※性描写あり。ご注意を


『Tranquilizer10』

 

伊達が幸村を連れ奥州の米沢城に戻ると、まず片倉の雷が落ちた。
「一体何処の世に早馬で他国の主を拐かす者が居るか!」と、それはもう物凄い剣幕である。
それに対し、軽く肩を竦めた程度で、悪怯れもしない伊達は
甲斐より参っていた使者を呼び立てると、かくかくしかじか
などという説明を一切省き、「コイツは暫くこのオレが預かる」の一言のみ残して
さっさと幸村と共に私室へと篭もってしまった。
呆気に取られる片倉と、「助けてくれ」と頼み込んだが故
意見も反論も出来ぬ甲斐よりの使いの男は、ただただ互いの顔を見合わせた。

 

「…政宗殿、その…、本当に…?」
「YES、男に二言は無ェ。そうだろ?」

その頃、城の最奥にある座敷にて、幸村は戸惑いを隠せずに居た。
というのも、「攫って帰って閉じ込める」という脅しを
今まさに現実のものにしようとしている男が居るからだ。
幸村の両手首に手際良くサラシを巻き(擦れて傷にならぬようにという配慮だ)
その上に頑丈な縄を雁字搦めに巻き、一纏めに括り上げると
座敷の中ほどにあった角柱の傍に幸村を仰向けに寝かせ、其処へきっちりと結びつけてしまう。
こうなれば、幸村はもう立ち上がる事もできない。

「……あの、一体いつまで…」
「さァな。テメェが反省するか、オレが満足するまでだ」
「某…!もう十分に反省しているで御座る…!」
「Shut up、何が反省だ。あんまりオレを怒らせるなよ」

軽々しく反省・清算できるような過ちではないと厳しく睨み
(ここで自分の事、つまりは辻斬りを棚上げにしているという事実は敢えて目を瞑る)

「…も、申し訳ござりませぬ…」

その矛盾に気付く事もなく、しゅんと項垂れた幸村に、伊達は無言で手を伸ばすと
着物の裾が肌蹴て覗く、既に手当てし終わった太腿に触れ
薄いサラシの上から、ゆっくりと傷の辺りをなぞった。

「…っ、」
「……そうだな、とりあえず、この傷が治るまでだ」
「しかし、、」
「アンタは、何も心配しなくていい。…OK?」
「…承知、致した…」

観念したように頷く幸村に、一つ口付けを落とした伊達は
静かに立ち上がると、座敷を出て行った。

 


「…小十郎!」

座敷を離れた伊達は、いの一番に片倉を呼ぶ。
何事かと飛んで来たその素早さは流石だ。

「ちっとばかし話がある。ついて来い」
「御意」

適当に空いた座敷に入った伊達は、腰を下ろし
対峙した片倉から「真田のことで?」と問われ、云うより前に察していたかと苦笑し
「そうだ」と続けて口を開く。

「さっきも云ったが、暫くウチに置く」
「…それは宜しいのですが、甲斐の者達が落ち着きませんでしょう」
「ン、そうだな…心労が祟って床に臥したとでも云っておけ。その看病をこのオレがしているとな」
「中には、人質とごねる者も」
「それでいい。云わせておけ」
「…は。で、政の方は」
「それはあっちの家臣どもが自力で何とかするだろ」

もし何事かあれば、幸村も居るこの同盟国である奥州を頼らざるを得まい。
まして、信玄亡き後、唯一の柱である紅蓮の鬼の居ない甲斐の国など、脆弱矮小な国に成り下がり
あっちの方から「有事の際には何卒…」と庇護を求めて来るだろう。
否、既に「助けてくれ」と、伊達に直に泣きついて来ているではないか。

「っつー訳だ、甲斐の使者に文持たせて、とっとと帰らせな」
「御意」

話は終わったと、切り上げると同時に片倉も立ち上がり
早速、甲斐の使者の所へ向かっていった。仕事が速い。
伊達も廊下へ出ると、幸村の居る座敷へと戻りながら
殆どカッとなった勢いだけで甲斐から攫って帰り閉じ込めた幸村と
自分が設けた期日までの間、ずっと一緒に居られるかと思うと
弁えず胸の内で黒く狂喜するものがあった。

「…つくづく、オレは腐ってやがる…」

自嘲気味に口角を吊り上げ、低く呟いた伊達は
されど押し殺しきれぬ喜色を浮かべ、座敷の襖を開いた。

 

―――――――――――――――――

 

