※性描写あり(モブ幸含む)。ダテサナ以外の絡みが許せない方はブラウザバック推奨。
 Not戦国。適当にパラレル。ご注意を

 

 

『悪い人』

 


「あっ、…あッ、…ン…っ」
「はぁっはぁっ…!」


陽の昇りきった真昼間、白々とした室内に篭もる爛れた熱気の中
嬌声と明確に判る、いかにもな声と、荒々しい呼気が、憚る事なく撒き散らされている。
薄い敷布の上、組み敷いた若い肢体を無様なほど必死に貪る中年の男の腰には
猥りがわしく開いた両足が巻き着いており、しなやかではあるがしかし女のものではなく
引き締まった脹脛に張りのある太腿は男の其れである。
激しい衣擦れの音と肌がぶつかりあう淫靡な音と共に終始やまぬ艶やかな喘ぎ声も
よくよく聞かずとも男のものだと判るし、火照り汗をかく腹筋も胸筋も逞しい限りで
されど床に流れる長い栗色の髪房と、まだうら若く酸いも甘いも噛み分けておらぬような面持ちが
酷く厭らしく扇情的に喘ぎ乱れて魅せる懸隔は甚だしく、あまりにも倒錯的過ぎた。
然るに、行為と、その者自体に夢中になり虜となっている男は
気がふれたように一心不乱に没頭し、部屋に段々と近づいて来る気配にもまるで気付かず


「ちょっとアンタ、何してんの?」
「ッうわ!!」


突如響いた第三者の咎めるような低い声音に仰天すると同時、首根をガシリと掴まれ後ろへ引かれ
素っ頓狂な悲鳴を上げて無様に床へ転がった。
夢から強制的に現実に連れ戻された男は、自身の背後に立つ者を見上げ、ギョッと目を剥く。
それもその筈、己がたった今まで虜となっていた相手には、一緒に暮らしている男が居ると聞いていたからだ。
威圧的に腕を組み、冷えた双眸で此方を見下しながら、見るからに怒り心頭という様子からして
間違いなく此の鮮やかな橙色の頭をした長身の美丈夫こそ
今しがた脳裏を過ぎった存在とみてまず間違いないだろう。
なれば現状は非常に、不味い。


「っいや、その、これは…!」
「へぇ…云い訳しようっての?その汚いマラ突っ込んどいて?ふーん…?
 まぁ別に聞いてあげるけど、俺様を納得させれなかったら、アンタのソレ切り取ってご家族に進呈するから」
「ひッ!?そ、そんな!」
「そんなも糞もないっしょ?覚悟決めろよサル。 ハイ、ど〜ぞ」
「ッッ〜す、すす、すみませんでした…!もう二度としませんから、どうか…!!」
「……は?今更謝って済む話かっての。こっちは今すぐにでもアンタをぶっ殺したいのを我慢してんだよ」


弁解の余地もなく、苛々と吐き捨てられ、男は焦りに焦った。
ほんの火遊びのつもりがいつの間にか本気になり、魔が差して手を出してしまった結果がこれである。
斯様な修羅場に縺れ込む危険性がある事を判っていなかった訳ではないが
いざこうなると正常な判断も出来ず、満足に口も廻らない。
こんなにも狼狽したのは生まれて初めてだった。
すると、両目を眇めた見目好しが、腰を折ってこう云う。


「じゃあさ、こうしようか。 百万、今すぐ用意しなよ。そしたらチャラにするからさ」
「…ひ、ひゃくっ?!む、無理だ!そんな金…!!」
「無理でも何でも耳揃えて渡すまで逃がさないからねー」


アンタの息子ちょん切るだけじゃなく、自宅つきとめて、どんな嫌がらせするか判らないよ?俺。
と、薄ら寒い笑顔を浮かべ、飄々とえげつない脅しをされては、とてもとても逆らえず
男は冷水を浴びたように大量の冷や汗を流しながら、ぎこちなく首を縦に振るしかなかった。


「そ!物分りが良くって助かるわ。それじゃ早速行きますかね」
「わ、判った、、」


促されるままに立ち上がってブルブルと震えながら服を着て
顔面蒼白で背中を小さく丸めながら、よろよろと歩き出す男は全く気付かない。

今日起きた事が、最初から仕組まれていたものだったとは。

 

 

