「・・・・ウソだ」


目前に広がる世界が
いつの間に、こんなにも変わり果てていたのだろう。
俺は、そんなことにすら気付かずに、戦っていたのか。

・・・俺の護るべきモノは、一体ドコに・・?


業火が全てを覆い
人が焼け家が焼け空気が焼けた。
息をする度に焦げる匂いを吸い込み、頭がクラクラと回る。
思わずヨロめいた躯。
支えに斬月を地面に刺すと、ビキリと厭な音がした。

暑い
熱い
アツイ

額を流れ顎まで伝ったのは、汗ではなく血だった。
体力も気力も霊力も、何もかも底を尽いたし
もうこの肢で立っていることすら意味の無いことに思えて
炭化した木々や真っ白な灰塵が降り積もる地面に膝をつく。
傍に顔の判別もつかない程に焼け焦げ、肉の削げた死神の死体が
ゴロゴロ転がっているのを視界の端にとらえ、ただ絶望のみが心を支配し。
俺はすでに仲間を失って家族を失って希望を失って、
唯々その場で項垂れた。

・・・けれど、未練たらしく握った斬月は手放さない。


この諦めの悪さが、今の自分の命を辛うじて此処に繋ぎとめている気がした。

 

「なんだ、もう終わりかよ・・?一護」

 

そして、まるで人を見下すような、明らかな嘲笑を含んだ声が三半規管を犯し
眩暈のようにぐわんぐわんと揺れる視線を
何とか声のした方に向けると、傍の屍の上にその肢を見つけた。
返り血すら付いていない、綺麗で白い、残酷な肢。
俺はそれより上に顔を上げる事も出来ず、ただそれをぼんやりと見つめる。

そう、ついさっきだ。
今の今まで戦っていたんだ。
こいつと。

破面bU
グリムジョー・ジャガージャック

慈悲も情け容赦の欠片も無いこの男に、俺以外全て皆殺しにされたのは 忌まわしくも半時と前でない。


・・俺は一体、どうすればいい・・?

この勝てない相手に、
もう碌に動かない躯でまた向かっていけばいいのか?
死ぬと解かっていて?
・・ああ、それもいい。
いっそのこと俺も皆のように死ねたら、どんなに楽か。
最期まで醜く抗って見せて、「世界の為に」なんて云う大義名分を振り翳し
殆ど自己満足でこの世を見捨てる。
最高だ。
冗談じゃない。

こいつ相手に命乞いが通用するかどうか。

 

「後は、オマエだけだぜ?」

 

顔を見なくても判る、愉しげな声で
屍の上の肢が地面に降り、白い灰の上をヒタヒタ歩いて
目の前で止まった。
俺は相変わらず項垂れた儘、
何も考えず、考えることが出来ずに 見つめ続ける。
これ以上思考するのが怠惰であるし
逃避する事が一番楽な逃げ道であると解かっていて。
するとその心地良い退路から引き摺り戻すように髪の毛を鷲掴まれ、
引っ張り上げられて無理矢理上を向かされると
愚かな俺を嗤っているかのように、厭味なほど口端を吊り上げているグリムジョーの顔が視界に入る。
そうまでして、敗北感を味わわせたいか。
もう十分、嬲ったくせに、この上まだ、俺を打ちのめそうというのか。

・・・最初に何故、俺の所へ・・?

 

「もう抵抗する力も残ってねーってか?」
「・・・・・・・・」
「いつもの威勢はどうしたよ?オマエならこの手を振り払えるだろ??」
「・・・・っ・・・、」
「なァ、何とか言えよ、一護」
「・・・・・・・っん!!」

 

それでも何も言わない俺の口を、最初から喋らせる気なんかなかったみたいに
長身の背を屈め、薄い唇で覆ってきて
すぐに舌を割り込ませ、奥まで中を犯した。
首を振って逃れようとするが
僅かに残っていた霊力を唾液ごと吸い取られて
俺は何の抵抗も出来ずに、まるで人形のようにされるが儘になる。

・・・こんな屈辱、最低だ・・。

俺を殺すべき対象としてではなく、女のように辱めるモノとして扱うのか。
それは俺がお前にとってその程度でしかないという事か。
殺す価値も無いと?

俺の目の前で家族と仲間を八つ裂きにしたのにも飽き足らず
まだ俺をこんな方法で生かし続け、苦しめるのか・・・!!

 

「・・・・・っ、なん・で、早く・・・・・殺さ、、ない・・・っ」
「ッハ、誰が誰を、殺すって?」
「・・・・!」

 

心外だとばかりに目を細めた男の意図が判らない。
それどころか、愛しげに頬を撫でる指先の優しさが
どうしようもなく恐ろしくて、知らずの内に背筋がゾクゾクと戦慄する。

一体、俺はどうなるのだ。

 

「・・おっと、アレ、お仲間さんじゃねーか?」

 

言われて初めて、背後から急速に近付いてくる霊圧を感じ
それが誰のものであるかすぐに解かった俺は、
ハッとグリムジョーの氷のような水縹色の目を見る。

 

「っやめ・・、!」
「聞こえねーなァ」
「、や・・めろ・・・! ・・お願いだ・・・・っ、・・や、!」

 

フラッシュバックした惨殺光景。
恐怖のどん底に突き落とされる感覚。
ほとんど怯えて震える声で制止を求めるが
スルリと、掴んでいた髪から手が離され、縋るように目線を上げると、ニヤリと笑む虚。
凍りついたように動けない俺の躯をうつ伏せに地面に押さえつけ、
やってきた死神を挑発するように、押し殺した声で嗤った。

っ・・やめろ、やめろ、やめろ! やめてくれ・・!!