それから、一月と少しばかりが経った。

「っ…あ、ッあ、…ぁあっっは…!」

城の最奥の座敷から、淫らな喘ぎ声が漏れ
中では、柱に両手首を繋がれた幸村が、覆い被さった伊達に股を割り開かれ
しこたま揺さ振られている。

「はぁッ!あぁ…っ!、んっ、んっ…!」

気持ち良くて堪らぬという声は、鼻から抜ける吐息と相俟って艶があり
畳の上で撓る肢体は薄っすらと汗を纏って時折ビクと跳ねた。
仄赤く上気した顔と濡れた眸は、他の者を何処までも魅入らせ
何度も貫かれ腫れぼったく解れた菊座は、まるで誘うようにキュウとよく締まる。
その全てが匂い立つような色香を醸し、伊達は貪るように情事に没頭していた。

「…っひ、ぁあ…!ンぅ…、うぅ…っ!」
「ッ、クソ…!堪ンねぇ……!」

深く貫けば貫くほど、強く穿てば穿つほど
悩ましく自身に絡み付いてくる幸村の瑞々しい柔肉を存分に喰らいながら
眉を寄せ余裕なく唸った伊達は、益々腰を振り立てる。
幾度抱こうとも飽きが来ず、それどころか、回を重ねる毎にのめり込んだ。
幸村の存在自体が、伊達を魅了してやまない。

「…っあ、っあ…!もう…っ、んッ、…もう……!」
「…ッ!」

泣きながら絶頂が近い事を訴える幸村に、忙しく絞り上げられ
伊達は短く息を詰めて吐精し、遅れて幸村の方も白い子種を爆ぜさせた。
それから暫く互いに余韻を味わい、伊達は収めたままだった牡を
数回擦り付けるようにしてから、ゆっくりと全て引き抜く。

「…ン…、は…っ…ハァ…、、」

栓を失い、ドロリと大量に穴から溢れた白濁は、息を乱す幸村の臀の割れ目を伝い落ち
敷物代わりに使われて無残に皺くちゃになった着物の上に、淫猥な染みを作った。
伊達はその様を満足気に見遣りながら、幸村のしどけなく曲がって開いた両膝に手を掛け
更に大きく左右に開かせると、丸見えになる股座に、徐に顔を寄せる。

「……ん…っ」

何をするかと思えば、子種を散らせた幸村の牡にねっとりと舌を這わせ
ゆるりと残滓を舐めながら顔を移動させ、開脚した太腿の内側へと舌先を滑らせると
確認するように、隻眼を細める。
既にサラシは取れ、太腿の傷は殆ど塞がり、ほんの少し痕が残っている程度にまで治癒していた。
しかし、何故、一週間もあれば完治しようかと云う
さして深くもない傷が治るにあたり、これ程までの期間を要したかと云えば
偏に伊達が幸村を帰したくないと望むが故、傷が治りかける度に歯を立て
幸村も帰りたくないと望むが故、進んで太腿の傷を拡げてくれと強請ったからだ。
(普段、着物の袖から覗いてしまう腕の方の傷は、疾うの昔に塞がっている)
そうして二人でワザと見えぬ所の傷を悪化させ、治るのを遅らせた。
即ち、甲斐への帰館を引き延ばしたのだ。

しかし、それももう、限界である。

一国一城の主が一月もの間、自国を離れるなど、前代未聞。
そろそろ、甲斐方の不満の声も五月蝿い頃だ。

「…傷、治ったな」
「…はい」

伊達も、幸村も、辻斬り、自傷をしないという保障は、何処にもなかった。
寧ろ、同じ過ちを繰り返すだろうと云う、確信にも似た予感があった。
それでも、それぞれの国で、それぞれの役目を果たさなければならない。

…いっそ何処か、遠く、誰も知らぬ地へ……

互いに何度と無く考えたが、それは決して許されないだろう。

「…これから、また離れちまう…。いつ逢えるか、判らねェ…。
 だから今、その分まで、たっぷり抱いてやるよ…」
「……っあ、…ぁ…、、」

伊達は互いの胸中を襲う不安と逃避願望を忘れさせるように
無心になって行為に耽る事に専念した。
幸村もまた、判っているのか、静かに眸を閉じると
伊達の手に全てを委ねた。

 

―――――――――――――――

 