「今回もチョロかったね、旦那」
「そうだな、佐助」


手にした分厚い札束をハタハタと振って見せる佐助に
静かに答えた幸村は、湯を張り終えた浴室へと向かいながら返事をした。
「今回も」と、手馴れた様子であるのは、云うなれば当然で
佐助と幸村は、以前からこうして共謀し、狙った獲物から金銭を巻き上げていたのだ。
所謂、美人局である。
手口は単純だ、幸村がカモを誘って姦通し、佐助が現場に現れ因縁をつけ、金を脅し取るのだ。
女子でもない幸村にノコノコついて来るような莫迦な男が居るのか
と問われれば、答えは常識を覆し「肯」である。
持って生まれた整った容姿は無論、斯様な事を続けて来た所為か判らぬが
微かに滲み出る何とも云えぬ色香で十二分に人の、特に男の目を惹くし
甘い栗色の瞳の思わせ振りな流し目を、露骨にではなく、それとなく送られては、誰しもがドキリとするだろう。
其処で頃合い良く幸村が優艶に笑んでみせるだけで、大抵の男は面白い程よく引っ掛かった。

何故、左様な阿漕な事をしているかと申せば、簡単だ、生きて行く為である。
何をするにも金が必要なご時世だ。
まっとうな職に就く事も昔は考えぬ訳でもなかったが
一度やってしまえば後は二度やろうが三度やろうが同じ事であり
足を洗うなどという綺麗ごとを既にほざかぬぐらいには、泥沼の深みにまで沈んでいた。
それに、容易く騙されるカモが後を絶たぬので、何せ楽に儲かる。


「ところでさ、中、気持ち悪いっしょ?綺麗にしたげるよ」
「…それだけで済んだ例がないのは気のせいではないぞ、佐助」
「ん?それも込みでの綺麗に、だけど? 何、嫌?」
「…ずるい奴め…好きにせよ」
「了〜解」


嬉しそうに哂って腰を抱き寄せる佐助の好きにさせながら、幸村も満更ではない笑みを浮かべる。
二人はずっと昔から一緒に居て、何をするにも二人だった。
善い事も、悪い事も。


「そろそろ、町を移ろっか」
「あぁ」


やっている事がやっている事なので、一処に長く留まってはいられない、根無し草な二人の行き先は


「何処がイイ?」
「何処でもよい」
「あっそう」
「東か北がいいな」
「プッ、なにそれ」


いつも気分次第で適当だったが、次に訪れた町で
よもや今後の行く末を大きく左右する、否、激変を齎す男に出会う事になろうとは
この時、知る筈もなかった。

 

――――――――――――

 

新しい町の風は冷たく爽涼としていて、秋をしっかりと感じさせる。
幸村はいつも空が紫暗に染まりゆく頃に出掛け、町の中心部へと赴き
裏道に姿を消して、狩場、つまりカモを引っ掛ける店を吟味し選ぶ。 
どの土地に行っても、それは変わらない。
路行く途中に声を掛けられる時もあるが、そういう輩は大概金を持っておらぬ為
歯牙にかけず捨て置く事が多い。(ちなみにその回数、片道だけで五指は埋まる)

今回狙いをつけ入った酒場は、少し格式高いような雰囲気だったが
その分、懐が温い連中ばかりなのは間違いなく、すなわち大金を見込めるという事だ。
さっと一通り中を見れば、独りで呑んでいる客が大半で、各々好きな酒を嗜んでいる。


「………」


入口から中へ進むと、ちらり・ちらりと彼方此方から寄せられる視線が、逸らされる事なく後を追い
奥の席についても尚、纏わりつく其れに気付かぬフリをして、幸村は一つ酒の注文をした。
後は黙って居ても、誰某かが声を掛けて来る。
さて、今回はどれぐらいか…と予想をつけようとした処で、不意に対面の椅子が引かれ
見知らぬ男が何の断りもなく勝手に相席となった。


「!」


若干愕いて顔を上げれば、ニィと片側の口端だけを上げ、何とも不敵な笑みを浮かべた男が
検分するような遠慮のない視線を上から下まで滑らせたあと、上に戻りざまにヒタリと顔の処で止め
瞬く幸村の双眸をまるで射抜くように見つめる。
とてつもなく容貌の好い男であった。
切れ長の左目に嵌まる藍色の瞳は鋭く、油断ならないものを感じさせ
惜しむらくは右目が眼帯に覆われている処、などとは少しも思わぬ
かえって魅力は半減しているどころか、相乗していて
人を喰うような笑みも、男が醸し出すある種の『危険』さと相俟って、要するに、頗る魅力的なのである。
他の者に魅入られる事はあっても、誰かに見惚れる事などなかった幸村は
暫し呆然と男を眺めていたが、己の頼んでいた酒が目の前に運ばれて来た事で漸く我に返り
「…某に、何か?」 と、反射的に柔和な微笑みを浮かべ問うた。
すると男は、


