…!!」
「何?ンなこたしねーって?…OKOK、他ならぬアンタからの頼みだ、聞いてやらねェこともねェが
 もし、また自害しようとしてみろ…これ以上ないってぐらいの恐怖を味わってもらう。You see?」

言葉尻を上げた伊達に、幸村は何度も頷いて見せ
懇願するように一粒二粒と透明な泪を流した。
その様を見て口端を上げた伊達は、ゆっくりと猿轡の結び目を弛め、取り去ってやった。
途端に、幸村が叫ぶ。

「…っもう、…もうッ、堪忍して下され…!…これ以上は…っ!」
「玉が取れて女になっちまうって?」
「ッ、痛うて、気が違って、しまいそうだ…!」
「クク…おかしくなればいいじゃねェか。別に構わねェよ」

それでも、オレはアンタを手放さない、とハッキリ云ってみせた伊達は
ヒクと引き攣っている幸村の頬を愛しげに撫でると
不意に手を伸ばし、幸村の睾丸を苦しめている重りのついた紐を、無慈悲にも下へ向かって引っ張った。
瞬間、凄まじい悲鳴が拷問部屋中に反響。
伊達はすぐに猿轡を噛ませ直し、

「狂ったアンタも是非見てみたいが、その前にコレの始末をつけさせてくれよ」

あろうことか、幸村の悶え苦しむ姿と悲痛な阿鼻叫喚に、またしても股間の牡を浅ましく勃たせ
のたうち暴れる幸村の下肢を力尽くで抱え上げると、容赦なく亀頭を捩じり込んだ。

 

――――――――――――――

 

「起きろ」

ぴしゃりと頬を叩かれ目を覚ました幸村は、次いでいきなり石畳の床に落下し
強か全身を強打して顔を顰めた。
手枷が外されたのだ。
何事かと、のろのろと視線を上げれば、いつぞや見た拷問人の男が立っており
素早く幸村の両手首に縄を括り、その先をしっかりと握った上で
「来い」と無理矢理それを引っ張る。
痛みを訴える躯を何とかして立ち上がると、そのままグイと縄を引いた男が
格子戸へと歩き出すので、幸村もヨロヨロと頼りない足取りで後に続き
開かれた戸を抜け階段を上り外に出ると、真っ白な光が目を刺した。

「…っ」

こうして此処を出る時は、身を清める為の行水だと決まっている。
白昼を暫く歩いた先には、思ったとおり、井戸があり、幸村はその傍に連れて来られた。
伊達の姿は無い。
縄を持って見張るこの男が一人と
桶に張った水で濡らした手拭いを片手に幸村の躯を清める下女が一人、それだけだ。

「…………」

最初の内こそ、逃げる素振りをすればすぐにでも捕らえられるようにと
気を張っていた見張りの男だが、回数を重ねるごとに
無抵抗で大人しい幸村の様子に、近頃は気を抜いて欠伸をすることも、しばしばある。
今とて、下女が黙って作業をこなす中、暇そうに伸びをしたり、空模様を眺めたりしている。
然もあらん、人間、何事もなく同じ役目を繰り返せば、散漫が生じるものだ。
幸村はこれを狙っていた。

「…ぅ、」
「おい、どうした」

気分が悪くなった振りをして、その場に片膝をつき
様子を見に男が駆け寄って来た所を、すかさず立ち上がり様に鳩尾へと当て身を食らわせる。
男は目を見開き「っぐぅ…」と低く呻いた後、白目を剥いて地面に倒れた。
それを後目に、素早く振り返った幸村は続けて
悲鳴を上げる前に下女の口を掌で塞ぐと、「…すまぬ」と胸中で詫びてから、腹に片膝を埋める。
下女は声もなく気を失った。

「……っ」

幸村は焦りつつも、まずは見張りの男が持っていた腰刀を引き抜き
何とか手首の縄を切って、自由になった手で着物を奪って着込むと
口に嵌められていた煩わしい猿轡の結び目を解き、忌々しげに地面に叩き付ける。

