きっと悪い夢を見ている、誰かそう言ってくれ。

 

 

 


『所有物即ちペット2』        

 

 

 

 

――何でもなかった日常が、
   こうも呆気なく崩されてしまうなんて、誰が予想できる??


××××××××××

 

 

しっかりと、さっきまで見えなかった部屋をよく見渡す。

 

「・・・・・っ・・・」

 

壁は一面白。 絨毯も、天井もだ。
まるで病的に「白」に統一されている。

広いと思っていた空間は思った程広くはなく、
これもまた白いベッドが一つ置いてあり、その低い脚の一つに鎖が巻き付けられていて。
それが確実に己の首輪に繋がっているモノの最終点なのだろうということは、一目で分かった。
あとは特に目立った物も無く、ベッドの横に小さな白い箪笥が置いてある程度で
ただ一つ変わったところがあると言えば、窓が一つも無い事だ。

 

「・・・・・・・・何なんだ・・・。何なんだよ、一体・・・!!
  ッお前・・、俺をどうするつもりなんだ・・!!」

 

一体なんの目的があってこんな目に遭わせるのか、
こんな理不尽な扱いなど屈辱以外の何ものでもなくて
目の前の御柳を睨み上げて声を荒げる。

 

「どーするもなにも、オマエ今日からオレのペットだって、さっき言ったっしょ?」
「っ、・・ペットって・・・!それが、なに言ってるか、わからな・・・ッ、」
「だーかーらァ、オマエはもう オレの所有物って 言ってンの」

 

屈んで視線を合わせて、スルスルと愛しげに俺の頬を指で何度もなぞりながら、切れ長い目を細めて言う。
俺は今、自分が何故こういう状況に陥っているのか、考えることすらできないし
御柳の言葉の意味も理解なんかできなくて。
もう何もかもが常軌を逸しているし、非日常的で、ありえない。
そんな俺の思考のぐちゃぐちゃに気付かないのか気付いていて心底楽しんでいるのか、
御柳は相変わらず厭な笑みをした儘
飼い猫の瞳は何色なのかと覗き込む飼い主のように、じっと見つめてくる。

 

「・・・・・・・・じ、冗談、、だろ・・?・・・なぁ・・、
 冗談だって、・・言えよ・・・・ ッ・・コレ・・、外せよ・・・!」

 

思ったより冷たい鎖を掴んで、引っ張る。
首輪ごと首が絞まるのなんて構ってられない。

 

「、なぁ!外せって・・!・・・俺の制服、どこだよ・・・・・・・ッここから出せよ・・!!」
「んー、全部却下。 つーかペットに首輪は必需品。
 ついでに服も着る必要ナシ。 ・・だろ??」

 

鎖を握り締める俺の手を取り、愛でるようにその薄い唇を押し付けると
ヘタッたように力無く座り込んでいる俺の顎に手を掛け、上を向かせ。

 

「…ッ」

 

見たくもないのに、目の前にある綺麗な顔を見ざるを得なくなり
悔しくて唇を噛めば、薄っすらと哂われた。
その細まった目といい、覗いた八重歯といい、
整いすぎている顔にはいっそ不釣合いなほどの恐ろしい笑みは
先の恐怖心を、一瞬でフラッシュバックさせ
怯えてヒュッと息を呑めば、より一層愉しげに哂われた。

 

「クク・・・可ー愛ぃ・・。 こりゃ苛め甲斐があるってモンしょ」
「、、ッヒ、ぁ・・・っ、、助け・・・・ッ」

 

情けなくガクガクと震えだした、絨毯についている両手。
この恐ろしい男から必死に逃げようとしているのに、恐怖で上手く動かない。

 

「っ、・・・あ、・・・・・誰か・・・っ・・・、」
「誰に助け求めてんの?何に助け求めてんの? ここにはオレとオマエしか居ないのに?」

 

現実を思い知らせるかのように囁き、俺の下唇の感触を楽しんでいるのか
指先で何度もなぞったり押し潰したりしながら、その黒目がちの猫目を怪しく光らせる。

ゾクリと、背中が震えた。
こんなやつが居たなんて・・!

