※現パロ/ダテサナ←佐(幸村と佐助は兄弟)、他諸々と自分勝手な設定をしとります…
 ので、何でも許せる御仁向けです、ご注意を^^;

 

 

 

 


「佐助。もし俺が誰かと付き合ったら、嫌か?」

初めてそう訊かれた時、「嫌だ」とハッキリ拒絶しておけば
或いはこの受け入れ難い現実を回避できたのだろうか。
今となっては、後悔しか残らない。

 


『砂』 -#1-

 


佐助はイライラと書類を整理しながら、壁に掛けられた丸い時計を見やる。
午後8時半。
道路に面した大きな窓ガラスの向こう側は真っ暗闇だ。
出勤したのは朝の7時半だから、約13時間、会社に缶詰状態になっている。
デスクワークはまだ残っているが、全て終わらせるにはまだかかりそうだった。
ちなみに定時は5時である。
3時間ほど残業している事になるが、残業代など出たためしはない。
サービス残業というやつだ。
そもそもタイムカードすら存在しないのだから、ここがどういう会社なのか推して知るべしというもの。
故に身を粉にして働くメリットはこれっぽっちもないのだけれど
慢性的な人手不足の所為で社員一人一人が負担する仕事量がとてつもなく多く
佐助も例に洩れず大量のルーチンワークに追われに追われ(営業ではなく業務の)
仮に定時きっかりに退勤して仕事を次の日に持ち越したとしても
間違いなく忙殺される事になるのが判りきっているから
こうして毎日毎日したくもないし金にもならない残業をして働いているのである。
家族からは「躯が資本だ、無理だけはするな」と心配されているし
佐助自身「どうしてこのオレ様がここまで必死になって頑張らなきゃなんないの。真面目か」
と自嘲する所ではあるものの、家が裕福とは言えなかった為に学生の時から高卒で就職すると決めていて
様々ある求人票を自分の目で見て自宅から近くにあったこの会社を自分で選んだのだ。
キャパオーバーや超過勤務、上司の理不尽な振舞いとかクソみたいな飲み会など
言い出してはキリがないストレスが苦で今更転職するなど、格好悪いにも程がある。
それに一応は年に2回ボーナスは出るし、基本的には週休二日制だ(但し出勤日に変わる事も多い)
だから何だかんだでもう6年間も、この職場で働き続けている。
我ながらよく耐えているものだと、自分で自分を褒めてやりたい。
けれどここ最近、体調が崩れる事が多く、それが果たして
仕事による疲労の所為だけではないような気がすると
デスクの上を綺麗に片付けパソコンの電源を切った佐助は、午後9時前、ようやく会社を後にした。

 


「……ただいまーっと…」

片道10分の自転車通勤を経て、沈んだ声で帰宅を告げるも、返事はない。
佐助は溜息をつき、玄関のドアに鍵をかけ、疲れきった足取りでリビングに入り
物音一つしない真っ暗な部屋の中で、また深く溜息をついた。

「…ハァー……今日も出迎えなしかよ…」

言ったって仕方のない事を、それでも言わずには居られなくて、小さくぼやく。
暫く前までは、「遅かったな佐助!今日も大儀であったな!」といつも帰りを待って居てくれたのに
いつの間にか顔すら見せてくれなくなった、一緒に暮らしている筈の家族を批難するように毒づく。

「…どうせ旦那ってば、まーたロクでもない長電話してんだろーけど…」

佐助が旦那と呼んだのは、1つ年上の兄の事だ。
名前は「幸村」というが、昔、ごっこ遊びで戦国時代の主従関係をやり込んだ時期があり
(幸村が偉い武将で、佐助が雇われ忍という凝った設定だ)
その時から佐助は幸村の事を「旦那」と呼び、幸村は佐助の事を「佐助」と呼び捨てるようになって
何故か二人とも、それが無性に気に入ってしまったし楽しかったので
以来、自然と互いの呼び方がそのように定着してしまった。
(幸村に至っては、喋り方すら若干古風なままである)
そして父親はと言えば4年前に癌で他界し、母親の方は単身赴任で県外暮らし
盆休みと正月休みに帰って来るぐらいだ。
つまり、この家には今現在、佐助と幸村の兄弟二人しか居ない。
普通はこの年頃だと一人暮らしをしたがるものだが
佐助の職場は勿論のこと、幸村とて違う会社ではありこそすれ家から車で20分圏内という近さであり
共に実家から通勤する方が便利であるし余計な金を使わずに済む
おまけに小さい頃から周囲に羨まれる程に仲が良い為、二人きりでの生活は全く苦にならない。
いまだに同じ部屋で寝起きするし、風呂だって違和感なく一緒に入れるぐらいなのだから。
(さすがにこの歳で、しかも男兄弟でそんな事をしているなどと他人に知られると
 ドン引かれること請け合いなので、大っぴらには言わないが)

