※現パロ / ダテサナ←佐 / 幸村と佐助は兄弟 / 他、諸々と自分勝手な設定をしとります…
 要するに何でも許せる御仁向けです、ご注意を^^;

 

 

 


『砂』 −#3-

 


新しい職場は快適だった。
難なくこなせる仕事量に、無茶ブリする上司も居なければ、社内の雰囲気も殺伐としていない。
それよりなにより、毎日定時で帰ることができるのだから、「奇跡か」と言いたくなる。
これまでの佐助がいかに社畜であったかを改めて痛感するところであり
けれども散々苦労をしてきたからこそ感じる好待遇であるようで
最初からこの会社に勤めている先輩方はあれこれと不平不満があるようだ。
人は一定の水準に慣れてしまうと現状の恩沢を忘れ、それ以上を望んでしまうものらしい。
それはさておき

「佐助、紹介しておくぞ。政宗殿だ」

フロアの一角にある喫煙スペースに呼び出され、なにかと思えば、幸村が緊張した様子できりだす。
短くなったタバコを灰皿に押しつけた男がゆったりと振り返り、佐助はほんの少し身構えた。
ダークブルーのネクタイがよく似合う端整な顔立ちはいかにも怜悧そうで
けれども線の細い美男かと言われれば、そうではなく
無造作に肘まで捲り上げたワイシャツの袖から伸びるしっかりとした腕を見るに、身体は鍛えているようだ。
底の知れない色を帯びた隻眼と、普通なら目立つ筈の黒い眼帯は
けれども男が放つ近寄りがたい雰囲気と相俟って、悪目立ちどころか惹き立てていて妙な色気がある。
これが『政宗』。幸村が付き合っている男。
佐助は双眸を細め、わざと間をおいてから、口を開いた。

「…どーもー。兄がいつもお世話になってまーす」

嗅いだ覚えのある香水の匂いと混ざりあったタバコの臭気が纏わりつく不快を押し隠し
表面上は実ににこやかに応対してみせる。
作り笑いならお手の物だ。
一応相手は先輩であるからそれなりの態度を取るけれど、遠慮するつもりはない。
なめられてなるものかという心持ちもある。
しかし男はまるでそれを見抜いているかのように、クッと片方の口角を上げた。
余裕然とした仕草が嫌味なほど様になっている。
気に入らない。

「…ずっと思ってたんスけど、毎日よくもあれだけ電話で話し込めますよねぇ。ふつー遠慮するっしょ」
「Oh、そりゃ悪かったな。なら次からは直に会って話す。家も近ェし」
「?!なに勝手なこと言っ」
「にしても幸村。アンタがいつも言うだけあって弟君イイコじゃねェか。オレらの関係には文句無いらしい」

…ックソが!!!!
佐助は口に出さず吐き捨てた。
ここが会社でなければ政宗の横っ面をブン殴っていたかも知れない。
まともに相手をされないばかりか、うまく往なされ丸め込まれ、勝手なオチまでつけられた。
文句なら大ありだ。
けれども「好きにすれば」と認めてしまっている手前、今更どうこう言えず
ならば政宗本人を否定するのが手っ取り早いのだが、如何せんその要素をまだ把握できていない
そうなると、幸村に対する横恋慕を公言し邪魔をするしかないワケだが
この場で痴話喧嘩をするだけの度胸も決心も佐助には圧倒的に足りなかった。
幸村に対する気持ちを自覚したのはつい最近のことであり
まして家族愛ではない歪んだそれを今すぐにここで打ち明けるだけの勇気とて無論。
つまり度量も覚悟も動機も何もかも、現段階では政宗より遥かに劣っているのだ。
歯痒い。
それでも、何か言い返さなければと
思えば思うほど頭がこんがらがってうまく回らず、暴発しそうになる。

「……ッ…」

思えば昔から、癇癪を起こす直前は黙り込むきらいがあった。
逸早く察知した幸村は、慌てたように政宗の腕を引き

「ま、また後でな佐助!」

廊下の奥の角を曲がって姿を消した。
ひとり取り残された佐助は、舌打ちも溜息もなく、ただ微動だにせず立ち尽くし

「……なんで俺様を宥めるんじゃなくてアイツを庇って逃げるんだよ」

暗く呟くその様は、信頼していた主に見捨てられた犬のようだった。

 


――――――――――――――

 