「アンタの事が知りたい」


なんとも直球過ぎる返事を寄越した。
不躾を通り越して、いっそ不遜であるが、腹立たしいとは何故か思えず


「何を、お知りになりたい」


気付けばそんな言葉が口をついていた。
男はゆるりと隻眼を眇めると、有り得ないほど様になる仕草で軽く頬杖をつき
「まずは名前」、と痺れるような低い声色で囁く。
いきなり、とも思うたが、名を訊かれるのは別に珍しい事でも何でもない。
だがしかし、処により使い分けている偽名を、ついうっかり、「幸村」と
本名を名乗ってしまい、常にない失敗に内心で些か狼狽していると
其れに気付いた様子もない男が、「オレは政宗だ」と云う。


「…政宗殿…にござるな、宜しゅうお願い申す」
「Haha、見かけによらず堅苦しいな、アンタ」
「お嫌いか?」
「No、」


どっちかってェと、ギャップがあってソソるぜ…?
などと早速口説き文句を惜しげもなく嘯く男の本心は嘘か真か。
いずれにせよ、獲物が釣れた事に変わりはなく
幸村はらしくなく波立っていた胸をスゥと落ち着けると、目の前の標的を逃がさず狩る為に
神経と意識をこの男の言動に集中させる。


「さっきの科白で逃げねェって事は、脈ありって見といていいか?」
「某を試したのでござるか?…悪いお人だ」
「クク…悪い人、ね… よく云われる」


…此奴、慣れているな。
短い会話ながら、それを察するには十分だった。
それならば、要らぬ駆け引きは無用やも知れぬ
恐らく向こうは、適当な遊び相手を探しているに相違ない。
程よく話を合わせて付き合えば、此方から誘わずとも、男の方から切り出すだろう。
ところがその幸村の予測は、大きく外れる事となった。
三十分ほど経った頃に、「行くか」という声に従い立ち上がって会計を済ませ
やっと店から出たと思ったら、あろう事か、「じゃあな」と、軽く手を振られたのだ。
拍子抜けというか何というか、呆気に取られてポカンとしていると
ニヤと意地の悪い笑みを湛えた男、政宗は、去り際にこう残した。


「明日、また此処で。…逃げるなよ?」


最後の含みのある云い方に、ゾクリと得体の知れぬ感覚が背筋を奔り
悟られては居まいかと男を見遣れども
既に踵を返しゆっくりと遠ざかる背中は、夜道の奥の闇へと音も無く消えて行った。


「…っ…」


終始相手の調子に呑まれっ放しであった幸村は、明日こそは、と誰にともなく誓い
仕方なく収穫なしに塒(ねぐら)へと戻る。
勿論、出迎えた佐助に「あっれ?その顔はもしかして失敗?めっずらしい〜」
と散々揶揄されたのは云うまでもなく
少しばかりカチンときたので、その日の夜の相手は全くしてやらなかった。

 


明晩、約束通り昨日と同じ店の前へと来た幸村は、軽く目を瞠った。


「よお」


店の中ではなく外で、男が待って居たからだ。
仕立ての良い外套と、馴染んだ手付きで吸う煙草の紅い灯が、酷くよく似合う。


「待っていて下さったのでござるか、申し訳ない」


わざとらしくなり過ぎぬよう、照れと喜色を孕ませて小さくはにかむと
口角を上げた男は煙草を躙り消し、「ついて来い」と歩き始める。
今回は酒を愉しむつもりではないのか、慣れた足取りで政宗が向かった先は
手頃な安宿、というには程遠い、見るからに品の良さそうな宿屋で
斯様な金回りのいいカモはいつぶりかと、幸村は内心ほくそ笑み

(これは何としても逃してはならんな、佐助)

捕らぬ狸の皮算用ではないが、此度の謀が成功すれば一体いくら儲かるのかを考えながら
一等高そうな一室へ、唯々諾々と連れ込まれた。


「、ん…!」


途端、気が弛んでいた処を見越したかの如く唐突に唇を塞がれ
閉じられた入り口にドンッと背をぶつけるも、気にした風もなく其処へ押し付けられ
一瞬状況が呑み込めなかった幸村であったものの、すぐに現状を理解し
抗うことなく、寧ろ此方も最初からその気であったとばかりに、男の首へと腕を廻す。


