※ダテサナ兄弟設定パラレル。『機熟』の続きです。流血・残酷表現、性描写あり。ご注意を!

 


 

『砕希』

 


いつまでも名残惜し気に暮れなずんでいた筈の日がいつの間にかすっかり落ちた頃
暗い山腹のつづら折りをポツポツと照らす篝火が
辿り着いた頂の山城をもまた幽虚に浮かび上がらせていた。

「お帰りなさい筆頭!首尾は…って訊くまでもありやせんね!」
「おう。見ての通り、上々だ」

威勢のいい声と共に具足姿の男達がわらわらと集まり
纏いつく闇を蹴散らすように表門から馬を乗りいれた政宗を出迎える。

「幸、降ろすぞ」
「はい…」

散々揺られた馬の高い背から、政宗の手を借り、ようやく地に足を付けた幸村は
好奇の衆目を痛いほどに感じ居心地の悪さを感じたが、怯むことなく辺りの様子を探った。
先ほど通った門は、まるで外から打ち破られたように開きっぱなしで少し傾き
両に立つ櫓や土塀といった至る処に矢が突き刺さっているのも見え
広い庭の植え込みにはボロ切れ同然の陣旗が無造作に捨て置かれており
つい最近攻め落とされたと云わんばかりの生々しい様相を呈している。

(……兄上が、やったのか……)

この有様を見る限り、そうとしか考えられない。
既に城主は生きて居らぬだろう。
そう思うと苦い思いが込み上げて来て、訴えるように兄の方を見上げると

「どうした、浮かねェ顔しやがって」
「…っ」

幸村の心情を知ってか知らずか、ガシガシと乱暴に幸村の頭を片手で掻き混ぜた政宗は
慣れた所作で馬から降りると、まるで在りし日に幼い弟を導いたように

「グズグズしてると置いてくぞ。今日はPartyだ」

ニッと昔と変わらぬ笑みをうかべ先に歩き出す。
幸村は正直、戸惑わずには居られなかった。
両親を殺しその墓前で強引に乱暴したうえ圧倒的に城を侵略するという
人が変わってしまったと判じるには充分過ぎる残虐性を目の当たりにして尚
こうして不意に兄弟然とした態度を見せる、その較差に。

(…しかし、ならば、以前のような間柄に戻れるやも知れぬということか…)

そう考えれば一縷の望みも芽生え、幸村は慌てて政宗の広い背中を追った。

 


宴、というには少々品を欠いた、どんちゃん騒ぎっぷりもさることながら
酔っ払った荒くれ者達が詰め寄っての歓待ぶりにこそ、幸村は辟易していた。
政宗が彼らに一体どういう話を吹き込んでいたのか知るところではないが
皆の視線は明らかに「さぁさぁもっと仲睦まじく」と生温かさをもって注がれているのだ。
ちらほらと断片的に聞こえて来る感極まった声を整理するに
生き別れていた兄弟がようやく涙の再会…と認知されているようである。
間違ってはいないが解釈に絶望的な齟齬が生じている。
それをわざわざ躍起になって正す気力も体力も削げ落ちていた幸村は
そろそろお開きにして欲しいという願いを込めて隣の政宗をチラと覗ったが
よほど機嫌が良いのか手下共と愉しげに呵々と哂い、酒を呷る手は止まらない。
止まらないついでに、時折見当違いの方向に伸びた手が幸村の肩や腰を引き寄せ、髪を手遊び
よもやこんな処で再び襲われはしまいかと気が気でない当人の顔色の悪さなど一切目に入って居ないのか
「筆頭―!そんなに大事ならちゃんと囲っておかねーと!」という何者かの大声に、ドッと場が沸く。
酒の席での冗談か本気か判らないその無責任な囃し立てをどう思ったか
政宗の熱を帯びた視線が真っ直ぐに幸村を捕らえ、じっとりと全身に纏わりつき
まったく生きた心地がしなかった。

