※軽い性描写あり

 

 

『弦月の烙印5』



「あっ、…あぁッ、」

浅ましく突き出した臀を掴まれ、背後から幾度も突かれる。
逃亡した仕置きの際中に、幸村が泣き喚きながら「何でもする」と云って以来
冷たい石畳の牢獄から、伊達の私室の一つであろう温かな座敷に移され
手枷と鎖は縄に代わり、幸村を野太い角柱に繋ぎとめている。
さながら、座敷牢と何ら変わらぬ其処で、日がな一日、伊達に貫き犯され
幸村は足掻く事もなく、甘受していた。
何しろ、抵抗しなければ何の苦痛も折檻もないのだ。
それどころか、男の云う事に素直に従ってさえ居れば、童を甘やかすが如く優しく扱われる。
時に、度が過ぎた房事に気絶することはあるが
牢で味わっていた生き地獄に比べれば、云わずもがな、遥かにマシだった。

「…んっ、ふ…ッ…、んぁっっ」
「Hey、kitty…しっかり腰振って、ケツの穴を締めな」
「っひ、…あッ、…うぅ…!」

長い時をかけて交わり続けた所為もあり、摩擦で腫れ上がった菊座は微熱を保って緩く解れ
されど伊達は容赦なく幸村の引き締まった臀を平手で叩き
加減無しにユサユサと揺さ振るので、喘ぐ幸村は疲労困憊の躯ながらも何とか腰を撓らせ
激しく出入りを繰り返す男の一物を力一杯締め上げる。
そうすると、大きく脈打った牡が更なる硬さと熱を持ち、泣き処ばかりを散々に穿ち抜く。
堪らず身悶えて吐精するが、知った事かと伊達の動きは止まらない。
したたか抉るように突き込む度、ネチネチと猥音を発する結合部と
激しく肌がぶつかり合う乾いた音が、幸村の悲鳴じみた嬌声と絡まって座敷に篭もる。

「っ、くぅ、あっ…!…はあッ、あぁ…ッ」

そうして畳についた両膝と両肘が擦り切れる痛みをも忘れ
ただ身の内を侵食する情痴に溺れた。

 

―――――――――――――

 

「……!……っ!」

肩を揺さぶり、自分を呼ぶ声がする。
常闇の底に沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上し
薄らと目蓋を開くと、俄かには信じられぬ、見覚えのある久しい顔が見えた。
これは夢か現か、それとも到頭正気を失った己が見せている幻かと
重い腕を持ち上げて目の前の存在に伸ばせば、しかと掴まれる。

「大丈夫?!旦那ッ?!」
「…さ、すけ…?」

名を口にすると、「嗚呼、良かった!」と、忍の癖に泣きそうな顔をするから
「しっかりせよ」と場違いな事を云いそうになった幸村は、小さく乾笑した。
正真正銘、どうやら現実のようで、己に、まだ命と正気があった事を、ぼんやりと実感。
ここで、漸くの救いの手に安堵を覚えるといった感慨や
何故もっと早く来てくれなかったのだと、責める気持ちすら浮かばなかったのは
この存在を疾うに諦めていたからである。

「…てっきり、見捨てられたと、思うたぞ…」
「まさか!だって旦那ってば、俺様にも誰にも行き先云わずにホロッと出掛けちゃうから、捜すの手間取ったんだよ!」
「……そうか」

悪かったと小さく詫びれば、「俺様の方こそゴメン」と殊勝に謝るので
それほどに今の己は酷い有様かと苦笑する。
確かに、帯紐もなく、しどけなく乱れた単衣から覗く躯の彼方此方には
未だ治らぬ折檻と陵辱の痕が色濃く残り、両の手は縄で柱に括られ
聞き苦しく嗄れた声は驚くほど細く小さい。
明らかに拷問と手篭めを繰り返されたと判る姿を直視し辛いのか
佐助の視線はそこはかとなく下向きだ。

「…そんなことより、佐助、一体どうやって此処まで…」
「そりゃ決まってるでしょ、俺様忍だよ?心配しなくても見つかってないから、とっとと逃げるよ」
「…あぁ」

縄をクナイで切った佐助に肩に担ぎ上げられた途端
緊張の糸が切れた幸村は、プツリと意識を失った。

 

次に目が覚めた時、其処は伊達の座敷ではなく
視界に映ったのは、甲斐にある信玄の居館の、見知った天井であった。
起き上がろうかと思ったが、指一本動かせず、諦めて小さく溜息をつく。
存外、心身ともに限界が近かったようだ。
佐助、と呼び掛けようとした幸村は、しかし口を閉じる。
顔を合わせた時、一体何と云って良いのか判らなかったからだ。

「…っふ、斯様に情けない主など、佐助も見とうはなかろうな…」

自嘲気味に呟き、目を閉じる。
柔らかな夜具の上掛けの下の己の躯は、きっちりと手当てがなされ
それがより一層惨めさを感じさせる。
医師がこの穢れた躯を目にした時、何と思ったかは想像に難くない。
とっくにお館様には佐助からの報告も伝わったであろう
と其処まで考えた幸村は、頭を抱えて叫び出したい衝動に駆られる。
生き恥だと、身の内を苛む絶叫に、躯中を掻き毟りたかった。

