『或る、試み。』
 或る○○シリーズ。3。

 

 

何日、経っただろうか。
俺がここに連れて来られて、もう随分になるハズだった。


「・・・・・・・・」


今日の天気は雨。
窓を冷たく雨粒が叩いている。
俺は自分の寝床となっている黒いソファの上で、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
グリムジョーが居ない時はすることなんて何もないから
こうしてよく窓の外の景色を眺めていることが多い。
景色と言っても、高層ビルらしき建物がいくつかと
その間からの空模様しか見えないけれど。


「・・・・・、・・・」


湿気の所為か、首輪がしっとりと濡れている気がして、眉を寄せる。
両腕が自由なのにも拘らず、この所有の証は外せないし
部屋から出ることもできない。
相変わらず息苦しいものの、もういい加減慣れてきたのも確かだった。
別に現状に甘んじているワケでも諦めているワケでもない。

ただ、どうしようもないのだ。


「・・・・・はぁ・・」


自然、小さな溜め息がこぼれる。
退屈で仕方なかったし、無気力だった。
今はグリムジョーが出かけているので、部屋の中はいつもの俺の喘ぎ声ではなく、ただの静寂が支配している。
未だに毎日のように続くあの行為の中での、暫しの休息とも言えた。
部屋の主がいつ帰ってくるのかは知らないけれど。


「・・・・・・どーして・・こんなことに・・・・・」


日々はまさにグリムジョー中心に廻っていた。
あいつが起きている間は、絶えず俺は玩ばれるし
あいつが飯を食わない時は、俺の分も無かったし
あいつがこうだと命令すれば、俺は従うことしかできないし
ここの全てはあいつのモノだから、何をするにも許可が要るし
もしかしたらあいつの気紛れで、明日解放されるかも知れないし
このままずっと、何年も飽きずに飼い殺される可能性だってあるし・・・・

たった一つの出入口は、あいつしか開けられず
一度窓から出ようとしたら、想像を絶する高さで断念せざるをえなかった。
しかもその時、「落ちたら確実に死ぬ」と念まで押された始末だ。


「・・・・っくそ・・・」


なんとなく自分が情けなく思えて、ソファから勢い良く躯を起こす。
雨で気温が下がっている所為か、一瞬背中が震えた。
俺はソファから立ち上がって、湿ったフローリングの上を歩いて奥の浴室へと向かう。
グリムジョーの許可が無いけど、無性に風呂に入りたかった。
どうせ今は居ないのだから、入ったって判らないだろう。


「・・・・・・・」


あいつが戻って来る前に、早めに済ませてしまおうと行く途中
ふと廊下の先に玄関のドアが見えて
本当になんとなくだけれど、試しにドアを開けてみようかという気分になり
浴室への進路を玄関へと変えて、ヒタヒタと歩いていく。
冷たい玄関口におりると、足の裏に砂粒がひっつき
構わず俺はドアノブへと手をかけた。


「・・・・・・!」


押してみると、蝶番の軋む音がして、開いた。
吃驚して目を見開いたまま固まる。

一体、何故、どうして・・?

開くはずが無いのに。


「・・・・・どー、・・なってんだ・・・・?」


確か外側に鍵か何かが取り付けてあったハズだ。
最初の時に経験したのだ、内側からドアは開けられないと。
確かめるようにドアの外を見れば、やはり頑丈そうな銀色の鍵が固定されていた。
でも今はそれが閉まっていない。
グリムジョーは出かけるとき、必ずこの鍵を閉めていっているのに。

・・・忘れて・・・・・?、・・・それとも・・・・・・・・

どっちにしろ、今の俺には判らなかった。


「っ・・・、」


とりあえず玄関の中に戻り、ガタンとドアを閉じた。
鼓動が早く、息も荒い。

・・逃げられる・・のか・・・?


「・・・・・ッ」


考えるより先に、躯が動いていた。
グリムジョーの部屋に走り、とりあえず着る物
目立たないTシャツとジーパンを引っ張り出し、急いで着込む。
それから玄関に取って返して靴箱を漁り、履けそうなスニーカーを出して足を突っ込み
ドアを開けて玄関の外に出た。


「・・・・・・・、、」


周りを見回すと人の気配は無く、俺はできるだけ静かに、けれど一刻も早く
ここから離れるべく走り出す。
エレベーターは不味い。
人目につかない非常階段へ向かい、靴音を響かせて駆け下りた。


「・・ッハ、・・・はぁ・・っ」


ロクに運動をしていなかったせいか、息が切れる。
でも、だからと言って休んでるヒマなんてない。
俺は一気に1階まで下りきって、裏口のようなところから
ドアを押し開け外に出た。


