今日も視線を感じる。

 

 


『視線:右斜65°』

 

 

 

それはいつからだったろうか。
ふと気付いたときには、既に標的となっていて
毎日ある一定の角度から、感じる、『視線』。

それはチリチリと項を焦がすようなものだったり
ねっとりと爪先から髪の毛の先まで舐めるようなものだったり
明らかな感情を含んで突き刺さった。

決して曖昧なものではなく
確実に、
俺に向けられている。


正直、参っていた。


四六時中、まるで監視するように
学校で授業を受けている間も
家で本を読んでいる間も
友達と遊んでいる間も
もっと言うなら、
飯喰ってようが風呂に入ってようがトイレで用をたしてようが布団を頭から被ろうが
必ず視線を感じる。
片時も外されない。
唯一意識の無い、寝ている間だけがそれを感じない時間で、、

けど最近はストレスと緊張の所為で不眠症になり
眠剤を飲まないと眠る事さえできない。

落ち着ける時間なんて、ありはしなかった。


「・・・・・・・・っくそ・・・!」


理解出来ないし不快な現状の所為で
俺の精神はほとんど限界に近かった。
何所に居ても何をしても見られている気がして
次第に周りの奴等が全然信用できなくなって、過剰なまでに人の視線を気にするようになり
誰かと目が合いでもしたら、吐き気までしてくるようになって
終いには家族ですら視線を合わせる事が苦痛になり、


「・・・・・・っも、やだ・・・・・」


ついに俺は自分の部屋から一歩も外に出られなくなった。
一日中ベッドの上に蹲り
それでも突き刺さってくる視線から少しでも逃げようと
部屋中のカーテンというカーテンを閉め
隙間という隙間を布で塞ぎ
絶対に電気なんか点けないようにして
ガタガタと怯えながら必死に目を瞑って、まるで譫言のように「見るな、見るな・・・」と繰り返す。
隠しカメラなんて稚拙で無機質なものならこんなにならなかった、というより、気付くことも無かったのに
ありありと感情を含んだコレは、『人』独特の粘ついたものであるというのが、厭でも解かるからこそ
俺はここまで追い詰められてしまった。


もう、勘弁してくれ、、

俺が何をしたというんだ、
何の為にこんなことをする?
一体誰が、いつまで・・・??

疑問に答えてくれる奴なんか居る筈がない。
いや、いたとしたら、そいつこそがこの視線の主だ。
殺してやりたい。
けど、当たり前だけど部屋には俺以外の誰も居なかった。


「、・・・・・・・・もう・・いい・・・・・もう、いっそのこと・・・・・・・・・」


死んだ方がマシだ。
なんて、今まで生きて来た中で初めて考えたことだった。
でも、この息苦しさから解放されるなら、なんだってやる。
もう、楽になってしまいたかった。

床に散らばる、自分の手で割った鏡の破片が、目に入る。

今はそれが酷く魅力的なモノに見えた。


「・・・・・・・・」


ベッドの上から手を伸ばし
一欠けら掴んでゆるゆると己の手首に宛がう。

躊躇いは無かった。

思い切り一直線に真横へ滑らせ、


「・・・・・ッ!」
「・・・なに、しよーとしてんだ?」


ところが、寸前で手首を物凄い力で掴まれ
低い声。
驚いたのと掴まれた反動とで
ボトリと鏡の残骸を床に取り落とした俺は
呆けたように突然目の前に現れた男を見上げた。

病的に綺麗なセルリアンブルーの髪は見覚えがあるし
一度見たら忘れられない整いすぎた顔も
ドッと湧くように垂れ流れる霊圧と真っ白い装束も
つい最近記憶に新しく刻まれた其れ。

一体何が起きているのか、よく解からなかった。


「・・・・・なん、で・・・・お前が・・?」


手首を掴まれたまま男を、グリムジョーを見つめると
薄笑いで好奇の目を向けられる。


「・・ッ」


俺は反射的に目を逸らした。
この視線を、俺はどこかで、、

 