幸村が甲斐へ帰ると、出迎えに来た家臣達はまず
腕の自傷の傷が綺麗に消えていることに愕きを隠せない様子であった。
それもその筈、誰が止めようとも、次々と新しい傷が増え、決して治らなかったものが
たかが一月の間に、ものの見事に完治したのである。
加えて云うなら、鬱然としていた幸村の暗い表情までもが
何処か満ち足りたような艶々とした面持ちに変わってしまっていたのだから、これが愕かずに居れようか。
「一体、どうやって…」と口々に感嘆し
中には幸村本人に「何が御座りました」と訊く勇気ある者も居たが
やんわりと微笑んで、「全て伊達政宗殿の御陰にござる」と返されては
他に深く追求する事もできず、何やらよく判らぬが
慌てたように幸村から視線を逸らし、顔を赤くして黙り込む有様だった。
何をそんなに心乱すことがある、と訝しむ周りの者達でさえ
すぐに得心し、胸中で大きく頷く事になる。
それは幸村の纏う空気だ。
ここ半年程で、段々と雰囲気が変わって来ているという感じはしていたのだが
このたった一月で見違えるように変貌し
従来の凜乎した精悍さが、今では淡く滲み出るような優艶さ、際どく云えば色香となった。
幸村と直に傍で話そうものなら、皆一様に面映(おもはゆ)げに動揺し、そそくさと逃げるように離れる。
長く近くに居れば、それこそ妙な気を起こしそうになるからだ。

「…と、とにかく!無事お戻りになり、皆安堵しておりますぞ!」
「…すまぬ、心配をかけた…」

心底申し訳なさそうにしょんぼりとされては、尚のこと家臣達の調子は崩れる。
慌てたように「さぁさぁお疲れで御座いましょう…!」と諂(へつら)いながら、幸村の居館へと付き従った。

 


そうして二ヵ月後。

一時は落ち着いたかと思えた甲斐、そして奥州の国は、またしても大きく揺れていた。
方や甲斐の幸村は自傷が再び始まり、方や奥州の伊達も辻斬りが止まらないのだ。
両国の家臣達が、それぞれ泣いて縋ってやめてくれと乞うものの
如何せん相手にもされず、それどころか、日が経つにつれ状態は悪化の一途を辿るばかり。
まさに悪夢だった。
されど、それを必然と云うには、然り。
何しろ、幸村と伊達が離れ離れになってより、この二月もの間、一度として逢遇などしていなかった。
元より、互いが傍に居なければ、一週間と耐えられるものではないのに
それが二ヶ月も続けば、いよいよ発狂してしまいそうな程の孤独の恐怖に苛まれ
どうしようもない焦燥やら不安やら絶望やらが、混沌と一緒くたになって黒く思考を塗り潰し
まるで唆されるように伊達は辻斬りに奔り、幸村は自傷に明け暮れたのだ。
ひとたび顔を合わせ、互いの温もりを感じ合いさえすれば
それらの黒い靄が嘘のように消え、心安らぐだろうに、それができない。
晴れる事無く鬱積した重く暗い塊りは、捌け口を求め、二人に凶行を強いた。

各々の国の頂点二人が、そのような有様であるので
片倉含む両国の家臣達は、どうしたものかと大いに頭を悩ませる。
何しろ、手の打ち用が無い。
よもや医者に診せて何の意味がある筈もなし
まして雁字搦めに縄を打って拘束するなどと云う訳にも行かず
色々と策を練ってみるのだが、誰の言葉も行動も
二人を止める事など、況やその心を救う事などできなかった。

必然的に、話を国と国との同盟から、一国への統合へと変えるべきだろう。
国主の揺るぎは即ち国そのものの揺らぎであり
このままでは周囲の敵国から侵攻をされたとしても、とても太刀打ちできない。

そもそも、二つに国が分かれているからいけないのだ。
国を治める者として、自国を離れる事ができない道理と現実が
本来在るべき二人の姿と正気を、斯様にも見失わせてしまうのであれば
いっそ足枷となるものを取っ払ってしまえば良いと、片倉は考える。
この際、本人らの心情云々の話を別にするとしても
このままの状況が続く限り、国の存亡に関わるという危うい事実は、どうやっても無視できまい。
それは当の伊達と幸村は勿論の事、甲斐方の家臣達も痛い程判っているのか、
片倉の進言に二つ返事で「是」を寄越した伊達が米沢城に用意した内談の場に、易々と応じた。

ここで隘路となってくるのは、どちらがどちらの国を統合し誰が統治者となるかだが
これは深く議論するまでもなく解決する。
信玄が身罷ってより、甲斐の国は次第に弱体化していき
現状、幸村が統治しているとは云え、今はもうかつての脅威など見る影もなく
奥州と盟約を交わしているからこそ、他国の侵略を免れてはいるが、それももう危うい所だろう。
よって、甲斐側が奥州へと吸収される形となり
伊達が奥州領として統治すると云う事で意見は一致。
誰の異存もある訳がなく、それどころか、これでやっと落ち着くと
安堵の息を零す者ばかりであった。

 



【11へ続く】


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あとがき

一気に結末に向けて。

2009/11/23  。いた。