嗚呼、これがそうなんだ。

 


『所有物即ちペット11』              

 


―――永遠に此処から出られなくたって良い。
     お前さえ傍に居るなら、それでいいんだ。

××××××××××

 


「・・・・ん、、」


ゆっくりと瞼を上げれば、もはや見慣れた白い天井。
ハッとして飛び起きると、弾力のあるベッドのスプリングが軋んだ。


「・・・・・あ・・、動ける・・・」


腰に独特の鈍い重みがあることは置いておくとして
俊敏に起き上がることが出来た自分の躯を色々動かしてみる。
両手を開いたり閉じたり、脚をバタつかせたりと
ちゃんと自分自身の意思で自由に動くようになったみたいだ。


「うん、やっぱこれじゃねーと」


無事に治った事にホッとしつつ、
恐らく御柳が着せてくれたのだろう上下白いスウェットの長い裾を踏まないように
濃厚な絨毯に足を下ろした。


「・・・あれ?御柳、居ないのか、、?」


一応礼でも言うかなと、グルリ部屋を見回したが、肝心の男が見当たらない。
珍しい事もあったもんだ。
いっつも自分の部屋じゃなく、此処に居座っているクセに。
まぁとりあえず、ご主人様、もとい御柳を見つける為
ドアノブに手を掛けた所で、ある違和感に気付く。


「・・・・なんだ?コレ・・・」


鎖骨の下あたりに、何か固いものがぶつかって
怪訝に思いながら胸元に手を這わせれば、ヒヤリと冷たい質感。
慌てて襟元を大きく引っ張り胸元を露にすると
確りした太めの、少し鎖に似ている銀の光沢を放つネックレスがぶら下っていた。

一瞬、当初の頃嵌められていた首輪とその鎖を思い出す。


「・・・・・まさか、な」


浮かんだ考えを一蹴し、俺はドアを開けた。

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


「御柳ー?」


ひたひたと静かな廊下を歩き、その先のリビングに顔を出す。
しかし誰の気配もしなかった。


「?・・・部屋か?」


通ってきた廊下を逆戻りし、御柳の部屋を目指す。
リビングに居ないなら、後は黒い自室しかない。


「御柳?入るぜ??」


一応声をかけた後、返事も待たずにドアを開ける。
すると、ベッドにうつ伏せに横たわっている御柳が居た。
目蓋は閉じられている。


「・・・なんだ、寝てたのかよ・・・」


小声で言い、起こさないよう慎重に歩いて
物音を立てずにシングルサイズの寝心地の良さそうな黒いベッドへと近付く。
途中クッションに躓いて転けそうになったものの、何とか立て直し
無事ベッドの脇まで辿り着いて端っこに浅く腰を下ろした。


「・・・・・・・」


静かな部屋で、真っ黒なのに、でも何故かどうしようもなく、心が落ち着いた。
たぶん御柳が傍にいるからだろう。
俺は一つ苦笑して、それから珍しく熟睡している御柳へと視線を移した。
少し乱れた鶯色の髪、半分シーツに埋もれた隈取の無い綺麗な顔、黒い服を纏った長身。
どれも俺の心を落ち着かせる。


「・・・・・なぁ、御柳・・・。・・・俺さ、気付いた事、あんだよ・・・・」


不思議と、自然に口が開いていた。


「なんで、お前にだけ触られても平気なのかとか、
 なんで、お前と居る時だけこんなにも安心出来るんだとか、
 なんで、お前と離れただけであんなにも不安で寂しかったのかとか・・・」


どれも、共通して言える事、解かった事がある。 それは・・・


「俺にはお前だけ、お前しかいないって事だよな」


今更ながら、


「あの時から、お前じゃなきゃ、何もかもが、ダメなんだ」


声に出して、言ってみた。


「・・・ンなもん、今更言われなくても解かってンよ」


・・・・・・・ッて、え?!


