なんでも、やってみなきゃ分からないもんだ。

 

 

 

『所有物即ちペット6』          

 

 

 


――この瞬間を、何と表現したらいいだろう。
   喜び?解放?茫然?呆気ない?・・・俺はお前に会いに行く。


×××××××××××

 

 

 

拒絶するのは簡単。
受け入れるのは困難。

今まで前者のみだった俺が、後者を成し得たのはあまりに奇跡的。
あれから御柳と何度も話していく内に、更に加速。
誰かに胸の内を打ち明けるという事がこんなにも救われるものだったなんて、、。

見上げた白い天井に目を瞑り
御柳のいない空間に一つ溜息。

学校に行ってしまうアイツを送り出すのは、寂しくて仕方ない。

 

「・・・・・早く帰って来いってんだ・・・」

 

自分しか存在しないこの真っ白な部屋は、孤独すぎる・・・・・。

一人きりのこの白い部屋を、そう思うようになったのは、あの時からだろう。

俺は絨毯の上に蹲り、ふと己の首に繋がっている鎖を手に取った。
軽く引っ張ると首輪の金具がカチャリと音を立てる。
無言でそれを更に強く、引っ張ってみる。

 

「・・・・・・・・」

 

僅かだけど金具が変形して動いた気がした。
モノは試しと、首が絞まるのを我慢して
鎖を両手でしっかり掴み、思い切り外側へと引っ張ってみる。

 

「・・くっ、・・・・・・ぅ、ぐ・・・・ッ」

 

皮製の輪が容赦なく首筋を絞め付けるが構わず更に力を込める。
ズキズキと頭に血が上り、限界だと力を抜こうと思った その時、

ガキンッ

鈍い音と共に、首の圧迫が消失し、手の平のものも手応えを感じなくなった。
恐る恐る手の中の鎖の先を確かめれば、
大きく変形し千切れてしまった金色の金具が引っ付いている。

 

「・・ぁ、・・・・外れ、た」

 

呆けた声を洩らしつつ、ゆっくりと首の輪に手を這わす。
何処にも鎖は繋がっていない。

 

「・・・・・・・ッ」

 

消失感もとい僅かな解放感もそこそこに、今度は分厚い首輪を引っ張ってみる。
でも、矢張りと言おうか、此ればかりはどうにもならない。

首輪はすぐに諦め、俺は持っていた鎖を離して立ち上がる。
足元に落ちてしまった毛皮を拾い上げて羽織り
触り心地の良い絨毯を足の裏に感じながら、いつも御柳が入って来る
あのたった一つの出入り口である扉を正面から息を止めて見つめる。

 

「・・・・・・・っ良し」

 

自分を鼓舞するように軽く掛声をし、大きく一歩を踏み出して扉との距離を縮め
目の前まで来たら、俺の鼓動は早鐘のように脈打っていた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

暫く棒のように突っ立って、動きもしないノブを凝視していたけど
意を決してそれに手を掛ける。

 

「・・・・」

 

・・・・・・・ガチャッ

 

開いた。

 

 

 

××××××××××

 

 

 

 

「・・・・・・・っ」

 

背後と前方を気にしながらも、緩める事無く脚を進める。

部屋を出たは良いものの、何処を如何行けばいいのか皆目見当が付かず
幾分焦りながら彷徨っていた。
薄暗い廊下をひた歩きつつ、うろうろと目を走らせ出口を探す様は
正しく迷宮に放り込まれた迷い子と大差ないだろう。

 

「・・・・・一体出口はどれだよ・・・」

 

いつの間にか駆け足になりながら無意識にそう零した時、前に何個目かの扉を発見。
一番最初に見つけたドアは、全く使われていない部屋で、二つ目のドアは小奇麗なトイレだった。
三つ目から覚えてないが、兎に角扉の数がやたら多く、心底困っていた。
目の前の何個目かのドアは、今度は何の扉だろうと半ば自棄になりながらノブを回す。
いくつもの扉然り、あの白い部屋の扉と同様鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
もはや慣れたように、良く中を見ずにその中に脚を踏み入れる。

すると、

 

「・・・・・・・・なに、これ・・・・・。・・・もしかしなくても・・・御柳の、部屋・・?」

 