「なんで目ェ逸らすンだ?こっち向けよ」
「っ、・・やめ、、」


面白がるように低く掠れ声が言うのと同時に
顎に手を掛けられグイと無理矢理に上を向かされる。
グリムジョーがそうまでして視線を合わせてこようとすることに恐怖を覚え
俺は何度も首を振って逃れようとするが
到底振り払えることは出来ない強さで更に引き寄せられて
息も掛かるほどの近さで切れ長の目と対峙する。


「・・っ、、」
「オレが恐いかよ?一護・・・」


目を細めて囁くグリムジョーの意図が理解できず
射抜くほどに見つめてくる水縹色を凝視すると
ジワリ、何故か勝手に涙が滲んできて。
俺はどうしてそんなことになるのか解からなかったから、慌てて視線を逸らそうとするけど
やっぱり出来なくて、顎を掴まれたまま、引き込まれるようにグリムジョーの眸を見つめ続ける。
その間にも一粒二粒と、涙は頬を伝い落ち、グリムジョーの手を濡らしていった。


「・・・あ・・、や、、だ・・・・・っ・・離し・・・・」
「なァ、気付いてンのかよ?」
「っ、な・・に・・・・」
「オレの視線」


ずーっと見てたんだぜ? と、
口端を吊り上げて言うグリムジョーは、ゆっくりと頬の涙を舐め取っていった。

一瞬、クラリと眩暈にも似た感覚で視界が眩む。


・・今、何て言った・・・?



「オマエ、解かってるから泣いてンじゃねーのかよ?」
「・・・・っ」


薄笑いで呟かれて、反射的にグリムジョーの手を振り解く。
その間にもボロボロと流れ落ちる涙がシーツを濡らしたが
俺はグリムジョーから視線を逸らす事は出来なかった。

・・・何故?

今までこの視線が自分を苦しめ続けてきたことが解かった筈なのに
その水縹色の両目を潰すことが出来ない。

・・・なんで?


「・・・・・ッ・・!」


思考がぐしゃぐしゃになっている隙をつかれ、ベッドに押し倒される。
驚いてグリムジョーを見上げると
ニヤリと理解不能な笑みを向けられた。


「っ・・なに、す・・・」
「愉しかったぜェ?オマエが壊れていくの見ンの」
「・・・!」
「どうやったら、もっと壊れてくれる・・?」


うっとりと囁くのと同時に、グリムジョーの真っ赤な舌が目の前に迫る。
咄嗟に目を閉じると、目蓋の上をねっとりと温かな舌が這っていく感触。
ゾクリと背中が震えた。
恐い。
我に返ってグリムジョーの躯を押し退けようと腕を突っ張るが
すぐに邪魔だと言う風に片手で掴み取られ頭上で固定される。
恐怖に凍り付いて「やめろ」と繰り返せば
嘲ら笑われた。


「・・・・っ、やめ・・・、・・・・・っう」


固く閉ざした目蓋を抉じ開けるように舌先が侵入し、眼球に触れる。
ビクッと躯が緊張して強張り
ゆるゆると舌が動く度に縮み上がっていく。
痛い。
防衛本能か、勝手に涙が溢れて目尻からベッドのシーツに吸い込まれていく。
組み敷かれたまま恐ろしくて抵抗できない。

俺がグリムジョーの目を潰すどころか、俺の目の方が潰されるかもしれなかった。


「ッやめ・・・、痛っ・・・・・グリムジョ・・、、」


こんな狂気じみた行為、理解できる筈もなくて、必死に呻けど
グリムジョーは構わず俺の目に舌を這わせ続ける。
まるでこの目が欲しくて欲しくて仕方無いという風に。




「オマエも、オレだけ見てろよ」

 


恐ろしい優しさで目を抉られる。



 

【終】


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あとがき

愛しの一護を姦視(笑)
やっぱり気になる子は見ちゃいますもんね。

2007/02/19  いた。