※流血・残酷表現、性描写、モブとの若干の絡みあり。ラストで幸村がキャラ崩壊しております。ご注意を


 



『翅化』


 

「よく来たな」
「片倉殿!お久しゅう御座る!」

奥州は米沢城。
かねてより進めていた盟約の折り合いを付ける為、一ヶ月ぶりに此の地へと参じた幸村である。
本来ならば陣中で槍を振り回し、魁の功名を欲しい儘に戦場を駆け巡るのみ
左様な政に絡む事も、まして計略のイロハなど心得ていよう筈もなく、甚だ畑違いだと自覚はしているが
体調があまり思わしくない信玄の名代として(とは名ばかり、実際は単なる伝達役に近い)
かれこれ半年ほど前から、こうして頻繁に甲斐と奥州を往来しているのだ。
盟主たる伊達とは、かつて戦場で相見えた時から惹かれ合っており
足繁く通う内、なし崩しに絆され、肝心の国より先に深い関係を結び
所謂、懇ろな恋仲となって居るのだが、今の処は口の堅い片倉しか知らぬ事。

「裏の畑の具合は如何か?」
「ああ、ぼちぼちだな。茄子が少し余ってるから、後で分けてやる」
「いつもながら、忝のう御座る!」

城内の磨き抜かれた廊下を歩いて城主の御座所へと向かいながら、他愛ない話しに花を咲かせる。
なにせ一月ぶりだ、会話も弾む。
とその時、廊下の向こう側から、でっぷりと太った男が此方へと近付いて来た。
伊達の家臣の一人だ。
瞬間、幸村の顔が不快げに歪んだのを、果たして誰が見たであろう。

「これはこれは、幸村殿!此度も遠路遥々のご来駕、まこと恐悦に存じますぞ!
 さぞや御疲れになられたでしょうなぁ?」
「…いえ、まったく。甲斐と奥州が盟を結ばんとする大事の為ならば、如何様な尽力も惜しみませぬ」
「おお!それは頼もしい!」

などと大仰に頷いて見せながら、男は出し抜けに分厚く脂っこい両手で幸村の右手を捉えると
恭しく、否、厭らしい手付きで、ねちっこく幾度も撫で回した。
途端に、脇で様子を見て居た片倉の眉間にピクリと皺が寄ったのだが
当の家臣はさも気付いて居らぬかのように知らぬ振りをすると、名残惜しげに幸村の手を離し
「それではまた」と寒気のするような猫撫で声で言葉を残し、廊下の奥へと消えた。
しかも去り際に、幸村の長い後ろ髪をスルリと梳いて、だ。

「ッ…、」

背筋に走った悪寒に、幸村はゾクと身震いする。
どうにもああ云った手合いは苦手だ。
普段なら拳の一つや二つでもくれてやって諫言を浴びせるだろう
されど、他所の臣であるから、下手な真似は出来ぬし
この程度の事でいちいち癇癪を起こしていては、仮にも名代として参った顔が立たぬ。
そんな幸村の心情を察しているからこそ、片倉もあの場では臣を諫めなかった。
それにしても、ウチにあんな礼儀知らずなド阿呆が居たのかと、少しばかり愕く。

「…すまねェな、真田」
「気にして居りませぬ。よくある事に御座いますれば、お気遣いなく」

……よくある事だと…?

気丈に振舞う様を見て、いつの間にか真田も成長したもんだな、と感心していたのも束の間
聞き捨てなら無い科白を事も無げに云い放った幸村を、片倉は片眉を跳ね上げて振り返る。
よもや先程の臣の無礼、此度が初めてではなく、片倉の与り知らぬ処で以前からもあったと云う事か。

(…こりゃァあのブタ野郎、後できっちりシメとかねェといけねェな…)

止めていた歩を進めつつ、胸の内で真剣に思案を巡らせていると
程なく御座所に辿り着き、とりあえずは襖を引いた。

「Hey、待ちくたびれたぜ。何を遊んでやがった」
「政宗様、別に遊んでいた訳では…」
「うっせぇ、誰もテメェに訊いてねェよ。幸村、さっさと来い」
「これは申し訳ござらん!すぐにっ」

座敷より飛んで来た剣呑な声へ、即座に返事をした幸村は
慌てて片倉の横をすり抜け、声の主の元へと駆け寄る。
間口に残された片倉はと云えば、己へと浴びせられた辛辣な言葉に
もはや動じる事も無く(幸村が来た時は、いつもこうだからだ)
「邪魔だ」とあからさまな視線を寄越す無言の重圧に溜息をつき、静かに踵を返して襖を閉めた。

