※引き続き、何でも許せる御仁向け^^ 性描写もありますので、ご注意を!

 

 

『宋襄の仁』 後編

 

彼方此方から言祝ぎ乱れ舞う城下町を、輿入れ行列が練り歩く。
前以て御触れがあった事もあり、町民は挙って囃し騒ぎ、まこと賑々しい限りである。
そうしてその中を勿体ぶって進む一行が漸く城に辿り着いた頃には
宵の闇と夕陽の茜が溶け鬩ぎ合う、程好い黄昏時だ。
煌々と門火が焚かれ、輿を出迎える。
吉例に則り、これから三日間、城中の燈篭や灯台の明かりが消える事は無い。
最後尾の見えぬ列が続々と後ろから押し寄せ
貝桶やら化粧道具、祝儀の品やら衣裳、その他諸々の荷が絶え間なく運び込まれるのを後目に
幸村の乗った輿は役目の者に案内される形で城内の座敷へと入り
そこからは屋形を取り外した輿を力者に代わって侍女が支え
二の間、三の間まで舁き入れての輿寄せが終わると、次いで通されたのは、休息の為に誂えられた広間である。
此処で一晩休み、翌日から祝言が始まるのだ。

「ゆき…、…愛姫様、どうぞ此方へ」

頃合いを見て、御付き侍女が囁くも、うっかり名を呼び間違えかけ、慌てて云い直す。
壁に耳あり障子に目あり
油断なきようにと幸村は侍女達と順番に視線を合わせ、しっかりと頷き合った。
手筈では、この初日の内に彼女らが密かに城の者と話しをつけ荷物の処まで案内させ
隠しておいた幸村の持ち物を取り戻し元の姿に戻って護衛衆に紛れ城を出る、という事になっている。
花嫁が行方知れずになったと伊達側が判るのは、明日の祝言の時だ。
その頃には、とっくに護衛衆含めた一団は役目を終えているので帰路の途である。

(…今頃、姫はどのあたりであろうか……万事うまく行けばよいのだが)

時間は十分に稼いだように思う。
あとは幸村が首尾よく逃げられれば御の字だった。

――しかし世の中そんなに甘くはない。

侍女達がどんなに熱心に説得を試み報酬をちらつかせようとも
城主である独眼竜の癪に障る真似だけは決して出来ない、勘弁してくれと
みな一様に首を横に振り、頑として、否、震え上がってそそくさと立ち去るのだ。
ここまで畏怖される伊達政宗とは、一体どれほどの男なのか…
見通しの良かった筈の先行きに、ドロリと重たい暗雲が垂れ込み始める。
さてどうするかと懸命に知恵を出し合うも、妙案は浮かばず
(総出でわらわらと城中を徘徊して探し回るような怪しい行動が出来る筈もなし)
うんうんと悩む内にあっと云う間に夜が明けてしまった。
とりあえず、婚儀が始まるまでにまだ猶予はあるからその間に何か考えよう
と話は纏まったものの、あろう事か

「これから半刻後お迎えに上がります。それまでにお仕度を」

伊達家の侍女が有無を云わせぬ硬い声で報せるではないか!
あまりに性急過ぎると訴えるも、「政宗様のご意向にございますれば」と取り付く島もない。
それでも何とか時を引き延ばせないものかと侍女達が必死になって食い下がっていると

「Shut up、三日も下らねェ事やってられっか。今日一日で全部済ませりゃいいんだよ」

襖一枚を隔てた座敷の外より、鴃舌混じる横柄な口振りの男の冷め切った低い声が
バッサリと押し問答を一刀両断する。
中の幸村達は凍り付いた。
この云い様、城主の伊達政宗本人で間違いあるまい。
まさか直々の説服があろうとは思いもよらず、よもや室内に踏み込んで来はすまいが
突然の気配に冷や汗が噴き出て止まらない。
侍女達が事の切迫性を瞬時に悟り、「承知致しました」と、やっとの声で返事をすれば
その答えが当然だとでも云うように、政宗は無言で立ち去って行った。
―ほっ、と全員の口から安堵の息が漏れる。
僅かな言動に滲む圧倒的な威圧感と不遜さは云わずもがな
諸大名が権力を誇示するように盛大に催す婚儀を「下らない」と吐き捨て
更に日程の短縮まで強行せんとするその思召は凡そ常人の常識では推し量れぬも
恐ろしい程の気の短さというのはよおく判った。

