『ヤキュウケン』

 


陽も十分に昇りきった真昼に、俺達は暇を持て余していた。


「なぁなぁ芭唐サン?ぶっちゃけ暇人じゃないですか?俺等」
「ンー?」


自分から約束を取り付けてきたクセに、目的地すら決めてなかった、隣りの無気力な長身バカは
食った昼飯がほどよくこなれているのか、眠そうに欠伸した。
あーあー遊び盛りの青少年がゲーセンにも行かずに街をプラ歩きってどーよ?しかも一応デートですよね?コレ。


「…あ、ヤバい天国」
「なんだよ、屑桐さんでも居たか?」
「うん」
「、あ゙ッ?!」


まさか冗談で言ったのに、肯定されるなんて予想外で。
見ると、なるほど
休日で人が多いのにも拘らず、天下の公道を横いっぱいに占領しつつ
華武の皆さんがやって来られるじゃあないですか。
折り紙、鼻水、モバイルと、三人仲良く並んで歩いてるもんだから
道行く人の注目の的…ってゆーより、思いっきり通行人の邪魔なんだよテメェら。


「今日実は練習あったんだけどさー、ほら、サボってんじゃん?
 もし今見つかったら確実にブッ殺されると思うンなー」
「ッだったらさっさと逃げんぞコラ…!」


素でありえそうな事をのたまった華武校4番バッター。
ってか部活あったんなら誘ってくんな。
…いや、まぁ、部活よりこっち優先してくれたのは何気に嬉しかったりするんだけどさ
折角遊んでンのに途中で邪魔されたらスッゲームカつくんですけど?

とりあえず、悠長にガムをプクプクやってるバカの腕を掴んで振り返った。
貴重な休日をフイにしたくないのはもちろんだが
華武の特定野球部員とは関わるべからず、
決まって芭唐と一緒に居ると、あからさまに横ヤリもとい妨害してくるアイツ等は
回を重ねるごとにやり口がえげつなくなってくるから堪らない。
この間なんか、どうやって嗅ぎ付けたのか
カラオケの個室に詰め掛けてきて、狭くて息苦しい上に一回もマイクが廻って来なくて散々だった。

今度は一体どんな被害があるやら…想像するのも鬱陶しい。


「…って、ハ?」


ところが現実は厳しいかな
一歩と逃げない内に新たな障害と出くわした。
なんと真後ろに子津、辰羅川、犬飼の面々がいらっしゃる。
ワオ、まさに前門の虎後門の狼状態。

…いつの間に気配殺して背後にいやがった。忍かテメェら。


「あ、猿野くん奇遇っすね〜」
「おや、二人して買い物ですか?なんと羨ましい」
「と、とりあえず、なんでここに居る?」


なんてそれぞれにアドリブ利かせて爽やかに言ってくれるが、

まず子津っちゅー、その作り笑いをやめろ。
辰っつん、逆光で目が見えない。
そしてコゲ犬、動揺しすぎで脂汗スゲーんだよ!

揃いも揃って白々しいッ!絶対ェ俺の事尾行してただろッ!!


「貴様ら、暇そうだな」
「その通りング」
「どうせだから皆で遊ぶ気」


胸中で律儀にツッコミ入れてる内に、どうやら華武に追いつかれたらしく
十二支連中とその間で、俺達は文字通り板挟みになってしまい
完全に前にも後ろにも逃げ道は無くなった。

それより、

屑桐さん、分かったから芭唐の首から手ぇ離してやって。
ついでに久芒さん、鼻水つけなくても逃げません。
最後に録さん、喋りに顔文字入ってないのがものっっそ怖いです。


「…あー、ちょうどオレ等暇だったし。 ンじゃ〜皆で草野球でもしましょーや」


小声で「利用させてもらおーぜ天国v」とか言ってるこのバカは
現状を更に泥沼化させる救いようのないバカなのか、それとも打開策を打ち出した価値あるバカなのか。
ってか、何でこのバカが仕切ってんだろう。
うん、まぁ、そーだよね。俺の意思なんてどうせ無視だよね。
もー勝手に進めてくれていいよ。
確かに暇だったしね。うん。

ところで、どーして皆さん満場一致で同意してんの?

