漂白したように真っ白なシーツ。
横たわる躯を照らしだす、朝の光。

眠る猿野の睫毛が震え、ゆっくりと目蓋が上がる。

ベッドサイドに立つ御柳は、愛しげにその目覚めを見つめ
薄っすらと口端を上げた。 
あぁ、本当に愛しくて堪らない。
綺麗な綺麗な、自分だけの生きた宝物。

覚醒した猿野は傍に居る御柳の気配に気付いたのか
チラリと目線だけをそちらに向けた。


「おはよう、オレの可愛い天国・・・」


うっとりと、溺愛するモノに優しく切れ長の目を細め、蜜のように甘く囁きかける御柳。
猿野は最上級の嗤みを浮かべ


「・・・気持ち悪ィんだよ、下衆が」

 

 

 


『コノ愛ヲ、君ニ』

 

 

 


猿野がこの部屋に連れて来られたのは、もう随分と前のことだった。
理由も何も解からない内に、それまでの普通の生活から一転
この高層マンションで(開けられない窓の外の景色を見た)
御柳芭唐と名乗る男に、此処で暮らすように告げられた。
もちろん猿野は突然のことに途惑い、訳を訊いたが
その答えは理解出来ないものであり、受け入れられる筈もなく
困惑に眉を顰めるしかなかった。

思わずたじろぐ程に、真っ直ぐに漆黒の猫目に見つめられて、


「オマエは、持つべき者が持つべきだ」


などと、まるで人を物のように言い
一体此処が何所なのかと訊いても、


「オマエは、在るべき場所に在ればいい」


と、重ねて心外極まることを、言い諭すように言われ。
何度質問を繰り返せど、意味不明な答えは変わらず
正直猿野はその初対面の男の正気を疑った。
さもなければ寝ずの夢を見ているのだと思った。

けれど本当にこの部屋から出られないのだから、どうしようもない。

出口という出口は全て鍵が掛かっている。
携帯とかそういう外界とのコンタクトが取れるモノは
即日必要ないモノとして処分された。勿論部屋の中にもそれらしい連絡手段はない。
唯一、外の情報が入ってくるのはテレビとか新聞とかぐらいのモノで。

本当はそんなものも御柳は見せたくないと言っていたが
それじゃぁ狂ってしまうからと、それらは許容された。
猿野が頼めば雑誌やマンガも買ってきてくれる。
けれど家族のことや学校、友人のこととか
過去に関わりのあった事は一切教えてくれない。
それがいつの間にか暗黙のルールみたいになって
いつからか猿野自身もそのことについては触れなくなった。

毎日好きな時間に起きて
好きなモノを食べて
好きな服を着て
好きな時間に好きなだけ寝る。

猿野の身の周りの世話は、本当に全て御柳一人がしたし
着る物も、食事も、消耗品の補充も、家事も、
挙句の果ては身体を洗ったりとか髪を洗ったりとか
余計な世話まで。
いつだったか下の世話まですると言った時もある。
本当に何もかもの面倒を見るという風に。

そしてそのどれもに間違い無く愛情があり
それが逆に猿野にとっては恐ろしかった。

異常なほどの愛情で、
異常なまでに大切にされ、
異常な世話を受ける。

それはもう人間が動物を溺愛するというようなレベルではなく、
度が過ぎた恋人、または子煩悩な親
形容するなら、それ以上かもしれない。
半身?
一部?
どれも違う気がする。
そうして疑心暗鬼に囚われ
猿野はただ心を許す事無く警戒するしかなかった。

感覚が、マヒしそうだった。

第一、赤の他人がそこまでしてくるなんて
やっぱりどうかしているし、尋常じゃない。
でも、長い長い時間をかけて
それが段々と当たり前のことだと思い込みかけている自分がいて、恐ろしく
必死に冷たくあしらって、強がるフリをした。
見え透いた虚勢。
それでも御柳は、そうやって猿野がどんなに拒絶しても
口を利かなくても、目を合わせることすらしなくても
大事に大事に愛した。


「ずっと此処に居てくれるだけでいい」


いつだったか、
猿野は一度だけ脱走を試みたことがある。
雨の降る日、御柳が居ない時を狙って
鍵を壊して逃げた。
知らない路を走って、
体力も気力も衰えていたのに
只管、走って走って・・・・・・
けれど、無謀な逃走劇はすぐに幕を閉じた。

一体どうやって見つけ出したのか
雨に濡れるのにも拘らず、御柳が静かに路を塞ぐように立っていて。
怒るでも悲しむでもなく、
ただ微笑んで、棒立ちで震える猿野を優しく拘束した。
その表情を、決して猿野は忘れない。
同時に、もう二度とこんな事は出来ないだろうと確信した。

あぁ、愛されてる。

 

少しでも気を抜けば、一生抜け出せないような
ドロドロしたモノに絡め取られて、永遠に沈んでいきそうな気がする。

・・・イケナイ。

どうか僅かな理性を奪わないで欲しい。
お願いだから、俺を殺さないでくれ、、
人形ではなく人間として生きていたいから
お前の窒息しそうな愛情を、どうか拒否することを許して下さい。

 

 

こんなことなら逃げるのではなく、

 

 

 

 

「・・・愛せば良かったのに」

 


【終】



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あとがき

意味不明な上に、また一ヶ月遅れだコンチクショ・・・。
しかし異常な御柳に異様な萌えを感じますよw

。いた。

2006/11/01