※ノイトラとの若干の絡みあり。ご注意を



 


『鬼ごっこ#8』

 

白い部屋だった。
何もかもが漂白されたように白々として、変化などなく
何時間、一日、数日と、時が経てば経つほどに、精神的な意味で頭がおかしくなりそうだった。
こんな病的な部屋に、もしもこのままずっと閉じ込められたら、間違いなく発狂するだろう。
現世で当たり前のように目にしていた光景がいかに飽和的で精華であるか自覚すると共に
この部屋に俺を押し込めたあの男の言動の所以を少なからず垣間見た気がした。
脅迫的に白く味気ない空間の中、多大な力と暇を持て余し、色のある世界と変化を求めて
現世に降り立ち、俺に『鬼ごっこ』なんていう悪趣味な遊戯を強要しているのではないのかと、漠然と考える。
そこに同情なんてする筈もないが、人を巻き込むなと言いたい。
そして、こうして改めて思案してみても判らないのは、グリムジョーがどうして俺を標的にしたのか、だ。
最初の戦闘の時に、俺の何某かが癪に障ったのだろうか?
何にせよ、迷惑な話だった。


「…くそ…」


体力が回復すれば現世に帰してやるという言葉を鵜呑みにしていいものかどうか些か迷ったけれど
「鬼ごっこ」に対する奴の執着心からして、恐らく虚言ではないという確信の方が大きく
とりあえず今日に至るまで、出される物は全て飲んで食べたし、無駄な抵抗はせず休める時に休んだし
無理強いされる行為だって何とか耐えた。
その甲斐あって、メンタル面の疲労はともかくとして肉体だけで見ればかなり良くなったように思う。
けれどグリムジョーは、いまだに俺を此処から出さない。
もういいだろうと催促してみても、「まだダメだ」と素気無く一蹴し
挙句、「そんなに言うなら一回もイかずに最後まで耐えてみろよ」と
よく判らない屁理屈を弄し、俺を好き勝手に嬲るだけ嬲る。
(ちなみに一度だってその条件をクリア出来た事はない)
最低な男だとなじっても、不愉快な笑みを浮かべ獣のように首筋に噛み付いて真面目に取り合わず
今日だって、散々人を滅茶苦茶にしたあと部屋を出て行ったきり、何時間も戻って来ない。
一体何処で何をしているのか知った所じゃないが、とにかくもう、現世に帰りたかった。
この侭の状況がずるずる続けば、本当に、狂ってしまう。


「…待ってるだけじゃ、何も解決しない」


行動を起こさないと結果はでないのだと、短い人生ながら、判っているつもりだ。
然らば、無駄に大きなベッドから身を起こし
グリムジョーがいつも出入りする扉の前に立ち手を掛けた途端、呆気ないほどあっさり扉が開く。
正直、拍子抜けした。
てっきり封の一つや二つかかっているものと思い込んでいたのだけれど
どのみち此処から出るつもりだったのだから、結果としては同じだ。


「……よし…」


二三度周囲を窺って安全を確かめてから部屋を出ると
廊下と思しき広々とした通路が、真っ直ぐに長くどこまでも伸びて、遥か彼方で枝分かれしている。
天井は恐ろしいほど高く、部屋は無数にあった。
まさか迷路でもあるまいし、只管直進すればその内きっと外にも出られるだろう、と
迷うかも知れないという恐怖心を無理矢理押し退け、注意深く警戒しながらゆっくりと歩き始める。
辺りはシン…と静寂で、何の気配もなく、それが逆に不気味でもあり
さっきの部屋とまったく同じ真っ白な空間に一つ、異物なような俺は
半ば強引に着せ付けられた死覇装に似た白い服(裏地は黒い)が保護色になっている所為で
かえってオレンジ色の頭が目立ちまくっている気がしてならず、要するに、不安で仕方なかった。
とっとと外に出て現世への戻り方を見つけよう…そう自分自身を奮い立たせた矢先


「ソコに居ンの、誰だァ?」
「…ッ!?」


聞こえた濁声に愕き振り向けば、痩身長躯で髪の長い男が一人、立って居る。
戦闘は不味い、何せ敵地のど真ん中だ、逃げるしかないと背中を向け走り出すも
一瞬で距離を詰めた男は行く手を阻むように立ち塞がり、ドンッと片腕を壁につき鷹揚に凭れ掛かりながら


「よう、グリムジョーがご執心っつー、噂のペットちゃんじゃねェか」


こんなトコでナニしてんだ?と、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべ声を掛けて来た。
『噂のペットちゃん』という心外な単語に憤然とするのも束の間
この危機を果たしてどう乗り切ればいいのかと、すぐに頭を切り替え考える。
下手を打てば命が危うい。何せ今は死神化していない生身の躯で
対して目の前の男は、グリムジョーと同じか、それ以上の霊圧を垂れ流しにしている危険な相手だ。
慎重な行動を取らないと、一瞬で何もかも終わってしまうだろう。
そうやって冷や汗を流している間にも、まるで値踏みするような無遠慮な視線が上から下まで絡みつき
背筋にゾッと悪寒が走りぬけ小さく躯が震えるのを、だが懸命に押し隠した。
この相手に一瞬の隙も一欠けらの弱みも見せてはならないと、直感で感じたからだ。


