※なんちゃって戦闘シーンあり。グダグダです。白崎さん登場します。
 暴力的表現、流血描写ありますので、ご注意を。

 


 

『鬼ごっこ #11』

 


ガキィン!と甲高い音を立て、互いの刀がぶつかり合う。
同じく衝突し合い高密度化した霊子の火花が飛び散る度、銃火器のように大木を穿ち地面を抉り
生じる衝撃波は暴風となって砂塵を巻き上げ轟々と唸った。

「ハッ、不思議だよなァ…テメェのその眼を見てっと、他のことなんざどうでも良くなる、ぜッ!」
「っく!?」
「どうした、もっと本気で来い!オレを愉しませてくれるのはテメェだけなんだからよォ!!」
「ツ、ちくしょーが…!!」

卍解しざま横に振り抜いた黒い刀身を、易々と素手で掴み遮りながら、埒外の事を言う。
お気に入りの玩具で遊び尽くしたいという傲慢さが見て取れ
けど、確かにグリムジョーにとっては他愛ない「お遊び」なんだろう
俺の攻撃を軽く往なしつつ、素早く翻した切っ先で、深手に至らぬ絶妙な力加減でもって斬撃を寄越す。
裂けた死覇装の隙間から、鋭く斬れた薄皮にプツリと滲む鮮血とともに
生白い太腿や二の腕が垣間見え、生身の躰の方にはくっきりと残っている筈の
鬱血や歯形の数々といった生々しい情痕は死神化したばかりのため残って居らず
ゾッとしたのは、それを見るなり、まるで真新しいキャンバスを今度はどういう風に汚してやろうか
とでもいうように、欲望を隠しもせずニタリと男が嗤ったことだ。

「ッー月牙天衝…!!!!」

俄かに腹の奥を這いずった怖気と、いかがわしい疼きに窮し
それを振り払いたい一心で絶叫しつつ、諸刃とも言える技を叩きつける。

「!」

グリムジョーは咄嗟に両腕を交差させ防御の体勢を取ったものの、耐久力を超えていたのか
綺麗な袈裟斬りが決まり一線奔った傷口から、鮮やかな血が弾けボタボタと溢れ滴った。

「…やるじゃねェか」

意表を突かれたとでも言いたげに喜色を浮かべ口角を上げるが、俺はそれどころじゃない。
元々自分の物ではない大技を使った反動で
いつにも増してブレていた霊圧のバランスがいよいよ崩れ、内なる虚がザワつく。

(っくそ、、待てよ、もうちょっとだから…!)

グリムジョーに対し唯一有効な黒い月牙を正気で撃てるのは、あと2・3発が限界だろう。
加減を間違えた途端、御し切れない自身の虚の力に呑み込まれ乗っ取られる。
その前に、何としても、この闘いを決着させなければならなかった。

「いくぞ、グリムジョー…!!」
「ハッ!微温ィぞ一護!!」

早く速くという焦燥感と、俺しかコイツを止められないという使命感に急き立てられ
無我夢中で吠えつつ渾身の月牙を見舞うが
一笑した男の驚くべき刀閃が真っ二つにそれを斬り弾き、背後の丘が轟音と共に消し飛んだ。
でもそれは予想していた流れだ、俺はすぐさま瞬歩で一気に間合いを詰め
グリムジョーの襟を左手で鷲掴み動きを抑えてから
右手に握った斬月を足元から掬い上げるように閃かせ月牙を放つ。
たとえ自分の左腕ごと巻き添えになろうとも、その犠牲で仕留める事ができるのならば、厭わない。
これが最後の一撃だった。

…けれど、いつだって俺の望みを非情に打ち伏せ踏み躙るのがグリムジョーだ。


「――軋れ、『豹王パンテラ』」


あたかも死神が斬魄刀を解放するのと全く同じにグリムジョーが解号を唱えた瞬間
とてつもない霊圧が旋風のように逆巻き押し寄せ、俺の命運を賭した攻撃は木端微塵に掻き消された挙句
俺自身も圧倒的な力の前には枯葉同然に吹き飛ばされ十数メートル後退する。
それでも尚押し寄せる巨大な霊圧は息苦しい程で、ともすれば潰れそうになり
咽喉をヒュウと鳴らしながらも必死に顔を上げ前を見据えると
猛獣の鬣を思わせる長い髪、鋭い牙や爪、獣みたいに尖った耳、長い尻尾…
まるで豹に似た姿に変貌したグリムジョーが居た。