「政宗殿、お久しゅう御座るな」
「挨拶はいい。とっとと座れ」

気怠げに胡坐を崩し片膝を立てた伊達がいざなう儘に
いつもの定位置である其の両脚の間へ背を向け腰を下ろすと
背後から伸びた両腕がしっかりと躯に巻きつく。
そして右肩にズシッと男の顎が乗る…筈であったけれど、ピタリと動きが止まったので
訝しげに後ろへと振り返りかけた一寸後、

「…Ugh、クセェな…」
「っ?!な、なんと…!某急いで参ったゆえ、汗が…!!」
「Ah…?ちげェよ……他の男の匂いがするっつってンだ」
「!」

不意に指摘され、目を瞠る。
きっと先程の家臣の所為だ。
存外に心が狭い伊達にそれを知られてしまっては、不興を買うこと間違いないものの
生憎口先は八丁に非ず、要するに上手い云い逃れが思いつかなかったので
仕方なく正直に白状すると、「莫迦かアンタ、簡単に触らせてンじゃねェよ」と
案の定、不機嫌極まりない声に鋭く窘められる。
幸村は小さく首を竦めつつも、

「…妬いておいでか?」
「Shut up…」

もしやと悪戯に問うてみれば、的を射たか、異国語で短く吐き捨てた男が
首筋へ乱暴に牙を立てるなり、着物の衽へ片手を差し入れ、太腿を荒く撫で上げる。
たかが匂い一つで悋気を起こすなど、嬉しいというか何というか、胸の辺りがこそばゆい。
幸村は背後の伊達に見えぬよう、こっそり笑みを浮かべると
手荒な愛撫に熱の篭もった吐息を溢した。

 

――――――――――――――

 

翌日、巳の刻(午前十時)である。
ほんの少し前に、伊達は片倉に呼ばれて席を外したので、座敷には幸村一人だ。
特にする事もなく、手持ち無沙汰に座っていると、頃合い良く襖が開き
案外早い戻りだと笑みを浮かべて顔を上げた瞬間、その表情は引き攣った。

「おやおや幸村殿!斯様な処で、何を一人で寂しくして居られる?」

例の太った家臣だ。
一体何処から湧いて出たのだと、幸村は我知らず後退りかけるも
素早く襖を閉めた男が、それを阻むかの如く隣へと腰を下ろし
これでもかと肉厚な躯を密着させて来る。

「……某に、何か御用でも?」
「そんなつれない事を云わず、お互い親睦を深めようではありませぬか」
「っ!」

素気無い態度を取るものの、脂肪だけでなく面の皮まで厚いのか、それとも単に鈍いのか
肥えた芋虫のような五指が無遠慮に太腿へと這い廻りだし
これはさすがに無視できず、幸村は咄嗟に声を荒げた。

「おやめ下され…!」
「おお、その強気な瞳がまた堪らない…!是非とも儂のモノにしたいと、常々思っていたのだ」
「?!」
「欲しい物なら何でもやるぞ?さぁ、大人しく従え」

と、行き成り勝手な事を云いだす男に、辟易というか、開いた口が塞がらない。
これまでの言動からして、そういう目で此方を見ていた事は何となく判っては居たが、傲慢にも程がある。
恐らく今までにも地位や権力を振り翳し、嫌がる相手を屈服させて来たのだろう。
況や餌をチラつかせれば、どんな獲物も釣れると、何か勘違いして居るようだ。
斯くも愚かな男が、まさか伊達の家臣とは思いたくもない。
しかし残念ながら現状は事実。
此奴を一蹴し力で黙らせる事は容易いけれども
未だ盟約決せぬと云うのに、よもや盟主の城でその家臣と一悶着など、絶対にご法度…
出来れば穏便に済ませたい。

「少し、落ち着かれよ…!ともかく、話を…っ」

そんな必死の言葉など、全く聞いて居らぬ、寧ろ端から聞く気がないのか
異様な高揚を見せる男は、抵抗が無いのを良い事に、半ば強引に幸村を畳へとうつ伏せに組み敷くと
目前の緋色の着物を焦ったように腰まで乱雑にたくし上げ、下帯を毟るように剥ぎ取る。

