※四肢切断表現あり。筆頭が鬼畜外道です、ご注意を。
 あまり気分のいい話しではありませんので、少しでも不快感を覚えた方は、無理せず画面を閉じて下さいね…!

 



 


『さなだるま』


 

ぼんやりと目を覚ました幸村は、僅かに開いた明り障子の隙間から射し込む細い光りを眩しく思い、右手を上げ遮ろうとした。

「…?」

けれど、顔の上に影はできず、視界は白々と痛いままで
はてどうしたものかと不思議に思い、視線を己の右腕へと転じた直後、瞠目した。

「なんだ、これは…!」

二の腕の半ばより先が無い。
酷く不格好な短い腕の、断面とも云えるブツ切りの其処には、幾重にも巻かれた白い布があり
見間違いでなければ赤黒い、そう、まるで血のような染みが僅かに滲んでいる。
俄かには信じ難い光景に、ただただ呆然とその一点を見詰め続け
どうしてこんな事になっているのかを思い出そうとした幸村は
己のこめかみに鋭く走った痛みに眉をしかめ、

―――舞い上がる砂埃、飛び交う怒号、激しくぶつかり合う得物の甲高い音、血の匂い
馬の嘶き、悲鳴、断末魔、蒼い稲光、明滅する視界
混乱、撤退、敗走、迫る追撃、逃げ遅れた兵を庇おうとありったけ腕を伸ばし

『旦那…!!』

「ッは…!、はぁっ、はぁっ、は、ッ」

膨大な記憶の切れ切れが一気に押し寄せ、飛び起きて荒い息を繰り返した。
厭な汗が全身から噴き出し鼓動が乱調子に打つ。
同時に右腕が燃えるように痛み出し、堪らず左手で覆いかけるも、あまりの激痛に触れる事すらかなわず
ギリギリと歯を食い縛って柔らかい褥を引っ掴んで掻き毟った。

「…!」

そして気付く。此処は一体何処なのかと。
いまだ鈍痛の続く頭を巡らせ周囲を見渡せば、覚えの無い座敷である。
状況が把握できない。

「…っ、く、…誰ぞ居らぬか…!」

掠れて覇気のない声を上げると、「どうか安静に」、と襖の向こうより硬い声がある。
幸村はカァと怒りを覚えた。
いつ気を失ってしまったのか、甦った記憶からすれば右腕を叩っ斬られた後だろう
となれば恐らく幸村が率いていた陣は全滅しているとみて相違あるまいが
なぜ己だけがこうして手厚く介抱され暖かな座敷でぬくぬくと安静を強いられるのか。
よもや奇跡の大どんでん返しであの絶望的な戦を逆転勝利したなど有り得まい
故に此処が味方の懐である筈がないのは明々白々なのである。
つまり導き出される結論は、

「伊達政宗ェ!これはどういうつもりか…ッ!今すぐ申し開きをせよ!!」

圧倒的な力を見せつけ幸村を敗戦へと追い込み容赦のない猛追で残兵を狩った男
すなわち幸村の右腕を斬り落とした張本人であり、此度の戦の敵陣大将の名を叫び
いきり立つ幸村は褥を跳ね除け閉ざされた襖へ手を掛け開け放つ。
途端、控えの者、否、見張り番の男達が愕いたように立ち上がり
二人掛かりで幸村を取り押さえようと掴みかかって来るので
幸村は雑兵を軽くあしらうつもりで蹴散らそうとしたが
熱でもあるのか、妙に躰が重く、足元が覚束ぬ。
だがそれがどうした、と気力のみで踏ん張り、座敷へと押し戻そうとする手に歯を剥いて抵抗した。
さながら手負いの虎である。
そうこうする内、幸村が目覚めた時点で遣いが走っていたのか

「Hey!元気そうじゃねェか幸村、安心したぜ」

廊下の奥から悠々と現れたのは、騒ぎを気にも留めず笑みを浮かべる政宗だ。

「なかなか目ェ覚まさねぇから心配し
「貴様!よくも斯様な侮辱を某にッ!他の者達はどうしたのでござる…!!」
「Wow、えらい剣幕だな。But、幸村。『他の者達』だと? ンなの云わなくたって判ってるだろーが。
 アンタが訊きたいのはそうじゃねェ、『佐助はどうなったか』、だろ?」
「…っ!!」

云い当てられ、幸村は口を噤んだ。
負けた陣営の残兵達の末路はやはり予測を裏切らず今更如何ともし難いが
己の影がどうなったかまでは、最後に名を呼ばれて以降、意識が途切れていた為に全く判らない。
だからこそ誠に癪であるが目の前の男に探りを入れたのだが
わざわざ云い直して指摘されるとは思わなかった。