「一人寂しくぼっち飯とか……いーけどさ…」

パチンと部屋の明りを点ければ、ラップを掛けられた一人分のチャーハンが皿に盛ってある。
母親が居ないので、必然的に家事全般は幸村と佐助の二人で協力して行っており
佐助が仕事で遅い時は、幸村がこうして用意してくれるのだ。
朝ご飯とお昼の弁当(節約のため)は二人で準備できるものの
晩はそうも行かず(何せ佐助と違って幸村はホワイトな会社にお勤めである、きっちり5時の定時で会社をあがる)
いつもいつもありがたいなとは思うものの、やはり、一人で食べるのは寂しい。
別に幸村に無理してこの時間まで我慢して待ってもらって一緒に食べて欲しい訳ではないが
せめて顔を見せて「おかえり」の一つぐらい言ってくれたっていいじゃないかと思うのは
果たして我が儘なことなのだろうか、子供っぽいだろうか、鬱陶しい人間だろうか、、

「…いただきます」

通勤カバンをそこらへんに投げ、冷め切ったチャーハンをレンジで温めてから椅子に座り
テレビをつける気にもなれず鬱々とした気分で食べ始め
更につらつらと、例えば、どうしてここまで気落ちしているのか
それは今まで幸村と一緒に何でもするのが当たり前になっていたから
たかが一人きりの食事が恐ろしく虚しくて堪らないのだと
しかもそうなった原因は、今も尚続いているであろう、幸村の長電話の他にない…
と、またしても下らない考えに耽りだす。
電話の相手は幸村と同じ会社の同僚であると、佐助は知っている。
何故知っているかと言えば、本人に直接問い詰めた事があるからだ。
「電話代がもったいないでしょーが!一体どこの誰とそんなに長話ししてるワケ?!」と。
お互い社会人であるし、自分で稼いだ金で携帯代だって支払っているのだから
佐助にとやかく言う権利など少しも無いのだけれど
たまに世間知らずというか、抜けた一面もある幸村なので
昔から何かと弟である筈の佐助の方があれこれと口煩く助言したり口出ししたりしていた為
ついつい心配になって言わずには居られなかったのであるが
まさか「会社の同僚だ」という返事があるとは思わず、「……は?」と驚いたのは、ほんの数ヶ月前の事である。
怪しげな勧誘に引っ掛かっていた訳ではないようなのでホッとはしたものの
たかが同僚と毎日毎日飽きもせず一時間も二時間も話し込む事があるだろうか?それも帰宅してから。
首を傾げつつ、これはもしやと思った佐助が
「そんな長電話してたら相手の女の子も迷惑じゃない?」と探りを入れれば
「いや、女性ではなく男性だぞ佐助」と、これまた予想外の返答があり
「…マジで?」と更に驚愕したものだ。
てっきり職場で好きな子でも出来て、奥手な幸村の事だから
面と向かって話せないぶん電話越しで頑張っているのかと思いきや、同性とは。
野郎とそんなに連日連夜話して何が楽しいのだろうかと、佐助としては不可解にしか感じられない。
けれどまぁ、同じ職場で働く者同士、会社では口に出来ない悩みや愚痴も殊更言い易いのだろう。
不満の捌け口があることは良い事だ。
…と前向きに考えてはみるものの、、

「どう考えても話し過ぎでしょーよ」

今日は一体何時から電話し始めたのかは知らないが
佐助が帰宅し遅い夕飯を食べ終えて洗い物を済ませ風呂から上がった今現在に至る小一時間
2階の部屋からは相変わらず「アハハハ」といかにも楽しげな笑い声が幾度も1階まで洩れ聞こえて来る。
正直、イラついた。

(…こっちは遅くまで仕事してて疲れてるってのに…)

そんな考え方はよろしくない、幸村は悪くない、悪いのは何もかも佐助が選んでしまった会社の所為だ
そもそも佐助がこんな風にひねくれて勝手にネガティブになっているのは、精神的に全く余裕もゆとりもないからだ
と、判っている、判ってはいるが

「…チッ、」

溜息の一つや二つ、いや、舌打ちの三つや四つ、出るだろう。

「……ま、いーや。俺様ってば心が海のように広いんだし?」

しかも今日は金曜日だ。明日は幸いな事に仕事は休みである。花金というやつだ。
もちろん飲み歩くなどという無意味な事はしない、酒は嫌いだ(自分自身も、呑む人間も)
そんな訳で、今日は次の日の事を気にせず
好きな事を好きなだけ、夜更かししてできる。

