※現パロ / ダテサナ←佐 / 幸村と佐助は兄弟 / 他、諸々と自分勝手な設定をしとります…
 要するに何でも許せる御仁向けです、ご注意を^^;

 

 

 


『砂』 −#2-

 


「では行って来るぞ、佐助」
「はいはい、行ってらっしゃい」

夕方6時を過ぎた頃、にこやかに出掛けて行く幸村を、佐助は素っ気なく送り出した。
土曜日。
『政宗』との約束だと、幸村がこうして外出するのはこれでもう何度目になるだろうか。
佐助にとって、土曜の晩や休日は、幸村と一緒にできる食事や会話が密かな楽しみであったのだけれど
その機会は徐々に減っていった。
隔週がやがて毎週となり、日曜も日中は殆ど居ない。
最初こそ気軽に「行っておいで」と背中を見送っていたが
一人きりの家で自分だけの食事を作るのはとても億劫だし
かと言っていつも外で食べるのはお金がかかるしで
仕方ないから日曜の買い出し(平日は時間がない為、いつも一週間ぶん纏め買いする)時に
インスタント食品や冷凍食品を買い溜めしておいて、それで済ませるようになり

「、、、てか、なんで俺様だけこんななの…?おかしくない…??」

だんだん腹が立って来た。
甲斐性のない自分自身もそうだし、それから、佐助をほったらかして自由に人生を謳歌している幸村にも。
そう、今一番気に入らないのは、そこだ。
これまでの暮らし方がすっかり変わってしまった事だ。
何をするにも幸村と二人が当たり前だったのに、急に一人にされ、取り残されてしまった。
おもしろくない。
あの日強がった事をほんの少しばかり後悔したけれど
まさかまだ『兄離れ』が出来ていないとは考えたくなかった。だとすれば恥ずかし過ぎる。

「…ま、そのうち慣れるっしょ」

胸の内にモヤモヤと燻っている、『寂しい』とはまた違う、言い表しようのない感情と
熱い湯を注いだ即席ラーメンに、そっと蓋をした。

 

風呂を出、自室に上がって会社から持ち帰っていた仕事をしていた佐助は眼鏡を外し、目頭を軽く押さえた。
社会人になる前までは2.0あった視力は今やガタ落ちして0.3しかない。近眼と乱視だ。
目を酷使し過ぎているのは判っているものの、どうしようもない。
さておき、休み明けの月末の忙しさをどうやって捌くかをうんざりと考えつつ
重怠い両肩をほぐすように大きく廻せばバキボキと不健康そうな音が鳴った。
溜め息をついて時計を見やると、10時半を過ぎている。

「…遅くね?」

躾の厳しかった父親の教えと、真面目でお堅い性格の幸村であるから
いつも夜の9時までには「今から帰る」と一報を寄越し帰って来ていたのに
最近はどうだ、9時を過ぎ、9時半、10時と、どんどん帰宅する時間が遅くなっていた。
他所様のお宅の事情はどうか知らないが
夜遅くまで遊び通す習慣はまったく無いし歓迎すべき傾向でもないので
時間が経てば経つほど「まだかまだか」とイライラしてくる。
ちなみに幸村からの連絡はない。
まさか何かあったのだろうか。
さすがに心配になってきて、携帯の発信履歴から電話を掛ける。

「……………………………出ないし」

何度目かの呼び出し音がフツと切れた後、留守番アナウンスに切り替わり
「チッ」、と思わず舌打ちが出た。
もしや事故にでも遭ったのかと、嫌な考えがよぎる。
過保護かと笑われそうだが、何事も無ければそれでいい。
あと10分待って、折り返しの連絡がなければ、、

「!」

とその時、階下で物音がし、次いで階段を上って来る足音のあと、部屋のドアが開いた。

「ただいま佐助」

幸村が顔を覗かせる。
佐助はホッとするも、すぐに怒気を放った。

「ちょっと旦那、何で電話に出ないワケ?」
「すまぬ、もう帰る所だったのだ」
「…ふーん。それにさ、今何時だと思ってんの?何かあったかもって心配したんだけど」
「だからすまぬと詫びた。俺もいい歳なのだから、別に良かろう」
「………あっそ」

そういう言い方は、ズルいと、佐助は思う。
いくつになろうが心配なものは心配だ、それに
人の気遣いをまるで鬱陶しい小言のように邪険にするとは、あまりにも素気無いではないか。
確かに、余計なお世話だったかも知れなかったし
子ども扱いするなと言いたいのはよく判るが、それとこれとは話しが別である。
うまく諭すべく佐助は口を開き、そして閉じた。

(……クサい)

幸村から、飲食店特有の油の匂いに混じって、タバコと、香水の移り香がする。
佐助も幸村も喫煙しないし香水もつけない。
たぶん、『政宗』のニオイ。

「ッ…」

会った事もない男の影をチラつかされ
それがなぜか猛烈に腹が立ち、どこかの血管がブチ切れておどろおどろしい暴言を吐く前に
自ら律して口を噤んだ佐助はそれ以上の会話の継続を望まず仕事道具を片付け
幸村が黙って風呂へ行ったのをいいことに、バチンと電気を消して布団にもぐり込んだ。

