始まりは、一本の着信からだった。

 

 


『電話プレイ』

 

 

 

聞き慣れた着信音が鳴り、猿野はズボンのポケットから携帯を取り出した。


「はい?」


出る前に確認したディスプレイには、やはり「御柳芭唐」の文字。
言葉尻が疑問調なのは、確認ではなく、何の用だと先を促す為だ。


『出るの早いっしょ。もしかして待ってた?』
「んなワケねーだろバカ。とっとと用件言って切りやがれ」
『へーへー。 オマエ、今どこに居ンの?』
「リビング」


今日の朝から、この御柳宅に入り浸っていた猿野は
お気に入りの黒いソファに寝転がってテレビを見ながら、短く返した。
遊んでいた途中に、御柳がコンビニに行って来ると出掛けたので
今は一人で他人様の家で大人しく留守番をしているというワケだ。
残念ながら金魚のフンのように御柳にくっ付いて行くほどデキた恋人同士でもないし
極端に出無精な猿野がワザワザ用も無いコンビニなどに行く筈もなかった。


『ちーっと頼みたいことあんだけど?』
「・・・・なに?」
『オマエ今めんどくせーとか思ったっしょ』
「あー、思ってない思ってない。 で?俺に何して欲しいんだよ」
『ガムあるか探してくんねー?』


急に電話してきて、何かと思えばそんなことかと
猿野は言い当てられた通り面倒だなと思いつつ
まぁどうせヒマだから別にいいやと考え直し
邪魔なテレビの音を消したところで、ふと気付く。
そういえばここは他人の家。
ガムの仕舞い場所など知らない。


「いーけど、ドコにあんの?」
『あー・・・、ンじゃ、立ち上がって』
「んー」


リビングに居ると言った猿野がお気に入りのソファに座ってテレビを見ている
というのを見越してか
御柳が「立て」と電話越しに言う侭に、猿野はソファから立ち上がった。


『で、右見てみ?』
「右?」
『白い棚が見えるっしょ』
「あー見える見える」
『そこまで歩いて行って』
「んー」


なんだか遠隔操作で操られてるみたいだな、とか
なんで見えてないのに見えてるみたいに正確なんだ、とか
色々考えながら、大人しく声に従う。


「着いた」
『開けて』
「ん」
『ある?』
「ない」


取っ手のついたトビラを開けて中を見てみても
生憎ガムの一粒だって見当たらない。


『あ?マジ?んじゃ次は、オレの部屋行ってみて』
「・・・・・めんどくせ・・・」
『もう立ち上がってンしょ?ブツクサ言うなよ。
 ちゃんと探してくれたら、天国の好きなマンゴープリン買って帰ってやっし』
「どこへなりと見に行ってやらァ」


当てが外れて尚探させるつもりなのかと嘆息した猿野だが
そこで御柳から思わぬご褒美のご提案。
聞いた瞬間不満気な声は何処へやら、自分の大好物をチラつかされて、快諾。
うまい具合に餌に釣られた感は否めない。
それでもいい、マンゴープリンを食べたいが為
つくづくゲンキンな性格だと改めて思いつつ
猿野はフローリングの床を裸足でペタペタと移動し
奥の御柳の部屋のドアを開けた。
さすがに彼氏様の部屋ぐらいどこにあるか知っている。


「来たぜ?」
『そこに脚の低いテーブルあるっしょ、その上見て』


入ってすぐに目に付くミニテーブルは
確かにガムが置いてあってもおかしくないぐらい、いつも色んなモノが山積みになっている。
だいたいは雑誌や普段使わない細々としたモノや
銘柄の決まったタバコと100円ライターが乗っかっている。
何かを取ろうとすれば一気に一山崩れそうなので
普段猿野は手を触れない。


「・・・んー・・・・・・、、ねーよ?」
『マジかよ』


一通り外観を見回してもそれらしきモノは見当たらなくて
一応雑誌等を摘んでその下も見たが
ないものはないのだから仕方無い。

(折角ここまで探しに来たのに・・・てゆーかコレ、もぅちょっと片付けろって・・・)

猿野はごちゃごちゃのテーブルを見ながら
無駄な労力使ったとばかりに溜め息をついた。


『ワリー、ご苦労さん。ガム全部ねーみたいだから、買って帰るわ』
「おー、ガムでもジャーキーでもパイナップルでも好きなモン買って来いや」


そんなに好きなガムの買い置きを切らすとは、珍しいこともあるもんだ
と軽口を叩きつつ、「俺のマンゴープリンも忘れんなよ」という一言も
きっちり最後に言い置いて、兎角約束を破りがちな御柳にちゃんと釘を刺してから
電話を切ろうと指を伸ばす。が、


