※引き続きオリキャラ登場します。




どこかで、けれど微かに警鐘が聞こえる。
それが無視できない程に大きくなった時には、もう手遅れだった。

 


『鬼ごっこ#4』

 


ソファに座っていた。
目の前の脚の低いテーブルには、暖かいお茶と
胃が食べ物を受け付けないと云った俺に気を使ってか、ゼリーのお菓子がある。
包帯は一度取り替え、服も着た。
全部、芳賀が用意してくれたものだ。

「……」

どうして、見ず知らずの俺にここまでしてくれるのだろう。

20分ぐらい前に、必要な物を買ってくると言って出かけた芳賀の真意は判らないが
会話レベルでの細かい配慮といい
云うまでもなく面倒見の良い所といい
何ら疑う余地もなく、こうして身を預けてしまっている。
早く出て行かないといけないのは判っているのに
芳賀の優しさに、つい甘えてしまっていた。

「…お前も、俺みたいに拾われて来たのか?」

芳賀の部屋には、犬が一匹居た。
大型犬だが、芳賀に似て、とても大人しい気性の犬で
俺を警戒する素振りもなく、それどころか寄り添ってじっとしている。
その柔らかな毛並みを撫でながら、返事がある訳も無いのに話しかけていた。
実際の所はどうなのかは知らないけれど
きっと俺の前に、同じようにどこかで拾われたのではないかと、漠然として思う。
でなければ、芳賀が俺のような行き倒れの人間をどうにかしようなどと思わないだろうし
あんな科白は言わない筈だ。
奇しくも「拾った犬」、要するに「野良犬」という表現は
何処も行き所のない自分にはとても合っている。
だからとは云わないが、拾ってくれた芳賀の帰りを、こうして待っているのだ。

「悪い、今帰った」

タイミング良く、帰宅した芳賀の低い声が聞こえ
同時に、伏せていた犬が音も無く立ち上がり、スルリと玄関へと迎えに行く。
すぐに部屋に荷物を持った芳賀と、その足元に纏わりつくように犬が入って来た。
よく懐いている。

「手伝うよ」

ドサリと床に置かれた袋には、食料と飲み物と、別の袋には真新しい包帯や消毒液があった。
明らかに、俺に使う分だ。
医療品は決して安くない。
なのに、恩着せがましいところや見返りを要求するような言動は欠片もなく
当然のことをしているのだと云わんばかりに、淡々と買ってきた物を棚にしまっていく。
そんな芳賀の厚意に対し、何の報いも出来ないことが、酷く申し訳なかった…

「必要な物を必要だから買ってきたんだ。気にするな」
「…っ」

気落ちしている俺に、芳賀の一言が掛けられ、一気に救われる。
その気遣いが、泪が出そうな程嬉しかった。
目頭を熱くしながら、せめて感謝の気持ちを伝えたくて
「ありがとう…」と言ってから、片付けを手伝う。

芳賀に会えて、良かった。

廃屋の前で、自棄になり、自分の命さえどうでもいいと諦めかけた程に苦しかったのも
綺麗に拭われるように消えていく。
それどころか、生きていて良かったと
狂った鬼ごっこが始まって以来、初めて思った。

「少し休憩しよう」

全て片付け終えると、芳賀が袋を畳みながら、ソファへ促すので
頷いてソファに戻って座ると、後から来た芳賀も隣の空いた所に座る。
手にはさっき買い物で買って来てあったのか、犬用のおやつがあり
いつのまにか足元で大人しく「お座り」をしている犬に、頭を撫でながら与える。
嬉しそうに頬張る姿は、大きな図体にしては愛嬌があった。
そう云えば、犬の名前を聞いていない。

「なぁ、こいつの名前は、なんていうんだ?」
「…あぁ、そういえば、まだ決まってない」
「へ?」

訊けば、愕いたことに今朝俺を拾う前に拾ったばかりだと云う。
だから名前なんて考えてなかったのだと、芳賀は笑みを浮かべ犬の頭を撫でた。
まさか、ここで自分の予想が当たるとは思ってなかったし、タイムリーすぎる。
妙に可笑しくて、自分も顔を緩ませて笑い
芳賀に撫でられ気持ち良さそうにしている犬を、一緒になって撫でた。
それにしても、拾ったばかりにしては、よく懐いている。
犬も俺と同じように、芳賀を信用しきって安心しているのかも知れない。
そんな他愛無い事を考えながら、
今までの事が全部嘘だったみたいに、何もない、平穏な時間が過ぎて行く。

でも、そんな安寧は長く続かなかった。

「グルルル…」

大人しく目を閉じていた犬が、急に唸り声を上げて、立ち上がる。
何事かと芳賀と俺が見守る中、その唸り声は次第に大きくなり
ついには鋭く犬歯を剥き出しにして、酷く警戒しているようだった。

「どうしたんだよ、一体…!」
「判らない」

俺達には何か判らなくても、犬の方は何かを察知し、頻りに威嚇している。
尋常ではない様子に、俺も芳賀も手を拱いているしかなくて
けど、次の瞬間

「…ッ!!」

空間を押し潰すような巨大な霊圧を感じ、短く息を呑んで目を見開く。
ドッと全身に冷や汗が噴出し、今更警鐘がガンガンと打ち鳴らされ
俺は辛うじてその場に崩れることなく踏みとどまり、顳顬から垂れてきた汗を震えながら拭った。

「……この、霊圧の感触は……っ」

間違える筈がない、躯が覚えている。 
グリムジョー。
奴が来た…!

 

 


【5へ続く】


BLEACH小説一覧へ戻る
 



アトガキ

束の間の休憩終了!鬼ごっこ再開ですv

2009/06/30  いた。