 


翌日。
気まずかろうが何だろうが買い出しに行かねばならない。
幸村は昼からまた出掛けるというので、朝に二人でスーパーに行くことになった。
この家に一台しかない車の運転席に幸村、助手席に佐助が乗り込んだ所で、佐助は思いっきり顔をしかめた。

座席がいつもの位置じゃない。
背凭れの角度が違う。
微かに香水の残り香がする。

―――なるほど、昨日はこっちの車を使ったようだ。いつもは『政宗』の車で送迎があるのに。

「…あのさ、乗せるのは勝手だけど、痕跡残さないようにしてよね。ムカつくから」
「む、すまぬ。次からは気をつけるようにする」

慌てて窓を開けて空気を入れ替える幸村に、佐助はあえて返事をしなかった。

(…はァ?『次』?また乗せる気マンマンかよ…)

車の元々の所有者は母親であるが、今は居ないため幸村が通勤で使っている。
休日に出掛けたい時があれば佐助も使うので、車検や税金やガソリン代といった維持費は折半している。
なので幸村がどう乗り回そうと勝手だが、せめて…

(俺様のことも少しは慮って欲しいよねー)

乗せたのが別の人間ならここまで神経質になっていないのかも知れないが
相手が『政宗』と思うだけで、何から何まで癪に障る。
シートを元の位置に戻している最中、下の方にタバコの箱が落ちているのを見つけ
眉を寄せつつも容易く見当はついたので無言で幸村の膝上に投げてやれば

「おお、そんな所へあったか!昨日ずいぶん探したのだが見つからなくてな。政宗殿に渡しておく」

有難う佐助!なんてお礼を言われても、全然これっぽっちも嬉しくない。
ともすれば悪態をつきそうになる口を閉ざし、またしても会話を打ち切る形で衝突を避けた。
折角の日曜だというのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
頭が痛いし胸くそ悪い。
全部『政宗』の所為だと心の中で毒づいた佐助は、カーオーディオの音量を一気に上げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

些細な事にストレスを感じては悶々と考えることが多くなった。
そして仕事に忙殺される日々は相変わらず容赦なしで
いよいよ蓄積した疲労が限界に達したか、軽度の肺炎になった。
入院は拒否して点滴通院でなんとか回復はしたものの、間もなく今度は胃腸炎になった。
こうも立て続けに体調を崩していては、さすがにちゃんとした休養か、いよいよ転職が必要か…
と真剣に悩んでいたところ、幸村から、同じ会社に転職しないかと誘われた。
ちょうど正社員を募集しているし、人事の担当者には話しを通しておくからと。
ありがたい。
正直、限界だった。
だましだましでどうにか仕事を続けて来たが、身体がもうもたない。
この際、意固地は捨てよう。なにせ渡りに船だ。
仕事を辞めるにしても次の転職先が見つかってからと思っていたし
いざ入社したらブラックだったというオチもないのは幸村から聞き及んでいる。
故に、形式だけの面接を経て内定をもらってすぐに今の勤め先の上司に白封筒を叩きつけ
有無を言わせず退職してやった。せいせいした。
これを機に、心身ともに余裕を持つことが出来て、すれ違いの生活も無くなれば
もっと幸村とまともに会話も出来ると、そう思った。
ところが、事態はそんな佐助の期待など軽く裏切り、まったく好転などしなかった。
日に日に幸村の電話は増えるばかりで(とうとう『政宗』と同じ携帯会社に乗り換えた。無料通話の為だという)
ついには晩ご飯の用意すらしなくなって、今や佐助任せになっている。
幸村からすれば、恐らく、これまでは遠慮しセーブしていたが
転職で時間にも身体的にも改善した佐助に、前もって「好きにすればいい」という許可も得ていたのだから
もう気兼ねなく自由に振舞っても構うまい、と思っているのかも知れない。
そんな幸村の思考や言動に対してとやかく言うのは筋違いであろうし
付き合いたてというのは往々にして周りが見えなくなるほど夢中になるものだ。
それは理解できるし仕方ないとはいえ、共感も迎合もできる筈がない佐助の不満は募るばかりである。

「あ゛ー…腹立つわー…」

今日も今日とて、二階で電話中の幸村は、ご飯の用意ができたと佐助が怒鳴っても、なかなか下りて来ない。
まるでゲームに熱中する小学生、またはSNSに没頭する女子高生だ。

「…な〜にが『いい歳だから』、だっつーの。いい歳こいて、の間違いじゃない?」

きっと今の幸村にそう指摘したところで、頑として認めはしないのだろう。
恋は盲目、とはよく言ったものだが、面倒くさいことこの上ない。
スマホを取り上げて目の前でブッ壊してやろうか…
と不穏な腹いせを幾度となく考えたものの
今までずっと佐助が仕事で遅かった時は幸村が一人で作ってくれていたのだから、文句を言ったら罰があたる。
なので