『そうだ天国。オレの部屋来たついでに、もう一個頼みごと』
「あ゙?なんだよ」
『ベッドの横のアソコ、開けて』
「・・・・げ・・」


「アソコ」と言われ反射的に目をやったのは
できればあまりお目にかかりたくない代物が眠っている場所。
使用頻度が高いのは主に夜。
つまりは


「・・・まさか探して欲しいもんって・・、、」
『そー、コンドー君。いつもお世話になってるっしょ?』


あぁ、やっぱり、、と猿野は顔を顰めて
そういえば最近「無くなりそう」と呟いていた御柳を思い出した。

(・・なにも今確認させなくてもいいのに・・・)

しかし、御柳の言う通り、日頃ソレに助けてもらっているのは9割方猿野のほうであるし
そもそも腹の不調や後始末が面倒臭いから使おうと言い出したのが猿野だから使っているのであって
御柳からすれば「不要」以外の何物でもないモノ。


『無いと困るの、自分っしょ?』
「・・・ぅ・・確かに・・・」


痛い所を突かれて、仕方なく猿野は携帯を耳に当てた儘
ベッド横の引き出しまで歩いて行き、一段目を空けた。


「・・・あと二つ残ってる・・」
『あっそー、じゃソレも買って帰るわ、多めに』
「ッ!、勝手にしろ!」


たぶんコンビニで例のモノが置いてある棚を見ながら電話しているであろう御柳の
含みのある言い方に顔を真っ赤にして
今度こそ通話を切ろうとしたが、また寸前になって


『ちょい待て、まだ切んなよ?切ったら犯す』
「・・あ゙?!」


まだ何か用があるというのか、尚も電話を続かせる御柳に
いい加減うんざりした猿野は思わず声を荒げた。
けれどそれを無視するようにスピーカーの向こう側は沈黙。
一体何なんだと文句を言おうとすると
どうやら会計を済ませたらしい御柳が、ガタンと自転車のスタンドを外す音がした。
コンビニから出たというのに用事があるなら、本気で切りたいと思うものの
さっきの御柳の言葉が恐ろしくて、出来ない。
悶々としていると、器用に片手で自転車を漕いでいるだろう御柳が


『オレが帰るまでに、オナニーして一回イッとけや』


なんてことを、真昼間の、しかも屋外から言ってきた。
こともあろうにまさかそんなセリフが飛び出してくるとは思っていなかった猿野は
呆気に取られて暫く絶句した後、爆発。


「・・・・・・っおま、アホか?!それか名前の通りのバカか?!
 天下の公道で世迷言謳ってんじゃねーよ・・!!」
『どっちでもいいって。っつか早くヤレよ?あと5分ぐらいしか時間ねーぜ?』


さして遠くないコンビニからの帰宅時間を告げ
クク・・と低く咽喉で哂う御柳の思考回路が信じられず


「やるわけねーだろ!気分じゃねーっつの!」
『でも溜まってンしょ?』


にべも無く拒否すれば、すかさず遮られ、言葉に詰まる。
確かに、ここ何日かご無沙汰である猿野は
思わず自分の下腹部を見た。
御柳と付き合いだしてからというもの、自慰をしなくても
毎日のようにそれ以上の行為をしている所為か
それがあたり前になって
この数日、御柳と会っていない間も
自分で慰めようとする気が起こらなかったのだ。


『今までずっと我慢してたンしょ?かーわいいねー・・』
「ッ、う・・るせ・・!」
『で?今すぐオレが居ない間にマスかくのと、オレが帰ってから真昼間に抱かれンのと、どっちがイイよ?』
「・・っな!!」


揶揄うように言われて頬を真っ赤にする猿野に
いきなりとんでもない二択を突きつけてきた御柳。
あまりな言い様に驚いた猿野は今度こそ言葉を失う。
しかし、この男のことだ。
もし言う事を無視して何もしなければ
本当にこの明るい昼間にセックスを強要してくるに違いない。
それはたぶん、逃げても同じことだろう。

・・ならば・・・・・、、


『・・・OK。電話、切らずにヤれな?』


天国くん?
その沈黙の答えを、猿野の性格からして前者と判断した御柳は
低い声で、見えない電話越しからでも判るほどに
イヤラシイ鬼畜な笑みを浮かべて、囁いた。

(・・もうどうにでもなれ・・!)