「…やるしかないようだな」
「…はい」

小声で囁き合い、後に機は巡って来ると信じて、大急ぎで身支度を整える。
そうしてきっかり半刻後に来た迎えの者が灯す脂燭に導かれるまま
祝言の大広間へと辿り着いて上座の右側に座ると
少し遅れて白装束姿の男が左側に着坐する(「左」の方が一つ格上になるからだ)

「………」

ちらりと盗み見るに、幸村とそう変わらぬ歳であろう若者は、かなりの見目好しであり
しかし纏う空気はヒリリと刺すほどに鋭く、右目には厳めしい鍔の眼帯
それから、御付きの者が恭しく両脇へ置いた六つの刀に、ザワと背筋が粟立った。
これが噂の六爪流かと。
いつか本物を間近で見る機会があればと考えなかった訳ではないが
まさか斯様な処で拝む事になろうとは夢にも思わなかった。
つい反射的に、いつどう斬り掛かられても対処できるような体勢を取ろうとしてしまい
いや待て落ち着け幸村慌てるな、と躰に染みついた身構えを解きつつ
さっと座敷の方へ視線を走らせてみると、整然と居並ぶ重臣連中とて皆それぞれ刀を持ち込んでいる。
然もありなん、婚儀の最中といえどももし敵襲あらば素早く応戦する為だ。
奥州が強国たる所以を目の当たりにしたような気がし、息を呑んだ幸村は、ふと気付く。
伊達家の親族や一門、愛姫側からの送り役の長が「見届け人」として座る他に
本来ならば三日目の「御披露目の儀」に列席する筈の重臣達までもが居るという事はつまり
政宗は本当に今日一日で全てを済ませてしまうつもりなのだと。
まさしく、その予想は的中した。
祝詞もそこそこに、はやくも盃事の「固めの儀」へと移り
大中小と大きさの異なる盃を一組にした三ツ組盃で
初めに幸村が三度、次に政宗が三度、最後に幸村が三度で三三九度
朱塗りの杯で酒を酌み交わし、それが終われば、畳み掛けるように宴が始まって
給仕が間に合わぬほどの大量の酒と料理が振舞われる中
(呑めば呑むほど両家の結びつきは強くなるという考えは何処も同じらしい)

「この度は、つつがなく御婚礼の儀が執り行われた由、まことにお目出度く…!
 これにて両家の繁栄も益々もって揺るぎなく、祝着至極に存知たてまつり候!」

そんな堅苦しい祝いの言葉を家老筆頭とみえる臣が仰々しく述べる。
いちいち近くへ寄って来て恭しく云うものだから、幸村は内心ヒヤヒヤしたが
互いに深々と頭を下げているため、顔を見られる事はなく
何とか無事に乗り切ったものの、宴会が漸くお開きになった時には、既に日が暮れていた。
そう、とうとう夜を迎えてしまったのである。
事前に聞いていた流れでは、この後「お床入りの儀」として
政宗と夫婦(めおと)の契りを結ばねばならぬ。明け透けに云うなら初夜というやつだ。
さすがの幸村も焦りを禁じ得ない。
侍女達もどうにかせねばと狼狽えているようだが
終始向こう方の調子に振り回されっ放しの上に一分の隙も無くては
どうにもこうにもならず、結局、打つ手無しである。

「……仕方あるまい。閨で独眼竜殿を昏倒させ逃げよう」

手荒だが、もうそれしか思いつかなかった。
六爪の竜相手に少々無謀だけれども、何も勝算がない訳ではない。
幸村が得意なのは槍術だけにあらず
乱戦を生き抜く為に骨身に叩き込んだ柔術、甲冑術、騎馬術、泅水術などの武芸全般
特に「甲冑での戦いは十度に六、七度組討に至ることは必定なり」とも云われているように
武装した相手を素手で制す組討は、槍に次いで磨いた技術だ。