とにかくイライラしていた。仕事のことではない。
幸村の些細な振舞いに腹が立つ。
例えば、幸村が好きそうなお菓子を喜びそうだなと思って買って来ても
お礼もそこそこに「持って行っても良いか?」と手をつけずに政宗の所へ持って行ってしまう。
あるいは、何日も前から一緒に映画を観に行く約束をしていたのに
いきなり「政宗殿と一緒に観に行って来る」とドタキャンしたあげく
「先約は俺様だったよね?」と恨みがましく言ってみても
「お前とはいつでも行けるだろう。それに、いつまでも兄弟一緒で行動するのもな…」
と今まで口にした事がない兄弟間の関係性について言及してまで反論する。
信じられない。
まるで、『誰か』に何か『入れ知恵』でもされたかのような違和感と不快感を覚えた。
それからまだある。
普段幸村はアクセサリーを身に着けないのに、いつからか見覚えのないネックレスを常時つけ始め
確信的な予想をしつつも指摘すると、案の定、政宗からのプレゼントだと照れくさそうに白状したので
「…キッショいし、重いんだけど」と思ったままを吐き捨てれば、大層傷付いた顔をした。
別にそんな顔をさせたかったワケじゃなく
知らない間に関係を深めていっている二人を妬んだだけの暴言。
後味の悪さを感じたものの、どうしても否定してやらなければ気が済まなかった。
それにアクセサリーに限らず、近頃幸村の服や持ち物の趣味がガラリと変わったのも癪に障る。
これまではずっとパーカーやTシャツといったカジュアルでラフな格好を好んでいたのに
急にシックで大人びたデザインの所謂『きれいめ系』とか『コンサバ系』で整えるようになり
果たしてその原因とは、つい先日街の中で偶然に目撃した。
幸村の隣を歩く男が、同じ系統のコーディネイトをしていたのである。(ちなみにモデルかくやという似合い様だ)
『恋人が好きすぎてデートで服装の好みを合わせる』というやつだろうか
我が道を行くあの幸村がよくぞそこまで傾倒したものだと、ある意味感嘆すら覚えるが
それは即ちそれだけ政宗の事を好いている表れであり
佐助にとっては見苦しい事この上なく、遠くから思わず冷笑した。
そんな事が積み重なると、いつもなら笑って許せる出来事が、まったくスルーできず引っ掛かるようになり
瞬間湯沸かし器のように感情が激高してしまうようになって
今日も幸村にちょっとした頼み事をしていたのを忘れられていただけで猛烈にむかっ腹が立ち

「どうせ俺様の事なんてどーでもいいから忘れるんでしょ」

と幼稚で捻くれた嫌味と僻みのこもった恨み節を叩きつけてしまった。
当然幸村は「そんな事はない!」とすぐに否定したが
目下の事実として、佐助は二の次で、何でもかんでも政宗の方を優先しているように思う。
そんなのはおかしい、ズルい、間違っている。
俺様のことだって大事にして欲しい。
佐助の精神はいつになく荒んでいた。

「旦那はさ、もっと考えて行動すべきだよ。独眼野郎にかまけ過ぎ」
「あまり我儘を言わないでくれ佐助…俺も板挟みになっておるのだ」
「……ンなの俺様が知るかっつーの」

弱り切った様子で首を振る幸村に、佐助は忌々し気に語気を荒げる。
板挟みとはつまり、佐助がこうして駄々にも似た我儘を言って幸村を困らせているように
政宗の方もまた、幸村に似たような事かそれ以上を要求しているということだ。

(へ〜え、それはそれは、大変おモテになることで)

そう思ったら余計にムカムカして来た。
いつも咽喉の奥に無理矢理呑み込んで耐えていたものが凄まじい勢いで膨張する。
止められない。

「ってかさ、近頃いーっつも晩ご飯できたって呼んでも来ないけど、どーいうつもり?」
「そ、それは…大事な話しをしていたのだ」
「は?人に全部やらせて、ほったらかしにして、毎日毎日何時間もする大事な話しってなに?」

ついに言うまい言うまいとしていた不満が爆発した。
だってそうだろう。限界だ。
しかも素直に謝るならまだしも、「大事な話し」だったからだと?フザケるな。
もっとまともな弁解はないのか。
怒りで目の前が眩みそうな佐助に対し、しかし幸村は更なる追いうちをかけた。

「その事だが佐助……これからは土日だけでなく
 平日も政宗殿の所へ行って、掃除をしたりご飯を作ろうと思っている」

佐助は絶句した。
言うに事欠いて、まさか、そう来たか。
会社で政宗が不遜に言っていた「直に会って話す」が、こけ威しでも冗談でもなく
言葉通りの意味だったということで、もし本当にそんな事になったら、字面に違わず『通い妻』だ。
狂ってる。

「政宗殿は一人だから色々と苦労しておられる。ぜひ力になりたい。許してくれるか佐助」
「許すもなにも…言ってる事がめちゃくちゃだ」

その理屈でいくと、今度は佐助が一人になってしまうというのに、それはいいのか。
大した矛盾だ。
それに気づかぬほど溺れているのか、それとも
『政宗が一人だから支えたい』などという見えすいた建前で
『好きでどうしようもないから佐助を置いて行く』という本心を隠さねば恥ずかしかったのか。
どうであれ、やはり佐助ではなく政宗のほうが優先なのだ。

「〜〜ッ!!」

やり場のない凄まじい憤りに任せ、手近にあったテレビリモコンを引っ掴んで床に投げつけると
派手な音を立ててパーツやカバーが吹っ飛び、単三電池がゴロゴロとフローリングを転がって行った。
「そんなことをするな、お前が怪我をする」と小さな声で窘めた幸村が、さめざめと泣く。 


(………泣きたいのは俺様の方だっての……)


佐助は何も言わず部屋から出て行った。

 

 


【4へ続く】


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あとがき

ついに政宗先輩登場…!やっとこさ佐助とご対面させることができた^^;
ようやくツラを拝んだので、佐助は『政宗』=『敵』として正式にインプット完了(笑)
さて今後は泥沼まっしぐらコースですが、私は佐助を全力で応援します…!w

2017/11/17  いた。