 

間。

 

場所は移って河川敷の小さな草野球用のグラウンド。
タイミングが良かったのか誰も使ってなくて、俺達の貸し切り状態。
グローブとかバットとか必要なモンは、部活帰りの華武連中が持ってた。


「ルールは?」


折角普段の練習試合とは違うんだから、変則的なヤツがいい。
負けたら罰ゲームとか、そういう特典が付いたら尚宜しいかと。
なんて思ってたら、いきなり芭唐が手を挙げて、とんでもない事を言い出した。


「ハイハーイ、ヤキュウケンを提案しまーす」
「…は?」
「あぁそれはいいな」
「ですね」
「え…? ちょ、ヤキュウケンて、、」
「じゃあ点取ったヤツが天国の脱衣権獲得ってことでー」
「ッハ?!」


…おい、おいおいおい!ちょっと待てよ!!
その流れはオカシイだろ普通に考えて!
何で今更ヤキュウケン?!しかも脱ぐの俺限定?!?!


って、一度ならず二度までも俺を無視して全員一致で賛成してんじゃねーよ!


どうやら俺以外の野郎共が一致団結して盛り上がってるのは気のせいじゃなく
いつもの試合の時とは明らかに違う、別のヤル気を出してんのが丸分かりだ。
絶望的だよこの温度差。
どっちが点取っても、っつーか誰が点取っても損するの俺だけじゃん!


「…芭唐ッ、待てってオイ!何で俺だけ脱ぐんだよ…!」
「ン?その方が燃(萌)えるから」


納得いかなくて言い出しっぺの芭唐に小声で詰め寄ると、ニヤリと厭らしい笑みを向けられた。
嗚呼、この顔はアレだ、絶対止められないヤツだ…。 あーもー好きにしろ!


「じゃ、早速始めますかね〜」


先攻は華武。
打順は録さん、久芒さん、屑桐さん、そしてバカ。
まぁ、1〜3番は問題無いとして、やっぱり4番が恐い。
なんだかんだで埼玉最強謳ってる華武のエースバッターだ。
確実に点が入る筈。
今からテンション下がるってマジで…。


「…って、アレ?」


一人で萎えてると、顔の真横をビュン!と何かが横切ってった。
まさかと思って後ろを振り向くと、白球が遥か後ろをコロコロと転がっている。

…犬っころ、お前いつの間に投げたの?
えっ、その前に録さんって、そんな鋭く打てたっけ??


「…マジかよ!!」


慌てて走ってボール掴んでファーストにブン投げようとしたものの
とっくの昔に録さんは塁を踏んでいた。
不意打ちもいいとこだコンチクショウ。
微かだが小さく哂ってやがるのは気の所為か?


「楽勝気〜。白春もキッチリ飛ばす気よ〜」
「まかせりング」


続いて打席に立った久芒さんが、珍しく長い袖を肘まで捲り上げて(つーか初めて見たっつの!)バットを構える。
クッソ、やる気じゃねーかコノヤロウ。
まぁ最初は油断してたけど、次はそうはいくかってんだ。
こっちもバッチリ捕球体勢で待機していると
あろうことかバントかまされて、ボールは飛ばずに転がっていき、その先は俺の方じゃなく子津の方。
まぁあの程度の球取れるだろ、なんて傍観してたら

…あいつ、捕球し損ねやがった!!

あらぬ所へ白球が転がってく間に、久芒さんも録さんももう塁を踏んでいて
すでに一塁・二塁と埋まったこの状況、オカシイと思うのは俺だけか?
お前ら揃いも揃って普段は守備で力発揮してんだろ?
なんでそんな簡単に塁に出れるわけ??


「…マジ、絶対ェおかしい、絶対ェ変…」


こんな事あるワケねェ、とブツブツ言ってると、屑桐さんが打席に立って
早くもトルネード投げる時バリに身を捻ってるから、慌てて外野まで下がる。
この構えとあの人の性格から言って、さっきみたいなバントはありえねー。


「おーい!辰っつんももう少し下が、、!!」


指示を出しているその間を、丁度いいタイミングで、そして絶妙な位置で白球が通り過ぎた。
ぶっちゃけ俺と辰羅川のどっちが対応したらいいのか判別つかない
そんなコースを物の見事に行きやがったから、どうしたって反応が遅れる。


「、、っくそ!」


とりあえず考えるより先に球を捕まえねーと、と走り出した所で、一つの疑惑が浮上する。

…まさか犬飼、手抜きしてんのか…?