「っく…!」
「可愛いお尻だ…」

何とも気味の悪い事をうっとりと囁きながら、荒い気息で股座を寛げ
体重に任せて背面に覆い被さる男の屹立した一物が
臀の間にヌルヌルと擦り付けられ、幸村はゾッとした。
いつ誰が来るとも、それこそ主が戻って来るかも知れぬのに、何という大それた事を。
それが判らぬ程興奮し過ぎて居るのか
早くも先走りで濡れている先端を、性急に菊座へと宛って来る。

「…ッッ!!」

とてつもない嫌悪と悍気が走り抜け、俄か、建前や体裁などの一切が幸村の念頭から一瞬で掻き消え
本能的に翻った右手で背に張り付く男の首根を鷲掴もうとしたが、それと全く同時に
バンッと派手な音と共に横の襖が蹴破られ、姿を見せたのは、

「…テメェ、いい度胸してンな…一体誰の許可を得てソイツに触ってやがる…?」
「っひ、筆頭?!」

怒気も露わに冷声冴え渡る、城主の伊達である。
それも、幸村とて経験した事がないような、凄まじい殺気を放っており、恐ろしい事この上ない。
まるで図太い刃を無数に突き刺されているようだ。
云わずもがな、そんな敵意に耐えられる免疫などあろう筈もない城仕えの家臣は
慌てて幸村の上から転ぶように飛び退くと、脂汗を滝のように流してガタガタ震え上がりながら
「これは、その…!」と、しどろもどろに弁明せんと口を開く。
(伊達と幸村の関係の知不知はさて置き
 己がとんでもない妄挙をしでかした、という正常な思考が戻ったらしい)
とは云え、この状況で云い訳も糞もあるまいに
血の気を失って尚滑稽に戦慄く口唇の、なんと見苦しい事か。否、それより何より

「っつーか、いつまでも汚ぇマラをおっ勃ててンじゃねェよ」
「!ッぎゃあああああ!!!!」

勃起した下種の牡ほど見るに堪えぬ物はない。
伊達は音も無く脇差を引き抜くなり、家臣の粗末な一物を容赦なく斬り落とした。
直後、絶叫が迸る。
かつて味わった事も無い激痛に襲われ、のた打ち回る男が両手で庇う股間から
しとどに溢れ出した血潮が見る見る内に畳へと流れ出し、赤い水溜りを作った。

「…小十郎、あと一歩でも来るのが遅かったらと思うと、オレぁゾッとするぜ…」
「…はい。間に合いまして、一安心ですな…」
「But、煮えくり返ったこのハラワタ、一体どう始末すりゃぁイイ…?」

そう毒づいた後、激昂冷め遣らぬ伊達が行ったのは、罰や報復というにはあまりにも惨い仕打ちであった。
咽び泣いて許しを請う家臣に、欠片の情けや赦免など与えず拷問牢へと引き立て
まずは幸村の肌に触れたからと、十指を石塊で粉々に砕き割って手首を削ぎ落とし
次に幸村を見るのも許さないと、両目を熱した鉄棒で焼き潰し
それから幸村に声すら聞かせたくないと、咽喉笛を笞で滅多打ちにした。
そして全身に縄を打って馬に括りつけ、城下町中を引き摺り廻してから
ついに事切れたボロボロの亡骸を、町の外へと投げ棄てたのだ。

…が、其処までしても気が済まなかったのか、

「…なァ幸村……簡単に触らせるなと、確かにオレは云った筈だぜ…?
 ましてやテメェ、rape未遂なんざ、シャレにもなってねェ…」
「っ…されど…!」
「No、云い訳は聞かねェ。とりあえず、アンタにも仕置きだ」
「ッあ!」

氷のように冷たいのに、燃えるような熱を孕んだ眼光が鋭く煌めいたかと思うと
刹那に手首を捉えられ、有無を云わせぬ凄い力で厩まで引っ張られて
馬に乗って連れられたのは、城から一番近い伊達の私邸である。
着いてすぐに中庭に面した大座敷へと放り込まれた幸村は
勢い余って体勢を崩し、硬い畳へ強かに側身を打ちつけた。

「っ!、何をなさるッ、政宗殿…!」
「Ha?さっき云っただろ、仕置きだ」
「?!、やめ…ッ、あ…!!」

こんなに乱暴にされたのは初めてであったし、急転する状況について行けず
非難の声を上げながら身を起こそうとするが
聞く耳持たぬとばかりに着崩れていた着物を殆ど引き裂くように剥ぎ取られ
全裸に羞恥を覚える暇も無く、今度は両膝を割り開かれ肩のあたりまで押し上げられると
畳から浮いた臀に、正面から覆い被さった男の野太い牡が強引に捩じり込まれる。
「ひっ!」と思わず呑んだ息は、しかし直後に酷く乱れた。
伊達が力任せに腰を揺さ振り出したからだ。