「っみ、御柳?!お前いつから起きて・・・?!」
「最初っカラ。全て聞かせて頂きました。恥ずかしいヤツ。独白してやがんの」


言って躯を起こした御柳は、慌てる俺に向かって、揶揄うように口端を上げた。


「・・だって!俺はてっきり、寝てるもんだと・・・!!・・ッタヌキかよ!」
「気付くの遅っせーよ。鈍過ぎ。可愛過ぎ」
「わ!離せ・・・っ、ヤメろ!・・・ッ耳を、噛むな!・・・・・っぁ・・!」


御柳は素早く俺を後ろから抱き込むと、
いやらしく耳朶を噛んだり首筋に唇を這わせたりして来て
思わず出た甘い声が、輪をかけて恥ずかしかった。


「んっ、・・!離せっ・・て・・!御柳・・・!」
「ヤダ。誰に向かって命令してンの?天国」


囁きながら、服をひん剥いて肩にキツく吸い付く御柳は、暫く残りそうなキスマークをきっちりつけ
ビクリと身体を跳ねさせた俺をほくそ笑んだ。
このままでは流れ流され、また美味しく頂かれてしまう。
俺は咄嗟に、ベッドに押し倒そうとしてきた御柳の逆手を取って、逆に馬乗りになって押し倒してやった。


「ナニ?上になってくれんの?サービス精神旺盛でヨロシイ」
「ッ冗談言ってんじゃねーよ!いきなりサカんなっ!テメェは猫か・・!!」


嬉々として俺の腰を擦り上げる手を素早く叩き落とし、阻止する。
勘違いもいい所だ。


「ンで?学校行った感想は?」
「・・・最悪。」


未だ薄笑いを納めない御柳だけれど、
ふざけた調子を改め真面目に訊いてきたので、即答する。
正直この一言が、今回の素直な感想だ。
今までのテンションが嘘のように静かに、無表情で答えれば、下の御柳がしたり顔をした。


「・・・予想通りってゆー顔だな・・・」
「まーな。 それで?サブイボの正体は解かったかよ?」
「ん。見当はついてたから、確認は出来た」
「へぇ?」
「俺はお前しか受け付けない。さっきも言ったけどさ・・・お前以外、ダメだ。ほんと、ダメ。無理」

外の世界も、奴等の汚さも、相容れない空気も、全部全部、気持ちが悪い・・・
思わず学校での事を思い出し、瞬間的に胸糞悪くなった胸の辺りを押さえ、眉間に皺を寄せる。
あんなモノ、もう視界にすら入れたくない。


「なァ、天国の居場所は此処しかねーって、実感出来たろ?」
「イヤってほど」
「天国必要としてんの、オレしか居ねーって、痛感出来たろ?」
「骨身にまで」
「っつーかオレが必要って、思い知ったろ?」
「倒れるぐらいな」


人を食ったような笑みをして、たたみ掛けるように問う御柳に
俺も細く口角を上げて端的に答える。
そうして数瞬、お互いに声もなく視線を絡め
かと思えば、いきなり御柳は俺の肩を掴むと
形勢逆転というように、上になってベッドに組み敷いた。


「わざわざ十二支行かせてやったンだ・・・。もう、いいな?」
「おう。心配しなくても、未練もクソもねェよ」
「そうだ。オマエにはオレ、オレにはオマエ。その繋がりさえあればいい」


他は全部、捨てっちまえ、忘れろ、必要ねェ
晴れやかに宣う御柳に、俺は悠然と微笑んで頷く。
言われるまでもなく、あの時以来、俺にとってお前だけが全てなんだ。
学校に行ったのも、実を言えば、嫌悪感の正体を突き止めたいとか、そんなんじゃなく
この気持ちを確固たるものにしたかったからだ。
今、目の前に居る存在が唯一だと。


「御柳」


上から俺を見下ろす御柳に向かって手を伸ばし、綺麗な顔を引き寄せ
そしていつかと同じように、薄く口を開き、チラリ舌を差し出す。
御柳は満足そうに目を細め、俺の舌を喰らうように、深く噛み付いて来た。
じわりと沁み出す唾液。
堪らない。


「っ、ん、、」


これが俺の世界だ。
それ以上は望まない。

俺は今、幸福に満ち満ちていた。

 

「・・・ところでさ、御柳。 このネックレス、もしかしなくても、あの首輪と鎖 意識してるだろ」
「あ、解かる?」
「やっぱりか」


御柳の首に廻していた手を下ろし、銀のそれを持ち上げる。
安直な束縛のイメージが、無性に嬉しかった。


「一生、俺はお前のものなんだよな?」
「そう、即ちペット」
「室内専用だからよろしく」
「ハッ、言うじゃねェか」


あたかも犬を撫ぜるように俺の髪を梳いた御柳は、相変わらず意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

 


【終】


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あとがき

お、終わった、、やっと終わった…!
むしろ無理矢理終わらせた感がヒシヒシと伝わって来ますよ…orz
結局自分が何を書きたかったのか判りません。

とにもかくにも、最後まで読んで下さり、有り難う御座いました!

2005/08/14  。いた。