「・・・・・ッ・・、」


雨雲と雨のせいで薄暗い景観をぐるりと見回すと、見たこともない土地。
けど、今の俺にはココから逃げることしか頭になくて
よく判らないアスファルトの路に飛び出し、只管、走る。
ビシャビシャと水溜りを踏む度に、ズボンに雨水が染みた。
重い。
躯も。
咽喉がヒリつく。


「っ・・・ぜ・・、・・・・・・ハッ、・・・・っ」


とにかく、見付かり難いであろう裏道に入り込んでから
立ち止まって壁に背を預け、何度も肩で息をした。
雨に濡れた髪と服がピッタリ肌に張り付いてきて鬱陶しい。


「、、くそ・・」


煩わしさに引き剥がそうと手を遣ると、そう言えば首輪も付いたままで
慌てて視線だけを左右に廻らせて辺りを窺いながら、左手で覆い隠す。
まさか人の目はなかっただろうか。
こんな所有物の証みたいなモノ、一秒でも早く取り去ってしまいたい。


「・・っ・・・、ここ・・、・・・どこなんだ・・・・・、、」


未だに荒い呼吸を繰り返しながら、もう一度周りを見渡すも
まるで迷路みたいにしか見えないし、何か目印になるような建物もなく
当たり前だが地図なんて便利なものは一つも見当たらない。
俺は自分の現在地すら知ることができないで、
狭い路地裏を雨粒に濡れながらヨロヨロと迷走する、言うなれば迷い犬だった。

・・・畜生・・、笑えない例えだ・・・。


「・・・・・・くっ・・・」


自嘲する気力さえ湧かず、眉を顰め、
まるで鉛のような躯をなんとか起こし、足を引き摺るようにして歩き始める。
冷たい雨に体温と体力をじわじわと奪い取られ、限界が近かったけれど
今、ここで立ち止まっていてはいけない気がした。
どうしても、進まなければ・・・。
胸の奥の直感が、静かに騒いでいるのを感じる。

早く、早くもっと遠くへ、、

あそこから逃げ出してから、そう時間は経っていないハズだ。
グリムジョーも、俺が居なくなっていることに気付いているワケがない。
しかもこんな場所、見つけるなんて不可能だ・・・。

なのに・・・


「・・・よォ、こんなトコに居たのか・・、一護」


いつのまにか目の前に立っていた長身。
囁きかけてきた、聞き覚えのある低い声。


「・・・ッ・・!」


一瞬、恐怖のあまり凍りついて、身動きさえ取れなくなった。
声も出せない、瞬きもできない。
そうして目に入る、この鮮やかなセルリアンブルーを、認めたくなかった。
と同時に、認めてしまったが故に、「もう逃げられない」と
確信に近い絶望が思考の全てを奪い去る。
静かに吊り上がったグリムジョーの薄い唇が、ひどくリアルだった。


「捜したぜ・・?」
「・・・・あ・・、ッ!」


薄ら笑いのまま、グリムジョーが伸ばした手に、避ける間もなく左腕を取られ
物凄い力でグイと引き寄せられる。
反射的に抵抗しようと踏ん張るものの、力の差は歴然で
掴まれた腕を振り解くこともできずに、容易く距離を縮められた。
ギリギリと腕に喰い込む手に力加減は無い。
骨まで響く痛みに眉を寄せ、至近距離にある雨に濡れる整った顔を見上げる。


「・・・・・!」


その、目を見て、俺は震え上がった。
口許は笑っているのに、降りしきる雨よりも冷たく暗い、水縹色。
息が、止まったかと思った。
恐い。


「・・・・・あ・・!・・・いやだっ!!・・・・放せ・・・!」


本能的に、この男から逃れようと踠く。
今までにないほどの恐怖に襲われ、ただ、がむしゃらに。
・・・そう、俺は怯えていた。グリムジョーに。


「・・・逃がさねーよ」


低く呟いた声が咽喉で嗤った次の瞬間、鳩尾に片膝が減り込む。


「、・・・かはッ・・!」


受け身なんてとるヒマなんか無いほど唐突で、
ズンと胃に残る衝撃の重さは、これまでに相手をしてきた不良共の比じゃない。


「オヤスミ」


残酷に耳元を掠るセリフ。
黒く拭うように、俺の意識は無くなった。

 

×××××××××

 


次に気付くと、そこはあの部屋、あのソファの上だった。


「・・・ッ・・!」


慌てて起き上がろうとすると、支えにしようとした両腕が背中で一纏めに括られていたせいで
バランスを取り損ね、起き上がることができなかった。
いつの間に拘束されていたのか、細い紐のようなものが手首のところで喰い込んで来る。
激しい焦燥が背筋を撫で上げた。