「っいけません、それはあまりにも…!」
「四の五の云っては居れんでござる。それより……」

出来れば失敗した時の事など考えたくはないが、そうもいくまい、侍女達をなんとか宥め
もしもの時は、此度の事は全てこの幸村の奸計であり脅されて仕方なく手を貸していたのだと
皆で口裏を合わせ証言するよう、しっかりと云い含めた。
下手に庇い立てされては本末転倒、なんの為に身代りを買って出たのか判らなくなる。

(さて…あとは野となれ山となれ、だ)

半ば捨て鉢な覚悟で支度を整え、燭台の明かり揺らめく竜の寝床へと赴いた白い襦袢姿の幸村が
親指、人差し指、中指の三つ指をついて平伏し待っていると

「Ah―、そういうのいいから、とっととツラ見せな」
「?!いッ…!」

一国の主あるまじき云い草で現れた男に真上から髪を鷲掴まれたかと思えば
乱暴に引き上げられると同時に片手で顎を捉われ上向かされた。
鋭い隻眼が正面から幸村を射貫く。

「Good、好みのツラだ。抱いてやる」
「っ、」
「それはそうと、アンタ何処の差し金だ?オレに偽者掴ませようとはイイ度胸じゃねェか」
「…!!?」

幸村は硬直した。
ドッ、ドッ、ドッ!と心臓が乱れ打ち、ブワリと汗が噴き出る。

「Ha、スゲェ汗だな。化けの皮が剥がれちまうぜ?」

紅のひかれた唇を親指の腹でグイと伸ばされ、確信。
カマをかけているのではない、完全に見抜いているのだと。
どの段階でかは判らぬが、何にせよ、ならばこの男に今後隙など出来る筈がなく

(ッやるなら今をおいて他にない…!!)

即座に判断し、懐に忍ばせていた守り刀を素早く掴んで抜き放つも
僅かに政宗の脇差の方が速かった。
ギン!と鋭い音を立てて弾き飛ばされる。
しかし、それこそが幸村の狙いだった。
相手が刀を構え直す暇を与えず掴みかかり首を締め上げてしまえば勝ちだ。
ところが、

「甘ェ!!」
「うッ、ぐ…!」

政宗が反対の手に持っていた鞘に容赦なく打ち据えられ、肩口に走った激痛に身悶え蹲る。
これまでに幸村が相対してきた誰よりも、手強く、闘い慣れしている動きだった。

「政宗様!如何なさいました…!」

豪奢な襖を隔てた次の間から、心配そうな声が飛んで来て、幸村はハッと息を呑む。
安直、いや、愚直にも「昏倒させればいい」などと考えていたが
城主の寝所に不寝番がつくのは当たり前の事であり
「無事に逃げ遂せる」などというのは土台無理な話しだったと今更ながら気付く。

(万事休す…か)

幸村は全てを覚悟した。
なれど政宗は、予想外の言葉を口にする。

「何でもねェからすっこんでろ。次に口出ししたらブッ殺すぞ」
「…承知仕りました」

と、不寝番を黙らせたではないか。
幸村は愕きと不審から思わず政宗を凝視する。
本物の愛姫ではないと判っていながら、しかも刃まで向けられたというのに…何故。

「久しぶりに愉しめそうだってのに、邪魔されて堪るかよ」
「…!」

ニヤと下衆な笑みを浮かべ云い放った男が、幸村を唐突に夜具へ引き倒す。
幸村は「まさか…!」と嫌な予感がよぎり咄嗟に足掻いたものの、いとも容易く襦袢を割り開かれ

「Wow…こりゃ騙されたぜ。まさか野郎だったとはな」
「っく…!」

逞しい胸板や割れた腹筋、股座の萎えた一物を眺め下ろしつつ、政宗はさも意外というように片眉を上げた。
どうやら幸村が偽物だと気付いてはいたが男であるとは思っていなかったようだ。
そもそも、

「一体、いつ、気付いた…」
「祝言の席。いやに身のこなしが硬ェし、刀を見た時の身構え方が並じゃねェ…
 なにより、作法の行き届いた人間はオレの顔を盗み見ねェよ」
「!!」