真っ黒だった。

家具も、壁も、天井も、絨毯も、何もかも。
まるで自分がいた部屋とは正反対の
対になるようなこの部屋は、寒気がする程、暗かった。
あの白い空間と違って窓があり、日の光が入ってくるにも関わらず、だ。

雰囲気も雰囲気だが、白い毛皮を着た自分が、酷く場違いなような気がして
足早に通過しようとした。 が、慌てて踏み止まる。

 

「そーだ、服。・・・・・ちょっとぐらい失敬しても、良いよな・・・?」

 

誰も居ないのにキョロキョロと辺りを見回しながら
ぽつんと置かれたクローゼットの中を、勝手に覗いて暫し物色すること数分。
始めは奪われた自分の制服を探したけれど、見付ける事が出来ずに
御柳の服を適当に上下合わせて拝借した。

 

「・・・趣味が良いのか悪いのか・・・・・」

 

これまた黒い細身のポロシャツと黒のジーンズに
ジャラジャラとウォレットチェーンを付けた儘の、如何にも御柳らしい服だった。
嫌いじゃないが、あまり好みでもないそれを黙って着る。
似合おうが似合わまいが文句を言うトコロではないのだけれど、
窓に反射して見える己の姿を見て、自然頭が垂れるのであった。

 

「・・あーあ・・・そりゃ御柳が着りゃあ、さぞかし似合うんだろーけど・・・・・」

 

裾を摘んでガラスに映った自分に向かって溜息を付く。
御柳はたぶん、何を着ても似合うんだろう・・・なんて羨望するのもそこまで。
気を引き締めなおして踵を変え、壁に張り付くように設置されたもう一つの扉に
相変わらず裸足のままの脚を向けた。

真っ黒な部屋を抜けて又もや迷うこと暫く、漸くだだっ広いリビングに到達。
必要最低限の家具しかない、殺伐とした空間で
テレビやソファといった結構なものも、全く使われている様子が無い。
ペタペタとフローリングの床を歩いて奥を覗けば
それこそ一度も使用された事がなさそうな、新品同様のキッチンが設備されていて。

 

「はー・・・流石、金持ってんなぁ・・・」

 

何が流石なのか、一人感心しながら真新しいキッチンへと。
試しに冷蔵庫を開いてみたら、見事に何も無く
用途を果たせてないのにフル稼働しているそれが少しだけ可哀相に思えた。
電気代も馬鹿にならないだろうに。
まぁそんな事はさて置いて、俺はハサミを探し始める。
此れだけの道具や器具が揃っているのだから、料理用ハサミの一つや二つ、ある筈だ。

 

「・・・・・・お、」

 

引き出しを片っ端から開けていると、
二列目の一段目に鈍く光沢を放つ 良く切れそうなそれを発見。
早速取り出して己の首に付いている皮製の輪に宛がい、少しづつ切って行く。

ギリ・・・ギリ・・・・・・ギリリッ・・・・ブツッ!

 

「っし、切れた」

 

忌々しいそれを床に落とし、ハサミを元の位置に戻し
何度も首を擦りつつ、リビングを後にする。
こんなにも生活感に欠けた空間に居たのは初めてだった。

リビングを出るとすぐに玄関口を見付け
思わず走り出したくなったのを我慢して、壁際の靴箱から適当な靴を探す。
すぐ手前に自分が履いていたスニーカーが無造作に置かれていたが
先刻拝借したこの服に、到底合いそうも無い。

 

「・・・・しゃーねぇ・・」

 

御柳のものばかりでサイズが大きいものしか無かったけれど
着ている服に合いそうなものを一足引っ掴んで取り出し
ズボっと勢い良く履いて立ち上がる。

 

「・・・・・・・・ふぅ」

 

目の前にある最後の扉。
俺は内側から閉まっていた鍵を、緊張しすぎて少し震える手で開錠し、ドアノブを回す。
少し押せば、開いた隙間から外の光が筋となって入って来て、、

思い切って力一杯押し開けると、眩しすぎる光が目を突く。

 

 

 

意外と罪悪感は・・・ 無かった。

 

 

 


【7に続く】


ミスフル小説一覧へ戻る



あとがき

さてさて、難無くお家を飛び出した天国は、一体何処に行くつもりなのか。

2005/02/13  。いた。