※幸村がnot真田家。愛姫(捏造)がちらりと出て来ます。
 輿入れ行列やら婚儀の描写やらありますが、下調べ不徹底ですし
 妄想と勢いだけの捏造部分もありますので、ふわっと、軽〜く読み流して頂けると助かります(汗)
 つまり何でも許せる御仁向け!(今更ですかね^^;) ご注意を〜★

 

 


『宋襄の仁』 前編

 

某、吉日。
雲一つなく晴れ渡った昼下がり、広大な奥州領のとある街道を、長い行列が練り歩いていた。
遅い歩調の先導の後ろには、幾人もの力者が支える切妻屋根の豪奢な屋形に簾のかかった立派な輿
その周囲を屈強そうな男共が警護し、次いで御付き侍女達の輿や、大小様々な櫃を担いだ小者連中がぞろぞろ続き
しんがりにはきっちりと幾人かの武士がついている。
めでたくも御輿入れの行列であった。
向かう先は米沢城。
奥州筆頭たる伊達政宗の元へ嫁ぐは田村御前、愛姫である。
その名に違わず大変めごい姫だともっぱらの噂だ
道中で賊や狼藉者がよもや襲って来るやも判らぬので、姫の輿の護りは特に手厚くしてあったし
例えそうでなくとも、あの独眼竜と名高い男の婚儀を台無しにしては、首が飛ぶだけでは済まないだろう
本来ならば嘉すべき雰囲気でなければならぬところ、物々しい警戒をしつつ粛々と進んでいた。

「…おい、お前 『二槍の若虎』 なんぞと云うご大層な二つ名があるそうじゃないか。
 もしも、万が一の時は、頼んだぞ…!」
「うむ、承知した」

かつて要人の護衛の任に就いてこれほどに緊張した事があっただろうか
腰に帯びた刀を撫でながら心配で堪らないといった風に男が話し掛けた若者の名は、幸村という。
頼もしい返事で頷いてみせるその自信はもちろん虚勢などではなく
幸村はこれまで、数々の戦場において、そこらの武将などより余程すぐれた手柄を立てて来たのだ。
この戦乱の世を生き抜く為にがむしゃらに振るっていた二槍が
やがて若輩ながらも勇猛な様とともにそのまま渾名となってついて回るようになり
近辺の武士だけでなく半農までも一度は耳にし口にする程の赫々たる活躍ぶりをみせていた。
されど主家は持たぬし出自も武家ではない。
ゆえに其処らの足軽とは少々異なる、流浪人、謂わば金銭で雇われて動く雑兵である。
それを「卑しい身分の癖に」と貶む者も少なくはないが
名のある武将に正式な家来となるよう「是非に」と誘われた事も何度かあり
されど一処に身を置くつもりは毛頭ない幸村はぴしゃりと跳ね除け
己が働いても良いと思った依頼だけを受けてしっかりと全うした。
そんな若いながらも徹底した信念と、それを押し通せるだけの確かな腕っぷしを見込んだからこそ
愛姫の実家は今回の為に幸村をわざわざ捜し出し、特別に雇い入れたのだった。


「……うん?何事であろうか」

なだらかな峠を下り、そろそろ立派な天守閣が遠くに霞み見えようかという頃、ゆっくりと列の動きが止まった。
幸村が素早く視線を走らせると、姫の輿の傍に張り付いていた従者が簾越しにぼそぼそと何事かを遣り取りし
間もなく輿が慎重に下ろされ、すぐさま簡易な幕で目隠しが張られたかと思えば
わらわらと寄って来た侍女達が何やら道具や櫃を持って幕の中へと入って行く。
もうすぐ城下町は目の前だというのに、一体どういう事かと
残された者達が顔を見合わせる中、誰かしらの言伝によると
どうやら姫様がどうしても此処で休んでから行きたい、とご所望らしい。
近くには涼やかな泉もある。
であれば、油断なく見張りをせねばなるまいと護衛衆が幕を取り囲もうとしたところ
中から顔を覗かせた従者が「あまり騒がしくするな、見張り番は一人だけで良い」と云う。
そんなおかしな話があるだろうか。
首を捻る男達だが、文句を云えるような立場ではないし、確かに姫様も長旅でお疲れなのだろうから
云う通り、一等腕の立つ奴に任せようという事になって
ほぼ当然の流れで幸村がその役目についた。
無論幸村に否やは無い。
凛と背を伸ばし、幕の入口だけでなく、周囲や裏手の雑木林も警戒しつつ感覚を研ぎ澄ますこと暫く