「……あ、兄上? その…少しばかり厠へ……」
「Ah?しょーがねェな…すぐ戻って来いよ。Hey小十郎、案内してやんな」
「御意」

このまま此処に居ては大事になるという予感に従い
席を離れるに正当な理由をつけ立ち上がる(次々すすめられた酒の所為で尿意を催したのも事実だ)
と同時に、小十郎と呼ばれた男が酔いなど感じさせない所作できびきびと応じ
幸村は連れられるまま後に続いた。

「……あの、わざわざ申し訳ござらん。次からは一人で、、」
「気にするな。そんな事より、あんたのお陰で俺達は政宗様と出逢えた。感謝する」
「へ?、わっ…!」

シンと静かな廊下の途中で急に振り向いた屈強な男が躊躇いなく頭を下げ
驚いた幸村は思わず声を上げて一歩後退った。
酒宴を中座させ案内の面倒をかけてしまった事を詫びた筈なのに
逆に深く謝辞されている状況がいまいち理解できず狼狽えていると
小十郎はすぐに姿勢を正し、その強面をまっすぐに幸村へと向け、更にこう続ける。

「この三年間の政宗様の執念は凄まじかった。
 あんたの為に手段を選ばずここまで来たんだからな。
 詳しく聞いたわけじゃねぇから、とやかく云えた義理でもねぇが
 政宗様のあの右目と、今までの行動を考えれば、大体の経緯は想像つく。大変だったな」
「っ!」
「政宗様が俺達を拾って下さったのは駒集めの為だったとしても
 城を落とし、俺達の…いや、あんたの新しい居場所をつくった。
 正直、天下獲るのも夢じゃねぇと思ったが……まぁなんにせよ、政宗様はあんたが大切だし必要だ」

少し羨ましいぜ。と苦笑してみせる小十郎に、幸村は曖昧な返事をする気になれず、真摯に答えた。

「…貴殿がそれほどに慕うとなれば、相応の故あっての事だろう。我が兄ながら自慢に思う。
 それに、貴殿が云いたい事も、重々承知しているつもりだ」

政宗はあやうい。
幸村次第で残酷な修羅にも温容な兄にもなる。
それが決して自惚れでないことは、先の事件で痛感した。
ゆえに、もしまた道を踏み外してしまいそうになったら、手を掴んで連れ戻さなければならない。
そう決心しては居るものの、どこかで「兄を止められぬのでは…」という不安な心持ちもある。
何せあれだけの激情だ。
しかし弱音を吐いてはならない。
あの差し伸べられた政宗の手を取った時点で、絶対に見捨てないと心に決めたのだから。

(…幸いにも、この小十郎殿はどうやら悪い御仁ではなさそうだ。
いざという時は力になってくれるだろう…)

幸村は鼓舞するように、そう胸の内で呟いた。

 

――――――――――

 

「政宗様」

数日後の昼前。
静まりかえった座敷に通った慇懃な声に起こされる形で目を覚ました幸村は
まるで空白の三年を埋めるようにひっついて離れない政宗の強固な腕の囲いから抜け出ようとしたが
あっさりと捕まったばかりか更に密着されてしまう。
小さな声で「放してくだされ」と窘めるも、人の悪い笑みを浮かべた政宗が一言「入れ」と命じ

「お早うございます」

容赦なく襖を開いて挨拶を寄越したのは、小十郎だった。
青褪めて慌てる幸村をよそに、鉄面皮を崩さぬ小十郎は正座のままにじり寄ると
「少しお耳を」と断ってから、億劫そうに身を起こした政宗に何やら耳打ちをする。
幸村には聞こえない。

「Wow…飛んで火に入る塵虫ってか?クク…広間に待たせとけ」
「はっ」

愉しげに咽喉で嗤い命令する政宗に短く応じた小十郎は、素早く座敷を後にする。
何が何やら判らず茫然とする幸村だが

「幸、支度しろ。おもしれぇモン見せてやる」

爛々と獰猛な光を滾らせている隻眼に、悪い予感しかしなかった。

 

 