「…別に、何も……用がないなら、悪いが通してくれよ」
「あー?おいおい生意気だなテメー… まァ、用ならあるぜ?」
「…なん、だよ」
「わざわざアイツが現世からお持ち帰りしたぐらいだ、さぞかし具合がイイんだろ?なァ」
「?! ぐっ、!」


コイツ何が言いたいんだと、下衆な科白を吐く男を睨み上げたと同時
撓った細腕が俺の首を掴み上げ勢い壁に押さえつける。
床を離れ宙ぶらりんになった両脚をバタつかせるより早く
太腿の間に割って入って来た男の片膝に股間を押し上げられ
思わず息を詰めて身を強張らせ目を見開けば、圧し掛かるように間近に迫った男の細い眼と唇が弧に歪む。
刹那に項を這った嫌悪感は何とも言えず、本能的に逃れようと
咽喉を鷲掴む男の片腕に手を掛け引き離そうとしたけど、どうやっても外れない。
重ね重ね言うが、生身のままでは非力で貧弱だ、どう足掻いたって勝ち目など無く
けれどこのままいいようにされるのだけは、絶対に我慢ならないから
「放せ!俺に触るなッ」と、必死に吼えて睨みつけるものの、大した威嚇にもならず
寧ろ、「じゃじゃ馬はあんま好きじゃねェんだよ」と不興を買い、鳩尾を強かに殴られる。


「…ッう、げぇ…!」


容赦のない一撃は重く、激痛と嘔吐感と共にせり上がった胃液を吐き下し
四肢を硬直させて何度も咳き込む。
有無を言わせない暴力によって抵抗を封じた男は
次いで俺の袴の片方の裾を乱雑にたくし上げ、露出した太腿を厭らしい手付きでなぞり
付け根を撫で、股座に片手を突っ込むと、下着を殆ど引き千切るように取っ払い
尻たぶを掻き開いて後ろの穴に指をかける。


「っ?!、…やめッ、…ろ!!、いづ、ぅ…!」
「いー感じにほぐれて濡れてンじゃねーか、ええ?たっぷり可愛がってもらってるみたいだなァ、ペーット」


わざと人を貶める物言いをする男の異様に細長い指がズブズブと、あらぬ所まで侵入し中を検分する。
あまりの屈辱感に頭が真っ白になり何も考えられない。
怒りと羞恥でわなわなと小刻みに震えながら、それでも何とか抗おうと蹴り上げた右足は
しかし逆に男の小脇に抱えられ、高く片足を上げた間抜けな状態のまま
尻の穴をぐじゅぐじゅと手荒に掻き混ぜられ、内壁が怯えるように引き攣る。
それに気を良くしたのか、男は不意に指を引き抜くと、あろうことか
自身の一物を取り出そうとするので、俺はいよいよ血の気が引き、無我夢中で暴れようとした。その時、


「ノイトラ、何してンだテメェ。ソレが誰のモンか判ってて手ェ出してンのか?」


聞き覚えのある低い声がしたかと思った直後、突如現れたグリムジョーが、男の腕を捻り上げて居た。


「イテテ…そうカリカリすんなよグリムジョー。廊下をうろついてた迷子のペットを一匹拾っただけだろーが?
 それがまさかお前のだったなんて知る訳ねー。だからうっかりちょっかい出したって仕方ねーよな?え?そうだろ?」
「…あ゛ぁ?」


悪怯れる事なく嘘っぱちを平気で主張する男、ノイトラの、長い舌がずるりと唇から零れ
眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするグリムジョーを挑発するように、じっとりと俺の顎を這い下唇を掠め舐める。
俄か、ズン!と跳ね上がったグリムジョーの霊圧が重力のように周囲を圧迫し
俺はノイトラの爬虫類じみた気味の悪い舌から必死に顔を背けながら
ミシミシと体中に圧しかかる其れに萎縮しつつ、一気に修羅場へと転じた現状に息を呑んだ。


「下らねェ事言ってねェで、とっとと離れてろノイトラ…今すぐブッ殺されてェか?」
「おーおー恐い恐い。 …調子に乗るなよ格下が」


グリムジョーの本気の脅しに応じてか、これまでのふざけた調子を一転させ
口角を下げ毒々しく唸ったノイトラが剣呑な殺気を放ち、まさに一触即発の危うく張り詰めた空気が満ちる。
そんな中、俺はどうする事もできずただ震えるしかないのかと俯きかけ、ふと気付く
グリムジョーがノイトラの片手を捉えた事により、利き足が自由になっていた事に。