「…ンっ、…は、、ッ」


自ら誘う、否、挑むように唇を開けば、何の躊躇もなく舌が差し込まれ
やはりノッて来たかと幸村の方も舌を伸ばしザラリと絡め合うと
俄かに唾液が溢れ、口元を伝う前にゴクと小さく音を立てて飲んだ。
あまりにも自然にそうした所為か、それとも幸村が慣れていると判ったからか
人の悪い笑みを湛えた政宗が、グッと幸村の両股の間に片膝を割り込ませ
膝頭を際どい処へジリジリと躙りつけて来る。
幸村が思わず上擦った呼気を零すと、それに合わせて政宗の舌使いが変わり
激しく、其れでいて蕩けるような濃密な口付けは、今までのどんな男よりも、上手かった。
期せずして夢中になった幸村は、股座を押し上げる政宗の膝に
硬くなりつつある己の牡を意図的に擦りつけ淫乱に誘ってみせ
気付けば、余裕も探りあいもへったくれもなく互いの衣服に手をかけ剥ぎ取り合い


「っ、…あ!」


敷物もなく直に床の上で、縺れ合いの情事に及んだ事は果たしてこれまでにあっただろうか
いや、ない。

おまけに朝帰りどころか、丸二日にわたって佐助の元に戻らなかった事も、初めてであった。

 

 

「旦那!大丈夫?俺様すごい心配したんだけど!」
「…あ、あぁ、悪い。少しばかり手間取った」


戻ってすぐ出迎えに来た佐助に曖昧に笑って見せる幸村の心中にあるのは
少しばかりの罪悪感と、いまだ抜け切らぬ昂揚感。


「マジ?旦那でも落とせないなんて一体何者よそいつ。…そんなに手強いなら、今回はやめとく?」
「いや、案ずるな。十分に喰いついておる」


何せ昼夜通して眠る間も惜しんで行為に没頭したのだから、躯の相性は恐ろしく、イイ。


「そう?ならいいけどさ…」
「うむ、次で仕留めるぞ、佐助」
「了解!」


ちょうど一週間後、同じ処で再び逢う約束をしており
常であればもう少し回数を重ねてから獲物を狩るのだが
今回ばかりはそう出来ない、悪い意味で深入りしてしまいそうな
そんな云い知れぬ危機感を覚えていた為、早々にきりあげる事に決めた。

(…っ…何やら胸騒ぎが治まらぬ……これが終ったら、此処を離れた方がよいやも知れんな)

佐助に場所を教え、その日の段取りを話し合った幸村は
何故か落ち着き無く騒ぐ胸に、そっと手を当て握り締めた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一週間後の約束の日である。
例の部屋に着くとすぐ、幸村は政宗に引き寄せられ、思うさま口付けられた。
幸村の方も負けてはおらず、最初は焦らすような逃げる素振りをし
かと思えば戯れに時折舌先を軽く掠めさせ
頃合いを見て首の角度を変え、深く絡めては離し、飽きさせないように。
男は幸村の長い後ろ髪が甚くお気に召しているようで、接吻の合間にサラサラと指で掬うては梳き、撫で
興が湧いているのか、傍目でも判るほどに上機嫌だった。


「…は、、今日は、機嫌がようござるな」
「Of course、アンタが居るんだ、当然だろ?」
「左様な…、、っン…!」
「いいから、乗って咥えな」
「っ、判り申した…」


唾液の糸を引かせ離れた政宗が幸村の凝った乳首に爪を立ててから、分厚い寝具の上に仰向けになり
幸村は濡れた紅唇を興奮気味に舌で拭いながら従順に膝をつくと
政宗の牡を手早く扱いて完全に勃起させ腰へ跨り
野太い其れを片手で支えつつ先端を菊座に宛がい、ゆっくりと下へ体重をかけていく。


「……ん、…っふ、、」
「Ah〜…アンタの中、相変わらずイイ感じにあっちィな…ッ」
「、っ暫し、待たれよ……某が…、あッ、…動き申す……!」


難なく亀頭を呑み込み妖しく纏わりつく幸村の熱い柔肉に
一つ気持ち良さそうな吐息を吐いた政宗は、一度大きく腰を揺すり上げ
其のお陰でぴっちりと隙間なく奥まで一物を咥え込んだ幸村は
短く声を上げ大きく身悶えると、自ら宣言し、腰を動かし始めた。
前回は悔しくも政宗に主導権を取られ、前後不覚に陥ってしまったので
此度は己の好きなようにしたかったのだ。
しかし…