「聞きたいか?」
「………」
「最期の最期までアンタを護ろうとして、死んだ。オレが殺した」
「ッ!!!」
「なーんてな。そうだったら良かったンだがなァ、寸での処で取り逃がしちまった」

さすがのオレも地中に溶けた忍は追えねェよと
肩を竦める男の、性質の悪い冗談がやっと呑み込めた幸村は、全身から力が抜け頽れた。
見張り番の男達が慌てて幸村を支える。
政宗は嗤った。

「Ha、忍ごときの生死で一喜一憂しやがって。
 つっても、片腕を失った主のことなんざ、向こうから見限ってンじゃねぇか?」
「あやつは左様な薄情者ではござらん」
「そーかよ」

まぁ思い込むのは勝手だ、好きにしろ。と笑みを深くした政宗は
幸村の脇を支える男達から幸村を引き取ると、「ついて来い」と促す。
ついて来いも何も、支えなしではまともに立ても歩けもせぬ幸村は、半ば政宗に引き摺られて転げそうになり

「Ah-…そうだった。まだ薬が効いてるし、血が足りねェか」
「う、わ…!よさぬか、離せ…!」

軽く舌を打った政宗は、見張り番二人に幸村を押しつけ返すと、さっさと歩き始め
幸村は両側から屈強な男達にしっかりと支えられ、その後ろを追って行く。
抗おうにも幸村にはどうにも出来ず、されるが侭につれて行かれ
手入れの行き届いた優美な庭に面した渡り廊下を突っ切っていく途中
何かが視界の端を掠め、何とはなしに其方に目を向けた幸村は、思わず息を止めた。

それは、異様な光景であった。
点々と綺麗に続く飛び石の傍に、明らかに不自然な敷石があるように見え
否、よくよく目を凝らせば其れは石などではなく、蹲った獣の胴であり
更に凝視すると、ある違和感に気付く。
手足が見当たらないのだ。
しかも死骸などではなく、ちゃんと生きており、時々もぞもぞと身動きしては、頭を擡げて己を毛繕いする。
幸村はゾクと戦慄した。
立派な梅の木の枝にぶら下げられた鳥籠の中には、羽の無い鳥が止まり木の上で可愛らしい鳴き声で囀り
縁側の日陰でハタハタと尻尾を振る犬も、何から何まで、四肢のいずれか或いは全てが欠損している。

「だるま公」

不意に幸村の耳に、押し殺した声が聞こえた。
ハッと左右を見れば、揃って血の気の引いた男達の蒼白い顔があり、どちらも恐怖と怯えを纏っている。
よもや独眼竜にそのような別の二つ名があり
ここまで恐れられているとは知りもしなかった幸村は
先を歩く男の背をじっと見据え、唇を引き結んだ。

「ついたぜ」

重苦しい沈黙を破ったのは、政宗の声だった。
最近整えたと云わんばかりの真新しい畳の匂いがする座敷へと入り
其処で幸村を丁重に下ろした男達はそそくさと部屋を辞してしまい
なんなんだと訝しむ幸村は果たして、その理由を悟った。

「……なるほど、某も同じになるという訳にござるな」
「察しがいいな」

大きな敷き布が拡げられた傍には、侍医と見られる者とその手伝いらしき者が正座しており
様々な形や大きさの刃物や針やら糸やらが入った籠、用途の知れぬ薬、大量の端切れがずらりと並べられている。
先程の庭先での光景を目の当たりにしているからこそ、これから起こる事など容易に予想できた。

「…どうして、あのような惨い真似をする」
「Uh-huh、オレが愛でると何故か皆逃げちまうんでな、ああすりゃ逃げられねェだろう?」
「愚かな…それに何故、某まで……あの戦場で首を落としていれば良かったものを…
 云うに事欠いて情でも湧いたか、それとも単に嬲りたかったのか…」
「アンタの場合は両方だな。それに、」
「この外道が…っ」
「そう、その目が最高にCoolだぜ」

政宗を真っ直ぐに射貫く、熱く滾った眸は、政宗にはキラキラと輝いてすら見え
云いようのない興奮と独占欲を覚えてしまう。こんな事はかつてない。
思えば、命を懸けた先日の戦場で、自らの命を顧みず雑兵ごときを救うために伸ばされた腕を躊躇なく斬り落とした際
怨みでも絶望でもなく、ただただ烈火のような激しさで睨みつけられた瞬間から、政宗は囚われていたのだ。
早く幸村の全てを己の物にしたくて堪らない。