「……うそ、だろ…」

あまりにも想定外な事が起こって、理解できず、茫然と佇んでいると
まるっきり獣のしなやかさで跳躍したグリムジョーが、それこそ餓えた豹のように襲い掛かって来て
あっさりと圧し倒された上に四肢をそれぞれ押さえつけられた。
鋭利な爪が容易く肌に穴を開け、フツと溢れた血が音もなく伝い落ちる。
次には恐ろしい牙で喉笛を食い破られるか…!という危機感よりも
野性的に組み伏せられている、この、体勢のそこはかとない卑猥さの方が気に掛かってしょうがなく
我知らず息を呑んだ所で、察しの良いグリムジョーが気付かない訳もない。
うっそりと笑みを浮かべながら

「この姿になンのはいつぶりだっけなァ…最高の気分だぜ」

囁いて、いやにザラザラとした舌で俺の顎から頬にかけてをじっとり舐め上げた。

「、ひッ…!」

たったそれだけで、ひくりと、あらぬ所が戦慄く。
目の前の獣に徹底的に躾られた躰の淫奔さが心底憎たらしくて疎ましい。
それを承知で反撃しようにも、倒れた拍子に手を離れた斬月は遠く転がり、身動きもできず
覆しようのない不利な状況を突き付けられ、それでも諦めきれずに往生際悪く睨み上げれば
堪らないといった風に好戦と好色に双眸をギラつかせたグリムジョーが、いきなり
ガパッと大口を開けて首筋に喰らいついて来た。

「?!あ゛、ーッが…!!ァア゛ッア!!!」

ブツ、ぐち、と生々しい音を立て、獲物を殺傷するに適した犬歯が深々と肉を抉る。
激痛が全身を駆け巡った。
加えて、長い空色の髪が幾度も鎖骨を撫で、薄い唇が下品な水音を立てて旨そうに血を啜り
両足首を捕らえていた獣染みた脚がいつの間にか股の間に割り込み太腿を左右に押し拡げ
熱くザラついた舌先で傷口をそっとほじくられると
化学反応でも起きたみたいな痛甘い痺れがビリビリと腰や背筋を辿り、前後不覚に陥った。

「…あ、あぁッ…!やめっ、…ぅ、あうぅ…っ!」

とっくに限界は超えていて
動悸が暴れ打ち、霊圧が乱高下し、意識が朦朧とする。

(…だめ、だ……このまま、じゃ…………死…


―――『チッ。とっとと代われ。バカが』


いつか聞いた声。内側からの罵倒。
一瞬視界が暗転した直後、俺の意識と感覚は、選手交代とでもいうように奥へ押しやられた。
そして、

「よお、変態ストーカー野郎」
「……あ?」

自分じゃない自分の声が、勝手に喋り
意図せず跳ね上がった自分の両足が、警戒するグリムジョーの腰に巻き付くと同時
力技でグルリと形勢逆転し馬乗りになった一瞬の出来事を、まるでモニター越しの傍観者のように眺めていた。

「悪ィな、コイツに死なれちゃ困るンだ。…だからよ」

依然、饒舌な口は俺の意思とは関係なく
且つ、なめらかに虚空へ伸ばされた右手に、落ちていた筈の斬月が瞬時に引き寄せられ

「テメェが死ね」

確定事項とばかりに吐き捨てた直後、一切の躊躇なしに断頭すべく閃いた刀はしかし
グリムジョーの鉤爪にガキン!と防がれた。

「おもしれェ…おもしれェじゃねーか一護…!今更そんな隠し玉があったとはなァ!!」

根っからの退屈嫌いか、あるいは、ただの戦闘狂か
嬉々として吠えたグリムジョーが強靭な膂力をもってして跳ね起き飛び退り戦闘態勢を取る。
対して『俺』は、ゆったり向き直って小さく鼻で嗤い

「随分と執心してるみてェだが、コイツはいずれオレの物になる大事な器だ。
 テメェなんかにくれてやるのは惜しいンでな、さっくり諦めろ」

左手を己の胸元に這わせたかと思えば、スルリと愛おしげに撫でる。
その思わせ振りな言動の意味を考えるより早く
「抜かせ、どっちが上か解らせてやるぜ」と哄笑したグリムジョーが勢い飛び掛かり
霊圧を集束させた両手の鉤爪を振り下ろした。

