絶望し、そして、ココロの動揺を。

 

 

 


『所有物即ちペット4』       

 

 

 

 

――目が覚めたら全部夢・・・
   なんて甘い話、最初からある訳なかったんだ。


××××××××××

 

 

 

「・・・・・ん・・・今、何時・・・・?」

 

・・・・っ!

寝惚けた頭は即行でクリアに。
寝覚めは最悪。
腰も痛い。

 

「・・・・・・・・・・ッくそ、、」

 

時計を探すが見当たらなく、外を見ようにも窓が無かった。

何時間眠ってしまっていたのだろうか。
確か御柳との行為の後、暫く途方に暮れていたけれど
ベッドの横の小ダンスの中にタオルやらティッシュやらを発見して、狂喜乱舞して後片付けをしていた筈で。
けど肝心のシーツをどうするか見当も付かず、あれこれ考えている内に、たぶん爆睡。
たった今目覚めてみれば、手元にあったシーツは無く
代わりに何故か、部屋の色に合わせたように真っ白でふわふわの
等身大の大きさの毛皮が置いてあった。

 

「・・・・こんなもんあったっけ、か・・? つーか、、シーツ何処行ったんだ・・・」

 

起きて早々不可解な事が起こって、脳はその処理をしきれないで思考も廻らない。
どうやらこの状況を理解するには情報が足りなすぎるようで、
とりあえず考えるのはやめ、触り心地の良さそうなそれを手に取ってみる。

 

「・・・・・・何コレ。マジ気持ちいいし・・・」

 

見た目通りと言うか、それ以上。とても手触りが良く、ウサギの毛のような滑らかさ。
それに暖かそうで、ちょうど肌寒いと思っていたから、試しに被ってみる。
これが何とも素肌に心地よく、調子に乗って身体に巻き付けてみたりして。

 

「・・・・・・って、喜んでる場合じゃねーよ。 コレ、明らかに御柳が置いてったモン・・だよな・・・?」

 

感触を楽しむのもいいけど、ふとその事に気付き
思う様引き裂いてやろうかと手に力を込める・・・・が、
あまりにも勿体無いので、中止。

複雑な気分でそれを巻いたまま突っ立っていたら、いきなりバタンとドアが開いた。
驚いて振り返れば、相変わらず性質の悪い笑みをした御柳がドア枠に凭れ掛かっていて
その闇色の双眸は俺の全身に注がれている。

 

「・・な、に・・・」
「いや〜、ソソる格好してっから。誘ってんのかと」

 

と言う御柳の視線を辿ると、剥き出しの俺の太股。
毛皮で覆いきれずに、惜しげもなく外気に晒されている。
刺さるというよりも舐めるような視線に危険を感じ
慌てて隠そうと毛皮に手を掛けるも、いつの間に近付いて来ていたのか
御柳にしっかりと腕を掴まれた。

 

「・・ぁッ・・!」
「朝っぱらから、魅せてくれるっしょ・・。 さすが、天国だし」

 

言い様に顎を取られ、下から上にねっとりと舐め上げられる。
まるで味見でもされているような生々しい感覚に捕われ、
俺は躯を震わせながら、崩れそうになる両足をなんとか叱咤して踏ん張ろうとした。
けれど立て続けに首筋に噛み付かれ、折角耐えていた膝が簡単に折れてしまい。

倒れると思ったのに、御柳がしっかりと身体を支えていたおかげで、それは免れた。

 

「・・ぅッ、く・・・」
「あぶね、しっかり立てよ」

 

力無く体重を預ける身体は離れようとする頭の中の意思と違って動く気配が無く、
そんな状態の俺に対しニヤニヤと意地の悪い笑みを向ける御柳は
毛皮の下から覗く肩や首元、胸に唇を落とすと、軽い音を立てて強く吸い上げ
鬱血させて赤い痕を幾つもつけていく。
その度にビクビクと反応すれば、薄く哂われた。

 

「ッ、・・っふ、、ぁ・・・・・やめッ・・・、離・・せ!、・・・っ此処から、出せよ・・!!」

 

与えられる小さな痛みと、所有物だと知らしめるような赤い印に我慢出来なくて
震える腕で御柳から離れようとその長身を押しながら叫ぶ。
けど、これがいけなかった。
御柳はゆるりと切れ長の目を細めると、いきなり背後のベッドに俺を押し倒して
衝撃で息を詰める顔の横に手をつき 覆い被さるように見下ろしてきて。

この光景・状態が、あの行為の時とダブり、短く悲鳴を上げ、反射的に謝る。

 

「ひ、ぁ・・!ごめっ、なさ・・・ッ!!」
「・・・・・・・昨日さァ、天国、オレに何て言ったっけ・・?」
「・・・あ、ぁ・・・・ッ・・一生、御柳の・・ペット、です・・・・、好きなように、扱って・・・・ッ・・」
「・・・・・そ、良く覚えてたな。イイコイイコ・・・・。・・・で?賢い天国君は、さっき何て言った?」
「、・・あっ、・・・・・ッ、、」