そんな些細な仕草で勘付かれていたとは思いもせず、恐るべき炯眼に不覚にもたじろぐ。
ただ、殆ど一目で見抜いていたならどうしてその場で捕えてしまわなかったのだろうか。
当然にして湧いた疑問がそのまま顔に出ており、政宗はクッと口端を上げ、こう云った。

「ただの暇潰しだ。アンタこそ、よくもこんな勝目のねェ大博打に出たな」
「!、それは、、」
「一体誰にオレの首を獲って来いと命じられた?…No、違うな。さっきもそうだが、まるで殺気が無ェ。
 花嫁の替え玉を演じるにしても素人丸出しだったしな。…となると、こんな茶番で誰が得をする?
 後ろ盾が欲しい筈の田村家でもねェとすると……Hmm…愛姫本人か?それも極々個人的な理由で…
 But、行動に移すとなれば後押しする人間が居た筈だ。御付侍女や従者あたりが妥当とすれば……Yep
 アンタ一人で此処までするなんざ不可能だしな。内輪の手助けが必ず要る。全員グルか」
「…!!!」

何者だ、この男…!
幸村は戦慄した。

「しっかし、この土壇場で中々やってくれるじゃねェか。まさか駆け落ちとか云わねェよな?
 Ha、何だその顔。大当たりってか?クク…
 まァ何にせよ、ウチとの話しをご破算するなんざ、とんでもねェ大事だぜ。
 このオレをこけにしてツラに泥を塗りたくるのと同じだ。
 勿論、アンタも愛姫も侍女共も、その責任を負える覚悟があってこんなバカな真似をしたンだろう?」

指摘された幸村は、暫く言葉を失う。
痛烈に頬を引っ叩かれ現実を突き付けられた気分だった。
婚家と実家がもめるような事態があれば、離縁どころか親族まで打ち首にされる
などと昔聞いた話しを不意に思い出す。
もし、本当にそんな事が起こってしまったら……!

「そうだな…手っ取り早く皆殺しにしてやろうか?」
「ッ!!」
「Oh、手引きした侍女連中も同罪だなァ、なんならそっちから今すぐ殺しに行ってもいい」
「待っ…!すべてッ、すべて某が責を負う…ッ!!」

気付けば叫んでいた。
どうせその日暮しの身軽い雇兵である。
両親は幼い頃に流行り病で亡くしていたし、他に身内がある訳でもなく、己がどうなろうと構いやしない。
なれど愛姫や心優しい侍女達にまで累を及ぼすのは、何としても避けねばならぬ。
それが叶うならば、惜しからざりし命だ。

「Okey!そう来なくちゃァな」

決死の幸村に対し、いやにあっさりと、ごく軽い調子で政宗が申し出を呑む。
一瞬聞き違いかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「別にmarriageなんざどうでも良かったンだ。世継ぎもな。オレぁ死ぬまで愉しめればそれでいい」

アンタにも判るだろ?
同意を求められても、幸村にはこの男の事が何一つ理解できなかった。
これだけの強国に君臨しておいて己の家の更なる繁栄も存続も望まず
ただただ自身だけの欲求を満たしたいなど、根本から違う生き物としか思えない。
何かが破綻している。
この狂気的な素顔を、果たしてみな知っているのだろうか…?
然り、知っているからこそ、城の者達はあれだけ政宗に怯えていたのだ。
漸く合点がいくものの、気付くのが遅すぎた。