――小さな山城で燻るしかなかった田舎侍を蹴落とした無頼漢

と近隣ではもっぱらの噂になっているようだった。政宗の事である。
この乱世、一手狂えば簡単に落ちぶれるし、うまく立ち回れば栄華を握ることも出来る。
それに、たとえ己の力がなくとも与する相手さえ見極めれば労せずして成り上がって行けるのだ
…という魂胆が見え見えな来訪者を、上座から冷笑でもって睥睨しつつ

「So…オレにどうしてもその小娘を貰えって?」

政宗は嘲りを帯びた言葉を浴びせた。
近辺ではそこそこ名の知れた商家の家長だという男は、へいこらと恐縮しきった様子で
散々長々と紹介した背後の一人娘を「どうかどうか…!」と馬鹿の一つ覚えのように薦め倒す。
政宗が今後一気に躍進するだろうと踏んでの事だ。
色よい返事があるまでは梃子でも動かないぞと
狡猾というよりは滑稽でしかないその様は、誰の目から見ても醜悪である。
しかし政宗の横に控える幸村だけは、そうではなかった。
右眼の患いのことで両親が頑なに長子として認めていなかった政宗が
もし伴侶を娶ることが出来るのならば、これほど喜ばしいことは無いと。

(…兄上はどうするおつもりなのだろうか…)

と視線を向けた幸村を軽く一瞥した政宗は意味ありげな含み笑いの後、とんでもないことを云い放った。

「アンタら、三年前に確か此処に居る幸村との縁組をご破算したよな?」
「?!」

ギョッと目を剥いたのは、ゴリ押ししていた男だけでなく幸村も同じだった。
その昔に両親から縁組の話しをそれとなく聞かされてはいたが、相手の顔も名前も知らなかったのだ。
それがまさか目の前に居る者達だったとは、夢にも思わない。
あまりの事に言葉も無い幸村だったが、ふと冷静になる。
相手方が気まずそうに沈黙したことに不審を覚えたからだ。

(つまり、これは……)

向こうが最初から幸村の事も政宗の事も知っていたという前提が間違いでなければ
三年前の惨劇により幸村との縁談を「縁起が悪い」と一方的に忌避しておきながら
戻って来た政宗が飛ぶ鳥を落とす勢いと知るやいなや、手の平を返して擦り寄って来た…という事になる。
なんたる恥知らずか!と幸村が激高するより早く

「ぎゃ!」

男の短い断末魔の一寸後、刎ね飛んだ首が、「ドッ!」と重そうな音を立てて畳に落ち
勢いづいて座敷の隅まで転がって行った。
紅い線が途切れ途切れに走る。

「つまらねェ俗物だぜ…But、オレが居ない間、幸に手を出さなかったのは褒めてやるよ」

大きく一歩踏み出して抜刀した政宗が
云いながら何事もなかったかのように低い体勢からゆらりと立ち
見下ろされた娘は「ヒッ!」とひきつけを起こしたかの如くガタガタ震え
何とか逃げようとする素振りを見せるも、腰が抜けているのか、細い白い脚が僅かばかり畳を掻くにとどまる。

「兄上!?〜やめッ…!!」

咄嗟に立ち上がって手を伸ばしたが
「まだShowは終わってねェ。イイコだから黙って見てな」と振り向いた政宗が云い終えない内に
何者かが素早く幸村を捕まえ、逃れられない力で羽交い絞めにする。

「なん…ッ小十郎殿…!?」

気付いて懸命に抗うも、体格良く野太い腕はピクリともせず、まったく外れそうにない。

「だ、駄目だ!何としても止めねば…!!」

政宗の凶行を阻止すべく背後の男を説得せんと振り仰いだ幸村は、戦慄した。
あまりにも平然としている。
まるで、何事も起こっていないかのように。
いや寧ろ、政宗のする事に間違いなど無いから心配するなと、態度で雄弁に物語っており
その盲目さは、かつての自分を見ているようで、途方もなく恐ろしくなった。