半ば自棄クソになった猿野は、小さく舌打ちをしてから
ドカッと御柳のベッドに腰を下ろし、己のズボンへと手を掛けた。


「・・・・ッ・・、、」


言われた通りに通話は続けたまま
性急にズボンを膝までズリ下ろし、下着の中から片手で萎えた雄を掴み出す。


『もう時間ないぜ?さっさとヤれよ』
「・・っわか、てる・・!」


ワザと急かして来る御柳に「黙ってろ!」と怒鳴ってから
まだ何の反応もしていない己の性器に指を絡める。


「、、・・・っ」


久方ぶりに触れたそれはふにゃりと力無い。
それを無理矢理扱き上げるが
状況が状況なだけになかなか立ち上がらず、ヤキモキする。


「・・・・っ・・く、そ・・!」
『なに?勃たねーの?』


苛立ちを含んだ猿野の声だけですぐに状態を理解した御柳が
哂い混じりに意地悪く問い掛けてくる。
まるで猿野の手管がヘタクソだと言わんばかりに。
それにムッとした猿野は意地でも己を昂ぶらせようとするが
反してソコは未だなんの兆しも表さずで。

(・・・マジ、かよ・・!!)

イ●ポにでもなったのかと嫌な考えすら浮かんでくる。


『・・・アマクニ、手、とめろや』
「・・!」


するとそこで、唐突に電話越しから御柳の指示。
猿野はビクリと跳ねてから、利き手の動きを止めた。
何故か、こう言うときの、この掠れた低い声に逆らえない。


「・・・っ・・」
『ゆっくり、揉んで、硬くなってきたら、裏筋なぞってから、先っぽ握れ』
「・・・・ん・・、」


耳元で囁く低音が促すままに、緩やかに全体をまさぐって
少し形がハッキリした頃に、指先を使って撫で上げた後
先端を握り込む。


「・・・ッ、、」
『んで、親指で適当に尿道弄ってみろ』


言われる儘にぐりぐりと親指の腹でそこを刺激すると
ビクリと漸く疼くような快感が走り
左手に持っていた携帯を握り締めて声を殺す。
暫くそれを繰り返していくと
次第に熱を持った雄が角度を上げてきて
ジワリと先走りが滲み始めてきた。


「・・・ん、・・・っ・・」
『よさ気?ンなら扱いて』
「、、あっ!」


甘さを含んだ声に猿野の変化を感じ取った御柳が
すぐに次の指示を出し
素直に猿野はそれに従って、溢れた先走りを全体に延ばすようにして扱く。

(・・っあ、ヤベ・・・気持ちイ・・・っ)

途端に痺れるような感覚が隈なく伝わり
そこからは夢中になって手を上下させた。


「・・・ぁッ・・、・・・・はっ、、」
『今、どんなカンジ?』
「・・・・ッく・・・、先走ってンし、・・・勃ってる・・よ・・!」


明らかに愉しそうな声色で御柳が訊いて来るので
猿野は断続的に喘ぎながらも今の状態を喋り
とんでもないことを口走ってしまったと後悔するが
すぐに快感の波に意識を攫われてどうでもよくなる。


「・・・ッ、ぁ・・・!、、ぅ・・ッ・・・あっっ」


完全に勃起してビクビクと脈打つそれを強めに扱き上げると
堪らなく気持ち良くて、猿野は何度も手を往復させた。
室内にこれだけ声が篭もって聞こえるのだから
電話越しの御柳にもハッキリと聞こえているのだろう。
それを意識した瞬間、
猿野はドクリと射精した。


「・・・っぅ・・、、」


勿論、ティッシュを取る暇なんて無く、掌でそれを受け止めるが
受け止めきれずにボタボタと床に垂れる。
その淫靡な光景を息を乱しながら見つめ
ヒクヒクと余韻に浸って弛緩していた所で、


『「ヨクデキマシタ」』


不意に携帯からも直接耳にも入った二重の声。
驚いて弾かれるようにドアの方を見ると、、


「っ・・お、まえ! いつからソコに!!」
「さっき?」


通話を切った御柳が携帯を片手に、ニヤリと厭らしく口端を上げた。
どうやら猿野が行為に没頭している間にいつのまにか帰ってきていたらしく
途中からずっとその様子を見ていたのだ。

(・・・っ気付かなかった・・!!)

例え気付いていなかったとはいえ、御柳の見ている中で自慰行為をしてしまったなんて・・!と
猿野は顔を真っ赤にしてパクパクと口を開けたり閉じたりした。
恥ずかしすぎて文句を言いたいのに言えない。


「ま、とりあえずイタダキマ〜ス」


そんな猿野に向かって、卑猥に舌舐めずりした御柳が
買ったコンドームの真新しい袋を千切ってゆっくりと覆い被さってくる。


「・・・あ・・っ」


どうやらマンゴープリンは、暫くオアズケのようだ・・・


 


【終】


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あとがき

前回に引き続きエッチなしでスイマセンorz
とりあえず今回のコンセプトは電話越しオナニーだったので、目的が果たせて満足。
ありがちネタでゴメンナサイ・・・・

2007/07/25

。いた。