「……!!」

不意に、パキリと枝の折れる音がし
獣ではない気配が一つ、幕の内に忍び入った事に逸早く気付いた幸村は
「御免!」と断ってから素早く中に飛び込んで、背に負っていた二槍に手を伸ばした。
見覚えのない男が一人、弾かれたように振り返って驚愕の顔で固まる。
こいつが闖入者で相違あるまい。
そう判断した幸村は、扱い慣れた槍で一撃のもとに仕留めんと動きかけたが
もし姫に当たりでもすれば大事だと瞬時に考え直し
決して大柄ではない体躯のどこにそんな力があるのか、怪しい男の衿を引っ掴んで投げ飛ばし
呻き声を上げて大の字になった其奴の腕を取って捻り上げ、へし折ろうとした処で

「お、おやめ下さい…!」

声を抑えながらも縋りついてまで制止したのは誰あろう、愛姫の従者である。
「ん?」と頭を傾げた幸村がふと視線を上げると
顔面蒼白の侍女達が同じように狼狽しながら「違うのです、違うのです…!」と訴え
更には、その中央で守られている小柄で愛らしい真白な姫までも
「どうか、お許しを」と幼さを残すまろい声で懇願し男を庇うではないか。

「……事情をお聞かせ願おう」

どうにも唯事ではないと察し、手の力を抜いて解放すれば
折角の白無垢が汚れるのも厭わず走り寄って来た姫が男を助け起こし
さめざめと泣きながら訥々(とつとつ)と話し始めた。
まず、この男は不逞の輩などではなく
そもそも、この縁組自体が望まぬものであり、嫌で嫌で堪らないのだと。

この群雄割拠の乱世の時分
会った事もない一回りも二回りも歳の離れた相手と政略的に婚姻させられるなど珍しくもない話であり
この愛姫の家とて、力が弱く常に他国からの脅威に曝されていた為
伊達家と結ぶことによって自国の防衛に繋げんとする目論見があったのは周知だ。
而して、同じような理由で強制的に遠い国に送り出される姫たちは数知れず
しかも嫁ぎ先ではその国の動きや情勢を監視し自国へ報せる役割も密かに担わされているのが大概であり
それが常世の習いとは申せ、やる瀬ない事である。
武士の家系に生まれていない幸村だからこそ、そう思えたのかも知れないが。
然り、大抵の姫はお家の為という使命感、相当の覚悟を以てして輿入れするのだ
愛姫のように己の気持ちに正直なのは大変に珍しい事だった。
おまけに、よくよく聞いていると、愛姫達が命乞いしてみせたこの男
互いに幼き頃から夢物語のように「いつか添い遂げよう」と誓い合った仲らしく
愕いた事に、そんな事情を知る従者や侍女達が一丸となって結託し
今この機会に二人をこっそり逃がしてやろうと、一計を案じ、両者を説得した上で此処に男を引き入れたという。
(その為に見張りを手薄にしたのだが、生憎と幸村が飛び込んで来てしまった訳だ)
あとは侍女の一人が姫と入れ替わり偽の花嫁となって城へと赴き
いずれ露見し打ち首になるその時まで、二人が逃げる時間を稼ぎ
姫の親御には、残った者達で談判して容赦もしくは勘当してもらうよう
進言するつもりなのだと聞かされた幸村は、ううむと唸った。
誠に健気でいじらしく、そして憐れな話しではないか。
ましてそんな大それた事を実際に敢行するなど、あっぱれとしか云いようがない。
しかし、その企みを今もし幸村が誰かに喋ってしまえば、全て台無し、水の泡だ。
だからこそ、「どうか内密に」と、皆が一斉に頭を下げる。
幸村は一つ大きく頷いてみせると