 

まるで嗜めるかのように俺を責める御柳は
一見の口調は優しげに言ってみせるが、目が笑っていない。
怯える俺の髪を緩やかに梳く手にさえ、恐怖を感じる。

 

「ごめっ・・!も、言わない・・!!言わないから・・・ッ、許し・・っ、、」
「・・・・だったら、ちゃんと約束したことは守ろうな?天国・・・」
「・・・・・・ッ」
「返事」
「・・・・・ハ、イ・・」

 

押し潰されそうな低い声での重圧に異を唱える事も出来ず、竦み上がって返事をする。
今の御柳に逆らえばどうなるか、恐ろしくて顔も見れない。

 

「・・・あー、そうそう。ついでに言っとくケド、もうオマエの居場所、此処しかないから」
「・・・・ぁ・・?・・・・・・な、に・・・?」
「此処にしか存在が認められねぇってこと」
「・・・・・一体・・なに、言って・・・、、」

 

多少御柳の怒りが和らいで安心するのも束の間。
今度は愉しげに口端を歪めている御柳の、言っている言葉の意味が、分からない。
一体何が言いたいのか。 俺の存在が、、何? 


(・・・・・・・・・まさか。・・・・・違う・・、あり得ない・・!)


嫌な汗が一筋、顳顬を流れる。
息がし難い、焦点が合わない、手足が震える。
何?何。何。何。何。何。何。何?
そんな事は常識的に不可能な筈なのに、余計な考えばかりが脳裏を過ぎる。

 

「親はすんなり金で承諾。意味、解かるな?
 ンで、勿論学校にも手ぇ回して、天国は転校したってことにしといてもらった。
 実質、オマエの存在・・ていうより居場所は消えたってワケ。 
 世の中金さえありゃ、何でも出来んのな・・・クク・・・」

 

・・嘘だ・・!!


(違う、違う・・!!そんな事があって、堪るか・・・ッ!!)


目の前の胸倉を掴む。

 

「っな、ぁ・・・・・・冗談・・・だろ?なぁ、、」
「オレが冗談言う人間に見えるってか? 
 テメェも馬鹿じゃねェんだろ?世の中そんなもんだって。諦めろや。」

 

そう言われ、身体中から力が抜け落ちる。
御柳のすっかり皺になってしまった服からも、手が簡単に離れ、落ち、
驚愕と困惑が綯い交ぜになって 何も考えられない。

 

―――けど、此処でよく考えていれば良かったのかも知れない。
    何もかもが、仕組まれたものだと・・・。

 

昨日の今日で都合良く転校だの何だのが出来る訳がないのに、
でも、そんなことに気付くどころか、何かを考える余裕すら無い俺は
焦点の定まらない移ろう瞳で御柳を見上げることしか出来なくて、、

その麗端な顔に浮かぶ笑みは そんな俺を絶望させるには充分すぎた。

 

「・・・・・・・・」

 

頬を伝う、濡れたものを御柳が指で掬う。

 

それが涙だということは、辛うじて理解出来ていた。

 

 

 


××××××××××

 

 

 

 

 


あれから学校に行くと言って御柳がいなくなった後、散々、泣いた。
もう涙は出ない。 寧ろ乾ききっている。 痛い程に。

何故泣けなくなったのかは分からない。 分からないけど、
もしかしたら今までの生活や日常に、未練があまり無かったのかもしれない。

学校に行っても居場所は無く、家に帰っても何処か虚しかった。
周りの人間はどいつもこいつもどうしようもなく鬱陶しくて、
特に自分は、吐き気がする程嫌いだった。

 

「・・・・・・・なんか、だりぃ・・・」

 

いつも自分を抑えてきた。
他人を傷付けないよう、怒らせないよう、嫌われないよう、
踏み込みすぎず、だからと言って完璧に壁をつくるでもなく、『線』を引いていた。
そうすればとても楽だった。
他人は己の領域に干渉されなければ兎角威嚇も攻撃もしてこないし
自分も『線』を引いて間隔をとり、内側に干渉させなかった。 いや、されたくなかった・・・。

 

「・・・・・・・・・・」

 

それは確かに、楽で
受け入れなければいい。 
何もかもを、近付けさせなければ、それで、良かった。

・・・良かった・・・・?