「So、お喋りはこのぐらいにして、とっとと始めようぜ」
「…な、何を」
「抱いてやるっつっただろう」
「っ?!よせ…!な…ッあ…!」

突然、政宗に股を割り開かれ、菊座に指を突っ込まれた幸村は悲鳴を上げた。
覆い被さる男を睨み上げると、涼し気な顔で見返され

「何だ、慣らして来てねェのか。つくづく、なってねェ花嫁ちゃんだ」

準備はきちっとして来なと、下品な事を云いながら遠慮のない手つきで尻穴をグリグリと探られる。

「ッ!、う、あ…っぐゥ、、う…!い゛っヅ!!やめ…っ」
「Ah―?責任取るんだろうが。これぐらいどうって事ねェだろ」
「ン゛ッぐ…!!」

若衆道は、なにも稚児や小姓に限った事ではなく
武人同士の主従関係においても男色の契りを結ぶ事もある
(それを戦略的に利用して敵方の情報を入手し城に攻撃を仕掛けたという、くノ一顔負けの逸話まであるくらいだ)
幸村とて、その手の話しで迫られた事は数知れない。
けれど一処に永く与する気がないのでそもそも契り立てする必要がなく、この歳でまだ経験した事はなかった。
常識として知っているとはいえ恐れを覚えずには居られない
だが責を負うと決めたからには、どのような事でも乗り越えてみせよう。
そう腹を決めた幸村が「好きに致せ」と呻けば、政宗は「上等だ」と愉しげに呵々と嗤い
黒々とした塗りの箱を引っ張り寄せると香油を取り出してトロリと垂らし、指に纏わせ菊座に塗り込め始めた。
丁子に似た独特の芳香が鼻に纏わりつき、余分に溢れ伝う雫が肌を滑ってこそばゆい。
眉をしかめた処で指が増やされ、ぬちゅぬちゅと出入りを繰り返し
まだ続けるつもりなのかと視線を彷徨わせれば、「女のほとみたくガバガバにしてやろうか?」
と今日日の酔っ払いでもそうそう口にしないような下卑た揶揄をされ
ありったけの軽蔑を込めた目で睨んでやると、「おーコワイ」と心にも無い事を云いながら
政宗が指を引き抜き、代わりに自身の一物の先端を押しつけて来た。
「あ、」と身構えるより先にズググ…と侵入して来る。
実に手慣れたものだ。

「…う、ッは…!はぁッ、はぁ…!」

猛烈な圧迫感を伴って、解された菊座がジクジクと熱を孕み、浸透していく油がひどくぬかるんで
政宗がじわりと動き出せば、一気に強くなった香りがたちまち充満する。
頭がおかしくなりそうだった。
尻の穴が幾度も収縮する。
左右に押し広げられた足が不覚にも震え、政宗が人でも食い殺せそうな残忍な笑みを浮かべた。
血の気が引くほどの恐怖感に襲われ悲鳴を上げそうになったが、意地でも耐えてみせると
更に喜色を濃くした男は、おもむろに薄い唇を綻ばせ

「オレも一枚噛んでやるよ」

囁いた。
どういう意味だ、否、どういう魂胆だと唸る幸村の
強く敷布を握り締めてすっかり白くなっている両手を上から包み込んだ政宗は続けて

「替玉の件は不問に付す。っつーか、無かった事にしてやるよ。
 アンタがこれからもずっと、身代りでオレの嫁やってくれるならな。
 簡単な話しだろ?アンタ一人の犠牲で、全部丸く収めてやるっつってンだ」

予想だにしない条件を突き付けて来た。
幸村はゴクリと唾を呑む。
一聞する限りでは政宗が損するようにしか思えぬものの、この話しが誠であるなら
幸村が引き続きずっと花嫁の振りをしていれば
誰も咎を受けずに済むし、愛姫もそのお家も守られ、幸せに暮らして行けるのだ。

「…なれど!、うっ…、いずれは何もかも…!」

露見する。
幸村が偽物の花嫁どころか、男だという事が。

「ん?そんな事か。To make black white.
 ま、文句を云うヤツは黙らせりゃいい。All right?」

国主という立場と権力に加えてこの荒い気性である、元より歯向かう者は居ないだろうが
そもそも有無を云わせる気など更々無いのだ。

「何故、ッ、そこまで…っ」
「判らねェか?アンタを気に入った。つまらねぇ政より、よっぽど愉しめそうだ…ぜ!」
「っ?!あッ、あァア!!」

会話をしている間はゆるやかだった動きが、急に激しくなり
深い処を抉られた幸村が堪らず声を上げると

「Hey、花嫁が実は野郎だった上にクソビッチだって云いふらされてもいいのか?慎めよ」

そう云って意地悪そうに笑み、シー…と人差し指を唇に押し当てる。
その仕草一つで、襖一枚向こうに不寝番が居座っていた事を再び自覚させられ
ついでに侮辱されているという事も察し、殺意すら覚えながら慌てて口を掌で覆い隠した途端