「…っく、……ぅ…っ…」

昂った感情と同調するように、ジワリと泪が溢れ、歯を食い縛って嗚咽を噛み殺す。
何故、何故、こんな事になったのか…!
ぶつけ所のない激情の勢いに任せ、幸村は渾身の力を振り絞って夜具から這い出すと
庭に面した方の障子を震える手で左右に開いて、縁側の板敷きへ出る。
シンと静まり返った外は、頬を撫でる夜気も冷たい、夜の闇。
雲に遮られているのか、月光もなく、真っ暗な庭先を
点々と置かれた篝火が、代わりにぼんやりと照らしている。

「………」

それを見た幸村は、まるで取り憑かれたように目が離せなくなった。
そして、明かりに惹き寄せられる羽虫が如く
縁側から庭の土の上に転げ落ち、そこから一心不乱に篝火に向かって這いずり…

「…ッ何してんの旦那!死にたいの?!」

火の付いた一切れの薪を引っ張り出して
燃え盛るそれを己の右太腿に押し当てようとした幸村の腕を掴んで叫んだのは、佐助だ。
驚いた幸村は、その手から薪を取り落とし、呆然と佐助を見上げた後
我に返ったように慌てて顔を背ける。
それを見た佐助は訝しげに片眉を跳ね上げ
次いで目に入った幸村の右の内腿を見て、目を瞠った。

「…ッ旦那、それって…!!」
「…云うな…」

くっきりと浮かぶ弦月型の火傷を隠すように
幸村は肌蹴ていた着物の裾を直し、苦々しげに呻いた。

「なんで、そんなものが、旦那に…!」

特徴的な焼印を見るなり、即座に竜の私紋だと気付いた佐助は、そんな莫迦なと首を振る。
何故なら、その紋はただの紋ではない。
伊達政宗自身が普及させたもので、通常の歴とした家紋とは区別されており
例えば公ではない気に入りの私物や私有地などに用いられる。
しかし、頻繁に使用されるかと云えば、否、伊達の選り好みは激しいのだ。
奥州広しといえども、指折り数えれば両手の数程も無い、その程度。だからこその、価値がある。
つまり、この紋が押されるという事は、御墨付きと同義だと
一時、竜の私紋が押された物は『紋付』と呼ばれ、盗まれた挙句に法外な値段で売りさばかれたり
当然のように贋物が流行ったりと、数々の問題が後を絶たなかった。
その時、この紋を、家紋同然に侵し難い確たるものへ、それこそ小さな村の破落戸にまで知らしめたのは
紋付を盗んだ罪人を捕らえた伊達が、その手で打首獄門に処し
同罪を犯した者は問答無用で極刑に至ると、町中村中に高札で触れ書を出したからに他ならない。
贋物に関しても抜かりは無く、一斉検挙を行い一掃し、その後とて厳しい定期検分を繰り返した。
よって、現在は欲に目が眩んだ命知らずの阿呆が、盗みか模造を働きでもしない限り
市場に贋物はおろか、闇市にも本物が出回ることは無い。

それが今、信じたくも無いが、佐助の目の前にあり
まして生きた人間に焼き付けられているなどと、聞いた事もなかった。

「旦那…、」
「…っ佐助、頼む、、お館様には…っ」

後生だから云うてくれるなと、足元に縋りつく主を無情に突き放す術を持たぬ佐助は
何かを耐えるように、黙って天を仰いだ。

 

――――――――――――

 

「…逃げたか」

三日前、奥州、米沢城である。
座敷の襖を開くなり、呟いた伊達は中に入って腰を屈めると
畳の上にダラリと伸びる縄を掴んで目線の高さに持ち上げた。
切断された切り口は、明らかに刃物と判る。
この部屋に刃物は置いて居ない。

「Hum…」

大方、幸村の腰巾着の忍だろうと見当を付け、無造作に縄から手を放して立ち上がる。

「政宗様」
「小十郎か」

見計らったかのように、背後から声が掛かり、振り返る事無く名を呼ぶと
静かに座敷に足を踏み入れた片倉が、一歩後ろで報告を始めた。

「見張りの忍が天井裏で事切れておりました」
「それで?」
「十中八九、真田を連れて逃げたのは、猿飛という忍でしょう」
「へェ?」
「恐らくは甲斐へ向かったものかと…」
「で?」
「…いかが、なさいますか…」
「云わねーと判らねェか?」

お前、何年此処に居る
と冷笑も露わに振り返った伊達の隻眼に射竦められ、片倉はゾッと寒気を覚えた。
かつて斯様にも冷たい眸を見た事は無い。
怒気をすら燈さぬ、怜悧な眼光は、空恐ろしいものがあった。

「…っすぐにも、追っ手の手配を、」
「Nonsense、仮にも忍だ。今更追い掛けた所で、追いつけるワケねェだろーが」
「、では」
「出陣すンだよ。老虎ともども甲斐を潰す」
「!それは、…しかし…!」
「ただし、真田幸村は生け捕りにしろ。多少傷を付けても構わねェ。逃がすな。OK?」

それだけを云うと、伊達は片倉を残し、座敷を出て行った。
残された片倉は未だ止まらぬ冷や汗を手の甲で拭い
知らぬ間に詰めていた息を、今ようやくゆっくりと吐き出して、顰めた眉間に指を当てる。
本当に戦を始めるつもりなのかと憂えども、今の主を止める方法など
真田幸村をひっ捕らえて御前に据えぬ以外にありはしない、と小さく頭を振り
重い足取りで薄ら寒い座敷を後にした。


 


【6へ続く】


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あとがき

ドS筆頭、幸村奪還に動きます。

2010/01/26  。いた。