「So、今日は左腕だ。一気にやると死んじまうからな」

槍を自在に扱うが故に雄々しく逞しい幸村の左腕をうっとりと撫でながらそう囁いた政宗は
自ら幸村の二の腕に紐を巻き付けきつく縛ると
持ち上げたその腕を侍医に固定させ、もう一人には幸村の背を支えさせた。
いまだ躰が云う事を聞かずうまく振り払えない幸村は、ツゥと冷や汗を流し

(万事休すか…ゆくゆくは両脚も奪われてしまうのであろうな…さぞや痛かろう)

スラリと刀を引き抜いた政宗が、こなれた所作で一閃させた。

 


両腕のない生活は、まことに不便であった。
まず平衡感覚が乱れ、慣れぬ内は一人で起き上がる事もできなかったし
着替えは勿論のこと食事や下の世話までありとあらゆる行動に補助を要した。
大概は御付の者が、文字通り付きっきりで。
気が向けば政宗がその役を買って出ることもあるが、幸村にとっては苦痛以外の何物でもなく
見るな触れるな近付くなと、ありったけ拒絶するものの通用したためしはなく
それどころか、睨みつけて距離を取ろうとすればするほど、男は嬉々としてこう云うのだ

「これまでにも何人かダルマにしてみたが、洩れなく全員両腕の時点で
 躰が生きていようと先ず目が死んじまう、生気を失ってな、まるで死人みたくなっちまう」

ガッカリだ、と。
そして、

「でもアンタは違う。いつまで経っても燃え尽きねぇで、オレを焦がし続ける」

そう満足そうに云いながら、両腕の無い幸村を組み敷き、残った下肢を割り開いて蹂躙する。
呼気を荒げ、欲望のままに腰を揺すり、幸村を最も下劣な方法で打ちのめし
それでもなお濁らぬ幸村の強い眸を、酩酊の心地で眺めながら、「幸村幸村」と狂おし気に名を呼ぶ。
無論幸村とて一切抵抗しなかった訳でも諦めた訳でもない。
佐助が逃げ遂せた事を知っているからこそ腐らず投げ出さず、想像を絶する苦痛と屈辱を耐えに耐え
幾度か脱走を試みた事さえあったがすぐに政宗に捕らえられ
先日、ついに右脚を持っていかれた。
幸村はとうとう身動きできなくなった。
残るは左脚一本。
何が出来るという。

「腕の傷はすっかり塞がったな。明日は左脚だ」

ついにその時が来るのかと、さすがに言葉もない幸村に対し
ひどく機嫌の良い政宗は幸村の歪に癒着した腕の末端の縫合痕と
引き締まってしなやかな左脚をまるで高貴な陶器でも愛でるように幾度も丁寧に撫でながら

「お祝いに、とっておきのプレゼントを用意してあるからな?」

アンタもきっと喜ぶぜと、独りよがりな事を云って、その日も貪るように幸村を犯し
明くる日、幸村はあっけなく左脚を失った。
多量の出血で意識を手放し数日後に目覚めた時には、既に血は止まっていたが
縫合された傷口はズキズキと痛み朦朧とするほどの熱が出て
夢か現か判らぬ状態に陥りながらも、己の四肢が残らず欠如しているという事実だけは否が応にも認識できた。
そうして更に幾日か経って、漸く熱が下がり意識がハッキリしだした頃
幸村は政宗に大層大事に抱え上げられ、一体どこへ行くのかと警戒するも束の間
眩しい庭に連れ出され、其処にあった物を見た瞬間、目を瞠る。

「約束してたろ?オレからの贈り物だ、遠慮せず受け取りな」

躰の大きさに合わせて特別に誂えたという、上等な装飾が施された輿にそっと下ろされた幸村は、思わず身じろぎした。
ふかふかとした布地が張られた床をしっかりとした屋形が囲い、四方に簾が垂らせるようになっており
差しわたされた二本の長い棒の前後には担ぎ手である男衆が控えている。
まさかこれに乗って出掛けようとでも云うのだろうか。
とことん血も涙もない鬼のような男であると、侮蔑と嫌悪の念を抱く幸村は
しかし外に出る機会があるという事は、佐助がもし助けに来た場合には返って都合が良いやも知れぬと
前向きに考えるべく努めようとした。
けれど、まるでそれを嘲笑うかのように

「今のアンタを見たら、どう思うだろうな?」

オレの愛しいダルマさん…?
輿の中で大人しく転がっているしかない幸村の頬を撫で
口角を吊り上げて囁いた残酷な男は、優しい口づけを落とした。

 



【終】


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あとがき

ずっと書きたかったけど中々踏ん切りがつかず、けれどとうとう書いてしまいました、四肢切断ネタ…!
幸村には可哀相ですが、これぐらい平気でやってしまう狂った筆頭が大好きです^^←

2016/06/25  いた。