「ただいま旦那〜」
「っおお!今日も遅かったな佐助!」

部屋のドアを開けた途端、「それでは政宗殿、また明日…ッ」と慌しく電話を切る幸村を後目に
佐助はとんでもない嫌味を口走ってしまわない内にさっさとノートパソコンを開いて電源を入れ
今はまだ落ち着かない精神が凪ぐまでは、意図的に幸村と目を合わせないようにした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

土曜日である。
いつもは早く起きなければならない朝も、今日は休みだ、寝穢く惰眠を貪っても許される…
のは、ほんの一時間程度で

「佐助―!いつまで寝ておるのだ!朝餉が冷めてしまうぞ!」

階下から大音声で響き渡る幸村の容赦ない目覚ましの一喝が
『昼まで寝ていたい』という佐助のささやかな願望を許しはしない。
幼少より、厳しかった父親の影響で、365日いつも早起きする幸村には
最早うんざりを通り越して脱帽するしかない佐助である。
寝足りないと訴える気怠い躯を何とか動かし、もぞもぞと布団から這い出した。


「あれ?旦那も今日は会社休み?」
「うむ。しかし今週だけだ。来月は土曜の休みは無い」
「ふーん」

昼の弁当の用意をしていないのを見て取り佐助が問い掛ければ、幸村がいかにもと頷く。
幸村が勤める会社も、佐助と同じように土曜の出勤日は不定期で
互いの休みがこうして重なるのは、日曜は別として、久々である。
それでなのか、たまにはお昼を近場で外食しようと持ち掛けられ
贅沢をしたがらない幸村にしては珍しいなと訝る佐助ではあるが
特に断る理由も無いし、単純に幸村から誘われた事が嬉しく
二つ返事で「いーよ」と微笑み、ほかほかと湯気の立つ味噌汁を美味そうに啜った。

 

正午を少し前にして、近所の店(ランチメニューが安い)に到着した二人は
窓際のテーブル席に向かい合って座った。
注文を終え、料理が出てくるまでの待ち時間は
どちらからともなくお互いの仕事の話しをして、それが一区切りつくと
今度は日常の他愛ない話しになり、その流れの中で、幸村が不意にこう切り出した。

「佐助。もし俺が誰かと付き合ったら、嫌か?」

頗る良かった気分に、ピシャリと冷や水を浴びせられたようだった。
俄かに正体不明の不快と緊張が佐助の胸の内に満ちるも、
それが何なのか、どうしてなのか、佐助にもよく判らない。
兎にも角にも、『誰か』などと、随分と曖昧に遠回しに遠慮がちに言ってくれたものだが
恐らく、どころかほぼ間違いなく『政宗殿』とかいう男を指しているのだろうし
『もし』と付け、あくまで仮定の話しで問うて来たが
十中八九、いずれはそうなると思うからこそ今こうして佐助に訊いて来たのだろう。
わざわざ確認して来るぐらいだから、あざといのかそれとも後ろめたいのか
いずれにせよ、まるで佐助という人間の器、度量を試されているような気がして…

「………別に?好きにすればいいんじゃない」

胸中にザワつく何とも言えない不愉快さを抑え込んで、かろうじてそれだけを口にした。
本音を言えば、幸村がどこの馬の骨とも判らない、それも男と
所謂友達以上の付き合いをするのは、到底快く受け入れられるものではなく
それは決して『男同士だから』とかいう偏狭で差別的な理由なんかじゃなく
相手が男だろうが女だろうが誰だろうが、恋人を作るという事はつまり
これまで以上に幸村が佐助から離れて行ってしまうという事で…
それはあまり望ましい展開ではない、寧ろ直情に言うなら、非常に面白くない。
面白くないが、それを素直に言ってしまうのは
何やら格好悪いような気がするし、いつまでも引っ付いて仲の良かった子供のままじゃなく
もうお互いに立派な大人なのだから、変に介入するのも憚られる。
だから、いつものしっかり者の弟らしく、そして、物分りの良い人間だと
あるいは幸村に幻滅されないように、佐助はさも何でもない風に答えて見せた。

それが後々になって大いに悔やむ事になろうとは、その時の佐助には、予測すらできなかった。


 


【2へ続く】


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あとがき

六周年アンケリクにて、『佐幸』…ではなく『ダテサナ←佐』ですスミマセン^^;
かねてから書きたかった現パロ三角関係(?)泥沼拗れ愛…
まだ序盤なので佐助さんがまともですが、今後どんどん歪んで行けばいいなと思います^^

2016/01/31  いた。