「あい判り申した。であればこの幸村、出来る限りお力添え致そうぞ!」

それはそれは熱く漢らしい助力を申し出

「つきましては侍女殿。身代りの役目、某が引き受けよう」

事も無げに提言した。
ポカンとする面々に苦笑した幸村は、そっと云い添える。
我が身を犠牲にしてまで姫の幸せを願う者の命を無駄にする必要などない
姫の方とて、無事に逃げ遂せたとしても、それが心残りとなり一生後悔するやも知れぬ
なぁに某の心配は無用、打ち首にされる前に見事遁走してみせん!と。
何故そうまでしれくるのかと訊かれれば、単純に先程の話しに胸を打たれたのと
泣くおなごには滅法弱いからだと幸村は笑う。
理由などそれで十分だった。

「そうと決まれば善は急げ、にござる。早急に事を進めましょうぞ!」

あまり長々と休息していては、誰ぞ様子を見に来ないとも限らない。

「ちなみに姫と独眼竜との面識は?」
「あ、ありませぬ」
「よし」

僥倖だ。あとはどうとでもなる。
決意の固い幸村を見て取るや、各々も腹を括り直し、そこから先は早かった。
ある者は手早く幸村に化粧を施し髪を結い、ある者は砂埃や泥で汚れた爪や肌を綺麗に磨き上げ
ある者は婚儀のおおまかな流れと作法をざっと説明し、それが終われば着付けが始まる。
打掛から帯に至るまで表裏純白の、花鳥舞うめでたい地紋の緻密な刺繍が施された晴着一式は
余裕をもたせた仕立てであり、華奢な姫には大きいが、幸いな事に幸村にはちょうど良い。
そうして出来上がってみると、どうだ。
具足姿であれば精悍だった顔つきは、纏う物を変え化粧(これがまた上手い)をしただけで
生来の童顔を存分に引き立ててみせ、どこからどう見ても違和感なく清楚な花嫁である。
屈強過ぎる事はないが薄くもない体格は、着ぶくれと誤魔化せようし
あとは一切口を開かなければ、そうそう男と見破る者は居ない筈だ。
少しばかり上背があるけれど。

「…これは、予想外の出来栄えと申しますか…
 何やらうまく行きそうな気がして参りましたぞ幸村様…!」
「そうか!」

既に若干の達成感すら覚えつつ、些か早計な事を云う従者の一人に皆が賛同し、幸村も頷く。
(この時点で、楽観甚だしく、まして政宗の本当の恐ろしさを正確に理解している者は、皆無であった)
幸村が元々身に着けていた物はこっそり長櫃へ隠し、槍は花嫁道具の中の薙刀や太刀といった武具の中に紛れ込ませ
一方の愛姫はといえば、予め用意していた粗末な着物を纏ってわざと肌を泥で汚し
どこにでも居るような村娘といった出で立ちになる。
これがよもや愛姫だとは誰も思うまい。

「では、そろそろ…」
「はい…幸運を祈っております」

いよいよ想い人と共に、これからたった二人で手と手を取り合い生きて行くのだ。
斯様な状況ゆえ盛大に祝ってやる事はできないが
せめて静かに見送らんと、泪を堪えて精一杯の笑みを浮かべる従者と侍女達に
愛姫と男は深く頭を下げると、そっと林の中へと消えて行った。

「…さてと、それでは我らも参ろうか」

幸村の声に、無言の決意で頷いた者達は、何事も無かったかのように毅然と姿勢を正すと
手際良く荷を纏め、幸村を輿へと導き、幕を撤去する。
おかげで、誰の目にも触れる事なく輿に乗り込んだ幸村は
多産の象徴である犬張子と、小さな守り刀が置いてあるのを目にし、グッと気を引き締め直した。
尚、その外では

「…あの、見張りに幸村という若いのがついてた筈なんですが、そいつは…」
「……其奴なら、腕が立つようだから周囲の見回りに走らせた」

文句はあるまい。と、機転のきく従者が誤魔化し睥睨すれば
「へへぇ!」と恐縮しきって口を閉じた護衛衆は、我らだけで大丈夫だろうかと不安ながらも持ち場に戻り

「…おい、何だか重くなってないか?」
「気のせいだろ」

掛け声をかけて輿を持ち上げた力者達とて、何も気づく事なく歩き出す。
行列は再びゆっくりと動き出した。

 

 

【後編へ続く】


【一覧へ戻る】






『宋襄の仁』…情けをかけてしまった為、ひどい目にあうこと。

つまり後半は……(笑)


いた。