「野暮はよしな。あんたに纏わりつく余計なシガラミを断ち斬ろうってんだ…優しい御方だろう?」
「―!」

陶酔しきった、あるいは代弁めいた低い声が耳元を掠め、幸村は息を呑む。
アテにしていた筈の男は、元より味方などではなかったのだ。
悟るも時既に遅く、若い娘の首は、先程よりも軽い音を立てて無情にも転がり落ちた。

―――誰の邪魔も許さない、すべて叩き潰す。

墓前での誓いめいた政宗の言葉が脳裏に甦り、幸村の膝から力が抜け

「おっと」

小十郎に支えられながら足元にヘタリ込んだ。

「OK、終わったぜ…ってどうした。嬉し過ぎて腰抜かしたか?」
「そのようですね」
「っ…」

小気味よく刀を振って血糊を払った政宗の戯言に、事も無く小十郎が同調し
幸村は二人の異様さに呑まれそうになるのを何とか歯を食い縛って堪え
政宗の方に這いずってその足にしがみ付き、力ない拳で数度叩いた。
あんな残酷で極端な方法でしか望みを実現する術を持たない兄に対する遣る瀬無さと
そんな兄を止める事ができなかった己の無力さに、打ちのめされ、拉げる。

「小十郎」
「御意」

子どもの駄々を好きにさせながら政宗が呼びかけると
心得たように頷いた小十郎は、むんずと生首を二つ掴んで外へ放り投げ
残った亡骸もぞんざいに座敷から引きずり出すと
今度はその乱雑さからは想像もできない丁重さで襖を閉めて退室した。

「そうムクれんなよ」
「…ッ…惨いことを…!」

機嫌をとるような声で覆い被さって来た政宗に、あやすように脇腹と内腿を撫で上げられ
幸村は震えながら先程の兄の暴虐を批難するも、鼻で嗤われる。

「Hum、鬼にも畜生にも成ると云ったろ?」
「う…ッ、あ」

ゆるりと耳朶に噛み付いて熱い吐息と舌で炙って囁いてから
無遠慮に片手でまさぐり当てた牡を握られた幸村は身をよじるも
割り開かれた股に勃起しつつある兄の一物を摺り寄せられては恐れ慄くしかない。
またしてもこんな酷い状況で尻を貫かれるのは厭だと声もなく首を振れば
「拒絶だけは許さねェと云ったハズだ」と強く哀しく訴える隻眼に射竦められる。
政宗がこうまで幸村に依存し歪んでしまったのは果たして誰の所為か…
親か、本人か、それとも…幸村か。

「ぅう、ぐ…!!」

力任せに亀頭が押し込まれるえげつない感覚に強張って唸るも
蹂躙されて間もない菊座は頑なであれ緩やかに開いて政宗を受け入れる。
それがそのまま己の心裡を表しているようで
もう一度昔のような兄と弟に戻れればというささやかな希望が斯くも無残に打ち砕かれようと
どれだけ寂しかろうと辛かろうと、やはりどうしても見放す事など出来ないのだ。

「ずっと傍に居てくれ」

なァ幸村、幸、ゆき…っ、、と
それ以外に縋るものを知らぬとでもいうように強く求められ、突き上げられ、抱き竦められ
云い表しがたい感情と感覚がブワリと溢れて息苦しくなるほどに胸が一杯になり

「あ、あっ、あにっ、イッ、うぇえ…!」

舌を噛みつ嘔吐きつつ、幸村は揺れる視界を占領する兄へ、いっそ従順に頷いた。


 


【終】


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あとがき

サイト8周年記念フリリク、『「機熟」の続きで、小十郎や幸村の縁組相手をからませたもの』
ということで書かせて頂きました^^
ちょっと無理矢理すぎましたし設定がガバガバですね;まぁ私が書いたらこんなもんです(笑)
で、片倉氏をこれまでの諫め役ではなく、政宗様崇拝系信者にしてみましたが…いかがでしたでしょうww
「腹踊りしろ」って命令されたらバッキバキのシックスパックくねらせて全力でしてくれると思います^^←

2018/01/21