「…はっ、は!ッ、…はァ…、ア!」

昨日、久方ぶりに情を交わし合ったとは云え、いくら何でも苦しい。
抗議を込めて目の前の双肩を力無く押そうとも
意に介さぬ伊達は徐に膝裏から片手を放し、あろう事か睾丸を掌握して強く躙った。
鍛える事の出来ぬ急所だ、さすがの幸村とて堪えられぬ。
食い縛った歯列から、殺し切れず漏れた悲鳴は、律動に合わせて断続的に途切れ
一気に荒くなった呼気がゼェゼェと室内に篭もって煩い。
伊達はそんな幸村を見下ろしつつ、薄く唇を開いた。

「アンタに、オレの気持ちが判るか?…あの胸糞の悪さ……まったく、反吐が出るぜ」
「、、いっ、あ…!、ぅぐ…ッ…ぁあ゛っっ」
「いいか?この肌も、汗も、声も、全部オレのモンだ。誰にも渡さねェ」
「…ツっ!!」

低く呟きながら、睾丸を掌で圧迫しつつ一物へと爪を立てられ
止む事のない痛みに震える最中、幸村は見た。
隻眼に爛々と暗く滾る、嫉妬と独占欲の灯火を。
伊達が家臣に対し常軌を逸した報復をしたのも、今こうして手酷い仕打ちを行うのも
即ち、それ程に激しい懸想を抱いている証。
そう自覚した途端、胸中に湧き起こったのは、どうしようもない幸福感と、純粋な喜びであった。

「…あっ!、は…ッ…、んんっ、ン!」

加えて、一物を甚振ると同時、気遣いなど皆無で抉るように突き込んで来る男の
その余裕の無さと云い、先の執着心丸出しの科白と云い
全て己へと向けられた情愛ゆえと思えば、愛しさすら込み上げ
火が付いたように躯の奥が熱くなり、蕩けた甘い声が出る。
挙句、それに伴って、嬲られている筈の局部が浅ましくも昂り始めたのだから、嗤ってしまう。
普通なら泣き叫んで嫌がる所業に、ひぃひぃと明らかに甲高い嬌声を上げて一物を膨らませるなど
偏狂も甚だしいが、実際、嬉しいし気持ちが良いのだからしょうがない。
そんな幸村の変化に気付いた伊達は、されど眸に宿す熱情を和らげる事もなく

「…次、もし同じ事があったら、こんなもんじゃ済まねェ…いいな?」
「あっ…ふ…!……はっ、イ…ッ、、」
「Good boy、イイコだ…」

問い掛けに対して喘ぎながらコクコクと頷く幸村の、目尻に溜まっていた泪を舌先で掬い
囁きかけた柔らかな耳朶に噛み付いて、一層深く穿ち抜いた。

そうして凡そ半刻、座敷での猥事は続いた。

 


少しだけ開いた障子の隙間から、四角く建物に囲われ
穏やかな陽光に包まれる中庭と、手入れに勤しむ若い庭師の姿が見える。
未だ引かぬ汗が浮かぶ火照った躯を鎮めがてら、幸村はそれを何気なく眺めていた。
ついさっきまで此の身を貪っていた伊達は、下女に所用を云い付けにでも行ったか、座敷には居ない。

「……んっ…」

思考を揺蕩わせつつ、此度の荒っぽかった情事を緩慢に頭に描いていると
不意にあの男の爆ぜた嫉妬を思い出し、ゾクリとあらぬ処が疼く。

(…嗚呼…、政宗殿、、貴殿の想いに焦がされる事が、斯くも甘美なものならば……)


ちらりと此方を窺い見た庭師と密に視線を交えた幸村は
薄っすらと優艶な笑みを浮かべて右手を持ち上げると
見る者を蠱惑し魅了する胡蝶のように、ひらりひらりと手招いた。

 

 

【終】


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あとがき

7万hitキリリク小説です。
「嫉妬に狂った筆頭に狂喜するどMな幸村」ということで、意気揚々と書き上げたのですが
…アレ?ドMというよりも……
と、とにかく、筆頭の嫉妬具合が酷ければ酷いほど、幸は嬉しい!
のでありとあらゆる手を使う…!という事で、宜しいでしょうか;(ビクビク)
 
2011/02/11  いた。