 

「・・・・・・・・・・・・・もう、・・・何も気にせずに、生きていい、、のか・・・」

 

完璧に外界から切り離されたようなこの部屋。
そこに存在する俺。 御柳。


・・・・・・。


ずり落ちていた毛皮を手繰り寄せる。
無性に寒いような気がして、頬を撫でる毛が気持ち良く、溜息を一つ。 目を閉じる。


(・・・・・・・・アイツは学校に行って、生きていて、楽しいんだろうか・・・。
  ・・・・・・・・俺のように、虚無を感じたりは、しないんだろうか・・・・。)

 

「・・・・・・・・・・・・・・何で御柳の事考えてんだ・・・。意味、分かん・・・・、・・・・」

 

何を今更。
いくら考えたって、人が何を感じ何を思っているのかなんて
そんなもの、分かるわけ無いって解かってるのに。
それに、自分を不幸のどん底に突き落とした張本人の、
御柳の思っていることなんて、どうだっていい筈だ、、


膝を抱えて蹲り、ベッドに寄り掛かってきつく目を閉じて
其の侭強引に意識を閉じ込めるように、眠りに落ちた。

 

 

 

×××××××××××××

 

 

 


ぺら・・・・

ぺらぺら・・・・

・・・パチン。

 

眠りが浅くなってきた頃、耳に入って来た、音。

 

「・・・・・ん・・、・・何・・・?」

 

覚醒したがらない意識を無理矢理起こして、重い瞼を半分ほど開く。
のろりと見渡すが、誰もいないし何もない。
気の所為かと思い再び目を閉じる。 すると・・・

 

ぱらり・・・

ぱらぱら・・・

・・・パチン。

 

今度は確実に聞こえた。
自分の真後ろ。 
つまり凭れ掛かっているベッドの上から。

 

「・・・・・ぁ、・・帰って、たんだ・・」

 

首を捻って後ろを向けば、やっぱり其処には御柳が。
行儀悪く片膝を立て、ガムをぷくりと膨らませながら
切れ長の目の視線の先には、草臥れた雑誌が開かれている。
さっきの音は、この雑誌を捲る音とガムを割る音だったらしい。

 

「・・・いつ、」
「『おかえりなさいご主人様』っしょ?」
「・・・・・・・おかえり、なさ・・・。 いつから、此処に・・?」
「ただいまァ。 さぁ、一時間ぐらい前からじゃね?」
「そんなに・・、・・・何で声掛けてくれなかったんだ・・・?」

 

雑誌を見た儘こっちを一瞥もしない御柳に少し戸惑いながらも、浅く伸びをする。
関節がコキコキと音を立てた。
流石にあの体勢の儘寝たのはまずかったようだ。

 

「・・・?」

 

不意に視線を感じ振り返ると、雑誌を畳んでこっちを見ている猫目と目が合う。
探るような鋭い視線が痛い。

 

「・・・・どーか、したのか・・・?」
「や?もっと沈んでっかと思ってたけど、元気そうじゃん。」
「・・・・・・まぁ、な・・・。吹っ切れたっつーか何つーか・・・・・
 ・・・・・・・・・・・御柳には、感謝してるかもだし・・・・・」
「、ハ?」

 

頓狂な声を出した御柳に「何でもない」と言い、視線から逃げるように背中を向けて俯く。

そう、自分と御柳しか存在しない、この真っ白な空間には
他の人間や面倒な常識、無反応な親も居なければ堅苦しい人間関係も無く、
それは僅かながらの安心と解放を、俺に与えてくれる。

何故、こんな状況でそんなことを感じるのかは分からないけど、これらを与えてくれたのは、御柳だ。

 

「・・・・・感謝とか・・・オマエ狂ったんかよ?」

 

そう言われるのも仕方ないと思う。
拉致されて、首輪付けられた挙句、一生ペットなんてことまで約束させられて
そんな中それを強要した御柳に感謝なんて、まるで本当に狂ったみたいで。

自嘲するように口許を歪める。


もう、全てがどうでもよくって、、

 

「・・・・ま、自分殺すなんざ、ホントは楽じゃないっしょ?」
「ッ?! ・・・・・・・・・・・・・・今、・・・なん・・て・・・?」

 

唐突に、御柳が言った言葉に、脳内が、心が、揺れるように、動揺。


(・・・・・・・・・・・、・・・御柳・・・は・・・・俺が他人を拒絶していると・・・、・・・・違う、それどころか
 関わりを持つ事にさえ怯えて、いることも・・・・・・・・・・・・気付いて・・・?、・・・・・)

 

「・・・・・・いきなり、何言ってんだよ・・、御柳・・・」
「・・・・・・別に?深い意味は無ェよ」

 

後ろを向くことも出来ず硬直している俺に気付いているのかいないのか。
ぺらぺらと雑誌を捲る音が再び背後から聞こえてくる。

感じた事のない種類の緊張と安堵と、別の“何か”が、激しく俺の中で渦巻き、、

目に見えそうな動揺に気付かれないよう そっと息を吐き、昂ぶっている感情を押し殺した。
もしかしたら、御柳芭唐という人間は、思った以上に喰えない人物なのかも知れない。

 

「・・・・・・・でも、・・・案外・・・・・・そうなのかも、な・・・・。」

 

反対の手で無意識に首輪を握り締めながら、小さく呟いた。

 

 

 

【5へ続く】


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あとがき


さて、だらだら続いて4話目ですよ!こんなに続くと思ってなかったです。しかもまだまだ続く模様。笑
今回の話は猿野の精神面とか価値観とかをちょこっと覗かせてみました。
微妙に甘かったな…うぅ…。それにしても、精神描写がうまくできない・・・うーん・・・orz


2005/01/??  修正:2005/06/11

。いた。