「、んっ!んっ?!ンんッ、ン゛ぅう…っ!」

褥をずり上がるほど強かに突き上げられ、くぐもった悲鳴が小毬の如く跳ねる。
政宗の太腿の上に乗り上げた両脚もブラブラと淫らに揺れ踊り、とても見て居られない。
勘弁してくれと必死に首を横に打ち振るも

「ん、ぐ!?ふが…!あっ、ハッ、げほ!ハァ、あァッ!!」
「Oops、鼻の先まで赤くなってやがったから、つい可愛くて摘ンじまった。悪ィ悪ィ」
「ヒッ、い、ァあ゛…!!」

ピッタリと口を塞いで声を抑える様を嘲笑うかのように政宗は鼻を指で摘み上げ
必然的に息が出来なくなった幸村はその原因から逃れんと両手で払い除けた。
結果、それを見計らった政宗に、背が浮くほど下半身を顔に向かって折り畳まれ
足首と手首を左右それぞれ一緒くたに頭上辺りの敷布に縫い付けられた挙句
ほぼ真上からズコズコと立派な牡を突っ込まれ、世にも情けない悲鳴が座敷中に反響する。
無論、薄い襖など筒抜けだ。
やめてくれ!と何度も訴えたけれど

「せいぜい、嫁の務めを果たせよ。オレの子種を腹が膨らむまで注げば、もしかすっと孕むかもな?」

笑えない冗談を云って哄笑した男は、無慈悲にも射精し
浅い処で吐き出された所為で少しばかり溢れたソレが、尾骨から背にかけてゆっくりと伝う感覚をまざまざと味わう。

「…う、…あ…っ、、…!ああ、う……!」

嫌悪に息つく間もなく、たちまち体位を変え再び覆い被さって来た暴君に、あと何回種付けされればいいのだろうか…!
途方もない絶望と、猛った牡に尻をガツガツ掘られる苦痛を耐えるように、幸村は強く瞼を閉じた。

 

――――――――――――――

 

翌日。
夜通し竜の巣に引き摺り込まれた可哀相な獲物、幸村はぐったりと眠っていた。
その傍には、おいたわしやと嘆く御付侍女達が揃い、さめざめと泣く。
今朝方、政宗に呼び付けられ、戦々恐々と御寝所の襖を開けた時の衝撃たるや、生涯忘れない。
ぐちゃぐちゃになった褥の中心に横たわる幸村の若い躰に散り残っている鬱血や歯型の数々
大きく泣き腫らした両瞼に、これでもかと尻や内腿に垂れ流れる生々しい体液、乱れた髪、か細い呼気。
とどめは、気を失っている幸村を「綺麗にして来い」と命じられるまま湯殿に連れて行き
泣きそうになるのを堪えつつ躰を清め、不自然に張った下腹部を撫で押した際に
仄赤く膨れた菊座からゴプリと溢れ出した夥しい量の液体だ。
たっぷりと無駄打ちされた子種の他、小水とおぼしき物やら何やら、とにかく、酷い有様で
侍女らは思わず目を逸らし手で口を覆い悲鳴を抑えた。
自分達が不安を抱えて過ごした一夜の間に幸村が如何様な目に遭い
そしてさんざん這いずり廻ったであろう地獄は、推し量れるべくもなく
故に、ここまでされてもなお幸村や己達の命が無事なのは、つまり、そういう事なのだろうと
悟った瞬間に、悔しさと申し訳なさと労いと謝恩が一挙に押し寄せ
辛うじて我慢していた泪がついに堰を切ったようにボロボロと流れ出して嗚咽した。

…斯様な、またとない御仁を、こんな目に遭わせてしまった…!