「…急がねば…!」

いつ誰が通り掛かるとも判らないのだ
油断無く辺りの気配を探りながらも、早足で奥の城郭を目指した。
まさか表の大門から堂々と出て行く愚行はできまい。
最初に忍び込んで来た城郭の付近に何としても辿り着いて
此処から生きて脱出し、甲斐へ戻るのだ。

「…よし」

幸い、一人の見回り番とも出遭うことなく、目的の場所に行き着いた幸村は
器用に高い城郭へよじ登ると、裏山から伸びる巨木の枝に向かって飛び移る。
まだ陽がある内なので、最悪この瞬間に見つかるやも知れぬと覚悟を決めていたが
これもまた幸運な事に、誰にも気付かれた気配はない。
何やら天が味方しているようである。
幸村は疲弊した躯ながらも、するすると木を降りて、休む間もなく小走りに山を駆け出した。
こうまでうまくいったのだ、きっと甲斐へも無事に帰りつけるに違いないと、希望すら胸に湧かせながら。

 

ひた走り、漸く山を抜けると、村が見えた。
空は既に橙に混じって紫が掛かり、黄昏時の中、暮烏の鳴き声が何処からか聞こえる。
幸村は一旦足を止めて息を整え、怪しまれぬよう落ち着いた足取りで村へと入る。
迂回しても良かったが、何処かで馬を調達したかった。
無論、手持ちの銭はない。
それでも、甲斐へと逃げ切るには、絶対に馬が必要だ。
その為には、多少なり手荒な手段も使うつもりでいる。
普段の幸村の気性、信条からして、そのような蛮行はまさか進んでしようとも思わぬし
決して許しはしないが、今はそんな事を云っている場合ではない。

「…このような姿、とてもお館様には見せられぬな…」

苦々しく苦笑し、顔を上げた先に馬借を見つけ
覚悟を決めるしかない、と一度固く拳を握り、大きく一歩を踏み出そうとしたが
横から伸びてきた手にいきなり衿首を掴まれ、脇道に引き込まれる。
咄嗟に身を捻ってその腕から逃れ、「何奴!」と低く唸れば
見るからに素行の悪そうな男が一人(何処にでも居るような破落戸(ごろつき)と云った風貌だ)
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべ立ち塞がっていた。
否、一人ではない。
己の背後にも二人程の気配を感じる。
恐らく、目の前に居る男の仲間だろう
長屋同士が作る狭い細道の両端を阻まれてしまっては、退路がない。

「…某に、何か用か?」
「おう、坊や。こんな時間に一人歩きは危ねーぜ?」
「…用が無いなら、其処を通して頂きたい」
「まぁ待ちなって。無事に通りたけりゃ、金目の物出しな。銭だよ銭」

ゆすりである。
こんな時世だ、別に珍しくもないのだが、まだ日も暮れきらぬ内に、いやに堂々としているものだ。
と周囲に目を走らせると、長屋の間口より覗いていた村人の顔はすぐに引っ込み
表通りの幾人かも、見て見ぬ振りをして、そそくさと足早に通り過ぎて行く。
触らぬ何やらに祟りなし、面倒事には巻き込まれたくないと云った具合か。
とは申せ、薄情と誹るのは御門違いだろう。
自分でどうにかするよりない。

「…生憎、手持ちはないのだ」
「あぁそうかい、じゃぁ仕方ねぇ…と帰してやりてぇ所だがなぁ」

云いさして、男が目配せをすると、背後に居た仲間の内一人が突然襲い掛かって来て
腕や肩を掴まれた幸村は、あっという間に地面に引き倒される。

「ッ下郎、放せっ…何をする!」
「お前さん、随分可愛い顔してるじゃねーか。俺らでしっかり輪姦してから、売り飛ばしてやるよ」
「…!!」

声を荒げる幸村の髪を掴み、顔を覗き込んで厭らしい笑みをした男が囁いた
とんでもない科白にゾッと背筋を凍らせ、必死で逃れようと暴れるが
日々伊達の手によって苛まれ弱っていた躯では大した抵抗もできず、男達の手を振りほどく事はできない。
一人は見張りに立ち、一人は幸村を仰向けに押さえ付けて口を塞ぎ
この中で首魁らしい男が、下半身へと覆い被さって来た。