あの野郎を褒めるワケじゃねーが、早々打たれるようなヤワ球じゃないことは確かだ。
なのにこんなに連続で、しかも普段バッティングでパッとしないようなヤツ等に打たれるなんて
手抜きとしか考えようがない。
でも、プライドの塊みたいなコゲ犬が
なんだってそんなユルい事すんだってハナシで…


「あ」


しかしすぐに思い直す。
そーいやあの野郎、俺が芭唐と一緒の時だけは多少なりあくどい手を使う時がある。
いくらなんでもこんな時に、とも思ったが、ありえるハナシだ。
なら、さっきの子津といい、辰羅川といい、つまり皆グルだと、そーゆー事か?

クソ!もう誰も信じらンねぇ…!!


「さ〜て、カッ飛ばしますかねェ?」


然う斯うしてると、いよいよ芭唐が打席に立ってバットを構える。
しかも、本気の本気でターニングダイスぶちかます気満々だ。

これは、ヤバい。
覚悟せにゃならん。
確実に、飛ぶ。

そんな俺の確信めいた危機感は、あっさり的中。
カッキーン!なんていう爽やか且、軽快な音と供に、白球は見えないとこまでフッ飛んでいった。
やっちまったよ場外。
寧ろ川ポチャして行方不明だっつの。


「、、あーあー…ヤッベ…」


なんで初っ端から満塁ホ−ムラン?何枚脱ぐんだ俺??
もしかしてこんな真昼間から野外ストリップショ−した挙句に素っ裸か?!
下手したら公然なんやら罪で捕まるだろ。ンなの冗談じゃねーし…!
それにさ、アイツら何であんな危ねー目ェして俺の方見てんの? ちょ、尋常じゃないってその目!


「…逃げよ」


ほら、何とかは危うきに近寄らずって言うしな!早いとこトンズラかましたれ!


「どこへ行く?」
「逃がさないング」
「大人しくする気」


あらやだ、いつの間にか華武の皆さんが行く手を阻まれてらっしゃる。
もしかして、俺ってば完全に死亡フラグ??


「観念しろよ天国」
「いーや〜〜っっっ!!!!!」


斯くて、屑桐さんに上着、久芒さんにTシャツ、録さんにズボン
最後に芭唐に大事なトランクスを剥ぎ取られ(ええ、それはもう追剥ぎババアが如く無理矢理に)
全裸にスニーカー+靴下という破廉恥極まりない格好を晒す破目になった俺は
芭唐の頬を力一杯ブン殴り、泣きながら家に帰った。チキショウめ…っ

 


後日。


「ほんっっっとうに、申し訳ございませんでした」


心底陳謝する男は、先日のセクハラ事件について土下座で以って俺に詫びを入れに来た。
俺はと言えば、その派手なだけでスッカラカンの頭を踏み付け
あっそう、ふーん?と素気無い返事で、続けてバカの頭を踏み通し
「何でもしますから許して下さい」の所まで言わせる事に成功(何かSに目覚めた気がする。自分で自分が恐ろしいわ)

とりあえずは気が済んで、半泣きになっているバカから足をのけてやり、一度立ち上がらせる。
すると、真っ赤に腫れ上がった左頬が目につき(他でもない、殴った俺の所為だが、同情してやる義理はない)
自業自得だと鼻で嗤う。乙女の全裸を彼氏以外の目に晒した罪は重い。
で、その彼氏様に聞いた所によれば、俺に殴られた後、血反吐吐いて意識不明になり、病院に担ぎ込まれ
生死の境を小一時間ほど彷徨った末に、奥歯が2本お亡くなりになったそうだ。 いい気味じゃボケ。

そして、そのボケの携帯の待受け画面は
ケツ丸出しで逃げ帰る俺の後姿がバッチリ映ってたりする。(どうやら録さんから転送してもらったらしい)


「〜あ゛ーも゛ー!マジありえないっしょー!!」


まぁソッコー携帯ごと叩き割ったけどな!笑

 

 


【終】


【小説一覧へ戻る】

 



2009/10/10  。いた。