「…っこの…!」
「ッ?!」


こちらへの警戒など微塵もしていなかったノイトラの脇腹を狙いすまして膝を叩き込む。
大したダメージは与えられないにしても、隙を生じさせるぐらいは十分だった。
咽喉を拘束する力が弛んだ僅かの瞬間にノイトラの腕から自力で抜け出し距離を取ると同時
抜刀したグリムジョーがピタリとノイトラの首筋に刃を宛がう。
こんなにも容易く急所を押さえられるとは思っていなかったのか、ノイトラの隻眼が愕きに見開かれ
しかしすぐに細く眇められたかと思えば、「わかったわかった、オレの降参だ、参った。これでいいか?」と
自身が不利になった途端あっさりと掌を返し白旗を振って見せた。
その見切りと切り替えの早さが、こいつの狡猾さを雄弁に物語っている、決して油断できない。


「なぁ、悪かったって、そう言ってんだろ?刀を収めろよグリムジョー。
 もうソイツには手ェ出さねーよ、約束する」


嘘か本当か判ったものではない、いや、きっと前者に違いないと身構える俺を余所に
グリムジョーはノイトラの咽喉笛から切っ先を退け、ノイトラがニィと厭な笑みを浮かべる。
よぎる一抹の不安に(…どうして、一体何に対する不安を感じたのかは、自分でも判らない)
咄嗟に声を上げるより早く、グリムジョーは逆手に柄を持ち直すと
ノイトラの眼帯をしていない方の目に向かってズブリと勢い良く刀身を突き立てた。


「ぎゃあああッ!!」


血飛沫と共に汚い悲鳴を迸らせたノイトラは激しく呻吟しつつ、よろよろと後退る。
予想外の出来事に呆然とする俺の目の前で、グリムジョーは無造作に刀を引き抜き血糊を払うと
腐った魚の死骸でも見るような目でノイトラを一瞥した後、ゆっくりと刀を鞘にしまった。
一方のノイトラは、凄まじい怒気と殺気を漲らせて居たが
視界を失い深手を負った事で反撃も出来ない為、ギリギリと悔しげに歯軋りし


「クソ、クソッ…!覚えてろよグリムジョー、いつか必ず殺す…ッ!
 それまでは精々、そいつに首輪でもつけて大事に繋いでろ…纏めて殺してやるからなァ…!」


捨て科白を吐いて憎々しい舌打ちを一つ残し、踵を返すなり姿を消した。
きっと何処かで治療するつもりなのだろう。
兎にも角にも、一難去って良かったと、安堵するのも束の間
はっとして上げた視線の先、凍てつくような炯々とした眸でこちらを見据えるグリムジョーと目が合い、青褪める。
その、形容し難い恐ろしさと、かつてない不穏な気配と厭な予感に、ザワと総毛立ち
反射的に逃げを打とうとしたが、焦るあまり足が縺れて転んでしまう。
慌てて体勢を立て直そうとするも、容赦なく片足首を掴まれ引き寄せられた所為で立ち上がれず
構わず歩き出したグリムジョーにそのままズルズルと引っ張られ
懸命に床に縋り付いて連れて行かれまいとしたが、指や腕が擦り剥けるだけで止める事なんて到底出来ない。
ッイヤだ、放せ、やめろ!を繰り返す俺の制止なんて、まったく聞く耳持たない男は
まるで荷のようにぞんざいに俺を元の部屋まで引き摺って行くと、軽々と中に放り込んだ。


「いッ、ぐ…!」


打ちつけた側身に顔を歪める暇もなく、躯を跨ぐようにして屈んだグリムジョーに左手首を踏まれ
それから手加減なく髪を引っ掴まれ強かに床に押さえつけられる。
冷ややかな怒りと不興を叩き付けられて声もなく竦み上がる俺を見下ろしながら、男は口を開いた。


「…オレはまだ、鬼ごっこを再開させた覚えは無かったンだがなァ…
 しかもあれだけ他の奴の参加は許さねェっつったのに、何関係ねぇヤツと絡んでンだ?」
「…う、…あっ、、」


ワザとじゃない、向こうが勝手に接触して来たのだという言い分は、果たして通用しないだろう。
まして恐怖で戦慄く舌はまず満足に言葉すら発せられない。
そんな風にどうしようもない程に怯える俺の耳朶にあたかも息を吹き掛けるように唇を近づけたグリムジョーは


「聞き分けのねぇヤツには仕置だ、一護」


低く掠れた声音で、そんな恐ろしい事を囁いた。

 



【9へ続く】


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あとがき

もう少しノイトラをゲスく出来たのではないかと反省中です。
ベタであれですが、一護の取り合いっておいしいですよねモグモグゴクン。
そして次回は待ちに待ったお仕置きタイムです^^

2013/09/28  いた。