「・・・・っ、あ、、」


ふと視線を横にズラすと、脚の低い長テーブルを挟んだ向こう側の一人掛けソファに
グリムジョーが無表情にこっちを見ながら座っていた。
気配すら感じなかった。


「・・・・・ッ・・・」


逃げた俺にどんな仕打ちが待っているか、測り知れない。
けれどグリムジョーは終始無言で、そのことが余計に俺を焦らせる。
濡れたままの髪や服の雫ではなく、もっと冷たい嫌な汗が、ツッとこめかみを伝った。


「、、!」


その時、不意にグリムジョーが立ち上がり、こっちに向かって歩きだした。
俺は緊張に躯を強張らせ、すぐ横に立った長身を見上げる。
グリムジョーからも、濡れた髪と服からポタポタと雫が滴っていた。
急に薄ら寒さが全身を覆う。
見下ろしてくる水縹色の瞳は、濁った氷のように無機質だった。


「・・・・・・・・」
「・・・・あ・・、グリ・・・ムジョ・・・・・・、・・ッ!!」


まるで人形みたいなグリムジョーの様子に不安を掻き立てられ
名前を呼んだのと同時に、首輪の嵌った首を、片手で物凄い力で絞められる。
驚いて踠こうとするものの、両腕が使えないので、グリムジョーの腕を掴む事も外させる事もできない。
呼吸器官が圧迫と酸欠で犯される。
意識がだんだんと痺れて、遠のいていく。
気絶、する・・・。


「・・・・・・・ッ・・・、ぁっ!・・っは、、っげほ・・・!」


意識障害が起こる一歩手前で、首から手が離れ
急に入り込んで来た酸素に激しく噎せる。
苦しさで滲んだ生理的な涙が何度も頬を流れた。


「・・・やっぱ、いっぺんきっちり躾ねぇとダメか・・・」
「・・?!」


漸く口を開いたグリムジョーが徐に呟いたセリフに動じる間もなく
今度は馬乗りになった長身に、濡れて張り付くTシャツを乱雑にたくし上げられる。
続けて、顕になった胸に、熱い舌が触れ
体温の下がった冷たい躯に、いっそ過剰なほどの温度。
舌が這う部分だけが熱を持ち、その温度差に敏感にも躯が跳ねる。
けどそれだけじゃなく、日頃からグリムジョーに愛撫され慣れたこの躯は
こんな単純な「舐める」という行為にすら、じわじわとした甘い痺れを感じ取り
確かに下腹部に熱が集中し始めて、俺は必死にそれを否定しようと唇を噛んだ。

そんなことしたって、無意味だと判っていながら・・・。


「っ・・・、う・・・・・、、」


押し殺した声が余計に羞恥を煽ってくる。
抵抗しようにも両腕は躯の下敷きで、あまつさえ拘束されていて
暴れたくても馬乗りされたこの状態では、身じろぐ事すら出来ない。
ゾッと項の毛が逆立つ。
躯の自由を奪われることがこんなにも恐ろしいことだと、初めて気付かされた。
そして、この男が本気になれば、俺なんて好きにできるということも。


「・・・あ・・っ、・・・・グリム、ジョ・・・!」
「躯に教え込んでやるよ・・・。一護、テメェが誰の飼い犬かってことをな・・・」
「っ・・!!」


抑揚なく呟いたグリムジョーの手がジーパンに掛かり
一気に引き摺り下ろしてしまって、足首で引っ掛かったのを邪魔だとばかりに床に落としてから
俺の片足を掴んで大きく割り開いて限界まで押し曲げる。
顕になる陰部。
また、アレをされるのかと思ってギュッと目を瞑ると
・・・違った。


「・・・?!」


尻の奥、普段触れることもないその場所に、指が宛がわれるのを感じる。
まさかそんなところに触れられるとは思わなくて
閉じていた目を見開いてグリムジョーを凝視すると
無言の応えで、そのままグッと指先が侵入してきた。


「、っ・・・・あ・・! ぐ・・・・!」


汚いとか、何故そんなトコロをとか、考える余裕なんか無い。
雨で濡れた指がゆっくりと奥まで入ってくる、味わった事のない感覚が思考を混乱させ
とにかく異物を押し留めようと、そこで力一杯グリムジョーの指を締め付けるが
無理矢理捻り込まれていく細い指は、容赦ない。