「お先に〜」

幸村を待たずにとっとと食べ始める事にした。
呼んだのにすぐ下りて来ないのが悪い。

「勝手にやってろ。俺様だって勝手にするし」

テレビを眺めながら、黙々と箸を運ぶ。
一緒に話せる時間が増えるどころか、すれ違い続けていた。
いや、もっとタチが悪い。
定時に仕事を上がり早く帰れるようになったおかげで実際の実状にリアルタイムで居合わせるのだから
幸村がいかに『政宗』に傾倒しているか
『政宗』がどれだけ幸村に執着しているかを見せつけられるという事で
つまり、具体的に言うと
帰宅して幸村が着替え終わったのを見計らったかのように『政宗』から電話がかかってきて
佐助が晩ご飯の用意をしているあいだ延々喋ったあと、ようやく電話を切って食事をし風呂に入り
自室に上がったらこれまた狙い澄ましたかの如く『政宗』から不在着信があって律儀に幸村が折り返し
そこからは寝る直前までいつまでも楽しそうに長電話するその様は
まさに中毒、互いが互いに溺れている。

「…うん、フツーに引くわ」

家事も風呂も先に済ませのんびりしていた佐助の心底胸やけした呟きを知ることもなく
かなり遅れて部屋に戻って来た幸村は、案の定、スマホを確認するやいなや電話をかけ始める。
非常におもしろくなかった。
まるで自分と幸村の絆に割って入られ、幸村そのものを横取りされたような気分で、気に食わない。
以前のように他愛ない話しをしたかった。
ほんの少しでいいから、『政宗』ではなく、こっちを見て欲しい。

「………」

いつになく膨れ上がった妬心と対抗心に突き動かされ、つい、幸村の長い後ろ髪を梳いて引いた。
こちらに注意を向けさせようと
そんな子どもじみた、たわいないちょっかいだった。

「よせ、きしょくの悪い」

幸村が嫌そうに振り向く。
何を言ったのか、しばし呑み込むのに時間を要した。

「…今の…本気?」
「――ん、いやいや政宗殿のことではなく、、、悪いが佐助、後にしてくれ。邪魔をするな」

マイク部分を手で覆いながらそう言われ、佐助はカッとなった。
今まで幸村にこんな風に悪し様にされた事など無かった。
あからさまな拒絶なんて一度たりとも無かった。
目の前が揺らぐ程のとてつもない疎外感に、圧し潰されそうで、怒りで、胸が詰まって息苦しかった。

「ッ…!!」

堪らず部屋を出て力任せにドアを閉め、それでも尚ぶつけどころのない感情を持て余し
目についた物を片っ端から滅茶苦茶にしたい破壊的な衝動を
けれど「片付けや買い直しする事になったら面倒」という、妙に冷静で合理的な理性で抑えつけ
一階のリビングのソファに投げやりに寝転んで目を閉じた。
しかし、グラグラと腸が煮えくり返って、頭は冷えるどころか熱くなる一方で、とても眠れやしない。

「…クソ…ッ!」

昔はよく、あの栗色の長い髪を三つ編みやポニテにしたりして遊んだ。
くすぐったそうにしながらも、「佐助は手先が器用だな」と感心してくれた幸村が、懐かしい。
それなのに…

「きしょく悪いって、どーよ」

いい大人が気軽に触れてしまった事がそもそも不用意で、干渉過多だったのだろうか。
そんなにも嫌がられる事をしてしまったのだろうか。

「……『邪魔をするな』、か」

確かに佐助は邪魔者だ。
納得するも、受け入れられない。
幸村との兄弟仲はこんなことで破綻するのか。
何にも侵されないと信じて疑いもしていなかった鎹(かすがい)を容易く取っ払われた気がし、絶望した。
兄弟喧嘩ならいくらだってやってきたが、今回ばかりは様子が違う。
佐助には、見えない太刀傷が深々と刻まれたように感じた。
嵐のように猛烈な怒りの奥に、掻き消せない痛みがあり、ドクドクと生々しく脈打つ。
ただ単にないがしろにされただけで、ここまで深手を負うことはない。

幸村だからこそ、佐助は拒否されたくなかった。
幸村だからこそ、佐助はこんなにもショックを受けている。
幸村だからこそ、佐助は干渉せずにはいられない。
幸村だからこそ、佐助は激しく感情的になる。

それが一体何故なのか、どうしてそこまで佐助を追い詰めるのか…
『兄弟だから』という言葉では、もはや片付けられない。
どんな御託や言い訳を並べた所で誤魔化しようもなく、それは、結論も原因も至ってシンプルであり


「……そっか、俺様ってばこんなに旦那が好きだったんだ」


孤独な独白は静かな暗闇に波紋し、自覚を伴ってすんなりと胸に溶けた。



 


【3へ続く】


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あとがき

前話から一年以上も間が空いてしまって大変申し訳ございませんでした^^;
佐助の葛藤や、煮え滾ってグルグルする気持ちが少しでも伝わっていれば幸いですが
彼はこれからどんどん狂っていきます(笑)
まだまだ書きたいネタがいっぱいあるので、先は長いですが、良ければお付き合い下さいw

2017/09/17  いた。