「ふ…、あ、、…くっ、、」
「Hey、どうした?もっと本気出せるだろ…しっかりやんな!」
「、やめっ…、ッあ!某が、某が動くとっ、…ンッ!、申しておるの、に…っ! あっ、あっっ!」


男の絶頂を促すべく、立派な牡を引き絞りながら上下に動いていたのに
そんな姑息が通用するかとばかりに、不規則に強く下から突き上げられては調子が狂う。
更に、狙わせるつもりのなかった泣き処を上手い具合に
それも連続で突かれては、火のついた貪婪な熱情はいとも容易く燃え上がって手が付けられなくなり


「ひっ!、あッ!…はぁっ、あぁ…ッ!」


普段の演じるような嬌声ではなく、心身ともに悦に染まった時にしか出ない本気の喘ぎ声が
抑えようにも抑えきれず、引っ切り無しに止まらない。
はしたなく一物から透明な先走りを垂らし、快楽に呑まれて痺れ行く思考の中
それでも、そろそろ佐助がやって来る頃かと、辛うじて思い出し
今少しの正気と申すか、冷静さを取り戻したいと思ったのだけれど
もうどうにも気持ちようて堪らず、卑猥に腰を振り立て交ぐわって居れば、不意にドカドカと足音が聞こえ
嗚呼来てしまったのかと熱に浮かされた顔を上げた瞬間、幸村は目を見開いた。


「さ、佐助…!」
「どうした小十郎、騒がしいぜ」


発せられた声は殆ど同時であり
二人の視線の先には、佐助と、それを羽交い絞めにする強面の男が一人。
幸村はまったく面識が無かったが、政宗の方はどうやら違うようで
一体何者であろうかと思うも、そんな疑問はすぐに消え、これは一体どういう事かと
訝る視線を政宗へ向ければ、まるで何もかもを見透かした口振りで、こう云う。


「いい退屈しのぎだったぜ?幸村」
「!!」


瞬間、全てバレていたのだと悟り、慌て距離を取ろうとするが
素早く伸びた腕が腰をがっちりと掴んで離さない。
興奮で沸騰していた筈の血潮が、見る間に冷えてザァと引いて行く。
咄嗟に首を捻って佐助を見遣れば、「ウソだろォ!」と云わんばかりに表情は焦りに歪んでいて
万事が休している事実を否が応でも思い知らされた。


「まったく、近頃供も付けずに何をして居られるのかと思えば… 少々、お戯れが過ぎますぞ」
「Ha、おイタが過ぎんのはコイツの方だろ?少しぐらい遊ばせろ」


何せオレ相手に恐喝しようっつー命知らずだぜ、と酷く愉しげに云いながら
むくりと上半身を起こして幸村の後ろ髪を鷲掴み、反対の手の親指の腹で下唇をいやらしく撫でる政宗を
窘めるように「筆頭」と強面の男が呼び、俄か、幸村はハッと思い出した。
以前、堅気ではない男を引っ掛けた時、自らの首魁の事を「筆頭」と、独特の呼び方をしていた事を。
其奴曰く、そうして呼ばれるのは数ある筋者の中でもたった一人で
何処ぞの何某とかいう巨大勢力の頂点に立つ男であり
若いながらも其の実力と恐ろしさは本物だ、と自慢しておった気がする。
そして更に記憶が確かならば、「隻眼だ」、とも申していた。

然もありなん、目の前に居る男そのものではないか。


「クク…相手が悪かったなァ、幸村」
「…あ…」


そういう意味での『悪い人』だったなどと、今更気付いた処で、もう遅い。


「So…他の奴だったら即行で血祭りに上げてる処だが、アンタは別だ」


掴まれた侭だった髪房が手放され、ゆるりと項へ這った指が卑猥に背を辿り
これまでで一番性質の悪い笑みを作った男は徐に顔を寄せ


「喜べ、囲ってやる」


耳元でザラリと囁いた。
その、言葉の意義に、ゾクリと総毛立つも、幸村に残された手立てなど、ない。


 


【終】


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あとがき

16万hitキリリク小説です。
『美人局な幸村』という事で、ビッチな感じで進めたつもりだったんですけど、、
うん、全然でしたね、すみませんorz 力量不足は痛感しております(平伏)
しかもナチュラルに佐幸前提というww いやでも、モブがグルだったら、なんかヤだな…と思いまして。
とりあえず、幸村は筆頭にずっと囲われてればいいと思います^^

2012/11/11  いた。