「くっ・・・!、ぅ・・・・ッ」


数回抜き差しを繰り返したと思ったら、指がもう一本
ズッと入り口を押し広げて入り込んで来た。


「・・・・っひ・・!!」


その指が強く壁を引っ掻いたせいで鋭く痛みが走る。
過敏にピクリと震えると、違う場所にも何度も爪を立てられた。
痛覚だけが思考と躯を支配し始める。
鉤状に曲がった指を締め付けると、より痛みを増幅させてしまうから
俺は必死にグリムジョーの指を締め付けまいと、そこに力を入れないよう努めた。
さっきと真逆のことをしている。
けどグリムジョーはそれを嘲笑うかのように、ぐいぐいと強く爪を立ててきた。
まるで痛みで俺を咎めているように。


「、ッ・・・!・・・・・いっ・・、あ・・・!」


引き攣る腸壁。
痛みで反応する度に、自らグリムジョーの指先に喰い込んで行き
更に痛みを作り出していく、悪循環。
自分では止められなかった。


「、、っ・・・・・、も・・・、・・やめ・・・・っっ」
「この痛みが、オマエが今日したことへの罰だ」
「・・・つ、、・・・・・ぅ・・・」
「一護・・、オレは悲しかったぜ?」
「・・・・ッ!?」


二本の指が、左右に広がっていく。


「オマエはもう少し聞き分けのいいイヌだと思ってたんだが、なァ・・!」
「・・・・ッッ・・!!あ、あああぁ!!!!」


できた隙間から、グリムジョーの猛った塊が割り入ってきた。
指とは比べ物にならない程の熱さと体積のモノが、メリメリと入り口を裂いて行く感覚が
激痛と供に脳を犯してから、悲鳴となって声帯から出て行く。
痛い、痛い、痛い・・!!
嫌だ・・!
助けて・・・っ・・!!


「・・あ!・・・ああぁあ・・っ!!・・・・・ッく、、あ・・・っっ」


呼吸さえうまく出来ない程の痛みに、手足の指先が勝手に丸まって力が入る。
ゼェゼェと激しく胸が喘ぐ。
涙がボロボロと頬を伝う。
どうして、こんな仕打ちを受けなければならない・・・
男の俺が、犯されるなんて、、


「・・痛ェか?」
「っ、・・・は・・!・・・・あ・・ッ」
「ちゃんと大人しくオレの言うこと聞いてりゃ、こんな思いしなくて済んだんだぜ?」
「・・く・・・・っ、、」


ゆるゆると腰を前後させ始めたグリムジョーが
憐れさを含んだ声と瞳で、見下ろしてくる。
まるで「愚かだ」と俺を憂えるかのように。


「一護・・テメェは馬鹿だ・・・。よく考えもせずに行動するから、こうなる・・・」


俺を揺さ振りながら、低い声が断罪の剣のごとく降りかかる。
・・・まさか、ワザと鍵をかけずに出かけたのか。
そして俺がその罠に引っ掛かるかどうか、高みの見物してたってワケか・・?


「っ・・・・最低・・、だ・・・!!」


なんて愚かだったのだろう、俺は。
よく考えれば見え見えの罠だったろうに、気付けずに。
逃げれた、と、歓喜さえして。

・・・・全て、仕組まれていたことだったのに・・・。


「・・・あっ・・!・・・・・っくそ・・、・・・・クソ・・ッ! 、・・・・あ、、ぅっっ」


切れた傷口から滲んだ血とグリムジョーの雄の先走りとで
ズルズルと恐ろしい程に滑りのいいそこが、何度も何度も擦り上げられる。
摩擦で泡立ちぐちゅぐちゅという卑猥な音さえさせて。
・・・畜生・・。
俺は、一体どうしていたら良かったんだ・・・。
グリムジョーの言うように、大人しく本物のペットのように飼い主の帰りを待っていれば良かったのか?
そしていつものように、帰ってきたお前に玩ばれていろと?


「あ・・・っ、・・・・・・イヤ・・・だ・・!!」


浮かんだ考えと今の状況を同時に拒否し、前後に揺れ動くグリムジョーの下で泣く。
背中の下敷きになっている両腕が痛い。
唯一自由な脚は割り広げられ、苦痛の汗が滲む。

・・・もう、許して欲しかった・・。


「・・・っん・・、ぁ、!・・・・・あぁッ、あ・・・!」


一際強く腰を打ちつけたグリムジョーの雄から
熱い体液が最奥に注ぎ込まれ
それを確かに感じ取った俺は、現実逃避に近い形で、緩やかに意識を手放した。

きっと、あのドアに鍵が掛けられないことは、二度とないだろう。
だって俺が愚かにも逃げてしまったから。


 


そんな自殺行為にも似た、試み。


 


【4へ続く】


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あとがき

中途半端です。
これから本格的なエッチもとい本題の調教に入ろうかと。笑

2007/04/14  。いた。