ジワリ、ジワリと
少しずつ侵食されていく・・・・ 
そんな感覚。

 

 


蠹毒(とどく)』    

 

 


虚圏に連れて来られて、何日経ったか解からない。
もしかしたら、そうやって長い時間だと感じてはいても
ほんの数時間しか経っていないのかも知れない。

そもそも、此処に時間というものが存在しているのかすら定かじゃないのに
俺は一体何を基準として『時』という曖昧なものを知ればいいのか。

 

「・・・・・・・・」

 

小さな窓の遠くに見える月の輪郭を眺めてみても
それが作り物でなく本物であるという確証もない。

無意味に空気を吸う。

ただ、確かなことは
死神化しているこの躯に、時間はあまり関係無いという事で
こうして飢えることも朽ちることもなく
空虚に重いだけの躯を横たえ、高い高い窓の外の真っ黒な空を見上げる。

この儘、
このニセだかホンモノだか解からない夜が明けなければいい。

そうすれば、元居た世界の時間も止まっていると思える。
淡い願望。

 

「・・・・・ぁ・・・、、」

 

けれどまた、それは打ち砕かれる。
あの男に。
躯に重く圧し掛かるような霊圧が、この部屋に近付いてくるのが解かり
俺はすぐに躯を起こしたが
あぁ、息もできない程に重厚に纏わりついてきて
指一つ動かせない。

あいつにしか開けられないたった一つの扉が、音を立てる。

 

「・・イイコで待ってたかよ?・・一護」

 

早々、甘く耳を蕩かす猫撫で声は
ゾッとする程優しくて、俺は無意識のうちにベッドのシーツを強く握り締めた。
素直に怯えて拒絶できたなら、まだ楽だったろうに
ゆっくりと歩き寄り、顎を掬う男の指があまりに優しくて、それが出来ない。
その儘上を向かされ、冷たい筈の水縹色の眸と視線を絡めても
真っ直ぐに見つめてくる綺麗なそれがあまりに熱を帯びていて、もう逸らせない。
そうして逃げることもできずに、愛しげに下りてくる薄い唇が重なるのが
堪らなく心地良くて、眼を閉じ受け入れるしかない。

・・・触れる体温がこんなにも同じでなければ、、

 

「すげェ寂しかった」

 

返事の無い俺の肩に顔を埋め、ゾクリとするような低い声で耳元に囁いて
この硬い躯を抱き締める両腕に、
目蓋を伏せた儘、甘えに近い細い息を吐く。

・・・あぁ・・、目の前にいるのは敵なのに、仇なのに、憎い筈なのに、、

俺は
俺は
俺は、

 

「・・・・グリムジョ、、」

 

小さく掠れた声で名前を呼んでしまう。

だって、こんなにも素直に感情を押し付けられたことなんかなかったし
兇悪なまでに綺麗な顔で俺なんかに縋り付いてくれるから
拒絶することなんて出来やしない。

、、解からない。
どうして、こいつは、、、

こんな、俺みたいに弱くて、脆くて、
ただ無性に寂しいだけの愚かな人間を、手元に置いていてくれるのだろう。

 

「・・・・・ぁっ」

 

抱かれた儘横向きにベッドに倒されて
それからまるで犬とか猫にするみたいに、優しく頭を何度も撫でられる。

緩やかに。

それで俺は、こいつの胸に顔を埋めたまま
まるでペットのように安心している。

矛盾だ。

この男を恐ろしいと思っているハズなのに、こうやっているだけで
閉じ込められてる苦痛だとか一人きりの孤独だとか
そんなのが全て忘れられる。

 

「・・・・・・・・」

 

なにより、温かいから、俺はそれに縋り付く。
そうすると、もっとキツク抱き締めてくれて
頭を撫でてくれるから、俺はもう中毒者みたくハマッて
離れられない。

ッあぁ、クソ、、

きっと俺はこの男の策にハマッたんだ。
じゃなきゃ人の温もりなんて知らなかったし
今まで必要無かったしこれからも渇望することなんかあるワケなかったのに。


、、クソッ、クソッ、クソ・・・!!

 

・・・最低だ・・・・・・

・・・・・・俺を独りにしないでくれ・・・・。

 


「大丈夫、可愛い可愛い、オレの一護・・・」

 

まるで見透かしてるみたいに囁いてくれて
髪にキスを落とす男の薄笑いに気付きもせず
こうして俺の中は少しずつ、着実に壊されて
次第にマヒしていく。

それでも良かった、、


この温もりがずっと傍にあるなら、俺は・・・・・・・・

 

 

 

 


「・・俺も、寂しかった・・・」

 

 


この残酷な破面を愛する。

 



 

【終】


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あとがき

んー…スッキリしないなぁ…
続き物として考えていたのですが、ムリヤリ終わらせたからかな…?

2006/11/05  いた。