嗚呼、俺は助けなんか呼んでない!
何でお前がここに来るんだよ・・!!

・・恋次!!

 

「一護!!大丈夫か?!」
「・・ッバカ、野郎・・!! なん、で・・・来た・・!」
「待ってろ!今助けてやる・・!」
「いい、から・・・・、逃げろ・・・!」

 

僅かな希望さえ闇に溶け、絶望のみが背筋を焦がす。
そして刀を構える恋次に向かって
隣りに立ったグリムジョーが、指先に霊圧を集め 「虚閃」 と呟いたのがハッキリと聞こえ
俺はもうめちゃくちゃ恐ろしくて、頼むから逃げてくれと叫んだ。

 

「・・・!!!!」

 

けど、一瞬で、恋次の腕は一本、弾け飛ぶ。

俺は宙を舞うそれをバカみたいに凝視して
血が噴出する傷口を庇って膝を付いた恋次と、千切れた腕を手に取って嗤うグリムジョーを
同じ視界の中に入れながら、只管、絶叫。

俺は恋次の腕をクルクルと玩ぶ悪魔のような男から
奪われた仲間のそれを何としても取り返したくて、
力の全く入らない躯で立ち上がろうとしたが、踠くことすら出来ず
悔しくて地面に爪を立てようとするも、第一関節すら曲がらず
せめて握った斬月を何とかしようと力を入れても
ボロボロに崩れ去ったそれは感触を確かめることすら不可能だった。
グリムジョーはそれを肩越しに薄ら笑いで見ながら
まるで俺に見せつけるみたいに恋次の腹を蹴り飛ばすと
その骨が折れた所を上から踏み躙り、それをまた繰り返そうとするから
俺は既に悲鳴に近い声を上げて、何度も何度も「やめてくれ」と哀願した。

 

「・・やめッ、やめてくれ!・・・お願いだから・・!・・・・・っ・・・・グリムジョー・・!!」
「何で?」
「も、これ以上、、・・・俺の仲間を・・・・奪わないでくれ・・・・・っ」
「ヤダね」

 

涙さえ流して叫んでも、グリムジョーは無情にも微笑んでそれを一蹴すると
もはや意識を失いかけて瀕死状態の恋次のもう片方の腕に虚閃の照準を合わせる。
本気で、また俺の仲間を殺そうとしている。

俺は二度と、俺の目の前で誰かを失うのは、イヤだった。

 

「、、っお願、グリムジョ・・・・ッ、・・・・・・何でも、するから・・・・!」

 

だから俺にはもう、己をグリムジョーに献身するしか方法が思いつかなかった。
俺のこんな躯でも、代わってやれるのなら、例え殺されても、俺はそれでいい。
そんな事恋次は望んでないのは解かっているし
その所為で恋次がどんなに傷付いて、俺を憎むかもしれないけど
仲間が一人でも生きてさえいれば、俺がどうなろうと、どうでもいい。

・・だから・・・っ

 

「・・本当に何でもするんだな?一護」
「・・・・俺が、出来ることなら・・・・なんだって、するから・・・・っ
 ・・・恋次を、・・・殺さないでくれ・・・・」
「ワカッタ」

 

叫びすぎて、嗄れかけた声で言うと 一瞬グリムジョーは笑みを深くし
でも次の瞬間には元の薄ら笑いに戻って、恋次から虚閃の照準を外した。
俺はそのたった一瞬の笑みの意味を深く考えもせず
仲間を一人でも護れたことに安堵し、躯の力を抜いた。

 

「っ、馬鹿・・野郎!・・一護・・!ッテメェ、敵に何言ってんだ・・!!」
「・・・恋次・・」
「クソ!何でオレが助けられてんだよ・・!オカシイだろ、そんなの・・!・・一護!!」
「・・・・・ぁぁ・・・」

 

お前の言う通り、オカシイよな。
こんな助けられ方して、嬉しい筈ないよな。
でも、いいんだよ
さっきまで何の躊躇もせず俺の仲間を殺してた奴が
こんな交換条件を呑んでくれて
結果的にはお前という仲間を失わずに済んだんだから。

 

「・・・・・」

 

グリムジョーは最初からそこに誰も居なかったかのように、あっさり恋次から離れ
それから俺の方に向き直り、ゆっくり歩いてくると
この会話を阻むように 正面に屈んで俺と視線を合わせてきた。
俺は黙って水縹色を見る。
何を命令されても従うという意思を込めて。

サックスブルーが薄っすらと笑む。

 

「オレのモノになれ、一護・・・」

 

掬い上げるように顎を取り、至極それが当然であるように囁く低い声が
何故かとても甘い気がして
俺はその真意を測りかね、ただぼんやりと鮮やかな水色の髪を見つめた。
そして、まるで無言の契約だとばかりに ありえない程に優しくも、絶対的に降りてくるキスを
眼を閉じ甘んじて受ける。
それが肯定を意味するのだと解かっているグリムジョーは
俺を抱き寄せ立ち上がると、すぐ傍の空間ビッと指で裂いた。
向こう側が誘い込むようにうねる。
何所に連れて行かれるのか判っても、俺には抵抗する権利は無かった。



「やっと、オレの手の中に落ちて来たな・・・・一護」

 

 

『サクリファイス』

 

 

犠牲の先には何があるのだろう。



 

【終】
 (・・・もしかしたら続くかも)


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あとがき

あれ?不完全燃焼…?
もっとこう、自己犠牲っぽく書きたかったのですが
相変わらずの文章力の無さに撃沈。
続きは書けたら書こうかな。。

2007/01/08  いた。