俺は一刻も早くここから、この男から逃げ出したくて、
さっきから厭らしく触れてくるその手から離れようと、必死にジリジリと後退る。
けれど無駄な努力だと言わんばかりに、御柳は口端を上げ
俺の頭の後ろに手を差し込み、髪を鷲掴んで逃げられないよう固定し
その綺麗な顔をあまりにも自然に近付けてきた。

一瞬ピントがぼやける。

唇に、柔らかいものが当たった。

 

「・・・んっ、、・・・・・ぁ・・!」

 

それが何かを知る前に、ゆるく噛まれた痛みに驚いて歯を浮かせたら
隙間から温かなモノが潜り込んで来て、逃げ切れなかった舌を思い切り絡め取られる。
俺は開いた目を閉じることもできずに、只管逃げようとするけど
御柳は自分も薄く目を開けたまま、今度は引き攣る舌の根元あたりを、ぐちゅりと根こそぎ舐め上げてきた。

 

「ひぐっ、ん、、ッ、」

 

そうされると俺の身体からは、まるで穴が開いた風船の空気のように力が抜けて行き
ふらふらと目の前の長身に凭れ掛かるように倒れ込んでしまう。
御柳は予めそうなる事が分かっていたかのように抱きとめると
熱に浮かされたみたいにハァハァと息を乱す俺の
半開きになっている口の中に一本、指を突っ込んだ。

 

「ッ、、ン・・・く・・、・・・!」

 

暫くクチクチと中を弄る御柳。
涙目になってそれを吐き出そうと舌を動かすけれど、上手く避けられ
その気紛れに動いた細い指が偶然、上顎を掠める。
すると、俺の身体は不自然なほどビクリと、大袈裟に跳ねた。

 

「、・・ッ・・・あっ・・・・、んん・・っ」
「・・ふーん。上顎、ね。案外普通だし」

 

一旦指を抜き取り、唾液でドロドロに濡れて糸を引かせているそれを眺めつつ
淡々と言う御柳を、息も絶え絶えに睨み上げるしかできなくて。

 

「ンな顔しても煽るだけっしょ。 ま、良いケド」

 

言うなり立ち上がった長身は、隅に置いてあるベッドへと歩いて行く。
一体何をするつもりなのか、黙ってそれを見ていれば
そのまま其処にギシっと腰を下ろし、片指を上げて何度か自分の方に曲げて、

 

「来いよ・・?」

 

妖艶に哂いながら まるで誘い込む毒蝶のように蠱惑的に招く。
俺はその惑わすような妖しさに、
それでいて全てを呑み込んでしまうような危険さに、
何もかも引き摺り込まれてしまいそうな感覚に捕われ、慌てて首を振る。
正気を失ってしまいそうだ。

 

「・・・・・ッ絶対、行か・・ない、、」

 

口端の唾液を拭う気力も無く肩で息をしながら、手招く御柳の手を、拒絶する。
あの手に掴まってしまったら、もう二度と抜け出せなくなるような気がした・・・。

でも次の瞬間、御柳の笑みが深くなったかと思ったら、首がもの凄い力で引っ張られ、

 

「ッぐ・・!!」
「此処に来いっつってンの。猫耳付けられたいのかよ?」

 

いつの間に手繰り寄せたのか、手元の黒い鎖を玩びつつ
半ば本気とも取れる声色で愉しげに言い放つ。


(・・・・・・・、来いって・・・言われたって・・・、、)


俺は逡巡する。
それで無くとも、こんな格好で充分恥ずかしい。
けれど言う事をきかなければ更に恥ずかしい思いをしなければならないのは絶対で
それこそ猫耳なんて、そんな変態的なものを付けられたら
この格好の方がマシだと思えるぐらい情けない容姿になるに違い無く・・・。

 

「・・・・・・・・ッ、」

 

覚悟を決めて、慙死しそうなぐらいの恥ずかしさを我慢し、きつく目を閉じて
丸見えの前を両手で隠しながら立ち上がり、御柳が座っているベッドへと一歩進む。

すると、

 

「あー。ダメっしょ天国。犬は二足歩行なんかしないっしょ?四つン這いで来いや。」
「!!・・・いい加減にッ」
「あ?何??ンなに猫耳付けて犯られたいってか?いーぜェ・・??」
「・・・・・・・・・・ッ、殺して、、やる・・・・・っ」
「クク・・そりゃ楽しみ。」

 

厭味に片目を瞑り からかうように言う御柳から視線を外し
歯を食い縛りながらゆっくりと、白いふわふわの絨毯に両膝と両手を付ける。
自分のありえない痴態に身を震わせながら、そろそろと四肢を動かせば 
御柳が満足げに哂うのが分かった。