「!」

その凄まじい威力たるや、地面が豆腐の如くスッパリと裂け
寸前で月牙を放ち防御に用いてもなお相殺し切れず、爆ぜた柘榴のように俺の躰を引き裂いた。
一拍遅れ、全身から血飛沫が噴き出す。
思わず俺は精神世界の中で膝を屈して怯むが、表の『俺』は、そうじゃなかった。

「ハハハハハ!!!!!」

意に介さず心底愉しそうに高笑い、ズタボロになった上半身の死覇装を毟り捨て
爆発的な加速でグリムジョーの懐に飛び込むなり
腹に開いた虚の孔へ刀身をつっ込んで、えげつない事に、そこで月牙を炸裂させた。

「ッ―あ、が…!!」

ヨロヨロと後退ったグリムジョーが抱えた腹部から、夥しい量の血が流れ
わななく口唇から激しい堰と血反吐が断続的に零れる。
恐らく致命傷だ。
さしものグリムジョーとて腸(はらわた)を損傷しては長くは持たないだろう。
くずおれた体躯は地に伏し、ヒューヒューと虫の息を繰り返しては居るが
もはや立ち上がる気配どころか身動きすら無い。

(……ついに、終わるのか、解放されるのか、、狂った鬼ごっこから……!!)

「じゃあな」

俺じゃない『俺』が、とどめを刺すため刀を振りかぶる。
俺は、いっそ愉悦すら感じていた。
今までどんな虚だろうと敵だろうと、こんな風に残酷な殺意に溺れた事なんか無かったのに。
果たして、『本能』の塊である『俺』に侵食され始めているのか。

(…だとするなら、それでもいい……もう、疲れた…)

―――薄っすらと浮かべた笑みは、『俺』なのか、それとも、、


「一護!!よさぬか莫迦者…!!」

地獄の淵に片足を突っ込んだ俺を引き留めるように突如、凛と響いた声。
振り向くと、気を失っている恋次を抱えたルキアが見え、ハッと我に返る。

(……俺は、何やって……ッ――


「…あ、アぁあああああ!!!!!」


今にも顔を覆い尽くそうとしていた虚の仮面を意地で鷲掴む。
すると、振り上げていた腕ごと刀が止まり
何か罵詈雑言が聞こえたような気もしたが、構わずに全力で仮面を砕き割った途端
深い水底から急浮上するかのように意識と感覚が明確になって

『…ったく、相変わらず甘ちゃんだぜテメェは。どーなっても知らねェからな』

という捨て台詞を最後に、ぱったりと内なる声は聞こえなくなった。

「ッゼェ、はァ…!はっ、ゲホ…ッ!」

千々になった霊圧と共に卍解が解け、ガクリと膝を折って両手を突くつもりが腕に力が入らず
そのまま地面に顔から倒れ込んで肩で息をする。
血を流し過ぎた。
脈拍と呼吸数が異常に増え、妙に冷たく青白い肌に冷や汗が浮かび、意識が混濁し始める。
所謂、出血性ショック状態というやつだ。

「……や、べぇ…な、、でも……」

何故か妙な安堵感に満たされていた。
ようやく長かった鬼ごっこに終止符が打たれたのだと思うと、感無量と言えばいいのか
とにかく、張り詰めていた気が抜けて、今は何も考えたくない。

「大丈夫か、一護!今行…、っ……何だ、この気配は…!」
「…?!」

その時、異変が起きた。
遥か上空の空間が大きく歪み、空中に満ちる霊気が怯えたように震え惑い
どこからともなく、或いは、其処に最初からあったかのように
この世のものとは思えない巨大な扉が、いや、門が顕現する。
重厚な観音開きのソレは、左右をおどろおどろしい髑髏が堅く守っており
紅々とした炎のレリーフが象徴するは、恐ろしい地獄の業火。