そんな後悔と自責の念が侍女らの心を雁字搦めに縛り上げ
与えられた座敷に幸村を寝かせ甲斐甲斐しく介抱しつつ
いかにして今後償って行けばいいのかと、途方に暮れていた中、政宗が現れる。
咄嗟に幸村を背後へ護り隠すように前へ出れば、クツクツと大層おかしそうに咽喉で嗤った竜が、ある事を告げ
侍女達はいよいよ目の前が真っ暗になるような奈落へ突き落とされた。
昨晩幸村が呑んだ条件を聞かされたのだ。

「ッああああ…!どうか私共をお許し下さいまし…!幸村様、幸村様…っ!!」

あれだけ隠し通すつもりであった名を我知らず叫びながら、侍女達は幸村に縋り付いて号泣し
そのあまりにも悲痛な慟哭に揺り起こされるように、薄らと瞼を開いた幸村は
状況を呑み込む事が出来ずに居たが、しかし女達の泪は捨て置けぬと震えながらも身を起こす。
それとほぼ同時に、

「アンタ、幸村ってのか。どっかで聞いた事あるな……Hmm…」

政宗は冷徹な隻眼を眇め、暫し思案した後

「Aha!そうか、こいつはイイ。 おい、今から色直しすンぞ」

とっておきの悪戯を思いついた悪童、はたまた外道悪漢そのもののような悪辣な笑みで云い放った。
今度はいかな気まぐれか、何にせよ、ろくな思惑ではないだろう。
「色直し」とは、読んで字の如く、白装束を脱ぎ、色物の衣裳に着替える事だが
(本来であれば、三日目の御披露目の儀において行う筈だった)
今更そんな事をして何の意味があるのかと、寒気を覚える面々を置き去りに
思い立ったが吉日とばかりに「全部持って来い」という命令一つで
城中町中から極彩色に艶めき輝く鮮やかな色打掛や金箔まばゆい金襴緞子の帯が掻き集められ
元々愛姫の為に用意されていた衣裳には目もくれずに政宗が迷いなく選んだのは
真っ赤に燃える紅色の染め地に豪華な金銀摺箔が惜しげもなくあしらわれ美しい吉祥文様を描く
それはそれは見事な一品であった。

「Well,well well. 似合うじゃねェか」

着せ付け終わった幸村を見るや、ご満悦の様子で口笛を鳴らした政宗は
「こりゃお披露目partyのやり直しだな」と薄哂いを浮かべ
おもむろに幸村の片手を掬い上げると思わせ振りに手首へ口付ける。
その意味に気付かぬ侭、幸村は手を引っ込める事もできず

(…いよいよ皆の前に引きずり出され、今度こそ見せ物にされるのか……)

陰鬱な心持ちで覚悟した。
これから先、どのような辱めに見舞われようとも、黙って受け入れるしか道はないのだ。
ほんの数日前までの人生がまるで嘘のようだった。
あの時、愛姫に情けをかけた事を後悔するつもりは微塵もないが、まさかこんな結末になろうとは…


――その後、『二槍の若虎』の姿を戦場で見た者は、ついぞ居ない。


 

 

【終】


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あとがき

23万hitキリリクにて
『政宗の所へ輿入れするのが嫌な愛姫を助けるべく花嫁に扮し入れ替わった幸村が
政宗に正体見破られるも気に入られ、そのまま妻にされる+ドS筆頭による初夜』
という事で書かせて頂きました…!筆頭がドSというよりただのゲス野郎になってしまったorz
そしてなんやかんや盛ったら安定のグダグダっぷりww
でも折角の輿入れ幸村(笑)ですから、これは気張らねばと色々調べてたら、中々面白かったです^^
最初は十二単的な煌びやかな平安衣裳着せようかしらと思いましたが
幸伝で筆頭とお揃いの白装束姿を披露してくれた事ですし、白無垢にしましたv
(てっきり江戸時代ぐらいかと思ってましたが室町時代末期からあったんですね、ビックリしました)

今後の流れとしては、夫婦の仕事(子づくり)に昼夜問わず励む(強制)けれど耐えきれなくなった幸村が
政宗の殺害を決心しあの手この手で仕掛けるも、ことごとく仕損じ
その度に狂喜乱舞する筆頭にますます可愛がられ生涯を共にする…って感じでどうでしょうか!

【余談】手首へのキスの意味は、『欲望』の男性心理を表すそうです^^


2016/11/23  いた。