 

「・・い〜ぃ眺め。震えちゃってまー・・・・。 オマエ、素質あんよ」

 

ねっとりと舐めるような視線に全身余る事無く曝されながら、
ようやくその足元まで辿り着いた時には、強制された行為の恥辱と憤りは最高潮で。
肩が震えるのを必死に抑えながら、ニヤニヤと哂う御柳を睨み上げた。

 

「ご主人様が呼んでるっしょ、もっと早く来いよな? 返事は」
「っ・・・・誰が・・・、・・誰がするか、この変態野郎・・・・ッ」
「・・・へー?ンなにお仕置きされてーの」

 

途端に切れ長の目が細められる。
お仕置きなんて、誰が好き好んでそんなものをされたいと言うのか
俺はベッドの脚に巻き付けられている冷たい鎖に手を伸ばし、雁字搦めのそれを解こうと引っ張る。
けど、何処をどうやっても、首輪と同じく外れる気配はまるで無く
無意味にざらざらと煩く鎖が鳴っただけだった。

 

「ッくそ!何だよ、コレ・・!!外れない・・ッ!!」
「当たり前っしょ。外れたら意味ないし。
 つーか、完璧固定したから、もうオレでも外せないかもな? クク・・・」

 

粋狂にも咽喉で哂う男に、軽い絶望を覚える。

 

「まァ心配しなくても、天国はずっと此処で生きるし?」 

 

手に持った鎖を愛しげに舐める御柳に対し、
俺は此処から逃げられないという現状をマトモに突きつけられ、軽い放心状態に陥ってしまい
御柳が鎖を更に短く手繰り寄せ、足元にこの身体を引き摺り寄せた時も、まるでされるが儘。
そして更に、追い討ちを掛けるが如く 
御柳は尖った八重歯を覗かせて端整な顔を耳元に近付けると、、

 

「お遊びの時間だぜェ・・?」

 

低く掠れきった、背筋を震わせるような声で そう囁いた。
言うが早いか、俺の身体は逃げられないよう両脚に閉じ込められ
髪を掴んだ御柳に顔を無理矢理上に向かせられ、
間を置かず、行き成り覆い被さるような深い口付けが下りてきた。

 

「ッ、・・・・・・ンっ、・・・・ん!!」

 

自失していた所為で容易く舌の侵入を許してしまい
最初にされたものよりも各段に濃厚なそれを受け入れる羽目になってしまう。
口の中を荒らす御柳の舌と慣れないキスの息苦しさとで漸く我に返り、必死に首を振って抗うが
しっかりと頭部を固定されているから殆ど意味が無かった上に 
逆に引き寄せられ、もっと深く舌を絡めることに。
しかも只そうするのではなく、時たま上顎の辺りを掠るように刺激されて
指の時ほどでは無いにしろ、ビクビクと身体が跳ねて力が抜けていく。
口許から溢れて顎を伝う唾液も全然気にならないし、気にする余裕も無い。

 

「は、、・・う・・・っ、・・・・・」

 

余りに長い間唇を合わせているからか、涙まで滲んで来て
必死に我慢しようと瞼を開けば、ずっと薄目を開けて俺を見ていたのか 御柳と視線が交わり
驚いて目を閉じようとするも、御柳が視線を外そうとしなかったので、俺も目を開け続ける。
すると何が可笑しいのか、御柳は目を細めてほくそ笑むと
舌をくちゅりと緩く吸い上げ、ゆっくりと唇を離した。

 

「っは、ぁ・・ッ、・・・はぁ・・はぁ・・・っ」

 

慣れもしない行為で、息も絶え絶えに荒く呼吸を繰り返す俺を、御柳は満足気に見下ろしつつ
口端についていた唾液をペロリと舌を出して舐め取り、ニヤリと笑む。
今度はまた違う感覚の恐ろしい寒気を感じ、慌てて距離を取ろうとしたが
しっかりと御柳の脚が背中に廻されているから、身じろぐ事しか出来なかった。

 

「クク・・、逃げンなよ。こっからが本番っしょ・・?」

 

目を見開く俺の頬を愛撫するように撫でながら
御柳は軽く、もう一度この唇に口付けをした。

 

 

 


【3へ続く】


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あとがき


ぎゃー。御柳が怖いです。でも猿野に猫耳はつけたいです。笑


2005/01/??  修正:2005/05/08

。いた。