これは、前にも見た事がある、見間違える筈がない。

「…地獄の門…!」

ゆっくりと、不吉な音を立てて、門が開く。
周囲の霊気が凄まじい勢いで門の中へと引き寄せられた後
地獄の灼熱が現世にまで届いたかのような熱気がブワリと押し寄せ
ついに開き切った門の奥は、どこまでも黒々と深く、まさに奈落、底など見えない。
何故急にこんなものが現れたのだと困惑する俺とルキアは視線を合わせ
そしてすぐに、合点がいく事になる。
高層ビルさながらの大きな片腕が闇から生えるように現出し
その手が握る巨刀の切っ先が、ズブリとグリムジョーの胴を刺し貫いたからだ。
と同時に、まるで捕らえた罪人を永劫逃がさないとでも言わんばかりに
赤錆色の長い鎖がしっかりとグリムジョーを繋ぎとめる。
あまりにも壮絶な光景に圧倒され茫然と傍観していると
門から伸びていた片腕がグン!と持ち上がり、

「…ッ?!」

何故か俺も引き摺られて浮き上がった。

「なっ…!」

罠の猟縄にでも足を取られたみたくブランと宙吊りになり
そこで初めて、右足首に何かが巻き付いているのが見え、瞠目する。
グリムジョーの尻尾だ。

「っく…!いつの間に…ッ」

鋼の足枷みたいに頑丈な尻尾がガッチリと足首を掴んで離さず
このままじゃ俺まで地獄に引きずり込まれてしまう。
そんな碌でもない無理心中なんて御免だと
渾身の力を振り絞ってみたが、月牙を飛ばす余力は勿論、刀を振るう力すら腕には残ってなくて
おまけに出血多量の所為で少しでも力むとクラリと眩暈がして視界が暗くなる。

「ッ一護…!」

まさに絶体絶命、いかんともし難い急場に陥っていると
遥か下の地上からルキアの叫び声が聞こえ、何とかして視線をそっちへ向ければ
グリムジョーとの戦闘ダメージが尾を引いていてまともに動ける状態じゃないのに
ほうほうの体で、それでも必至に手を伸ばす小さな姿が、辛うじて見えた。
恋次はいまだ気を失っている。

「…あ、ぐ…っ、、」

血の混じった唾液を垂らしながら、懸命に俺も腕を伸ばしてみるが、到底届く筈もなく
逆に握った刀さえ危うく取り落としそうになり、侭ならず、万策尽きて
なすすべも無い俺はとうとう、地獄の門の内側へと道連れにされて行く。
果てのない暗がりに引きずり込まれる目の前で、どんどん、どんどん、門が閉まり始める。

「…ぅ…、…あ……!」

途方もない絶望に襲われ、意味の無い呻き声を上げる俺を嘲笑うかのように
四角く切り取られた現世の青い空が、細く、どこまでも細くなって
あとほんの数センチという所で、急に右足首を引っ張り上げられ視界が上下反転。

「ッ!?」

驚いて目を瞠る俺を、誰かが、背後から抱きすくめ

「まだ鬼ごっこは終わらせねェぜ…?」

耳元でそぅっと囁いた。
ゾッ…!と、これ以上ない程の恐怖と混乱に背筋が凍りつく。
恐ろしくて後ろを振り返れない。
死んだ筈の男の指が、声が、いやらしく絡みつくと同時
全てを断ち切るかのように、地獄の門と俺の未来は無慈悲に閉ざされた。

 



【終】


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あとがき

…ついに、終わった…!書きあげるまでに10年もかかってしまいました;
でも何とか無事に完結させる事が出来て、本当に良かったです!

戦闘シーン好きなんですが、上手く書けなくて、グッダグダになってしまい
しかも何をトチ狂ったか、白崎様を投入してしまったワケですが……ごめんなさいorz
とりあえず、追っかけて追い詰めるネタが大好物なので、最初から最後まで楽しみながら書くことができましたww^^
グリムジョーが生前罪を犯したかどうかは知りませんが
オチを「地獄での無限鬼ごっこ」にしたかったので、問答無用でGo to hell(笑)
『生者や死神であっても地獄で死ねば地獄の鎖に囚われ咎人となる』
という美味しい公式設定もありますので、瀕死の一護が咎人落ちするのも時間の問題、
つまり鬼ごっこはこれからが本番…!!www
二人には「地獄で末永く幸せにな」と全力でエールを送りつつ
たぶんコクトー氏の乱入があるんだろうな…^^と性懲りもない妄想をしてニヤニヤしておりますww

何はともあれ、最後までお付き合い頂き、まことに有難うございました!

2017/05/07  いた。