「へへ…大人しくしとけよ、順番に可愛がってやる…」

下卑た劣情を隠しもせず、鼻息荒く圧し掛かった男が性急な手付きで躯を撫で回し
着物の裾から手を差し入れて来る。
その瞬間全身を駆け巡った嫌悪と云ったらない。
声にならぬ悲鳴を上げ、首を振るものの
薄汚れた手が閉じた両膝を力尽く割り開いて行く。

「ご開帳〜ってなぁ!」
「…ッン!!」

舌舐めずりしながら、とうとう男が幸村の下肢を暴いた、が
俄かに周りが水を打ったように静かになった。

「……?」

一体何事だと、周囲を窺うと、ある一点に視線が釘付けになっている事に気付く。

「……おい、コイツを見ろ!…『弦月』の焼印だぞ…!!」
「…嘘だろ…!これ、本物だぜ?! やべぇ…っ、おっかねェもんに手ェ出しちまった!」
「ど、どーすんだよ!もしバレたら、俺達殺されちまう…ッ」

幸村の右足の内腿を指し、口々に狼狽を口走る男達の
その異常なまでの慌てように、困惑を禁じえない。
この忌まわしい火傷の痕が、何だと云うのだろうか?
問おうにも、未だに口を塞がれていては、言葉にできない。

「…なぁ、始末しちまった方がよくねーか?まだ誰にも見つかってねぇ…、俺達だけが知ってんだ」
「そうだな……いや、待て…何も慌てる事ァねぇさ」
「何か考えがあるのかよ…!」
「あぁ…見たとこ、コイツは城から逃げて来たに違いねェ…
 そこでだ、俺達が直接御上に届けでりゃ、たんまり褒美が貰える」
「おお!そりゃあいい!!」

そうしようそうしよう、と意見が纏まったのか、男達は幸村の傍に屈み込むと

「と、云う訳だ、小僧。安心しな。俺達が責任持って大事に城まで届けてやるよ」
「…ッ!!」

濁声で上機嫌に哄笑し、懐から小汚い手拭いを取り出して
幸村に声を出させぬ為か、猿轡として噛ませ、頭の後ろでしっかりと括ってしまった。
おまけに、引き摺り立たされて背中で両手首を纏めて拘束されてしまっては、もう幸村にどうしようもない。
走って逃げようにも、既に両脇から男達が腕を捕らえてある。
絶望的だった。
そもそも、何故、城から逃げて来たと判ったのだ。
村の破落戸共が、よもや幸村を、まして脱走の事など知っていよう筈がない。

「っ…なに、ゆえ」

手拭いを噛みながら、何とか言葉にすれば、男が豆鉄砲でも喰ったような顔をして

「あぁ?お前、この印の意味を知らねェのか?!」

心底信じられないという声色で云うので、何の事だと凝視すると
仲間内で目を合わせ、これは驚いたと肩を竦める。

「いいか?この奥州じゃ、弦月の印は竜の私紋!
 …まぁ、俺も本物を、しかも生きた人間に焼き付けられてんのをこの目で見たのは初めてだが
 つまる所、お前さんは御国の御偉い中の御偉いさん、独眼竜伊達政宗公の私物ってことだ…!」
「……!!!!」

一国の頂点に目を付けられるなんざ、お前一体何者なんだと云われても
そんな事は、知らない。
どうして自分が牢獄であんな目に遭い、あまつさえ、斯様な烙印を押される謂れなど
判る筈がなかった。否、判りたくもないのだ。
「オレの物になってもらう」と抜かした男の世迷言など…!

「…ったの、む……助けて…くれ……ッ…」
「残念だが、そいつは無理な相談だ」

何せ、俺らも生きて行く為だ、と男達に腕を引かれ
幸村はズルズルと引き摺られて行った。

 

 

【4へ続く】


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あとがき

短い逃亡劇でしたねw
次回は待ちに待ったお仕置きタイムですよ! 

2010/01/04  。いた。